明治大学経営学部 鈴木研一ゼミナール 担当 斉藤 毅 岩田 幸久

Slides:



Advertisements
Similar presentations
テーマ: 企業名等: 役職・氏名: (アグリビジネス事業計画) 1. 会社 ( 経営体 ) 概要 所在地: 資本金: 構成員、従業員数: 経営規模: 主な商品(農産物): 特徴: 2.
Advertisements

10章第4節. 法人の形態をとる企業は、その課税所得に対して 法人税、住民税、事業税という 3 種類の税金が課 される。 課税所得の金額は損益計算書の当期純利益を基礎 とし、税法特有の調整項目を加算・減算したもの。 決算日から2カ月以内に課税所得と税額の計算を 記載した確定申告書を税務署長あてに提出し、税.
第 13 章 キャッシュフロー経営 ケース/日産ゴーン革命 この章で学ぶこと: ①キャッシュフローとは? ②C / F計算書とは? ③CFOとは?
2016/7/251 1 ブックオフ 入手可能データ まとめ 10/25 社会工学類経営工学主専攻4年次 野澤寛.
1 緊急資金繰り対策 福井商工会議所 平成 21 年11月26日 松岡会計事務所 平野太一. 2 会社を利益体質にする事が重要!! 緊急資金繰り対策とは? 資金繰りがさらに 悪化してしまう! 新しい借入れにより 支払いが増加 経営改善しないと … 融資を受けるだけでは問題を先送りにするだ け …
損益分岐点=固定費 ÷ 売上高 変動費 1-1- 固定比率= 株主資本 ( 自己資本 ) 固定資産 × 100 経常収支比率= 経常支出(営業支出+営業外支出) 経常収入(営業収入+営業外収入 ) × 100 売上債権回転率= 受取手形(割引手形含む)+売掛金 ( 期首と期末の平均) 売上高 売上債権回転月数(日数)=
第 5 章 総合的会計情報システムにおける 管理会計 1. ERP パッケージとは何か 2. ERP パッケージと管理会計 3. ERP パッケージ導入の効果.
1 第4章 棚卸資産 ケース/セブンーイレブン、 トヨタ自動車 この章のポイント: ①棚卸資産とは売上を待つ在庫のこと。 ②価値減少分は売上原価に加えられる。 ③粗利益率は在庫管理いかんである。
1 IT に強い会計専門家の養成 ( 1 ) ERP システム実務 ( 2 ) ERP 財務会計実務 ( 3 ) ERP 管理会計実務 ( 4 )管理連結システム実務 ( 5 ) ERP 全般統制実務 ( 6 ) XBRL 基礎 ( 7 )情報基礎 ( 8 )情報システム ( 9 )システム監査 (
© ATSUTO NISHIO 経営安全 企業・経営が健全な活動を展開している かどうかを調べる。 ・ x-R管理図 ・ 経営安全率.
多々納 裕一 京都大学防災研究所社会システム研究分野
第14回 物流コスト管理 物流コストに含まれるものは? その算定方法は? どれくらいなのか?.
第4章 ABC/ABMと原価情報 原価計算・原価低減の新技法 1.ABCとは何か 2.ABCの有効性 3.ABMとは何か 4.ABMの有効性.
価格決定 重要な意思決定として価格決定がある 価格決定の形態 新製品や改良製品の価格決定
(アグリビジネス事業プラン) テーマ:                         企業名等: 役職・氏名: 1.
~ ストラック図表(未来会計図表)の見方① ~
Anthony and Govindarajan Management Control Systems
第6章 損益計算書 ケース/ユニ・チャーム 阪急電鉄
生産量差異の本質 生産量差異=固定間接費配賦額-固定間接費予算額 =(実際生産量×固定間接費配賦率) -(予定生産量×固定間接費配賦率)
企業の仕組み 第11回 経営分析について.
ABCの概要とその有用性 加登豊(神戸大学大学院経営学研究科教授) 清水信匡(桃山学院大学経営学部教授)
目標純利益 CVP分析を用いると目標利益を達成するために必要な販売量と売上高を算定できる 損益分岐点の式を「変形する」
財 務 諸 表 論 Ⅱ 第六回 損益会計①.
持 分 法 会 計 桝岡源一郎.
第1講 簿記の基礎 簿記とは 簿記の目的 簿記と会計期間 簿記の5要素と財務諸表.
ERPとして必要な統合管理機能を有し、内部統制等の様々なニーズに柔軟に対応
