財政学 八木 匡 (同志社大学)
第1章 財政の働き 経済循環図 市場機構の役割 社会(共産)主義経済体制の崩壊は、市場メカニズムに基づいた資本主 義経済体制の優越性を誇示 第1章 財政の働き 経済循環図 市場機構の役割 社会(共産)主義経済体制の崩壊は、市場メカニズムに基づいた資本主 義経済体制の優越性を誇示 競争的市場メカニズムが存在する場合には、市場で生き残るために生 産者はより良いものを、より安く生産する必要がある。 価格メカニズムの役割 「競争均衡はパレート最適である」の意味と限界
市場の失敗 分配問題は市場で解決できない。 公共財 排除困難性と非競合性 自然独占 公益事業 情報の非対称性 モラルハザード 外部性
財政の3機能 資源配分機能 公共財供給、外部性の補正、社会保険、経済規制 所得再分配機能 累進所得税とジニ係数 経済安定化機能 公共財供給、外部性の補正、社会保険、経済規制 所得再分配機能 累進所得税とジニ係数 経済安定化機能 財政政策と税による自動安定化機能
社会保障制度 日本の社会保障制度概要 人口の推移 日本の社会保障制度特徴
II.少子高齢化社会 少子化が何故おきているのか? 合計特殊出生率は、1.26を下回っている。 先進国の中でも出生率は低い部類に入る。 合計特殊出生率は、1.26を下回っている。 先進国の中でも出生率は低い部類に入る。 (韓国は、日本以上に少子化が進展。アメリカは2を超えてい る。) (1)晩婚化と非婚化 結婚しているカップルの出生率は2を超えている。また、時系 列的にも大きくは減少していない。(ただし、教育費の高さによって、 望むだけ子供を持てないと回答している調査結果もある。)
(2)離婚制度における女性のリスク 養育費の支払いが十分に保障されていない。(アメリ カでは、結婚は社会的な認知が必要であり、離婚でも個人 間の問題のみではない。 そのため、養育費支払いも、給与所得者は源泉徴収。離婚 時には、裁判所が養育費について裁定を下し、それが公的 に保障されている。 そのため、アメリカでは結婚のリスクが低く、晩婚化、非婚 化がおきにくくなっている。) ->日本の場合には、女性にとっての結婚リスクが高い一 つの要因になっている。
なぜ、晩婚化と非婚化が進んでいるか 女性が働きながら子育てをできる環境になっていない。 ->長時間残業など ->長時間残業など 日本型雇用システム(終身雇用、年功序列型賃金制度)が持つコストと 解釈できる。 昇進のためには、会社への忠誠心を示す必要あり。そのため、長時間 労働が慢性化している。
有効な少子化対策とは 子ども手当(2010年3月法律制定) 月額一人当たり2万6千円支給—財源問題 少子化抑止が目的 月額一人当たり2万6千円支給—財源問題 少子化抑止が目的 所得制限は無い:賛否両論有り
児童手当制度 所得制限があり、支給額も第1子で月額1万円と低くなっている。 新エンゼルプラン(平成11年12月策定) (1)子育て支援 (2)仕事と子育ての両立を可能にする雇用環境整備 (3)働き方の意識改革 (4)母子保健医療体制の整備 (5)地域で子供を育てる環境整備 (6) 教育環境の整備と教育負担の軽減
Family Friendlyな企業 企業内での企業風土を変革 「ワーク・ライフ・バランス」の達成 性別役割分業に対する固定概念を変更 「ワーク・ライフ・バランス」の達成 性別役割分業に対する固定概念を変更 育児休業制度がとりやすい職場環境 企業内での保育所整備 ー>企業側にとってのメリットとは? 優秀な女性労働者を惹きつけることが可能 厚生労働省は、セミナー実施、企業表彰を実施
ワークシェアリングと雇用システム ワークシェアリング(仕事の分かち合い)は所得リスクを減 少させる手段 1)緊急避難型、 一時的な景況悪化を乗り越えるために、緊急避難措置 として従業員一人当たり所定内労働時間を短縮し、解雇を 減少させるものである。 ・ 2)雇用維持型(中高年対策型) 定年後の雇用対策 3)雇用創出型 法律で労働時間短縮を義務化し、雇用数を増大 (フランスでは、週労働時間を40時間から35時間へ削 減し、企業に助成金を与え、雇用者数を増大) 4)多様就業対応型 オランダモデル
「オランダの奇跡」 1970年代、北海油田の開発と一次産品ブームによって、活況 を示した。 しかし、原油輸出の増大は、為替レートを高め、製造業の輸出 競争力を低下させた。 石油関連産業の賃金率の上昇は、オランダの賃金水準の上昇 をもたらした。製造業の国際競争力を低下させた。 社会保障制度の拡充が好況期に行われ、政府の財政支出の規 模が急拡大した。 一次産品ブームが去ると、オランダ経済は厳しい状況となった。 (高失業率:12%程度が続く)
