1 教科書というメディア ー『源氏物語』から考えるー 第23回メディアとことば研 究会 2008年12月13日 (土) 髙橋 圭子 (東洋大学非常勤講師)
2 はじめに
3 キーワード 古典 教科書 『源氏物語』 批判的読解力(クリティカル・リテラ シー) 価値観の相対化
4 批判的読解力 (クリティカル・リテラシー) PISA 「生徒の学習到達度調査」(2003 年) Programme for International Student Assessment 実施: OECD (経済協力開発機構) 対象:義務教育修了段階 参加: 41 カ国 / 地域 日本:高校1年生約 4,700 人 読解力②・③が低い ①情報の取り出し ②推論・解釈・ 理解 ③熟考・評価
5 国語科教育の現状 「読む」「書く」中心 文学作品の読解中心 教科書所載の作品(教材)は文学的価値 の高いもの 学習の目標: ◇内容や登場人物の心理を「正しく」読み 取る ◇作品の「素晴しさ」を理解する ↑ 現代文分野について(石原 2005 )
6 価値観の相対化 テクストにはそれぞれの思想・価値観が 織り込まれている 「政治的でない教育はない」 (深代淳郎『天声人語』 eg. 桂離宮) 教科書という1冊の書物の中で、他の教 材との関係でどのように相対化されてい るかが重要(宇佐美2008:10)
7 なぜ教科書? 高校進学率上昇・準義務教育化 活字離れ 教科書信仰の根強さ 推薦入試 → 評価の公正 → 学年統一試験 教育現場への管理・圧力の強化 教科書「で」教える vs 教科書 「を」教える
8 なぜ古文? 古文との接触:最初で最後 「日本人」「伝統」「正統性」との結び つき 国粋主義・復古主義・保守勢力の利用 過去の検証:有働(2002)など
9 先行研究 国語教育 指導の工夫:いかに親しみをもたせるか 歴史的検証:有働( 2002 )・一色 ( 2001 )など 文学研究:受容史 源氏文化論 現代語訳・漫画・ダイジェスト本 映画・演劇・朗読 カルチャーセンターの隆盛
10 現行の教科書
11 学習指導要領 1999年3月告示・2003年4月実施 国語総合(4)* ( ):標準単位 数 国語表現Ⅰ(2)* *:いずれか 必修 国語表現Ⅱ(2) _:古文を含む 現代文(4) 古典(4)古典=古文+漢文 古典講読(2) 表1
12 「国語総合」 1年次(必修) 古文入門・・・表2 『源氏物語』の紹介(安藤2005) ☆難解 ☆価値 → 今は無理だがいつかは読むべき ☆音読し味わうべき名文 → 理解・考察より無条件に受け入れる べき
13 「古典」(前半部) 2年次 敬語法の学習 『源氏物語』 ☆「桐壺」巻・冒頭 ☆「若紫」巻・垣間見 ほとんどすべての教科書に収録
14 なぜ「桐壺」? 主人公:光源氏の誕生 冒頭部分には触れておきたい:ある種の教 養主義的発想(前田他 2005 ) 竹取物語・伊勢物語・土佐日記・枕草子・ 更級日記・平家物語・方丈記・徒然草・奥 の細道 etc. 表3 難解:敬語・古語・背景知識 70s以降の傾向:理想的帝王像ではない
15 なぜ「若紫」? 紫の上の初登場(準冒頭?) 可愛さ・幼さ・あどけなさ 国定教科書(昭 13 ) 一貫した人気:翻案・現代語訳 → 原文 紫のゆかり:桐壺ー藤壺ー紫の上 今後の展開に興味をつなぐ? 源氏の女性遍歴の正当化?
16 「古典」(後半部)・「古典講 読」 3年次(選択) 1部(紫の上系)及び2部から 表4 有名な章段 光源氏と紫の上 光源氏と女君たち
17 紫の上 「若紫」巻:光源氏に見出される 理想的女性に育てられ、最愛の妻となる 「若菜上」巻:女三宮降嫁 「御法」巻:病没 ◇藤壺の形代からの脱却 ◇人間的成長・魅力 ◇内面の苦悩 eg. 「朝顔」「夕霧」「若菜下」
18 女君たち 紫のゆかり:桐壺・藤壺・紫の上・女三 宮 夕顔・葵の上・六条御息所 明石の君 姫君を紫の上に委ねる 「身のほど」をわきまえる 忍従・自己犠牲 → 一族の繁栄
19 結婚拒否 朝顔・大君 出家 → 精神的自立 藤壺・六条御息所・朧月夜・浮舟
20 批判的読解力の育成 価値観の相対化
21 教科書の現在 教科書の作品解説 → 表5 他教材 → 表3 『竹取物語』『伊勢物語』『蜻蛉日記』 『枕草子』『紫式部日記』『和泉式部日記』 『更級日記』『無名草子』『玉の小櫛』 ◇源氏帝国主義(安藤 1999 ) 近代国家の帝国主義支配確立に果たした役割 他テクスト・ジャンルに及ぼす支配的権力作 用
22 『源氏物語』の多様な評価 耽読:『更級日記』少女時代 絶賛:藤原俊成『六百番歌合』判詞 印象批評:『無名草子』 仏教:紫式部堕地獄説話 儒教:勧善懲悪論 国学:宣長『玉の小櫛』もののあはれ論 戦前・戦中:不敬論
23 「物語」論 『三宝絵詞』 『源氏物語』「蛍」巻 『更級日記』少女時代と晩年 狂言綺語・女子供のひまつぶし・和歌や 歴史より低い位置づけ 近松:虚実皮膜論 鷗外:歴史其儘と歴史離れ
24 教科書というメディア
25 取組むべき課題 教科書採録章段に潜む価値観(「隠れたカ リキュラム」)とは? 『源氏物語』の(異常なまでの)ブーム・ 絶賛の理由・背景・意味は? 「いつか来た道」・・・?
本研究を通して・・・ 文学研究者・教育関係者のみならず、 保護者としてだけでなく、 ことばに関わる者として・ 市民社会の一員として、 一人一人が広く関心を持ち、 分析・批評・提言を行っていく必要があ るのではないか 26
27 ありがとうございました