オピオイド 疾患別研修.

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オピオイド 疾患別研修

オピオイドとは・・・ オピオイド(opioid)とは、麻薬性鎮痛薬やその関連合 成鎮痛薬などのアルカロイドおよびモルヒネ様活性を 有する内因性または合成ペプチド類の総称である

オピオイド受容体の構造と情報伝達 μ、δおよびκオピオイド受容 体は、すべてGTP結合蛋白質 (G蛋白質)と共役する7回膜貫 通型受容体(GPCR)である。 オピオイド受容体活性化によ り、さまざまな細胞内情報伝 達系が影響を受けることによ り、神経伝達物質の遊離や神 経細胞体の興奮性が低下する ために神経細胞の活動が抑制 される。

オピオイド受容体を介した薬理作用 多くのオピオイドによる鎮痛作用は、主にμオピオイド受容体を介して 発現する。 μオピオイド受容体を介した鎮痛作用は、脊髄における感覚神経になど の脳内痛覚情報よる痛覚伝達の抑制や視床や大脳皮質知覚領域伝導経路 の興奮抑制といった上行性痛覚情報伝達の抑制に加え、中脳水道周囲灰 白質、延髄網様体細胞および大縫線核に作用し、延髄-脊髄下行性ノル アドレナリンおよびセロトニン神経からなる下行性抑制系の賦活化など による。

μオピオイド受容体は扁桃体や帯状回、腹側被蓋野、側坐核など の部位に高密度に存在していることから、情動制御にも深く関 わっている。 その他の中枢神経系作用として、呼吸抑制作用(延髄呼吸中枢の 直接抑制作用)、鎮咳作用(孤束核咳中枢への知覚入力抑制)、催 吐作用(延髄化学受容器引き金帯CTZへの直接作用)などがある。 末梢神経系への作用として消化管運動抑制作用(腸管膜神経叢で アセチルコリン遊離抑制)などが知られている。

オピオイド受容体と生理作用 δおよびκオピオイド受容体の活性化によっても、μオピオ イド受容体の活性化と同様に鎮痛作用が認められる。しか し、μオピオイド受容体の活性化は多幸感が生じるのに対 して、κオピオイド受容体では嫌悪感を引き起こし(中脳辺 縁ドパミン神経前終末抑制によるドパミン遊離抑制)、モ ルヒネなどによる精神依存を抑制する。また、δおよびκオ ピオイド受容体の活性化による呼吸抑制作用は、μオピオ イド受容体によるものと比べ弱い。 受容体 生理作用 μ μ1 鎮痛、悪心・嘔吐、多幸感、掻痒感、縮瞳、尿閉 μ2 鎮痛、鎮静、呼吸抑制、身体・精神依存、消化管運動抑制、鎮咳 κ 鎮痛、鎮静、身体違和感、気分不快、興奮、幻覚、鎮咳、呼吸抑制、縮瞳、利尿 δ 鎮痛、身体・精神依存、呼吸抑制

受容体タイプ μオピオイド受容体 δオピオイド受容体 κオピオイド受容体 薬理作用  鎮痛作用  鎮静作用  消化管運動抑制  呼吸抑制  咳嗽反射抑制  情動性  徐脈  利尿作用 ++ ++ ++ + + + + -(抗利尿) + + + - -(悪化) + -(頻脈) - ++ ++ + - + -(嫌悪感) + + 細胞内情報伝達 cAMP産生↓・Ca2+チャネル↓・K+チャネル↑(Gi/o α依存的) PLC活性化・PKC活性化(Gβγ依存的) cAMP産生↓・Ca2+チャネル↓・K+チャネル↑(Gi/o α依存的) 主な発現部位 大脳皮質、線条体、視床、視床下部、中脳、橋- 延髄(青斑核、孤束核)、脊髄、一次感覚神経など 大脳皮質、線条体、側坐核、中脳など 線条体、側坐核、視床、視床下部、中脳、橋- 延髄(青斑核、孤束核)、脊髄など 薬物 モルヒネ フェンタニル オキシコドン コデイン βエンドルフィン 等 エンケファリン SNC-80 等 エプタゾシン ナルフラフィン ダイノルフィンA 等

WHO方式がん疼痛治療法 がん疼痛治療は、WHO方式がん疼痛治療法にしたがって行う。がんの 痛みの治療は、痛みの強さに応じて3段階で行うように示されており、 「3段階の除痛ラダー」と呼ばれている。除痛ラダーでは、痛みの強さ に応じて各段階で使用される鎮痛薬が決められているが、最初から中程 度から高度の痛みがある場合には、第2、第3段階の鎮痛薬による治療か らスタートすることもある。 代表薬 非オピオイド NSAIDs アセトアミノフェン 弱オピオイド コデイン トラマドール 強オピオイド モルヒネ オキシコドン フェンタニル

がん疼痛治療の目標 第一目標 痛みに妨げられない夜間の睡眠 第二目標 安静時の痛みの消失 第三目標 体動時の痛みの消失 最終的にはこれらの目標を達成し、鎮痛効果の継続と平常の日常生活に近づけることが求められる。

鎮痛薬使用の5原則 経口的に(by mouth) 時刻を決めて規則正しく(by the clock) がんの痛みに使用する鎮痛薬は、簡便で、用量調節が容易で、安定した血中濃度 が得られる経口投与とすることが最も望ましい。しかし、嘔気や嘔吐、嚥下困難、 消化管閉塞などがみられる患者には、直腸内投与(坐剤)、持続皮下注、持続静注、 経皮投与(貼付剤)などを検討する必要がある。 時刻を決めて規則正しく(by the clock) 痛みが持続性である時には、時刻を決めた一定の使用間隔で投与する。通常、  がん疼痛は持続的であり、鎮痛薬の血中濃度が低下すると再び痛みが生じてくる。 痛みが出てから鎮痛薬を投与する頓用方式は行うべきではない。 突出痛に対しては、レスキュー・ドーズが必要になる。このため、鎮痛薬の定期 投与と同時にレスキュー・ドーズを設定し、患者に使用を促すことも重要である。

除痛ラダーにそって効力の順に(by the ladder) 鎮痛薬は「WHO三段階除痛ラダー」が示すところに従って選択する。重要なこ とは、患者の予測される生命予後の長短にかかわらず、痛みの程度に応じて躊躇 せずに必要な鎮痛薬を選択することである。 軽度の痛みには、第一段階の非オピオイド鎮痛薬を使用する。これらの薬剤は、 副作用と天井効果により標準投与量以上の増量は基本的には行わない。なお、痛 みの種類によっては、第一段階から鎮痛補助薬を併用する。 非オピオイド鎮痛薬が十分な効果を上げない時には、「軽度から中等度の強さの 痛み」に用いるオピオイドを追加する。この段階でも必要により鎮痛補助薬の使 用を検討する。 第二段階で痛みの緩和が十分でない場合は、第三段階の薬剤に変更する。非オピ オイド鎮痛薬は可能な限り併用する。それぞれのオピオイドの特性を理解したう えで薬剤の選択を行うことが重要であり、基本的には1つの薬剤を選択する。モ ルヒネやフェンタニル、オキシコドンなどの強オピオイドは、増量すれば、その 分だけ鎮痛効果が高まる。第三段階でも必要により鎮痛補助薬の使用を検討する。 鎮痛補助薬 抗うつ薬、抗けいれん薬、NMDA受容体拮抗薬など

