第5回講義 文、法 経済学 白井義昌
消費関数と総需要
ケインズの消費関数 短期的な所得と消費には次のような関係が観察されている。(ケインズの消費関数) C=C+c・YD YD: 可処分所得 YD≡YーT (T=0ならばYD=Y)
貯蓄関数 貯蓄は所得から消費支出を差し引いた残りとして定義される。 貯蓄関数は以下のように定義される。 S(Y) ≡ Y-C=ーC+(1-c)・(Y-T) (1-c)は限界貯蓄性向と呼ばれる。 S(Y)は所得水準Yの下での計画された貯蓄である。
総需要関数 経済には消費者と生産者しかいない(政府と海外部門はない、T=G=NX=0)と想定しよう。 (計画された)投資支出は I で一定である仮定する。 このとき、所得水準Yのもとでの、計画された総需要は以下のようになる。 AD(Y) ≡ C(Y)+I=C+c・Y+I (次図を参照)
AD AD=Y AD(Y) C+I 45度 Y Y*
均衡生産量と均衡所得の決定 有効需要の原理で述べたように、均衡生産量は総需要に等しくなるように決定される。 すなわち、均衡生産量Y*は、以下の等式をみたす総生産水準である。 Y*=AD(Y*) (1) =C(Y*)+I (1 ‘) =C+c・Y*+I (2) 均衡生産量Y*は均衡所得として分配される。
貯蓄投資の均等化条件 また、(1)式からから計画された消費を差し引くと次を得る。 Y*-C(Y*) =AD(Y*)-C(Y*) S(Y*) = I (3) すなわち、均衡生産の決定条件(1)式は上記の、計画された貯蓄=投資という条件(3)式でも表現できる。(次図を参照せよ)
S(Y) S(Y) I 1-c Y Y* C
乗数効果
独立支出と均衡総生産量 (9)式に示される、均衡総生産について解くと、以下を得る。 Y*=[ C+I ]/(1-c) [ C+I ]は計画された総需要AD(Y)のうち、所得に依存しない独立支出とよばれるものである。それはここでは、基礎消費と投資支出からなっている。いま、独立支出をAで表すことにしよう。
独立支出の乗数効果 独立支出AをΔA単位増大させたとき、均衡生産水準Y*はどれだけ増大するか? 増大した独立支出A+ΔAのもとで、均衡生産水準は[A+ΔA]/(1-c)になる。これか増大前の独立支出Aのもとでの均衡生産水準をさしひくと、 [A+ΔA]/(1-c)-A/(1-c)=ΔA/(1-c) となる。すなわち、 ΔA単位の独立支出の増大はその1/(1-c)倍の総生産の増大をもたらす。
AD AD=Y ⊿A AD(Y) A+⊿A A ⊿A/(1-c) 45度 Y Y* Y*+⊿A/(1-c)
独立支出の乗数効果 1/(1-c)は独立支出乗数と呼ばれる。 特にΔAが投資の増大による場合、 1/(1-c)は投資乗数と呼ばれる。
政府部門の導入
政府部門 政府部門は所得税TAを徴収し、国民に移転し支払いTRを支払い、政府購入Gを支出する。 所得税率をtとすると、 TA=tY となる。 可処分所得は Y+TRーTA である。
均衡総生産の決定 このとき、計画された総需要は以下のようになる。 AD(Y)≡C(Y+TR-TA)+I+G =C+c・(Y-TR- t・Y)+I+G したがって、均衡生産水準Y*は以下の式で決定される。 Y*= C(Y*+TR- t・Y*)+I+G (4) =C+c・(Y*-TR- t・Y*)+I+G (4’)
均衡総生産の決定(続き) (4)式を書き換えると次のようにも表せる。 Y*-C(Y*+TR- t・Y*)‐G = I Y* +TR- t・Y* -C(Y*+TR- t・Y*) +t・Y* -TR‐G = I Spvt(Y*)+Sgovt(Y*)= I S(Y*)= I
均衡総生産と乗数 (4’)式を均衡総生産Y*について解くと次を得る。 Y*=[C+c・TR+I-G]/[1-(1-t)c] これは政府購入乗数と呼ばれている。
均衡予算乗数 均衡予算:政府の税収と支出[購入と移転支払い]が税収と等しいとき、均衡財政がはかられている。 TR+G=t・Y 均衡予算がはかられているとき、(4‘)式は以下のようになる。 Y*=C+c・(Y*-G)+I+G したがって、均衡予算のもとでの均衡総生産は以下のように計算される。 Y*= G+[C+I]/(1-c) 均衡予算の下での政府購入乗数は1である。(Gの一単位の増大は一単位の均衡生産量増大をもたらす) これを均衡予算乗数という。