公的年金 (2) 賦課方式と積立方式 公共政策論 II No.8 麻生良文. 公的年金制度の経済効果 公的年金の財政方式 2 期間モデルによる分析 – 保険料,給付の比較 – 生涯での純負担 賦課方式にもたらす世代間所得移転の性 質 賦課方式の年金制度の経済効果 – 資本蓄積 – 租税としての保険料.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
1 財政-第 21 講 6. 社会保障財政 (2) 2008 年 6 月 24 日 第 1 限. 2 公的年金②  日本の公的年金制度 ( 続 )  負担と給付の現状 ( 1) 保険料 ( 率 ) (2) 国庫負担 (3) 給付額 (4) 支給開始年齢  国際比較.
Advertisements

1 経済学-第 12 回 年金① 2008 年 6 月 27 日. 2 社会保険における年金 日本の公的年金制度  現行の制度体系  負担と給付の現状 (1) 保険料 ( 率 ) (2) 国庫負担 (3) 給付額 (4) 支給開始年齢.
年金制度 地域文化3回生 渡邉 裕貴. 目次 日本の年金制度の現状 日本の今後 政策提言 シミュレーション 参考文献 論点.
第 13 章 制度設定の変更が必要な 社会保障制度. 社会保障制度の重要性と それに対する根強い不安感 不景気の一因 不景気の一因 1997 年以降 かつてない不況 原因 ① 消費税率の引き上げ 原因 ① 消費税率の引き上げ ② タイや韓国を中心とした アジアの通 貨危機 アジアの通 貨危機 ③ 山一證券の経営破綻に代表さ.
公共経済学 13. 社会保険( Social Insurance ) 保険市場における政府の役割 情報の非対称性( asymmetry of information ) ⇒ 逆選択( adverse selection )
日本人の平均余命 (60歳) 男性・・・22.70 年 女性・・・28.12 年 〈厚生労働省「平成 23 年簡易生命 表」〉
公的年金 財政学(財政学B) 第 6 回 畑農鋭矢 1. 年金の分類 運営主体による分類 公的年金と私的年金 給付期間による分類 定期年金と終身年金 対象者による分類 国民年金、厚生年金、共済年金など 保険料と給付の決定方式による分類 確定給付型と確定拠出型.
年金の基礎年金部分は 全額税方式か、全額保険料か? 椎野、鈴木、篠崎、畑 全額税方式派. 我々の主張 ① 無年金者、低年金者がいな くなる! ②税方式なら将来的にも財源 調達可能! ③国民の負担が重くなる! ① 無年金者、低年金者がいな くなる! ②税方式なら将来的にも財源 調達可能! ③国民の負担が重くなる!
公的年金 (3) 公共政策論 II No.9 麻生良文. 公的年金制度改革 公的年金バランスシートと通時的予算制 約 年金純債務と暗黙の租税 年金制度改革をめぐる誤解 – 積立方式の優位性 – 「二重の負担」 – 財源調達:税と社会保険料の最適な配分? – 賦課方式も積立方式も output をどう分配する.
公的年金 (1) 公共政策論 II No.7 麻生良文. 公的年金制度 (1) 日本の公的年金制度の仕組み 年金財政の将来見通し 年金保険の役割 公的年金制度の根拠 – 保険市場の失敗 – 近視眼的行動の是正 – 世代間所得移転,世代間リスクシェアリング.
社会保障制度の在り方 地域文化論講座 c 宇山 紗. 日本の社会保障制度 <論点> 1.日本の年金制度の問題点は何か? 2.どう変えていくべきか?(他の国から学べることはな いか) 3.どこまで保障すべきか? 少子高齢化 経済の低成長 就業構造の変化 国際化 ← 22年度非正規雇用者数.
中京大学経済学部 古川雄一ゼミ 2011年11月26日 斎藤 佐野 佐溝 佐藤. 研究の背景と重要性 現在、日本の教育政策は転換期である。 民主党による政権交代で新たな二つの教育政策改革 が実施されている。 子ども手当 高校無償化 教育政策のポリシーミックスが行われている.
消費者行動の理論 (3) 貯蓄・労働供給の決定 貯蓄の決定理論 – 2 期間モデル – 割引価値,生涯の予算制約 – 貯蓄の決定 – 利子率の変化 労働供給の決定理論 – 基本モデル – 後方屈曲的労働供給曲線 – コーナー解 – 所得再分配政策.
2014 年 10 月 17 日初級ミクロ経済学 1 初級ミクロ経済学 -消費者行動理論- 2014 年 10 月 17 日 古川徹也.
再分配政策 (2) 公共政策論 II No.5 麻生良文. 所得再分配政策 所得格差の原因 所得再分配政策の評価 – 補助金と一括移転 – 累進課税 – 最低賃金制度 – 生活保護給付 – 負の所得税 – 新しい考え方 給付付き税額控除 世代間再分配.
09bc053j 新井友海 デフレの正体第 9 講 ではどうすればいいのか① -高齢富裕層から若者への所得移転を.
1 財政-第 22 講 6. 社会保障財政 (3) 2008 年 6 月 24 日 第 2 限. 2 公的年金③  今後の課題-公的年金制度全般に関して-  将来の給付水準見通し  厚生年金と共済年金の一元化  社会保険方式から税方式への移行  制度上の問題点  未納・未加入問題.
1 経済学-第 13 回 年金② 2008 年 7 月 4 日. 2 日本の公的年金制度 ( 続 )  今後の課題-公的年金制度全般に関して-  将来の給付水準見通し  社会保険方式から税方式への移行  制度上の問題点  国民年金保険料未納問題.