患者ごとの個別的な量で(for the individual) 個々の患者の鎮痛薬の適量を求めるには効果判定を繰り返しつつ、調整していく 必要がある。その際、非オピオイド鎮痛薬や弱オピオイドであるコデインには天 井効果があるとされる一方で、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなどの強 オピオイドには標準投与量というものがないことを理解しておくことが重要であ る。適切なオピオイドの投与量とは、その量でその痛みが消え、眠気などの副作 用が問題とならない量である。増量ごとに痛みが緩和すれば、その鎮痛薬を増量 することで緩和できる可能性が大きい。レスキュー・ドーズを使用しながら、十 分な緩和が得られる定期投与量(1日定期投与量とレスキュー・ドーズ1回量)を決 定する。

その上で細かい配慮を(with attention to detail) 痛みの原因と鎮痛薬の作用機序についての情報を患者に十分に説明し協力を求める。 時刻を決めて規則正しく鎮痛薬を用いることの大切さの説明と、予想される副作用と 予防策についての説明はあらかじめ行われるべきである。 また、治療による患者の痛みの変化を観察し続けていくことが大切である。痛みが変 化したり、異なる原因の痛みが出現してくる場合には、再度評価を行う。その上で、 効果と副作用の評価と判定を頻回に行い、適宜、適切な鎮痛薬への変更や鎮痛補助薬 の追加を考慮することが重要である。 がんの病変の治療(外科治療や放射線治療、化学療法など)によって痛みの原因病変が 消失あるいは縮小した場合は、オピオイドの漸減を行う。神経ブロックなどにより痛 みが急激に弱まった時は、投与量の急激な減量(もとの量の25%程度に減量)が必要な 場合もある。その際には突然の中止は避け、離脱症候群に注意したうえでの計画的な 減量が必要である。 その他、患者の病態の把握は欠かすことができない。肝機能障害、腎機能障害のある 場合は特に注意が必要である。高齢者はオピオイドの薬物動態が変化しているため少 量からの開始が基本である。加えて、不安・抑うつなどの患者の精神状態に配慮して いくことは、円滑な疼痛治療を行ううえで非常に重要である。

がん疼痛の分類・機序・症候群 痛みの神経学的分類 分類 侵害受容体疼痛 神経障害性疼痛 体性痛 内臓痛 侵害部位 痛みを起こす刺激 例 皮膚、骨、関節、筋肉、結合組織などの体性組織 食道、胃、小腸、大腸などの管腔臓器 肝臓、腎臓などの被膜をもつ固形臓器 末梢神経、脊髄神経、視床、大脳などの痛みの伝達路 痛みを起こす刺激 切る、刺す、叩くなどの機械的刺激 管腔臓器の内圧上昇 臓器被膜の急激な伸展 臓器局所および周囲組織の炎症 神経の圧迫、断裂 例 骨転移局所の痛み 術後早期の創部痛 筋膜や筋骨格の炎症に伴う筋痙攣 消化管閉塞に伴う腹痛 肝臓腫瘍内出血に伴う上腹部、側腹部痛 膵臓がんに伴う上腹部、背部痛 がんの腕神経叢浸潤に伴う上肢のしびれ感を伴う痛み 脊椎転移の硬膜外浸潤、脊髄圧迫症候群に伴う背部痛 化学療法後の手・足の痛み 痛みの特徴 局在が明瞭な持続痛が体動に伴って増悪する 深く絞られるような、押されるような痛み 局在が不明瞭 障害神経支配領域のしびれ感を伴う痛み 電気が走るような痛み 随伴症状 頭蓋骨、脊椎転移では病巣から離れた場所に特徴的な関連痛を認める 嘔気・嘔吐、発汗などを伴うことがある 病巣から離れた場所に関連痛を認める 知覚低下、知覚異常、運動障害を伴う 治療における特徴 突出痛に対するレスキュー・ドーズの使用が重要 オピオイドが効きやすい 難治性で鎮痛補助薬が必要になることが多い

痛みのパターンによる分類 持続痛 突出痛 「24時間のうち12時間以上経験される平均的な痛み」として患者によって表現される 痛み。 鎮痛薬により緩和されている持続痛と、鎮痛薬が不十分あるいは痛みの急速な増強の ために緩和されていない持続痛がある。治療やがんの進行に伴い持続痛の程度も変化 するため定期的な評価が必要である。 突出痛 持続痛の有無や程度、鎮痛薬治療の有無にかかわらず発生する一過性の痛みの増強。 痛みの発生からピークに達するまでの時間は3分程度と短く、平均持続時間は15~ 30分で、90%は1時間以内に終息する。痛みの発生部位は約8割が持続痛と同じ場 所であり、持続痛の一過性増悪と考えられている。

痛みの評価 NRS(Numeric Rating Scale) 痛みを0から10の11段階に分けて表し、全く痛みがない状態を「0」、 自分が考え想像しうる最悪の痛みを「10」として、今感じている痛みの 点数を聞く方法。

VAS(Visual Analogue Scale) 10cmの直線を引き、一番左端0cmの位置を全く痛みを感じない状態、一 番右端10cmの位置を考え想像しうる最悪の痛みと設定し、その条件で、 患者さん自身が感じている痛みの強さに近い位置を、直線の上に印をつけ てもらう方法。

VRS(Verbal Rating Scale) 痛みの強さを表す言葉を5段階に順序よく並べ、自分が感じる痛みを表す言 葉としてどれが一番しっくりくるかを、患者さん自身に選んでもらう方法。 言葉を理解できない子供や重度の認知症の患者さんへの使用は適していない。 スケールの段階が少なく、痛みの重症度を細かく評価できない可能性もある。

FPS(Face Pain Scale) 人の顔の表情で、痛みを推し測る方法。 子供や高齢者の痛み評価によく用いられる。 スケールの段階が少なく、痛みの重症度を細かく評価できない可能性もある。

がん疼痛の治療 痛みの程度・性質を評価し、医療用麻薬の適応を判断する。適応 がある場合、定時鎮痛薬として徐放性製剤を開始する。 徐放性製剤の鎮痛効果が不十分な場合は、速放性製剤をレス キュー・ドーズとして準備し、定時に用いている徐放性製剤と同 じ成分のものを用いる。またレスキュー1回量は徐放性製剤1日 量(内服量に換算)の1/6を目安に設定する。