梅沢人間力アカデミー 『ゼミナール 経営学の基礎』 第 6 章
第3章 原価計算制度と原価情報 1.原価計算目的と原価計算制度 2.実際原価計算 3.標準原価計算 4.新しい原価計算
第2章 管理会計 ケース/スターバックスコーヒージャパン
明治大学経営学部 鈴木研一ゼミナール 担当 山口一郎
この章のポイント: ①有形固定資産=長期にわたり使用 ②減価償却費=価値の減少 ③減価償却費=現金支出なき費用
経済と株価ー講義① 企業活動と付加価値①・・・会計上の考察 ・企業の付加価値と株価 ・貸借対照表(B/S)上の利益
     総合原価計算.
売上原価会計 SAP Best Practices.
上海市精華外語専修学院 特別講座(全十回)
過去原価の無関連性 過去原価は予測においては有用であるが、意思決定においては無関連であるのはどうしてなのか?
跡見学園女子大学マネジメント学部 国際経済学
会 計 学 総 論 Ⅱ 第7回 工業簿記①.
どんな稼ぎ方を目指すべきか考える 商品開発に進む 1.御客さんの幸せと商品の仮説を考える 2.調べてみる、聞いてみる
明治大学経営学部 鈴木研一ゼミナール 担当 坂本 謙太 池戸 聡
一般労働者派遣事業の 新規許可 許可有効期間の更新 を申請する事業主の方へ 厚生労働省 三重労働局 職業安定部 需給調整事業室
正常原価計算システム 正常原価計算システム 製品原価計算するにあたり、年間を通じて一定の年平均間接費率を用いている
財務諸表とは テキスト第3章 田宮治雄.
C.T.ホーグレンほか、渡辺俊輔監訳 『マネジメント・アカウンティング』
明治大学経営学部 鈴木研一ゼミナール 担当: 増山 宏美、 李 亨奈
損益分岐点に関する基礎知識 中村勝則 武庫川女子大学.
複式簿記とは テキスト第2章                田宮治雄.
2018年3月期第2四半期決算説明 2017 年 11 月7 日 1/12.
企業の財務諸表 (ゼミ講義用) 経済学部 吉田裕司.
CTスキャン 例題 CTスキャンをEMIのゴッドフリー・ハウンズフィールドが開発したのは、脳をスキャンするためであった。当時、脳スキャンの市場は小さく、脳スキャンの費用が保険の対象にもならなかった。さらに、せっかくスキャンが患部を探知しても、満足な治療法がほとんどなかったのである。このテクノジーが普及するには、全身をスキャンできるような数世代後のテクノロジーが開発されるのを待たねばならなかった。この新しい世代のスキャンによって、治療法の存在する症状の診断にも使えるようになったのである。ゼネラル・エレクトリ
第6章 関連情報と意思決定               :生産の意思決定 明治大学経営学部 鈴木研一ゼミナール    担当 八月朔日 由紀、田口 友美 第6章.
現代マーケティング.
世界の会計基準とは テキスト第5章 田宮治雄.
第2章 『法人企業統計』の説明を書く.
総合政策学部3年 鋤先麻美 環境情報学部3年 生田目啓
ショートケース・スタディ④ 回答用紙 日大産業の財務・CF分析 班.
第6章 将来の便益と費用の割引 政策評価(06,11,17)三井.
会計学概論 講義の概要 田宮治雄.
この章で学ぶこと: ①企業活動=営業+財務。 ②会計はその記録・計算・報告。 ③財務のための会計=財務会計。
第8回 生産プロセスの管理.
会計業務の概要 会計情報システムの対象業務.
2. 株式交換と株式移転 両方の会社が法人格を保持したまま合併と同様の経済効果を生じる取引 →
明治大学経営学部 鈴木研一ゼミナール 担当:神谷 正太郎、田口 友美
1.経営改善に役立つ「変動損益計算書」の考え方 1-1.商法・税法の決算書は経営者に役立たない!
「経理・財務サービス スキルスタンダード研究開発事業」
テキスト第7章 スライドを中心として講義する 田宮治雄
財務管理 2010年1月13日 業績評価と経営者報酬 名古屋市立大学 佐々木 隆文.
企業ファイナンス 2009年10月21日 実物投資の意志決定(2) 名古屋市立大学 佐々木 隆文.
事例Ⅳ 企業価値計算 企業価値の評価方法 分類 概要 方法 詳細 インカム アプローチ
ABC(活動基準原価計算) 伝統的な原価配賦システム 部門などの組織単位への原価集計に着目 ABC(活動基準原価計算システム)
Presentation transcript:

明治大学経営学部 鈴木研一ゼミナール 担当 斉藤 毅 岩田 幸久 C.T.ホーングレンほか、渡邊俊輔監訳 『マネジメント・アカウンティング』              ~ Introduction to Management Accounting                 明治大学経営学部 鈴木研一ゼミナール                          担当 斉藤 毅 岩田 幸久 第2章

第15章 間接費の配賦;直接原価計算 と全部原価計算 第15章 間接費の配賦;直接原価計算      と全部原価計算 

はじめに 会計担当者は利益を測定するときに多くの判断を行うが、その中で最も重要なのが製品原価計算方法を選ぶこと 何が製品コストに影響するかが分かれば、マネジャーが、自分の意思決定がどのように利益に影響するか、どうすれば自分の評価を高められるかを予測できる 固定製造間接費の会計の課題 製造原価計算と利益計算のためには、固定製造間接費をどう処理すべきだろうか マネジャーの業績評価では、このコストを考慮すべきなのか                      本章では直接原価計算と全部原価計算の2つの製品原価計算を取り上げる

直接原価計算と全部原価計算の相違点 直接原価計算(貢献利益アプローチ) 固定間製造接費を棚卸資産原価に含めない 固定製造間接費(固定工場間接費)を期間原価として扱い、直ちに売上高に負担させる 全部原価計算(職能別アプローチ、全部原価計算アプローチ、伝統的          アプローチ) 固定製造間接費を棚卸資産原価に含める 固定製造間接費を棚卸資産に計上し、販売時に売上原価として売上高に負担させる つまり両者の違いは1点。固定製造間接費について、直接原価計算では製品原価から除外するのに対して、全部原価計算では製品原価に含めるという点

図表15-1 コストフローの比較 直接原価計算 貸借対照表上の棚卸資産高 会計コスト 損益計算書上の費用 直接材料費 図表15-1 コストフローの比較 直接原価計算 貸借対照表上の棚卸資産高 会計コスト 損益計算書上の費用 直接材料費 直接労働費 変動間接費    最初は   製品原価として棚卸資産に計上 販売時に 売上高に負担 商品販売時 固定間接費  直ちに 売上高に負担

図表15-1(続き) 全部原価計算 貸借対照表上の棚卸資産高 会計コスト 損益計算書上の費用 直接材料費 直接労働費 変動間接費 固定間接費    最初は   製品原価として棚卸資産に計上 損益計算書上の費用 販売時に 売上高に負担 商品販売時

外部報告目的のための全部原価計算 全部原価計算は直接原価計算よりも広く利用されている 公認会計士もIRSも、外部報告目的や租税目的のために直接原価計算を認めていないからである 従って全ての、全てのアメリカ企業は株主と税務当局への報告には全部原価計算を利用している しかし、業績測定とコスト分析では貢献利益アプローチが有用であるため、内部目的には直接原価計算を利用することが多い

会計システムの発達 10~20年前 内部報告で直接原価計算を利用するには高いコストがかかった 外部報告用と内部報告用に2つの方法で情報を処理する必要があるため コンピューターの利用が進み、コストも安くなったために直接原価計算システムにかかるコストは少なくなった マネジャーにとって、もはや、別個の直接原価計算システムに投資するかは問題でなく、単に報告の様式として直接原価計算か全部原価計算かを選択すればよいだけになった

Greenberg Companyの例 Greenberg Companyの例 大型プラスチック射出成形機の交換部品を製造 機会1台につき年間4つの新しいリングが必要になる 固定製造間接費の予算額は年間$150,000で、差異はなく実際固定製造原価も$150,000であった 年間の予定(予算)生産量は150,000個、販売価格は$5 単純化のために、リング1個あたり$0.20という単一の変動間接費コストドライバーによってリングを製造すると仮定する 販売費一般管理費の予算額と実際額は、年間$65,000の固定費と売上高の5%の販売手数料と仮定する 標準変動製造原価との差異はなし

標準コストデータと実際生産量 リング製造に要する標準製造コストは次の通りである 標準コストによる基礎的製造データ 直接材料費 $1.30            標準コストによる基礎的製造データ     直接材料費                    $1.30     直接労務費                    $1.50     変動製造間接費                 $0.20     リング1個あたり標準コスト $3.00 実際生産量は次の通りである                          19X8 19X9     リング個数     期首在庫 30,000     生産量 170,000 140,000     販売量          140,000 160,000     期末在庫     30,000 10,000

損益計算書の作成と利益調整 この情報に基づいて以下のことをすることができる 直接原価計算による19X8年と19X9年の損益計算書を作成する

図表15-2 比較損益計算書(直接原価計算)

