震災復興と里山資本主義 藻谷浩介 2016年10月28日 株式会社 日本総合研究所 調査部 主席研究員

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震災復興と里山資本主義 藻谷浩介 kosuke@motani.com 2016年10月28日 株式会社 日本総合研究所 調査部 主席研究員 株式会社 日本政策投資銀行 地域企画部 特任顧問 も た に 藻谷浩介 kosuke@motani.com (株)日本総合研究所 藻谷浩介

震災復興と里山資本主義 「イメージ」や「空気」は事実と違う - 常に事実を数字で確認しないと間違える (株)日本総合研究所 藻谷浩介

里山資本主義とは お金の世界で成長を目指す「マネー資本主義」の反対語。 お金にならない価値も重視、循環再生で社会を持続。 震災復興と里山資本主義 お金の世界で成長を目指す「マネー資本主義」の反対語。 お金にならない価値も重視、循環再生で社会を持続。 「物々交換」や「恩送り」の重視+原状不稼動の「原価0円資産」活用: ! お金を使わない分GDPは減るが、幸福度と持続性は増大 ! 資源購入の減少 → 金銭換算された域際収支も改善 「客数」や「売上」よりも、「地域内でどれだけお金が回るか」を重視: ! 「地消地産」で、地域外に出て行くコストを減らす   ← 地元民と観光客の消費するものは、なるべく地元産にする  ← 地域内消費を、地元民の給料と地元産の原材料費に回す 目先の「経済成長」よりも、「人口」と「天然資源」の循環再生を重視: ! 出生率1.1、自給率0%の東京の限界を直視 ! 農山村への若者回帰促進、子育て支援への投資 (株)日本総合研究所 藻谷浩介

循環・再生が可能な範囲でほどほどに稼ぎ、使う 震災復興と里山資本主義 マネー資本主義と里山資本主義 マネー資本主義 里山資本主義 動機 自分が、いま、一番になる 社会が滅びずに続いていく 目標 お金儲けの一番を目指して 際限なく稼ぎ、貯め込む 代わりのない中継者になる = 稼いでは回しバトンをつなぐ 戦略 粗暴バージョン: 他者/他集団から奪い取る 素朴バージョン: 何でも自給自足する 知能バージョン: 未来/次世代から搾取する ←簿外資産を浪費して蓄財する (地下資源、水、土壌、大気、子供、絆...) ←借金や汚染物質を後世に残す 成熟バージョン: 循環・再生が可能な範囲でほどほどに稼ぎ、使う ← 使ったものは元に返す ← インフラと清浄な環境を残す 手法 等価交換 / 金融投資 自由競争 / リスクの個人化 物々交換・贈与 / 実物投資 協働 / リスクの社会化 (株)日本総合研究所 藻谷浩介

交通が便利になって、工場が増えて、 国際競争力があれば、人口は減らなくなると、 震災復興と里山資本主義 地域活性化って何ですか? ? 交通が便利になることだ。 ? 工場や職場が増えることだ。 ? 国際競争力が強くなることだ。 ? 人口が減らなくなることだ。 交通が便利になって、工場が増えて、      国際競争力があれば、人口は減らなくなると、 あなたは今なお本気で信じていますか? (株)日本総合研究所 藻谷浩介

◎ 若者が戻ってきて、子供が生まれ続けること。 ◎ 誇りを持って地域を残すこと。 震災復興と里山資本主義 地域活性化って何ですか? ? これ以上交通を便利にするよりも ? これ以上工場を増やそうとするよりも ? 国際競争だと浮かれ騒ぐのでもなく ◎ 人口が減らなくなること。 ◎ 若者が戻ってきて、子供が生まれ続けること。 ◎ 誇りを持って地域を残すこと。 (株)日本総合研究所 藻谷浩介