治療薬の投与経路 オピオイドの基本的な投与経路は経口であるが、口内炎、嚥下困 難、消化管閉塞、嘔気・嘔吐などの原因から経口投与が継続でき ず、投与経路の変更が必要となる場合がある。 それぞれ使用できる薬物の種類、剤形に限りがあり、またその投 与経路による特徴も異なるので、個々の患者に合わせて選択する。

経口投与 侵襲がなく、簡便で経済的であり、オピオイド投与では基本の投与経路 とされる。 内服した薬剤は腸管から吸収される際、腸管の酵素によってある程度代 謝され、さらに肝臓での初回通過効果(肝初回通過効果)を受ける。その ために他の経路と比較すると投与量は多く必要で、モルヒネでは代謝産 物[モルヒネ-6-グルクロニド(M6G)、モルヒネ-3-グルクロニド(M3G)] が多くなる。 口内炎、嚥下障害、消化管閉塞、 嘔気・嘔吐、せん妄などで投与継 続が困難な場合は他の投与経路に 変更する。

直腸内投与 投与は比較的簡便で、吸収も速やかであるが、投与に不快感を伴うため、 長期的な使用は適さないことがある。 直腸炎、下痢、肛門・直腸に創部が存在する場合、重度の血小板減少・ 白血球減少時は投与を避ける。 人工肛門を造設している患者の場合、人工肛門からの投与は、その生体 内利用率にばらつきがあると報告されており、長期的な使用は推奨され ない。静脈叢が乏しいため吸収が悪く不安定で、薬剤が便と混じりやす く、排出の調節も困難なことなどが理由と考えられている。

経皮投与 72時間作用が持続するフェンタニル貼付剤が使用されている。この製剤 での効果の発現は貼付開始後12~14時間後であり、貼付中止後(剥離 後)16~24時間は鎮痛効果が持続するので、投与開始時間や中止時間に 注意する。 迅速な投与量の変更が難しいため、原則として疼痛コントロールの安定 している場合に使用する。突出痛に対しては他の投与経路でのオピオイ ド投与が必要となる。 貼付部位の皮膚の状態が悪い場合、発汗が多い場合は、吸収が安定しな いため投与を避ける。また、貼付部位の温度上昇でフェンタニルの放出 が増すため、発熱している患者や貼付部位の加温に注意する。

持続皮下注 持続静注 侵襲が少なく安全で簡便な投与経路である。 投与量の変更が迅速に行えるので、疼痛コントロールの不安定な場合や、 急速な用量の調整を必要とする場合に良い適応となる。 皮膚からの吸収の上限は一般的に1mL/hとされている。 レスキュー・ドーズとして早送りした場合にも、痛みを生じない流量で の使用を考慮する。 持続静注 確実・迅速な効果(最大効果は5~15分)が得られる。他の経路では困難 な大量のオピオイド投与も可能である。 持続皮下注ができない場合(針の刺入部に膿瘍、発赤、硬結ができる)、 凝固能の障害がある場合、すでに静脈ラインがある場合に適応となる。

オピオイド薬 アヘン アヘン アヘンチンキ パンオピ パンアト ドーフル パンスコ 弱パンスコ (アヘン) (アヘンアルカロイド塩酸塩) 投与日数制限:14日 パンオピ (アヘンアルカロイド塩酸塩) パンアト (アヘンアルカロイド・アトロピン) ドーフル (アヘン・トコン) パンスコ 弱パンスコ (アヘンアルカロイド・スコポラミン) 激しい下痢症状の改善及び手術後等の腸管ぜん動運動の抑制、激しい 疼痛時における鎮痛・鎮静・鎮痙等に適応がある

モルヒネ製剤 モルヒネ塩酸塩水和物 モルヒネ塩酸塩 パシーフ オプソ アンペック カディアン MSコンチン ピーガード モヒアト 投与日数制限:30日 モルヒネ塩酸塩水和物 モルヒネ塩酸塩 パシーフ オプソ アンペック (モルヒネ塩酸塩水和物) カディアン MSコンチン ピーガード (モルヒネ硫酸塩水和物) 徐放性モルヒネ製剤 散・液・錠・坐・注と剤形が豊富 速放製剤はレスキュー薬として頻用されている モヒアト (モルヒネ塩酸塩水和物・アトロピン硫酸塩水和物)

半合成オピオイド オキシコンチン オキノーム オキファスト パビナール パビナール・アトロピン (オキシコドン塩酸塩水和物) 投与日数制限:30日 オキシコンチン オキノーム オキファスト (オキシコドン塩酸塩水和物) レスキュー薬として頻用 経口オキシコドン製剤から変更する場合は、オキシコドン製剤1日量の0.75倍量を1日量の目安とする 強オピオイド経口製剤 モルヒネと比べて腎機能時に使いやすい パビナール (複方オキシコドン) モルヒネが使いにくい腎障害時、モルヒネ不耐性のレスキュー、持続皮下注等に有用 投与日数制限:14日 パビナール・アトロピン (複方オキシコドン・アトロピン)

合成オピオイド タペンタ オピスタン メサペイン (タペンタドール塩酸塩) (ペチジン塩酸塩) (メサドン塩酸塩) 投与日数制限:14日 強オピオイド モルヒネと比べて腎障害時に使いやすい レスキュー薬はモルヒネ又はオキシコドンの経口徐放性製剤、フェンタニルの速報性製剤を使用する μオピオイド受容体を介した鎮痛作用に加え、ノルアドレナリン再取り込み阻害作用に よる神経障害性疼痛の緩和作用を併せ持つ オピスタン (ペチジン塩酸塩) 術後鎮痛に使用される シバリング抑制効果がある 他のオピオイドと同等の効果を有するが、他のオピオイドと異なりQT延長及びトルサード・ド・ポワントに注意する モルヒネと比べて腎機能障害時に使いやすい 他のオピオイドから切り替えて使用する メサペイン (メサドン塩酸塩)

デュロテップMT (フェンタニル) 投与日数制限:30日 モルヒネ製剤から切り替えて使用 胸・腹・上腕・大腿部等に貼付し、3日毎(約72時間)に貼り替え モルヒネに比べて便秘・せん妄の副作用が少ない。 腎障害時や経口不可例でも使用できる。 慢性疼痛に使用する場合、処方医は事前に慢性疼痛に関するトレーニング(e-learning)の受講が必要で「確認書」を発行する必要があり、調剤時に確認して調剤を行う。 モルヒネに比べて約100倍強力な鎮痛作用を示す。 モルヒネ様依存あり。 貼付後、約30秒間手のひらでしっかり押さえる。 貼付部位はハサミを用いて除毛し、石鹸・アルコールローション等は使用しない。 毎回貼付部位は変える。 貼付中の入浴は長時間の熱い温度を避ける。