短期均衡 (2) IS-LM モデル 財市場 IS 曲線 – 財市場の均衡 – 政府支出の増加,減税 貨幣市場 LM 曲線 – 貨幣需要,貨幣市場の均衡 – マネーサプライの増加 IS-LM モデル – 財政政策の効果,金融政策の効果 – 流動性の罠 – 実質利子率と名目利子率の区別 貨幣供給.
IS-LM 分析 マクロ経済分析 畑農鋭矢. 貨幣の範囲 通貨対象 M1M2M3 広義流動性 現金通貨(日銀券 +補助通貨) 預金通貨 (普通預金・当座 預金など) 主要銀行・信 用金庫など ゆうちょ銀 行・信用組合 など 準通貨 (定期預金など) 主要銀行・信 金など ゆうちょ銀 行・信用組合 など.
経済の仕組みと経済学. 経済学とは 「経世済民」経済 世の中を治め、民の苦しみを救うこと 人々が幸せに暮らすためのしくみでありその活動 = 経済学とは: 「希少な資源を競合する目的のために, 選択・配分 を考える学問」 2.
1 経済学-第 14 回 年金③ 2008 年 7 月 11 日. 2 日本の公的年金制度 ( 続 )  制度上の問題点 ( 続 )  国民年金第 3 号被保険者問題  離婚のリスクと年金分割.
1 経済学-第 9 回 医療保険① 2008 年 6 月 6 日. 2 日本の公的医療保険  制度の目的  制度体系  給付と負担.
ケインズ型「短期消費関数」とクズネッツ 型 「長期消費関数」を矛盾なく説明する理論 フランク・モジリアニとアルバート・ア ンドウは ライフ・サイクル仮説を提唱した。 個人の消費行動は、今期の所得によって 決めれると言うよりも、貯蓄を通じて、そ の個人が一生の間に消費することのできる 所得の総額 ( 生涯所得.
三万円支給の是非 肯定派. 三万円支給と は?? 年金生活者等支援臨時福祉給付金 一億総活躍社会の実現に向けた、賃金引上 げの恩恵が及びにくい低年金受給者への支 援であり、給付による景気活性化の効果を 期待するもの 65歳以上の低所得者や65歳未満の障害 者基礎年金と遺族基礎年金の受給者合計1 250万人に3万円を給付する.
~国民経済的な視点から見た社会保障~ 2000/6/14 木下 良太
財政-第20講 6.社会保障財政(1) 2008年6月17日 第2限.
 公的年金・定年  引き上げの是非 小瀬村  柏嶋 阿部  藤田.
重不況の経済学 第3章1節 前半 09BA390L 山村美帆.
3万支給の是非 否定派 〜紙崎・川北・小谷・山本〜.
公的年金制度 平成16年財政再計算 =日本アクチュアリー会年金理論研究会= 平成15年10月23日 厚生労働省年金局数理課長 坂本 純一.
入門 計量経済学 第02回 ―本日の講義― ・マクロ経済理論(消費関数を中心として) ・経済データの取得(分析準備) ・消費関数の推定
マクロ経済学初級I 第6回.
第1章 国民所得勘定.
マクロ経済学 II 第7章 久松佳彰.
消費に対する課税 財政学B(財政学) 第5回 畑農鋭矢.
第6章 税金と財政の あり方を考える.
第16章 総需要に対する 金融・財政政策の影響 1.総需要曲線は三つの理由によって右下がりである 資産効果 利子率効果 為替相場効果
公共政策論 II 麻生良文.
経済原論II  ミクロ経済学入門 2016年度 麻生良文.
社会保障論講義 5章「社会保障制度の積立方式への移行」医療、介護編
年金・定年引き上げの是非 否定派 棚倉 彩香 林 和輝 西山 夏穂 水田 大介.
第8章 家計部門でいま起こっていること.
<キーワード> 生産関数、労働、資本 限界生産物
現代の経済学B 橘木俊詔「ライフサイクルの経済学」第3回 第5章 消費と貯蓄 第6章 引退後の生活 京大 経済学研究科 依田高典.
再分配政策 公共経済学(財政学A ) 第7回 畑農鋭矢.
「わが国の社会保障制度の 世代間不公平の実態と 積立方式移行による改善策」
貯蓄税導入の是非 ~否定派~ 松村・田邉・川村・藤山.
慶應義塾大学経済学部 土居 丈朗 政府債務の持続可能性 と今後の財政運営 慶應義塾大学経済学部 土居 丈朗
企業年金を取り巻く企業・労働者の行動と公共政策のあり方
(景気が良くなり)ハンバーガーの需要が拡大すると
21世紀の日本の高齢社会と年金問題 テーマ設定について パネルの手法 パネルの議論の流れ
短期均衡モデル(3) AD-ASモデル ケインジアン・モデルにおける物価水準の決定 AD曲線 AS曲線 AD-ASモデル
財政赤字 マクロ経済分析 畑農鋭矢.
© Yukiko Abe 2008 All rights reserved.
経済情報入門Ⅱ(三井) 公共事業と社会保障.
政策争点分析プロジェクト 2008年1月13日 G-SEC.
第3章 消費関数.
ボンドの効果 ―法と経済学による分析― 桑名謹三 法政大学政策科学研究所
財政論I / II introduction 麻生 良文.
公的年金と医療 財政論 I/II No.6 麻生良文.
バブル崩壊後の日本経済の 貯蓄率低下について
都道府県も国民健康保険制度を担うことになりました
VI 短期の経済変動.
第8回講義 マクロ経済学初級I .
商学研究入門 第15回 「研究のフロンティアからみた日本経済」 2014年1月14日 財政赤字のマクロ経済学
財政-第23講 6.社会保障財政(4) 2008年7月1日 第1限.
地方公共財の理論 公共経済論I no.2.
古典派モデル(1) 基本モデル 生産要素市場の均衡(労働市場,資本市場) 生産関数 消費関数,投資関数 財市場の均衡 政策の効果
ミクロ経済学I 13 丹野忠晋 拓殖大学政経学部 2017年7月5日
Presentation transcript:

公的年金 (2) 賦課方式と積立方式 公共政策論 II No.8 麻生良文

公的年金制度の経済効果 公的年金の財政方式 2 期間モデルによる分析 – 保険料,給付の比較 – 生涯での純負担 賦課方式にもたらす世代間所得移転の性 質 賦課方式の年金制度の経済効果 – 資本蓄積 – 租税としての保険料 – 留意点

公的年金の財政方式 積立方式 funded system – 若年期に支払った保険料は積立てられる – 保険料支払いによって受給権が発生 – 老後の給付は自らの積立金を取り崩すことで賄う 賦課方式 pay as you go system – 若年期に支払う保険料は積立てられず,その時点の高齢者 の給付に回される – 保険料支払いによって受給権が発生 – 老後の給付は,その時点の若年者からの保険料支払いから 賄われる 賦課方式と積立方式の違い – 積立方式: 給付債務に見合う資産(積立金)が存在 – 賦課方式: 給付債務に見合う資産は存在しない  純債務 の存在

積立方式と賦課方式 2 期間モデルによる分析 モデル – 各世代は 2 期間生きる 人口成長率は一定 : n 各時点に若年者と高齢者が共存している(世代重複モデ ル, OLG (overlapping generation model ) ) – 若年期に労働をして賃金を稼ぎ,高齢期は完全に 引退する 単純化のため,賃金成長率は一定: g ;利子率は一定 : r – 若年期に賃金比例の保険料を支払い,高齢期に給 付を受け取る 積立方式,賦課方式のもとでの保険料,給付はどう決ま るか 生涯での純移転 = 給付 − 保険料 は ? – ここでは寿命の不確実性の問題は考えない

世代重複モデルの構造 時点 t+1tt+2 t−1 世代 t 世代 t+1 世代 t−1 2 期間世代重複モデル (最も単純なモデル)

積立方式

賦課方式

賦課方式 (2)

(*) の導出

保険料率と純移転(まとめ)

年金の財政方式と世代間所得移転 積立方式 – 若年期の保険料は積立てられ, 老後の給付はそれを取り崩す – 世代間所得移転は発生しない 賦課方式 – 若年期の保険料はその時点の 高齢者の給付に回る – 各時点でみれば若年者から高 齢者への所得移転 – しかし,各世代の生涯でみる と,若年期の負担は老後の給 付として(全てではないが) 戻ってくる – 年金導入時の高齢者に対する 移転をその後の全ての世代が 負担するような所得移転と同 等 時点 t+1tt+2 t−1 世代 t 世代 t+1 世代 t−1 賦課方式による移転

