4.行列の基本変形とその応用.

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4.行列の基本変形とその応用

行列の行基本変形

連立方程式の解法と行列の行基本変形 連立方程式の加減法による解法を考察する。 式を減らすと、 逆方向の計算 ができない。 同値な変形ではない。

同値な変形 式を減らさずに 変形する。 同値な変形

同値な変形による連立方程式の解法 式の加算 式のスカラー 倍 式の交換

3種類の同値変形1 I: ある式をスカラー倍( 倍)する。 II: ある式を他の式に加えたり、引いたりする。 III: 2つの式を交換する。 I:  ある式をスカラー倍(        倍)する。 II:  ある式を他の式に加えたり、引いたりする。 III:  2つの式を交換する。 これでもいいのだが、通常は、 IとIIを組み合わせたものを II’とすることが多い。

3種類の同値変形2 定義(連立方程式の同値変形) I: ある式をスカラー倍( 倍)する。 II: ある式を他の式 倍して加える。 I:  ある式をスカラー倍(        倍)する。 II:  ある式を他の式   倍して加える。 III:  2つの式を交換する。 こちらの変換の組を用いることが多い。

同値な変形による連立方程式の解法 この一連の変形を 行列を用いて表現する。

同値な変形と行列の変換

行列の行基本変形 係数行列 変形

行列の行基本変形 I:  ある行をスカラー倍(        倍)する。 II:  ある行を他の式に   倍して加える。 III:  2つの行を交換する。 重要

例 次の行列を行基本変形を用いて、単位行列にせよ。 解) あくまで、変形なので、矢印を用いる。 行列としては等しくないので、 「=」を用いてはいけない。

練習 次の行列を行基本変形を用いて、単位行列にせよ。 (1) (2)

1次方程式と連立方程式 一次方程式 未知数 係数 定数 2元連立1次方程式 として、 定数項ベクトル 係数行列 変数ベクトル (未知数ベクトル)

拡大係数行列 連立方程式を定めるには、 変数の名前( や 、あるいは )は重要ではない。 すなわち、その係数行列と定数項ベクトルだけがあれば 変数の名前(  や  、あるいは  )は重要ではない。 すなわち、その係数行列と定数項ベクトルだけがあれば 連立方程式が一意に定まる。 定義(拡大係数行列) 連立方程式        に対して、係数行列   と 定数項ベクトル  から作られる次の行列 を拡大係数行列という。 このように、小行列や、ベクトルで定められる 行列をブロック行列という。

例1 この連立方程式に対して、係数行列  、未知数ベクトル  定数項ベクトル  、拡大係数行列     は次のようになる。

例2 この連立方程式に対して、係数行列  、未知数ベクトル  定数項ベクトル  、拡大係数行列     は次のようになる。

拡大係数行列と連立方程式の解法 拡大係数行列 変形

行列の基本変形と基本変形行列 一般の 元1次連立方程式を考える。 の係数行列 の未知数(列)ベクトル の定数項(列)ベクトル 一般の  元1次連立方程式を考える。 の係数行列 の未知数(列)ベクトル の定数項(列)ベクトル とすると、以下のように表せる。

式の定数倍に対応する基本変形行列 ある式を定数倍しても、連立方程式の解には変化は無い。 これを行列の積で表現したい。

基本変形行列1(行列の行の定数倍)   行を  倍する        の正方行列。 正方行列を乗じても、 行列の形が変わらないことに 注意する。

例1 左から掛ける 左から掛ける

練習 とする。 行列  の3行目を2倍にする変換行列    を求め、 積        を計算せよ。

加減法に対応する基本変形行列 行を他の行へ定数倍して加算しても、 連立方程式は変わらない。

基本変形行列2(行の他の行への加算)   行に  行を  倍して加算する      の正方行列。

例1 左から掛ける 左から掛ける

練習 とする。 行列  の2行目のー1倍を1行目に加算する変換行列     を求め、積         を計算せよ。

連例方程式での式の交換 行を交換しても、連立方程式は変わらない。

行列の基本変形3(行の交換)   行に  行を交換する        の正方行列。

例1 左から掛ける 左から掛ける

練習 とする。 行列  の1行目と3行目に交換する変換行列     を求め、積       を計算せよ。

基本変形行列の積

基本変形行列の積と逆行列 に対して、 が成り立つ。 ここで、 とおく。

基本変形行列の性質1 (基本変形行列の正則性) 基本変形行列は、すべて正則行列である。 (逆行列が存在する。) 証明 実際に逆行列を示す。 (1) (2) (3)

例 (1) (2) (3)

基本変形行列の性質2 (基本変形行列の積) 基本変形行列の積で得られる行列は正則である。 証明 正則行列の積は正則である。 実際、     を正則行列とし、その積         を考える。 まず、   は正則なので逆行列    が存在する。 同様に、逆行列    も存在する。 よって、積           が構成できる。 このとき、以下のように計算できる。 したがって、逆行列が存在するので        は正則行列。

行列の基本変形の応用1 (逆行列を求める)

行基本変形による逆行列の求め方 を 次の正方行列とする。 の行列 を行基本変形で、 の形に変形できれば、 は正則行列で、 を  次の正方行列とする。      の行列       を行基本変形で、 の形に変形できれば、  は正則行列で、 である。ここで、     は   次正方行列   を横に並べた行列を表す。 と は互いに逆行列。