ワンデュロ (フェンタニル) 投与日数制限:30日 モルヒネ鎮痛薬から切り替えて使用 胸・腹・上腕・大腿部等に貼付し、1日毎(約24時間)に貼り替え 1日1回貼付型で服薬コンプライアンスが良い。 タイトレーションは連日増量せず、2日間は同じ量を貼付する。 慢性疼痛に使用する場合、処方医は事前に慢性疼痛に関するトレーニング(e-learning)の受講が必要で「確認書」を発行する必要があり、調剤時に確認して調剤を行う。 モルヒネに比べて約100倍強力な鎮痛作用を示す。 モルヒネ様依存あり。 貼付後、約30秒間手のひらでしっかり押さえる。 貼付部位はハサミを用いて除毛し、石鹸・アルコールローション等は使用しない。 毎回貼付部位は変える。 貼付中の入浴は長時間の熱い温度を避ける。

フェントス (フェンタニルクエン酸) 投与日数制限:30日 オピオイド鎮痛薬から切り替えて使用 胸・腹・上腕・大腿部等に貼付し、1日毎(約24時間)に貼り替え 1日1回貼付型で、血中濃度の変動が小さい。 タイトレーションは連日増量せず、2日間は同じ量を貼付する。 皮膚刺激が少なく、服薬コンプライアンスが良い。 慢性疼痛に使用する場合、処方医は事前に慢性疼痛に関するトレーニング(e-learning)の受講が必要で「確認書」を発行する必要があり、調剤時に確認して調剤を行う。 モルヒネに比べて約100倍強力な鎮痛作用を示す。 モルヒネ様依存あり。 貼付後、約30秒間手のひらでしっかり押さえる。 皮膚から一部貼付した場合は再度手で押しつけ、粘着力が弱ければ絆創膏等で縁を押さえる。完全に剥離した場合は同用量の本剤に貼り替える。 貼付部位はハサミを用いて除毛し、石鹸・アルコールローション等は使用しない。 毎回貼付部位は変える。 貼付中の入浴は長時間の熱い温度を避ける。

フェンタニル イーフェン (フェンタニルクエン酸) (フェンタニルクエン酸) 投与日数制限:30日 モルヒネが使いにくい症例での持続投与やフェンタニル貼付剤のレスキュー薬等に有用。 鎮痛作用はモルヒネの約100倍。心臓手術の麻酔、全身脈麻酔に使用される。 イーフェン (フェンタニルクエン酸) 投与日数制限:14日 口腔粘膜から吸収させる製剤(バッカル錠)のため、 噛んだりなめたりせずに上奥歯の歯茎と頬の間(バッカル部位)に使用。 強オピオイドを低用量(モルヒネ経口剤30mg/日未満)使用中の患者に関しては必要量を慎重に検討。50または100μgを開始用量とし、タイトレーションにより至適用量を決定。無効時は投与30分以上あけて1回のみ追加投与可。その後の投与は4時間以上あける。 1日4回まで。

アブストラル ペチロルファン 弱ペチロルファン (フェンタニルクエン酸) (ペチジン塩酸塩・レバロルファン酒石酸塩) 投与日数制限:14日 舌下の粘膜から吸収させる製剤(舌下錠)のため、噛んだりなめたりせずに使用。 強オピオイドを低用量(モルヒネ経口剤60mg/日未満)使用中の患者に関しては必要量を慎重に検討。100μgを開始用量とし、タイトレーションにより至適用量を決定。 無効時は投与30分以上あけて1回のみ追加投与可。その後の投与は2時間以上あける。 1日4回まで。 ペチロルファン 弱ペチロルファン (ペチジン塩酸塩・レバロルファン酒石酸塩) 適応:激しい疼痛時における鎮痛・鎮静・鎮痙、麻酔前投薬、麻酔の補助、無痛分娩

合成オピオイド(非麻薬性) セダペイン ワントラム トラマール トラムセット (エプタゾシン臭化水素酸塩) (トラマドール塩酸塩) 適応:各種癌・術後における鎮痛 ワントラムは徐放性製剤で、 急激な血中濃度の上昇を避ける為、 割ったり砕いたりしない ワントラム トラマール (トラマドール塩酸塩) トラムセット (トラマドール塩酸塩37.5mg・アセトアミノフェン325mg) 弱いμオピオイド受容体刺激作用と弱いノルアドレナリン/セロトニン再取り込み作用の相乗効果により他の弱オピオイドと同程度の鎮痛作用を発揮。 NSAIDsで効果不十分な場合にNSAIDsと併用。 モルヒネと比較して便秘等の副作用が少ない。 レスキュードーズは1日量の1/8~1/4を経口投与。

半合成オピオイド(非麻薬性) レペタン ノルスパン (ブプレノルフィン塩酸塩) 注 坐 (ブプレノルフィン) 投与日数制限:30日 第2種向精神薬 投与日数制限:30日 投与日数制限:14日 レペタン (ブプレノルフィン塩酸塩) 注 坐 麻薬拮抗性鎮痛薬。 μ受容体に対する親和性がモルヒネより強いためモルヒネと競合し、併用するメリットはない。 薬物依存出現の可能性があるため適応用量を超えない。 第2種向精神薬 ノルスパン (ブプレノルフィン) 投与日数制限:14日 適応:非オピオイド鎮痛薬で治療困難な変形性関節症・腰痛症に伴う    慢性疼痛における鎮痛 癌疼痛の適応はなく、7日毎に貼り替えをする製剤で、初回は5mgから開始し、貼り付け場所はローテーションを行う必要がある。 本剤を処方する場合、医師はe-learningを受講しなければならず、 薬局も事前に登録の必要がある

ペンタジン 注 ソセゴン 注 ペンタジン 錠 ソセゴン 錠 (ペンタゾシン) (塩酸ペンタゾシン) 適応 第2種向精神薬 ペンタジン 注 ソセゴン 注 (ペンタゾシン) 適応 ①(15mgのみ)各種癌、術後、心筋梗塞、胃・十二指腸潰瘍、腎・尿路結石、  閉塞性動脈炎、胃・尿路・膀胱検査器具使用時における鎮痛 ②麻酔前投薬及び麻酔補助 麻薬拮抗性鎮痛薬。 鎮痛作用は主にκ受容体を介して発現するため、精神症状が出現しやすい。 天井効果あり。 第2種向精神薬 ペンタジン 錠 ソセゴン 錠 (塩酸ペンタゾシン) 投与日数制限:14日 適応:各種癌における鎮痛

オピオイドローテーション オピオイドローテーションとは、オピオイドの副作用により鎮痛効果を 得るだけのオピオイドを投与できない時や、鎮痛効果が不十分な時に、 投与中のオピオイドから他のオピオイドに変更することをいう。 適応 ①副作用が強くオピオイドの投与の継続や増量が困難な場合 ②鎮痛効果が不十分な場合

副作用が強くオピオイドの増量・継続が困難な場合 オピオイドローテーションにより、現在投与中のオピオイドやその代謝 物により引き起こされている副作用(せん妄、眠気、幻覚、嘔気・嘔吐、 便秘など)が改善することが知られている。 高度な腎機能障害のある患者で、モルヒネを使用した場合、代謝産物で あるM6G、M3Gの排泄が低下して蓄積し副作用が出現しやすい可能性 があり、オキシコドン、フェンタニルへの変更が有効な場合がある。