震災復興と里山資本主義 日本の家の8軒に1軒が空き家 (株)日本総合研究所 藻谷浩介

震災復興と里山資本主義 空き家が多いのは大都市圏 (株)日本総合研究所 藻谷浩介

地方に足りないのは「仕事」ではなくて「人手」 震災復興と里山資本主義 地方に足りないのは「仕事」ではなくて「人手」 (株)日本総合研究所 藻谷浩介

(2013年始→2016年始の人口の変化、住民票ベース、外国人含む) 震災復興と里山資本主義 仙台市でいま起きていること (2013年始→2016年始の人口の変化、住民票ベース、外国人含む) 総人口:2013年1月1日→2016年1月1日 +18,000人 0-14歳人口の増減:       ↓絶対数   ↓増減 13年始 13.8万人→16年始 13.7万人 △2,600人 △1% 15-64歳人口の増減:      ↓絶対数   ↓増減 13年始 69.3万人→16年始 68.9万人 △4,900人 △1% 65歳以上の人口:         ↓絶対数   ↓増減 13年始 20.7万人→16年始 23.2万人 +24,200人 +12% ↑その中の75歳以上の人口:  ↓絶対数   ↓増減 13年始  9.9万人→16年始 10.8万人  +8,700人  +9% 全国屈指の勢いで人口が増加している都市 実は増えているのは高齢者だけで、64歳以下はもう減少に転じている (株)日本総合研究所 藻谷浩介

(2013年始→2016年始の人口の変化、住民票ベース、外国人含む) 震災復興と里山資本主義 首都圏一都三県でいま起きていること (2013年始→2016年始の人口の変化、住民票ベース、外国人含む) 総人口:2013年1月1日→2016年1月1日 +40.1万人 0-14歳人口の増減:       ↓絶対数   ↓増減 13年始  4.5百万人→16年始  4.5百万人  △3.4万人 △1% 15-64歳人口の増減:      ↓絶対数   ↓増減 13年始 23.5百万人→16年始 23.1百万人 △32.1万人 △1% 65歳以上の人口:         ↓絶対数   ↓増減 13年始  7.8百万人→16年始  8.5百万人 +75.6万人+10% ↑その中の75歳以上の人口:  ↓絶対数   ↓増減 13年始  3.5百万人→16年始  3.9百万人 +38.0万人+11% 全国屈指で一番人口が増加しており、いわば一人勝ち 実は増えているのは高齢者だけで、64歳以下はもう減少に転じている (株)日本総合研究所 藻谷浩介

(2013年始→2016年始の人口の変化、住民票ベース、外国人含む) 震災復興と里山資本主義 愛知県豊田市でいま起きていること (2013年始→2016年始の人口の変化、住民票ベース、外国人含む) 総人口:2013年1月1日→2016年1月1日 +210人 0-14歳人口の増減:       ↓絶対数   ↓増減 13年始  6.3万人→16年始  6.0万人 △2,980人 △5% 15-64歳人口の増減:      ↓絶対数   ↓増減 13年始 28.1万人→16年始 27.2万人 △9,140人 △3% 65歳以上の人口:         ↓絶対数   ↓増減 13年始  7.8万人→16年始  9.1万人 +12,330人 +16% ↑その中の75歳以上の人口:  ↓絶対数   ↓増減 13年始  3.2万人→16年始  3.7万人  +5,350人 +17% 人口増加がぱったり止まってしまっている 90年続くと64歳以下がゼロ!になるペースの、不意打ちのような急減少 (株)日本総合研究所 藻谷浩介

(2013年始→2016年始の人口の変化、住民票ベース、外国人含む) 震災復興と里山資本主義 山形県でいま起きていること (2013年始→2016年始の人口の変化、住民票ベース、外国人含む) 総人口:2013年1月1日→2016年1月1日 △26,400人 0-14歳人口の増減:       ↓絶対数   ↓増減 13年始 14.4万人→16年始 13.7万人  △7,800人 △5% 15-64歳人口の増減:      ↓絶対数   ↓増減 13年始 68.3万人→16年始 64.7万人 △36,100人 △5% 65歳以上の人口:         ↓絶対数   ↓増減 13年始 32.8万人→16年始 34.5万人 +17,500人  +5% ↑その中の75歳以上の人口:  ↓絶対数   ↓増減 13年始 18.7万人→16年始 18.8万人  +1,400人  +1% このまま続けば130年で人口がゼロ!になるペースの、急速な減少 このまま続けば60年たたずに現役世代がゼロ!になるペースの、深刻な減少 (株)日本総合研究所 藻谷浩介