賦課方式と同等な移転

前ページの命題の導出

賦課方式の年金制度: implication 制度発足時の高齢者に移転を行い,その後の各世代が (  P −  F )w t だけの負担をするような所得移転と同等 公的年金の根拠として,世代間所得移転が必要だとい う議論 – 賦課方式の公的年金の所得移転がどのようなものであるか 理解していない議論 有限の期間内では当初の高齢者世代への移転に対する 負担は完結しない – 賦課方式のもとで年金純債務が常に存在することと関係 高齢化社会では積立方式の年金の方が高い収益率が享 受できるという議論( r>n+g が成立するから) – 賦課方式のもとでの年金純債務の負担を忘れた議論 – 純債務を各世代が少しずつ負担していくと,賦課方式の維 持と変わらない

賦課方式の経済効果 世代間所得移転 or 年金純債務の存在 – 国債の負担と同じ議論 – 将来世代への負担の転嫁 – 資本蓄積の減少を通じて将来時点の産出量減 少 保険料 – 負担と給付が一致しない 保険料支払いの(少なくとも)一部は租税(賃金 税) どこまで租税かは給付の設計にも依存する – 厚生年金・共済年金の給付は 定額部分(基礎年金)と 報酬比例部分からなる

賦課方式の年金の経済効果 (2) 各世代はライフサイクルモデルにし たがって行動すると仮定 – 自分自身の生涯所得に基づいて消費を 決定 – 子供に対する利他的行動はしない 世代 -1 (賦課方式導入時の高齢世 代) – 生涯所得の増加  消費の増加 – 時点 0 の賦課方式導入が予期されたもの なら時点 -1 から消費を増加させる。予 期しないものであれば,時点 0 で消費を 増加させる 世代 0 以降 – 生涯所得がわずかに減少する(世代 -1 への移転よりも小さいことに注意)  消費を抑制 各時点の総消費・総貯蓄 – 各時点に存在する世代の消費・貯蓄を 集計することから求められる 時点 102 −1 世代 0 世代 1 世代 −1 賦課方式による移転

賦課方式の年金の経済効果 (3) 単純化のため(直感的に理解できるように),各時点の総産出量は一定,各 世代の人口は一定(人口成長率は 0 ),利子率・賃金成長率も 0 の世界を考え る – この場合,世代 -1 は得をし,その後の世代は全く損をしないというおかしな状況になる が また時点 0 の賦課方式の年金制度は予期しないものであったとする – 世代 -1 は時点 0 で消費を増加 各時点の総消費 – 時点 0 で増加 – 時点 1 以降は不変 各時点の総貯蓄 – 時点 0 で減少(消費が増加するため) – 時点 1 以降は不変 資本蓄積に与える影響 – Y=C+I=C+  K – 時点 0 における消費の増加は次の期以降の資本を減らす 産出量に与える影響 – 生産が資本と労働を用いて行われるとすれば – 時点 1 以降,産出量の低下が生じる 産出量一定とした仮定は正しくなかった 厳密なモデルの展開は省略するが,ここでの議論とほぼ同じ

賦課方式の年金の経済効果 (4) 利他主義的遺産動機モデル( Barro ) – 自分自身の消費だけでなく,子供の効用も勘案して,自分自 身の消費と子供に対する遺産を決定する – 王朝 (dynasty) モデル と呼ばれる場合もある 賦課方式の年金制度の導入  自分自身の生涯所得の増 加 + 子供の税負担の増加  子供の効用の低下  遺産を 増加させて,子供の効用の低下を相殺 あたかも無限に生存するかのように振る舞う – 自分だけでなく,家系全体の消費経路の最適化を図る このモデルが成り立てば,賦課方式の年金制度の導入 は消費・貯蓄に影響を与えず,資本蓄積にも影響しな いし,したがって産出量に与える悪影響もない – 財政赤字は無害であるという主張につながる – 多くの経済学者はライフサイクルモデルの方が妥当だと考え ている

賦課方式の年金の経済効果 (5) 租税としての保険料 – 賦課方式のもとでの保険料負担 一部は将来給付としてもどってこない 租税として機能する 賃金比例の保険料  賃金税  労働供給・労働需要に影響 – 保険料拠出のうち,将来の給付として取り返せる部分 は貯蓄と同等 労働供給・需要に影響を与えない – 保険料のうちどこまでが租税と同等かは給付の設計に も依存する 現行の厚生年金  定額部分+報酬比例部分 給付の全額が定額なら,保険料は全額が賃金税 積立方式であっても同様