鎮痛効果が不十分な場合 同じオピオイドを投与し続けた場合、耐性が生じて、一定量のオピオイ ドによって得られる鎮痛効果が減弱し、オピオイドを増量しても鎮痛効 果が得られないことがある。オピオイドローテーションを行うと鎮痛効 果が適切に発揮され、疼痛治療に必要なオピオイドの投与量も減らすこ とができる場合がある。これは、異なるオピオイド間では交差耐性が不 完全なためと考えられている。 換算するオピオイドの、計算上等力価となる換算量を求める。換算表に 従い、現在のオピオイドと新しいオピオイドの1 日投与量を計算する。 現在のオピオイドの投与が比較的大量である場合は、一度に変更せず数 回に分けてオピオイドローテーションを行う。

オピオイド力価表 経口・坐薬・経皮 経口モルヒネ(mg/日) 30 60 120 240 360 モルヒネ坐剤薬(mg/日) 40 80 160 オキシコンチン(mg/日) 20 フェントステープ(mg/日) 1 2 4 8 12 デュベロップMTパッチ(mg/日) 2.1 4.2 8.4 16.8 コデイン(mg/日) 180 トラマール(mg/日) 300 レペタン坐薬(mg/日) 0.6 1.2 静脈・皮下 モルヒネ(mg/日) フェンタニル(mg/日) 2.4 3.6 オキファスト注(mg/日) (3A) (6A) 129 (12A) (18A)

オピオイドのレスキュー計算表 【皮下・静脈】 【経口・坐薬】 持続投与の1時間分を早送り。 効果がなく、かつ、呼吸数10回/分、眠気・嘔気がなければ1.5~2時間分を使用してもよい。 【経口・坐薬】 定期オピオイド レスキュー(mg/回) モルヒネ (mg/日) オキシコンチン フェントステープ オキノーム 経口 坐薬 10 2.5 20 15 5 30 1 40 60 2 90 120 80 4 180 6 240 160 8 徐放性製剤の鎮痛効果が不十分な場合は、速放性製剤をレスキュー・ドーズとして準備し、定時に用いている徐放性製剤と同じ成分のものを用いる。またレスキュー1回量は徐放性製剤1日量(内服量に換算)の1/6を目安に設定する。

フェンタニル貼付剤の切り替え オピオイド製剤 フェンタニル貼付剤 フェンタニル貼付剤 オピオイド製剤 初回フェンタニル貼付剤 オピオイド製剤    フェンタニル貼付剤 オピオイド製剤 初回フェンタニル貼付剤 貼付 オプソ モルヒネ塩酸塩錠 定期服用と同時に貼付、 5時間後に1回量投与 モルヒネ徐放製剤 オキシコンチン (1日2回) 最終服用と同時に貼付 (1日1回) 最終服用の12時間後に貼付 アンペック坐剤 最終投与と同時に貼付 モルヒネ持続注射 6時間後までモルヒネ注継続 フェンタニル貼付剤    オピオイド製剤 オピオイド製剤 フェンタニル貼付剤 剥離後の投与開始時期 オプソ モルヒネ塩酸塩錠 16時間後より定期投与 モルヒネ徐放製剤 オキシコンチン (1日2回) 12時間後より定期投与 (1日1回) アンペック坐剤 16時間後より投与開始 モルヒネ持続注射 18時間後よりモルヒネ注開始 6時間後から少量開始し 18時間後に切り替え完了 高用量のときは 完全切り替えではなく 一定期間の併用も考慮 フェンタニル 貼付剤

患者の状態に合わせて、目標とする換算量を設定する。計算上の換 算量は「目安」であり、オピオイド間の不完全な交差耐性や、薬物 に対する反応の個体差が大きいことから、実際には換算表どおりに ならないことを考慮し、患者個人に合わせた投与量へ調整すること が重要である。一般的に、疼痛コントロールは良好だが、副作用の ためにオピオイドローテーションを行う場合は、前述の不完全な交 差耐性の存在により、計算上等力価となる量よりも少ない量で鎮痛 が維持できる場合があるので注意を要する。また、患者の状態が重 い、高齢である場合も、少量からの変更が望ましい。 鎮痛効果の発現時間、最大効果の時間、持続時間を考慮して、新し いオピオイドの投与開始時間、投与間隔を決定する。痛みの増強の 可能性も考慮して、レスキュー・ドーズの指示を行う。 オピオイドローテーション後の患者の痛みの増減、副作用の増減を 注意深く観察し、最適な投与量を決定する

タイトレーション タイトレーションでは、低用量から始めたオピオイドを徐痛効果と副作用 を観察しながら鎮痛に必要な用量まで段階的かつ速やかに増量し、最適化 していくことを指す。増量は1日単位で行い、前回投与量の30~50%もし くは、レスキュードーズの総投与量に相当する量を目安に増量する。 オピオイドの突然の中止は、退薬症状を引き起こす危険性があり注意が必 要。またデュロテップパッチは3日に1回の貼りかえとなるため、タイト レーションでの用量設定が困難である。 痛みなし、眠気あり 痛みあり、眠気なし 30~50%減量 オピオイド投与量 30~50%増量 ・不快な眠気→オピオイドローテーション ・レスキュー有効→オピオイド増量 ・レスキュー無効→オピオイド耐性痛として補助薬の併用

副作用と対策 オピオイド鎮痛薬の副作用対策は、疼痛の管理に極めて重要なも のであり、副作用対策が十分でなければ、患者のQOLを低下さ せる結果となることに留意する。 嘔気・嘔吐、便秘、眠気、呼吸抑制、幻覚・せん妄など

嘔気・嘔吐 オピオイドがCTZに豊富に発現しているμ受容体を刺激することにより起こ る。活性化されたμ受容体がこの部位でのドパミン遊離を引き起こし、ドパ ミンD2受容体が活性化され、その結果嘔吐中枢(vomiting center;VC)が 刺激されることによる。また、前庭器に発現しているμ受容体を刺激するこ とによりヒスタミン遊離が起き、遊離されたヒスタミンがCTZおよびVCを 刺激することでも起こる。さらには、消化管において、消化管蠕動運動が 抑制され胃内容物の停滞が起こることにより、求心性にシグナルが伝わり CTZおよびVCが刺激されることでも起こる。 嘔気・嘔吐はオピオイドの投与初期にしばしばみられる副作用である。 通常はオピオイド投与初期、あるいは増量時に起こることが多く、数日以 内に耐性を生じ、症状が治まってくることが多い。 患者にとって嘔気・嘔吐は最も不快な症状の一つであり、服薬アドヒアラ ンスを損なうことにつながることも多いため、積極的な対策が必要である。