注意点 直接原価計算の損益計算書は、第4章で学んだ貢献利益アプローチの様式になっている 製品原価は、全ての変動製造原価をリング1個あたり$3で製品に割り当てることによって計算する 在庫は標準変動費で評価 固定間接費はどの製品にも割り当てられず、発生した期間の費用とする 貢献利益の計算において、売上原価の変動費と販売費・一般管理費の変動費の両方が差し引かれている 販売費・一般管理費の変動費は在庫には計上しない

図表15-3 比較損益計算書(全部原価計算) 単位:$1,000

全部原価計算の方法(1) 直接原価計算の様式とは3つの点で異なっている 第1に、売上原価の計算に用いる単位計算コストは、$3ではなく$4である $3の変動費に$1の固定費が加わるから 製品に配賦される固定製造間接費$1は、固定製造間接費配賦率である この値は固定間接費予算額を予定期間のコストドライバー量(ここでは生産量)で割って算定する 固定製造間接費配賦率=                    =                                                =$1 固定製造間接費予算額 $150,000 予定生産量 150,000個

全部原価計算の方法(2) 第2に、全部原価計算の損益計算書では、固定間接費は独立項目としては表示しない 代わりに、売上原価の一部と生産量差異に含まれる 生産量差異は固定間接費配賦率を計算する徳に用いる予定生産量と実際生産量とが乖離するときに生ずる   生産量差異=(実際生産量-予定生産量)×固定製造間接費配賦率

全部原価計算の方法(3) 第3に全部原価計算の損益計算書では、コストを製造と非製造に大別する(直接原価計算の損益計算書では、コストを固定費と変動費とに大別する) 全部原価計算の損益計算書では、収益から製造原価を差し引いてものが売上総利益になる(直接原価計算の損益計算書では、収益から全ての変動費を差し引いたものが貢献利益になる)     19X9年の損益計算書(単位:$1,000)を要約、比較    直接原価計算               全部原価計算 収益         $800         収益         $800 変動費計      $520         製造原価計* $650 貢献利益     $280           売上総利益   $150 固定費計      $215         非製造原価計   $105   営業利益     $65            営業利益    $45

JIT生産方式による効果 これらの違いは大部分の産業にとって重要であるが、多くの企業は直接原価計算と全部原価計算の選択に関心を持っていない。 在庫水準が変わらなければ直接原価計算と全部原価計算の利益に違いはなく、ほとんど在庫を持たない企業では在庫の変化も小さいのである

単位あたり変動費と単位あたり固定費 前述したように、直接原価計算と全部原価計算の相違点は固定製造間接費の処理である ここからは、全部原価計算システムにおける固定間接費の処理方法に着目する (1)と(2)を比較する (1)部門の予算編成とコントロールに用いる変動予算における   製造間接費 (2)全部原価計算システムで製品に配賦する製造間接費 全部原価計算の背後にある基本的な前提を強調するために、ここでも製造間接費を変動要素と固定要素に分ける(実際の全部原価計算システムでは両者を分けないことが多い)

変動製造間接費の比較 変動製造間接費 変動予算 全部原価計算システム 総変動製造間接費 総変動製造間接費 単位(リング) 単位(リング) 単位ごとに$0.20の 変動間接費       $0.20の       製品単位コスト 総変動製造間接費 総変動製造間接費 $30,000 $30,000 $20,000 $20,000 100,000個 150,000個 100,000個 150,000個 単位(リング) 単位(リング)

固定製造間接費の比較 固定製造間接費 変動予算 全部原価計算システム 総固定製造間接費 総固定製造間接費 単位(リング) 単位(リング)       $1の       製品単位コスト 総固定製造間接費 総固定製造間接費 $150,000 $150,000 100,000個 150,000個 100,000個 150,000個 単位(リング) 単位(リング)

解説(1) 固定間接費の変動予算は、総額で$150,000 他方、固定製造間接費配賦額は実際生産量によって変化する 固定製造間接費配賦額=実際生産量×固定製造間接費配賦率 =実際生産量×$1 実際生産量は予定生産量と同じく150,000個だとする 固定間接費配賦額は150,000個×$1/個=$150,000となり変動予算の金額と等しくなる

解説(2) しかし実際生産量と予定生産量が異なる場合には、予算編成とコントロールに用いるコストと製品原価計算に用いるコストとは一致しない マネジャーは、予算編成とコントロールのためには、固定費の実際残すとビヘイビアパターンを用いる 他方、全部原価アプローチではあたかも変動費のコストビヘイビアパターンをしているかのように固定費を処理する