証明 行に関する基本変形を行うことは、いくつかの基本変形行列 を左から掛けることであった。 これらの積を とすると、 は正則行列である。 これらの積を  とすると、   は正則行列である。 この   を用いて となる。 これより、 である。 よって、

連立方程式との関係

掃きだし法 系統的な行基本変形 (1)ある要素を1にする。(スカラー倍の基本変形 ) 逆行列を作るときには、 対角成分に注目する。 系統的な行基本変形 (1)ある要素を1にする。(スカラー倍の基本変形     ) (2)その列の(1)の要素以外を0にする。(加減法の基本変形      ) これらを左から順に全ての列に行う。

列における掃き出し を 行列とする。 のとき、 を左からかける。 同様に、 繰り返し を左からかける。  列における掃き出し を      行列とする。 のとき、 を左からかける。 同様に、 繰り返し を左からかける。 このように、 列で   成分以外を0にできる。 この一連の操作を  列の    成分による掃きだしという。

例 行列           の逆行列を求めよ。 1行目の掃きだし 終了 解

よって、 この計算手順に従えば、一般のn次の正則行列に対する 逆行列を求めることができる。

練習 次の行列の逆行列を求めよ。

行列の基本変形の応用2 (行列の階数(rank))

連立方程式と階数 例 の関係に注目する。 4本の方程式があるが、意味のある方程式は2本である。 このようなとき、連立方程式中に意味のある方程式の本数 を調べたい。

例2 (1) (2) (3) このような方程式においても、                   と表せるので、 本質的な方程式の本数は2本である。

一般的に、 のような連立方程式では、その係数行列に本質的な方程式の本数 が隠れている。 係数行列

係数行列 連立方程式の本質的な本数は、 係数行列の階数(ランク、rank)と等しい。 係数行列の階数を求めるためには、 係数行列を行基本変形することで、 階段行列に変形することで調べることができる。

階段行列 定義(階段行列) 次のような形の行列を階段行列とよぶ。

階段行列のイメージ 値 値 注意: (1)全ての行で、値のある列数は異なる。 (2)行ごとに2列以上の違いがあってもよい。

階段行列の例

練習 次の行列が階段行列であるか答えよ。 (1) (2) (3) (4)

行基本変形と階段行列 (行列の階段行列化) 任意の行列 は、 有限回の行基本変形だけを行うことにより、 階段行列に変形できる。 証明 任意の行列          は、 有限回の行基本変形だけを行うことにより、 階段行列に変形できる。 証明 次のような手順を踏めばよい。 (1)第1列から順に、  ベクトルでない列   探す。 (2)  の行を入れ替えて、    成分が0で無いようにする。 (3)第1行に適当なスカラーを掛けて、   成分を1にする。 (4)        に対して、    成分で掃き出して、        成分をすべて にする。

同様に、 (1)第    列から順に、2行目以降が  でない列ベクトル    を探す。 (2) 行を(     行で)入れ替えて、   成分が0で無いようにする。 (3)第2行に適当なスカラーを掛けて、    成分を1にする。 (4)        に対して、    成分で掃き出して、        成分をすべて0にする。 以下,同様に行なえば、階段行列にできる。

例1 を階段行列に変形せよ。 基本変形には 「=」と書かないこと。 解)

例2 を階段行列に変形せよ。 解) による掃出し

練習 次の行列を階段行列にせよ。 (1) (2)

階数(rank) 定義(行列の階数) 行列 を行基本変形で階段行列 に変形したとき、 階段行列 の段数を、元の行列 の階数といい、 と表す。 行列   を行基本変形で階段行列    に変形したとき、 階段行列    の段数を、元の行列    の階数といい、 と表す。 変形途中で現れる全ての行列は、 同じ階数を持つ。

練習 次の行列の階数を求めよ。 (1) (3) (2)

階数の性質1 定理(階数と転置) 行列 の階数は、転置しても変わらない。 すなわち、 定理(階数と行数、列数の関係) 行列  の階数は、転置しても変わらない。 すなわち、 定理(階数と行数、列数の関係) 行列   を       行列とするとき、

階数の性質2 定理(階数と正則行列の積) 行列 の階数は、正則行列を掛けてもかわらない。 すなわち、 を積の定義できる正則行列すると、 行列  の階数は、正則行列を掛けてもかわらない。 すなわち、    を積の定義できる正則行列すると、 次式が成り立つ。 (1) (2) (3)   自身は正則行列でなくてもかまわないことに注意する。さらに、   は正方行列でなくてもかまわない。

階数の性質3 定理(行列の積と階数) 行列 と行列 の積では、階数は変わらないか、 あるいは減少する。 すなわち、 (1) 行列   と行列  の積では、階数は変わらないか、 あるいは減少する。 すなわち、                  (1) これは、次のようにも記述できる。 (2)

階数の性質4 定理(階数と正則行列) 次の正方行列 が正則行列であるための 必要十分条件は、 である。   次の正方行列     が正則行列であるための 必要十分条件は、 である。 これまでの、性質は正方行列以外でも成り立つ。この性質だけ、正方行列と階数の関係を示している。