対策 ドパミンD2受容体拮抗薬 抗ヒスタミン薬 消化管運動亢進薬 非定型抗精神病薬 ★オピオイドローテーションや投与経路を変えることも有効 ハロペリドール(セレネース:適応外) プロクロルペラジン(ノバミン) など 抗ヒスタミン薬 体動時にふらつき感を伴う場合 ジフェンヒドラミン・ジプロフィリン複合剤(アストフィリン配合錠) など 消化管運動亢進薬 胃内容物貯留・腸管運動抑制が原因の場合 メトクロプラミド(プリンペラン) ドンペリドン(ナウゼリン) など 非定型抗精神病薬 標準的制吐治療が無効の場合 オランザピン(ジプレキサ) リスペリドン(リスパダール) ★オピオイドローテーションや投与経路を変えることも有効

便秘 便秘はオピオイドを投与された患者に高頻度に起こり、耐性形成はほと んど起こらないため下剤を継続的に投与するなどの対策が必要になる。 オピオイドは、各種臓器からの消化酵素の分泌を抑制し、消化管の蠕動 運動も抑制するため、食物消化が遅滞し、腸管での食物通過時間は延長 する。さらに食物が大腸で長時間とどまるなかで、水分吸収は一段と進 むため便は固くなる結果、便秘が起こる。また、肛門括約筋の緊張も高 まるため、排便しにくい状況となる。

対策 浸透圧性下剤 大腸刺激性下剤 ★患者の便の形状、排便回数、食事の状態などをきめ細かくチェックしながら、 個人に合った下剤の投与を行う。 酸化マグネシウム ラクツロース など 大腸刺激性下剤 ピコスルファート センノシド など ★患者の便の形状、排便回数、食事の状態などをきめ細かくチェックしながら、  個人に合った下剤の投与を行う。 ★症状改善には、可能なら水分摂取、運動、食物繊維の摂取も有用である。 ★状態に応じて浣腸や摘便なども行う。 ★オピオイド製剤をモルヒネやオキシコドンからフェンタニル製剤に変更する  ことで軽快することがある。

眠気 オピオイドによる眠気は投与開始初期や増量時に出現することが多いが、 耐性が速やかに生じ、数日以内に自然に軽減ないし消失することが多い。 相互作用を含む他の薬物、感染症、肝・腎機能障害、中枢神経系の病変、 高カルシウム血症など、他の原因を除外する必要がある。 モルヒネの場合は腎機能低下によるM6Gの蓄積が原因となることがある。 対策 痛みがなく強度の眠気がある場合は、オピオイドを減量する。 眠気のためにオピオイドの増量が困難な場合は、オピオイドローテーション を検討する。

呼吸抑制 オピオイドによる呼吸抑制は、用量依存的な延髄の呼吸中枢への直接の作用によ るもので、二酸化炭素に対する呼吸中枢の反応が低下し、呼吸回数の減少が認め られる。 一般的にはがん疼痛の治療を目的としてオピオイドを適切に投与する限り、呼吸 数は低下しないか、または呼吸数が低下しても1回換気量が増加するので低酸素 血症になることはまれである。ただし、急速静注などの投与法で血中濃度を急激 に上昇させた場合や疼痛治療に必要な量を大きく上回る過量投与を行った場合に は起こりうる副作用である。したがって、過量投与とならないように、効果と副 作用を確認しながら増量を行う必要がある。またモルヒネ投与中、急激に腎機能 が低下すると、M6Gの蓄積により呼吸抑制を生じる可能性がある。 痛みそのものがオピオイドの呼吸抑制と拮抗するとされており、外科治療や神経 ブロックなどにより痛みが大幅に減少あるいは消失した場合には、相対的にオピ オイドの過量投与の状態が生じ、呼吸抑制が発現する場合がある。 呼吸抑制が生じる前には眠気を生じるため、眠気を観察し、眠気が生じた段階で 鎮痛手段の見直しと評価を行うことが重要である。

対策 酸素投与、患者の覚醒と呼吸を促す。 重篤な場合には、薬物療法としてオピオイド拮抗薬であるナロキソンを 使用する。ナロキソンはオピオイドに比べ半減期が短く、作用持続時間 は約30分である。そのため、症状の再燃にあわせて30~60分毎に複数 回投与する必要がある。ナロキソンにより痛みの悪化、興奮、せん妄を 生じることがあるため、少量ずつ(1回量として0.04~0.08mg)使用する。

せん妄・幻覚 がん患者においては、さまざまな要因でせん妄などの認知機能障害が出 現するといわれており、原因を鑑別する必要がある。 オピオイドによる幻覚、せん妄は投与開始初期や増量時に出現すること が多い。 オピオイド以外の原因薬剤としてベンゾジアゼピン系抗不安薬、抗コリ ン薬などには特に注意が必要である。 オピオイドを含む薬剤性のせん妄は、原因薬剤の投与中止により数日か ら1 週間で改善する場合が多い。 非薬剤性の要因として、電解質異常、中枢神経系の病変、感染症、肝・ 腎機能障害、低酸素症などが関与していることがある。

対策 オピオイドが原因薬剤である可能性が疑われる場合は、オピオイドの減 量やオピオイドローテーションを検討する。 薬物療法としてブチロフェノン系抗精神病薬(ハロペリドールなど)、非 定型抗精神病薬(クエチアピン)の投与を検討する。 せん妄を生じている患者が安心できる環境の調整を行う。

口腔乾燥 対策 オピオイドは、用量依存的に外分泌腺における分泌を抑制する。 進行がん患者の口内乾燥の発生頻度は30~97%とされる。その背 景として、①唾液分泌の減少(頭頸部への放射線照射、三環系抗う つ薬、抗コリン薬など)、②口腔粘膜の障害(化学療法や放射線治療 による口内炎、口腔カンジダ症)、③脱水などが考えられる。 対策 可能であれば投与量の減量、口内乾燥を生じる薬物の変更を行う。 頻回に水分や氷を摂取する、部屋を加湿するなど水分と湿度の補給 を行い、人工唾液や口腔内保湿剤を使用する。 唾液分泌能が残っている場合、キシリトールガムを噛むなど、唾液 腺の分泌促進を試みる。

掻痒感 オピオイドの硬膜外投与やくも膜下投与では、他の投与経路に比し て瘙痒感が高率に認められる。この反応では脊髄後角のオピオイド 受容体を介した機序が考えられている。

対策 第一世代の抗ヒスタミン薬の投与が一般的に行われているが、無効で あることが多い。 オンダンセトロンなど5-HT3受容体拮抗薬が有効な場合がある。 外用剤としては亜鉛華軟膏、サリチル酸軟膏や0.25~2%のメントール の混合製剤が有用とされている。 擦過による皮膚障害が強い場合は、弱~中等度のコルチコステロイド 外用剤の使用も考慮する。強コルチコステロイド外用剤の長期投与は、 皮膚の萎縮や二次感染を生じることがあるため、短期の使用にとどめ るべきである。 二次的な感染を最小限にするために、爪を短く切った手で軽くこする、 手袋を着用するなど、日常行動の教育も重要である。 症状の改善がみられない場合はオピオイドローテーションを検討する。