(2013年始→2016年始の人口の変化、住民票ベース、外国人含む) 震災復興と里山資本主義 檜枝岐村でいま起きていること (2013年始→2016年始の人口の変化、住民票ベース、外国人含む) 総人口:2013年1月1日→16年1月1日 △1人 0-14歳人口の増減:      ↓絶対数 ↓増減 13年始  81人 → 16年始  73人  △9人 △10% 15-64歳人口の増減:     ↓絶対数 ↓増減 13年始 302人 → 16年始 312人  +10人  +3% 65歳以上の人口:       ↓絶対数 ↓増減 13年始 204人 → 16年始 201人  △3人  △1% ↑その中の75歳以上の人口: ↓絶対数 ↓増減 13年始 127人 → 16年始 129人   +2人  +2% 奥会津の一番奥の、東北で一番交通不便な村なのに、人口が減っていない 高校もない村なのに現役世代が増えており、高齢者は減っている (株)日本総合研究所 藻谷浩介

(2013年始→2016年始の人口の変化、住民票ベース、外国人含む) 震災復興と里山資本主義  お き の し ま   あ ま ち ょ う 隠岐島の海士町でいま起きていること (2013年始→2016年始の人口の変化、住民票ベース、外国人含む) 総人口:2013年1月1日→16年1月1日 +58人 0-14歳人口の増減:      ↓絶対数 ↓増減  13年始   224人 → 16年始   240人 + 16人  +7% 15-64歳人口の増減:     ↓絶対数 ↓増減  13年始 1,157人 → 16年始 1,178人  +21人  +2% 65歳以上の人口:        ↓絶対数 ↓増減  13年始   911人 → 16年始   930人  +19人  +2% ↑その中の75歳以上の人口: ↓絶対数 ↓増減  13年始   548人 → 16年始   534人 △14人 △3% 冬には1日1本しか船の来ない孤島なのに、人口が増えている! 少子化の時代に、首都圏でも減っている子供が、なんと海士町では増えている! 現役世代も増えており、後期高齢者だけが減っている (株)日本総合研究所 藻谷浩介

震災復興と里山資本主義 人口でみた都道府県の最新の成績表 高齢者増加 現役世代減少 (株)日本総合研究所 藻谷浩介

震災復興と里山資本主義 人口でみた都道府県の最新の成績表 高齢者増加 現役世代減少 (株)日本総合研究所 藻谷浩介

ただし問題は、惰性のように続く若者の流出を 止められるか。雇用創出よりも、耕作放棄地と 空家の賃貸促進による、若者受け入れがカギ。 震災復興と里山資本主義 里山資本主義・高齢化の大逆転 × 20世紀: 高齢化する田舎 / 若々しい大都市 ○ 21世紀: 高齢者が減る田舎/ 激増する大都市  → 大都市では今後高齢者が激増 / 田舎ではむしろ減りだす  → 田舎は、今の医療介護体制を維持できれば何とかなるが、 大都市ではいつまでも医療介護の体制整備が追いつかない  → 先に高齢化した田舎で成り立つ企業が、全国で生き残る  → 人口が少ない方が食料自給率や自然エネルギー自給率を 高く保つことができ、長持ちする社会ができる  → 結局生き残るのは子供が生まれる地域 / 都会の子育てを容易にするより、子育ての容易な田舎に若者を戻す方が早い ただし問題は、惰性のように続く若者の流出を   止められるか。雇用創出よりも、耕作放棄地と 空家の賃貸促進による、若者受け入れがカギ。 (株)日本総合研究所 藻谷浩介