オランダのパートタイム革命 ワッセナーの合意(1983年) 政府・労働組合・企業の間で、1)雇用維持のために、労働時 間の短縮を認める、2)賃金の引き下げ、3)歳出の削減と減税・ 社会保障負担軽減を実施することを合意 労働時間の違いによって、単位時間当たりの賃金率に差を設 けない時間差賃金差別の撤廃という「均等待遇」を法的に保 証する。パートとフルタイムの均等待遇。この考えに基づき、 97年にはEU加盟国の共通ルールが制定
オランダのパートタイム 正規労働者でありながら、労働時間を柔軟に変えることが できる制度(正規従業員のパートタイム労働、ハーフタイム 労働があり、労働者に選択権が与えられている。) 企業にとっては、パートタイム労働を導入することによっ て、労働需要の変動を吸収しやすくなるというメリットがある。 日本では、非正規労働者が変動を吸収するため、正社員 の労働時間を柔軟にする企業側メリットが少ない。 日本の非正規労働は、オランダのフレキシブル労働に対応 している。フレキシブル労働の比率は低く、20歳代までが 中心である。
パートタイム革命の効果 夫婦共に家事・育児を行うことができるようになった。「ブレッド・ウ イナーモデル」からの脱皮 女性の労働供給が増大:「1.5モデル」の成立 家計全体での労働供給は、1から1.5に増大。 家計収入の増大消費の拡大経済の拡大をもたらした。オ ランダは2002年頃まで成長を続け、失業率は減少し続けている。 「オランダの奇跡」と呼ばれた。 ・ 労働者の教育・訓練の時間が生まれた。
オランダモデル パートとフルタイムの時間差賃金差別撤廃. オランダの労働市場: 正規雇用を中心とした労働市場 パートタイマーも正規従業員 正規雇用を中心とした労働市場 パートタイマーも正規従業員 非正規のフレキシブル労働は限定的 (3) 生活の質を高める雇用の柔軟性 (4) 労働者の権利を強く保護し、均等待遇を義務付ける労働法--EU指 令の原型
生活リスクを低めるワークシェアリング 均等待遇は、疾病、離婚、子育て、介護といった環境変化に伴うリ スクを軽減 雇用維持のみを目的としたワークシェアリングは、労使にインセン ティブを与えない 雇用システムの構造改革 ワークシェアリングによって生産性を高めるためには? 仕事 の引継、サービス残業は時間当たり生産性を低める?、リカレント 教育を受けることができる労働環境は整っているのか?
2010年時点での労働市場 リーマンショック後の完全失業率の上昇 有効求人倍率は0.5前後まで低下 2000年前後のリストラ期では正規労働者を大幅に削減していたのが、 2010年辺りでは大企業は正規労働者を微増させ、非正規労働者を減少 させている。 賃金分布は、1997年から2007年にかけて、低所得層の比率の増大が、 非正規労働の増大によって進んでいる。
日本における非正規労働者比率 の上昇 フリーター問題の中身 25歳から35歳の男性でも10%以上が非正規労働者となっている。 (2003年時点) 時系列的に非正規労働者比率が上昇 25歳から35歳の女性の場合、35%が非正規労働者となっている。 (2003年時点) 非正規労働者の年収は100万円から200万円であり、年齢が上昇し ても年収は増えない。
世界に均等待遇の状況 1997年「EUパート指令」により、ヨーロッパでは均等待遇が一般的に なってきている。 アメリカは、格差是正のための法律は特に整備されておらず、男性の格 差は日本並みの約45%となっている。
日本の 労働者の就業形態 企業の人件費削減のための非正規化 34.6%が非正規 内訳:23%がパートタイム、派遣2%、契約2.3%(2005年) 2003年から2004年にかけて、正規労働者は76万人減少し、非正規 は55万人増大している。
均等待遇のための政策 パートタイム労働法(指針)の改正 努力義務から均等待遇法制化 最低賃金制度の改善 ヨーロッパでは、最低賃金は平均賃金の 努力義務から均等待遇法制化 最低賃金制度の改善 ヨーロッパでは、最低賃金は平均賃金の 45%程度であるのに対し、日本では27%と低くなっている。
III.社会保障制度改革 年金制度改革 医療保険制度改革 介護保険制度改革
年金制度改革 日本の公的年金制度 (1)賦課方式(厚生労働省は修正積み立て方式と呼んでいるが、年金積 立残高は現在の年金支給額の6年分しかない。) : 現在働いている人が支払う年金保険支払い部分を、現在引退してい る高齢者への年金支給に用いる方法