排尿障害 対策 オピオイドの投与により尿管の緊張や収縮を増加させることがある。 オピオイドは排尿反射を抑制し、外尿道括約筋の収縮および膀胱容量を ともに増加させる。 排尿障害は高齢の男性に多く認められ、前立腺肥大症の患者では尿閉に 至る場合もあり注意が必要である。 対策 薬物療法として排尿筋の収縮を高めるコリン作動薬や、 括約筋を弛緩させるα1受容体遮断薬の投与が行われる ことがある。

ミオクローヌス 対策 オピオイド投与時にミオクローヌスが発現することがある。 ミオクローヌスとは、1つあるいは複数の筋肉が短時間であるが不随意 に収縮するものである(四肢がピクッとするなど)。 モルヒネの場合、神経毒性のある代謝物の蓄積が要因の一つと考えられ ている。 対策 薬物療法としてはクロナゼパム、ミダゾラムなどが有効な場合がある。 オピオイドローテーションを検討する

痛覚過敏 対策 オピオイドの減量または中止、オピオイド以外の鎮痛薬、 オピオイドローテーションを検討する。 痛覚過敏(hyperalgesia)とは、通常痛みを感じる刺激によって誘発され る反応が、通常よりも強くなった状態のことをいう。 大量のオピオイドを硬膜外投与することにより、まれに生じることがあ るといわれている。 原因として、オピオイド代謝物などの関与が考えられている。 オピオイドが原因の痛覚過敏の状態ではオピオイドを増量すると痛みが 悪化する。 オピオイドの増量に伴い急激に痛みが増強する場合は痛覚過敏の可能性 を考慮する。 対策 オピオイドの減量または中止、オピオイド以外の鎮痛薬、 オピオイドローテーションを検討する。

処方1 本郷 洋光 副作用:ペニシリン系抗生剤で湿疹 本日より初めて服用。 ホンゴウ ヨウコウ 副作用:ペニシリン系抗生剤で湿疹 本郷 洋光 本日より初めて服用。 もともとは大腸がんで手術、化学療法等を受けていたが、肝転移が見つかった。圧迫感のような鈍い痛みが続いているとの事。 生年月日:昭和21年2月1日  71歳男性 Rp1) オキシコンチン錠5mg 2錠 1日2回 12時間ごと 7日分 Rp2) マグラックス錠250mg ナイキサン錠100mg 3錠 だいぶ胸のあたりが痛むような苦しい感じが強い。先生に飲み方をいろいろ説明されたけど、麻薬だって聞いたから飲むのが少し怖いね。 1日3回 毎食後 7日分 Rp3) プルゼニド錠12mg 6錠 頓服 便秘時 1回2錠   3回分として Rp4) オキノーム散2.5mg 5包 頓服 痛み時 1回1包   5回分として Rp5) ノバミン錠5mg 3錠 1日3回 毎食後 7日分

処方薬の処方意図の説明と医療用麻薬に対する不安を取り除く Rp1) オキシコンチン錠5mg 2錠 1日2回 12時間ごと 7日分 麻薬性鎮痛剤(強オピオイド):オキシコンチン ・時刻を決めて規則正しく服用することが、痛みをコントロールするために大切 ・麻薬性鎮痛薬に対する誤解を解くことが必要 Rp2) マグラックス錠250mg 3錠 1日3回 毎食後 7日分 緩下剤:酸化マグネシウム ・麻薬性鎮痛薬の副作用である便秘の症状の軽減目的 Rp2) ナイキサン錠100mg 3錠 1日3回 毎食後 7日分 鎮痛・抗炎症剤(NSAIDs):ナプロキセン ・鎮痛目的 ・オピオイドと併用して用いることもあり

麻薬性鎮痛剤(強オピオイド):オキシコドン Rp3) プルゼニド錠12mg 6錠 頓服 便秘時 1回2錠   3回分として 緩下剤:センノシド ・マグラックスを服用していても便秘の症状がひどい場合に追加して服用 Rp4) オキノーム散2.5mg 5包 頓服 痛み時 1回1包   5回分として 麻薬性鎮痛剤(強オピオイド):オキシコドン ・レスキュードーズ Rp5) ノバミン錠5mg 3錠 1日3回 毎食後 7日分 精神神経用剤(ドパミンD2受容体拮抗薬):プロクロルペラジン ・麻薬性鎮痛薬の副作用である悪心・嘔吐の症状の軽減目的

痛みをコントロールするために、しばしば「医療用麻薬」が使われる。 医療用麻薬は、がんの痛みにとても有効な薬である。 使う量に上限がないので、痛みが強くなれば、それにあわせて薬を増やすことができる。しかし、麻薬中毒のイメージから、医療用麻薬を敬遠され、 痛みを我慢して過ごしている方も少なくない。 医療用麻薬は、痛みがある状態で使用すると、中毒になることはない。 副作用に対しても、さまざまな薬や対処法が開発され、十分に対応できる。 また、医療用麻薬の種類も増えたことから、 一人ひとりの痛みに応じた薬を使用できるようになっている。 痛みについて医師や看護師と話し合い、痛みのコントロールを始めることが大切である。

処方2 ツルミ   ヤスコ 癌性疼痛でオキシコンチン、オキノームを数週間服用していたが、ここ数日痛みが強く前回処方されたレスキュー分の薬をすべて使用したため、臨時で受診した。 鶴見 安子 (本日:H29.2.9) 生年月日:昭和23年4月1日  69歳女性 Rp1) オキシコンチン錠10mg 2錠 1日2回 12時間ごと服用 7日分 痛みが強くて、オキノームを全部使ってしまいました。予約は1週間後に入れてあります。とりあえず痛いとき飲む薬がなくなったのですが、朝晩飲む薬は前回の分がまだ1週間分残っています。 Rp2) オキノーム散5mg 2包/回 頓服 痛み時 1回2包 10回分 Rp3) ラキソベロン内用液0.75% 10mL 1回15滴 便秘時 前回処方 (H29.2.2) Rp1) オキシコンチン錠20mg 2錠 1日2回 12時間ごと 14日分 Rp2) オキノーム散5mg 1包/回 痛い時 1回1包 20回分 Rp3) マグラックス錠250mg 6錠 1日3回毎食後 14日分

今回の処方薬の服用方法を説明 前回処方のオキシコンチン錠20mgが1週間分残っているということなので… オキシコンチン錠20mg 1日2回 = 1日40mg オキシコンチン錠10mg 1日2回 = 1日20mg オキシコンチン錠 1日60mg それに伴い、レスキュー薬も増量 → オキノーム散5mg 1回2包

オピオイドの増量により、副作用の便秘が強く出る可能性… ラキソベロン内用液0.75%を頓服で追加 マグラックスを服用していても便秘がひどい時に追加して服用 最初は15滴で使用してみて数日様子を見る。それでちょうどよければそのままの用法で継続。便秘が続くようであれば、2~3滴ずつ増やしていく。反対に下痢・軟便になるようであれば2~3滴ずつ減らしていく。 服用してから8~12時間くらいで効果が出現してくるので、最初はこの時間を目安として飲む時間を決めると良い。 寝る前に服用すれば、ちょうど朝起きて少し経った時に排便できるため、寝る前での服用が多い。