高齢者の激増する都会の課題 ○ 「きょういく」と「きょうよう」のある高齢者をいかに増やせるか? 震災復興と里山資本主義 高齢者の激増する都会の課題 ○ 「きょういく」と「きょうよう」のある高齢者をいかに増やせるか? 今日行く所 今日やる用事 ○ 医療介護費用の増大にどう対処するか? 人手は足りるか? ○ 終の棲家を確保できるか? ○ 死に場所を確保できるか? ○ 高齢者に元気に歩いて暮らしてもらい、元気にお金を使ってもらうには? (株)日本総合研究所 藻谷浩介

止められないこと・できること → 今の住民が毎年1歳ずつ歳を取っていくこと → (多くの)若者が地域外に就職して出て行くこと 震災復興と里山資本主義 止められないこと・できること × 止められないこと  → 今の住民が毎年1歳ずつ歳を取っていくこと  → (多くの)若者が地域外に就職して出て行くこと △ 変えられること  → これまでは一度出て行ったきり帰ってこなかった若者たちを、今後は工夫次第で呼び戻せる  → 子育て世代の支援で、出生率を高くできる ○ むしろ前向きにできること  → 子育てしながら働く若い世代を呼び込める  → 無病息災で天寿を全うする高齢者を増やせる  → 来訪・滞在・短期定住する外来者を増やせる (株)日本総合研究所 藻谷浩介

人口でみた津波被災・原発被災 市町村の最新の成績表 震災復興と里山資本主義 人口でみた津波被災・原発被災  市町村の最新の成績表 高齢者急増 現役世代が減少 (株)日本総合研究所 藻谷浩介

人口でみた津波被災・原発被災 市町村の最新の成績表 震災復興と里山資本主義 人口でみた津波被災・原発被災  市町村の最新の成績表 高齢者急増 現役世代が減少 (株)日本総合研究所 藻谷浩介

震災復興と里山資本主義 交通至便でもダメな場所はダメ 高齢者急増 現役世代が減少 (株)日本総合研究所 藻谷浩介

交通不便でも元気な場所は元気 「地消地産」と 若者受入れで 右に動ける 高齢者急増 現役世代が減少 震災復興と里山資本主義 (株)日本総合研究所 藻谷浩介

決定要素は地域資源ではなく商売のやり方 「高津川で見つけた未来の種」(中央公論社 2015年) より抜粋・改変: 震災復興と里山資本主義 決定要素は地域資源ではなく商売のやり方 「高津川で見つけた未来の種」(中央公論社 2015年) より抜粋・改変:  ダメな地域には困った構造があります。ダメな地域、ダメな組織、ダメな部署、ダメな出先にはすべて共通点がある。それは、自分のいる組織や場所をダメにすることによって、それを糧に食いつないでいる人たちがいるということです。本人たちに罪の自覚はないのですが。  たとえば地域の農協が、「東京に売る農産物を100円生産するため、肥料代と燃料代と農薬代を東京の企業に200円払う」なんてことを、なんの悪意もなく一生懸命にやっています。地域のものを外に売ることで儲けるのではなく、地域外から買ってきた灯油や農薬や農機具や肥料を地域内に売りつけることで稼ぐ。つまり地域から外へお金を出すことを仕事にして、それで自分だけは人件費を払ってもらえる仕組みになっている。彼らがマジメに仕事するほど、東京へとお金が出ていってしまうのです。  農協は一例で、地域住民にモノを売る企業のほとんどが同じことをしています。商業者も観光事業者も、機械器具の代理店も、エネルギー関係企業も、地域から外へとお金が流れ出す構造の中に身を置いて食べている。人件費を削り、都会に出張してお金を使い、都会に家を買い、子供を出す。彼らに とって「地域振興」とは、地域から東京にお金を戻す構造の維持なのです。 (株)日本総合研究所 藻谷浩介