ウェーバー・官僚制・形式合理性 林晋
ウェーバーの官僚制概念 ウェーバーが「現代的」官僚制の特徴として挙げた条件を Giddens, Sociology, 6th edition, p.785 の記述を使って説明: 職権の階層構造:官僚機構はピラミッド構造を持ち、トップから 底辺へ命令が整然と流れる。各メンバーは、その直下のメンバーをコントロールする。 いわゆる、トップ・ダウン型意思決定で動くということ。 成文化されたルールで動く。ただし例外はあり、より上位のメンバーは、より多くの意思決定の自由を持つ。 メンバーはフルタイムの給与制で雇われる。給与は「職」により定義される。 成員の「生活」(人生)は、その「職」と分離されている。 官僚制システムのメンバーは、そのシステムの所有者ではない。 注意:ギデンズの説明を、さらに林が纏めたもの。ウェーバー自身の言葉やリストによるものではない。たとえば、ウェーバーは「ピラミッド型」「トップ・ダウン」などの現代的用語は使っていない。これはギデンズによる。ウェーバーの元の説明は、ギデンズのもののように判り易くはない。
ド・プロニーのプロジェクトと構造を比較 階層構造:ド・プロニーのプロジェクトはピラミッド構造を持ち、top から bottom へ命令が整然と流れる。各メンバーは、その直下のメンバーをコントロールする。 top-down 型意思決定。 成文化されたルールで動く。ただし、より上位のメンバーは、より多くの意思決定の自由を持つ。 注意: 3-5 は「組織構造」についてではないので比較不可能。 この三つは感情をもった部品としての官僚を官僚システムのために働くように仕向けるためのメカニズム。4,5は、人格としての個々の官僚がシステムと分離され、官僚システムや職務に私情をはさまないように仕向けるための仕組み。一方で3により生活が保障されることにより、官僚システム・職務への忠実・献身を促進する。実際の官僚システムでは、社会的地位、社会的評価、職業人としての誇り・充実感、なども、これに大きく貢献する。
官僚的システムとは 形式合理的な統治システム ウェーバーは、上に与えた様な条件が現代的官僚システムを中国の官僚システムなどと分かつ大きな特徴とした。つまり、「現代的官僚制的であること」の「本質」が上の条件。 統治 その本質は、人間を計算部品とするド・プロニープロジェクトという「数表計算マシン」の本質と同じだった。 数学・科学・技術 しかも、それはアダム・スミス以来の資本主義の生産様式のコアにある分業概念の本質と同じあった。 経済 これら異分野の似た概念を「まとめる」概念はあるか? ウェーバーは、近代的官僚システムに限らず、近代的経済システム、近代的司法システムに、幾つかの共通する「組織的社会的行動の特徴」を見出した。その一つで、かつ、最も代表的なものが「形式合理性」。 それによれば「官僚制とは形式合理的な統治システム」と言えた。 ウェーバーは形式合理性を実質合理性と対立するものとして説明した。 その形式合理性と実質合理性の説明…
実質合理性 vs 形式合理性 経済システムの場合 Max Weber: Economy and Society, Vol.1, p.85, Univ. California Press, 林の意訳 形式合理性(formal rationality, formale Rationalitaet ):ある経済的行為のシステムの各経済行為が、どの程度数字で表せて、また、実際に表されているかの程度により、そのシステムが、どの程度形式合理的であるかが決まる。価値が実数で表される「貨幣経済」のシステムは、高度に形式合理的であることになる。 実質合理性(substantive rationality, materiale Rationalitaet ) 経済行動の選択基準を、 今選択されている技術的に最適で可能な経済の方法論に照らして、ゴール志向的な合理的計算により選択されているという、純粋に形式的で、かつ、比較的明瞭な事実にのみ置くのではなく、たとば、倫理的、政治的、功利論的、快楽主義的、封建的(staendich), 平等主義的、等の究極的基準、と、その経済行動の結果を照らしあわせること。この態度を実質合理的という。 8/30/2019
実質合理性 vs 形式合理性 法システムの場合 Weber の「法社会学」から 法が「形式的(formal)」であるというのは、実体法上も起訴上も、もっぱら一義的で一般的な要件メルクマールのみが尊重されることである。 〈実質 material 合理性〉が意味していることは、まさに、抽象的な意味解明の論理的一般化ではなくて、それとは違った性質の威信をもった規範が、法律問題の決定に対して影響力をもつべきであるということだからである。…中略…これらが外面的なメルクマールの形式主義をも、論理的中小の形式主義をも打破すべきであるというのである。 メルクマール: Merkmal (独)特徴, 目印, (特性を示す)指標 8/30/2019
ウェーバーの手法についての注意 形式合理性と実質合理性の意味は、この二つの説明で大体わかる。 形式合理性と実質合理性に対して、ウェーバー自身はこういう定義しか与えていない。つまり一般的な定義は与えられていない。 少なくとも林は知らない。 これは一般的説明が出来なかったのではなくて、おそらくウェーバーが提唱した理念型という、社会科学の研究手法に自ら忠実に従ったためと思われる。