処方3 カミナカ  サトコ 後発品希望 上中 里子 前回までMSコンチン・オプソにて治療を行っていたが、増量に伴い眠気・便秘が強くなり、不快感が続いているため今回貼付剤に変更になった。 痛みはMSコンチン・オプソの服用でコントロールできていた。 生年月日:昭和20年1月1日  72歳女性 Rp1) デュロテップMTパッチ4.2mg 4枚 胸部に貼付 3日ごとに貼り替え 前回処方 Rp1) Rp2) Rp3) Rp4) Rp5) MSコンチン錠30mg 2錠 MSコンチン錠10mg 4錠 残なし オプソ内用液10mL 1回1本  マグラックス錠500mg 3錠 1日3回 10日分残あり プルゼニド錠12mg 3錠 1日1回 痛み止めを増やしてきたら、眠気と便秘がひどくなったので、先生に相談しました。麻薬だという話は聞いています。使い方などは薬局で聞くようにと言われました。

デュロテップMTパッチの使用方法を説明 ○3日毎(約72時間)に貼り替えて使用する ○胸部、腹部、上腕部、大腿部等に貼付して使用 使用中のパッチを貼ったまま 新しいパッチを貼らない ○胸部、腹部、上腕部、大腿部等に貼付して使用 痛い場所に貼るのではない ○貼る時まで、外袋を破らない ○あらかじめ貼る部位を乾いたタオルなどでよく拭く  (水分や汗でぬれているとうまく貼れない) ○かゆみやかぶれを防ぐために、貼る部位を毎回変える ○本剤をハサミなどで切って使用しない ○貼付中は、外部熱源への接触、熱い温度での入浴等を避ける

はがれた場合の対応 貼り忘れた場合の対応 廃棄方法 薬が残ってしまったら パッチがはがれそうなときは、再度、手で押しつけてる。 パッチがはがれた場合は、直ちに同用量の新しいパッチに貼り替えて3日間貼る。 貼り忘れた場合の対応 2回分を1度に貼らない。 貼り忘れや3日を超えたにもかかわらず貼り替えていないことに気がついたら、すぐにパッチをはがし、通常の手順に従って新しいパッチを貼る。 廃棄方法 パッチの粘着面を内側にしてふたつ折りにたたんだ後、廃棄する。 子どもやペットがさわらない場所に廃棄すること。 使用済みのパッチにも薬が残っているので、子どもやペットに重大な影響(呼吸抑制や意識障害など)を起こすおそれがある。 薬が残ってしまったら この薬を他人に渡すことは、法律で禁じられている。 使わずに残ったパッチは、病院または薬局に戻すこと。

処方4 浦 和夫 タバコ10本/日、アルコールたまに 2回/週(ビール1缶) Rp1) デュロテップMTパッチ2.1mg 7枚 ウラ  カズオ 浦 和夫 生年月日:昭和33年4月1日  59歳男性 タバコ10本/日、アルコールたまに 2回/週(ビール1缶) Rp1) デュロテップMTパッチ2.1mg 7枚 胸部に貼付 3日ごとに貼り替え 交通事故での脊髄(腰椎)損傷により、下半身麻痺があり痛みとしびれが慢性化した。日常生活は車椅子で行えており、服薬も問題なく行えているとのこと。 Rp2) トリプタノール錠10mg 4錠 1日2回 朝夕食後 21日分 Rp3) ノルバスクOD錠5mg クレストール錠2.5mg オメプラゾール錠20mg 1錠 1日1回 朝食後 21日分 Rp4) マグラックス錠500mg ロキソニン錠60mg 2錠 1日2回 朝夕食後 21日分 Rp5) アローゼン顆粒 1g 1日1回 寝る前 21日分 一包化

デュロテップMTパッチは非癌性疼痛への適応あり 効能又は効果 非オピオイド鎮痛剤及び弱オピオイド鎮痛剤で治療困難な下記疾患における鎮痛(ただし、他のオピオイド鎮痛剤から切り替えて使用する場合に限る。) 中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛 中等度から高度の慢性疼痛における鎮痛 慢性疼痛患者に使用する際は、慢性疼痛治療に関するトレーニング(e-learning)を処方医が受講していることが必須となる。

処方5 北浦 和子 椎間板ヘルニアがあり、痛みが慢性的に続いている。 キタウラ  カズコ 椎間板ヘルニアがあり、痛みが慢性的に続いている。 今までNSAIDs、ノイロトロピンなどで治療していたが、今回よりノルスパンテープを処方された。 北浦 和子 生年月日:昭和39年1月1日  53歳女性 Rp1) ノルスパンテープ5mg 2枚 胸部に貼付 1日1枚 7日ごとに貼替え [手持ちが残っている薬] モーラステープ20mg 7枚入り3袋  ボルタレンサポ50mg 5個 Rp2) セレコックス錠100mg ノイロトロピン錠4mg リリカカプセル75mg 2錠 4錠 2カプセル 1日2回 朝夕食後 14日分 なかなか痛みがとれなくてつらいです。今度は貼り薬ためすと聞いています。長く貼っていて剥がれないかな? かぶれたらどうしたらいいですか。 Rp3) パリエット錠10mg 1錠 1日1回 朝食後 14日分

ノルスパンテープの使用方法、注意事項の説明 ○前胸部、上背部、上腕外部又は側胸部に貼付し、7日毎に貼り替えて使用 ○初回貼付72時間後までブプレノルフィンの血中濃度が徐々に上昇し、  鎮痛効果が得られるまで時間を要するため、必要に応じて他の適切な治療の  併用を考慮する ○血中濃度が上昇するおそれがあるので、毎回貼付部位を変え、  同じ部位に貼付する場合は、3週間以上の間隔をあけること ○e-ラーニングを受講した医師のもとでのみ処方される ○保険処方は14日分(2枚)までしか認められていない ○貼付中は、外部熱源への接触、熱い温度での入浴等を避ける ○MRIによる検査を実施する場合には、火傷を起こす可能性があるため、  テープをはがすこと ○体毛が濃い場合は、カミソリを使わずハサミで短くカットすること

貼付部位がかぶれたら…? 7日経たずに剥がれたら…? 貼る部位を毎回変えても症状が治まらないときは、担当の医師や薬剤師、看護師と相談してください。ご自身の判断でかゆみ止めの塗り薬を使わないでください。 7日経たずに剥がれたら…? テープが皮膚から一部剥離した場合は、再度手で押しつけるか、皮膚用テープ等で剥離部を固定します。粘着力が弱くなった場合は、直ちに同容量の新たなテープに貼り替えて7日間貼付してください。またその場合は、現在に貼付部位とは異なる部分に貼付してください。