(2)強制加入 ・世代間での相互扶助の原則 ・民間の年金保険には問題がいくつか存在している *逆選択 健康に自信がある人が年金に入り、健康に自信が無い人 は、年金に入らない。(年金保険の本質は、早死にした人から、 長生きした人への所得移転で、長生きのリスクへの対処法) *業務費用(事務経費)比率が高い ・
(2) 厚生年金、共済年金は2階建て制度 基礎年金部分は定額年金 報酬比例部分は、所得に応じて保険料が上昇すると共に、 給付額も増大する。 厚生年金には、厚生年金基金という制度があり、年金給付を 上乗せするために用いることができるが、現在縮小している。 (3)第3号被保険者制度 サラリーマンの配偶者は、保険料を払わなくとも、被保険者と なり、基礎年金の受給資格を得る。保険料は、年金制度全般で 負担。働く女性から、専業主婦への所得移転が起きているとい う側面が存在。
年金制度改革の必要性 少子高齢化は年金財政を圧迫 一人の労働者で養う高齢者の数が増大 一人の労働者で養う高齢者の数が増大 「現在の若年世代は、払った保険料以下しか年金を受け取ることがで きなくなる?」 理論的には、賦課方式の年金財政制度を、完全積立方式(市場収益率 方式)に移行することによってのみ解決できる。 移行期間の財源を公債発行によって賄う必要が生じる。現在の財政状 況では困難。
平成16年年金制度改革 負担の上限と、給付の下限を設定 負担は、18.3%上限、給付は現役平均収入の5割を確保 負担は、18.3%上限、給付は現役平均収入の5割を確保 この公約を守ることは、年金支給開始年齢を引き上げる以外困難と言 える。 また、人口推計が楽観的過ぎるという批判が起きた。
医療保険制度 昭和36年より、国民健康保険法が施行され、「皆保険」となる。 強制加入 米国では、民間保険となっており、強制加入ではない。 米国では、民間保険となっており、強制加入ではない。 メリットは、医療サービスでの市場メカニズムが働きやすい。 (保険会社は、保険適用の医療機関および医師を限定:保険対 象からはずれると患者が来なくなる。また、保険会社選択でも市 場メカニズムが働く。)
参考:DRG/PPS(Diagnosis Related Group/ Prospected Payment System:診断群別包括支払い方式):病気によって支 払い上限が与えられる。末期治療では、悲劇が起きる。 米国では、Managed Health Careと呼ばれる医療保険制度があ り、DRG/PPSを採用している場合が多い。そこでは、治療方法お よび投薬に関して、保険会社がドクターに費用削減のための指 示を出し、保険適用範囲を限定している。 しかし、訴訟費用(最も優れた治療を選択できないことにより、死 亡するケースが多い)が上昇しており、問題も多い。
原則3割負担 サラリーマンが加入する「被用者保険(政府管掌・組合管掌健康 保険)」と農業者・自営業者が加入する「国民健康保険」の2本 柱 高齢者(75歳以上)の医療を各医療保険制度が支える「老人保 健制度」がある。保険主体は市町村で、1割負担原則。 費用負担の比率 政府管掌健康保険では、給付費等の13%を公費負担、国保は 給付費等の45%を公費負担
平成18年医療制度改革 医療費の適正化のための施策を実施 新たな高齢者医療制度の創設(平成20年4月) 退職者医療制度を廃止し、新制度に移行 高齢者の負担を1割から2割に引き上げ。乳幼児の負担を2割に 軽減。 介護療養型医療施設の廃止 都道府県単位を軸とした保険者の再編・統合
公的介護保険制度 第1号被保険者(65歳以上)と第2号被保険者(40歳 から65歳)に区分 40歳以上の国民は強制加入 財源:19%を第1号被保険者保険料、31%を第2号 被保険者保険料、25%を国、12.5%を都道府県、 12.5%を市町村で負担。賦課方式の財政制度となっ ており、積立方式でないことが理解できる。人口高齢 化により財政は悪化し、財政難となることは予測可能。 保険者は市区町村
要介護度については、非該当、要支援1,2,要介護1~5の8 段階認定 ケアマネジャーによる介護サービス計画の策定 原則として1割負担(支給限度額は要介護度に応じて決定) 高額介護サービス費がある。 問題は、介護方法の選択にバイアスが発生している。(被介護 者が選択するケースは少なく、要介護者が選択するため、在宅 ではなく施設介護を選択することが多くなる。)