当院透析スタッフに知っておい て ほしい透析処方 ~日本透析学会2013年血液透析処方 ガイドラインの概要と私案~ きたうらクリニック 北浦圭介 平成25年5月作成.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
メタボリックシンドロームの考え方. 危険因子の数と心臓病のリスク 軽症であっても「肥満(高 BMI )」、「高血圧」、「高血糖」、「高トリグリセリド(中性脂肪) 血症」、または「高コレステロール血症」の危険因子を2つ持つ人はまったく持たない人に比べ、
Advertisements

院内オーダーリングシステム 連動型透析管理ソフトでの省 力化と診療支援 冨田兵衛、青柳直樹. 透析医療における電子カルテ と診療業務支援システム 維持透析医療には多くの定型化した業 務が必要である。また診療する患者が 全員慢性腎不全である点などで診療そ のものも定型化した面をもっている。 この、ルーチンワーク部分をできるか.
第1章 健康の考え方第2節 健康の増進と疾病の予防⑤飲酒と健康. 第1章 健康の考え方第2節 健康の増進と疾病の予防⑤飲酒と健康 本時の学習のポイント ①アルコールは,健康にどのような影響を 与えるのだろうか。 ②「アルコール依存症」とは,どのような 状態をいうのだろうか。 ③飲酒は,青少年にどのような影響を与え.
長時間透析の素晴らしさと普及の考 察 ― 長時間透析体験者として ― 橋村 大成 (かもめ日立クリニック)
オンライン血液濾過透析にお ける置換量と透析効率 優人クリニック (1) 東京大学医学部付属病院腎臓・内分泌 内科 (2) 、血液浄化部 (3) 冨田兵衛 (1) 、青柳直樹 (1) 、大原智香子 (1) 、根岸康介 (2) 、田中珠美 (2) 、野入英 世 (2) 、中尾彰秀 (3)
鎮静管理 JSEPTIC-Nursing.
1. ご高齢の糖尿病患者さんと 若い人との違いはなに? 2. ご高齢の糖尿病患者さんの 治療上の注意点 3.
輸血の適応/適正使用 血小板製剤 福井大学輸血部 浦崎芳正.
「初夏の水分補給」です。 一日にどれくらい水分をとれば良いのでしょうか?
背景 CABGを必要とする虚血性冠動脈疾患の背景には動脈硬化の影響があり、プラークの退縮効果が明らかにされているスタチンを投与することで予後を改善する効果が期待される CABGを行った患者に対しスタチンを投与することで予後を改善する効果を検証することが本研究の目的である 2015/2/17 第45回日本心臓血管外科学会.
平成26年度 診療報酬改定への要望 (精神科専門領域) 【資料】
自分の適性体重を知り、健康的な食事について考えよう
ダイエット ~無理なダイエットは良くない~
脂肪 筋肉 骨 今回のテーマは、「体組成」です。 多 少 多 少 Q:体組成って何ですか?
動悸にはこんな種類があります 心臓の動きが 考えられる病気 動悸とは、心臓の動き(心拍)がいつもと違って不快に感じることをいいます。
柔道選手の安全な減量 T20ES13 仲村 茂樹.
今 日 の ポ イ ン ト 1. 糖尿病治療のための食事は「健康食」です 2. まず初めに、食生活の基本をチェックしましょう 3.
I gA腎症と診断された患者さんおよびご家族の皆様へ
MICS21®の使用経験 ― ルーチン業務の観点から ―
無機質 (2)-イ-aーH.
2型糖尿病患者におけるナテグリニドと メトホルミン併用療法の有効性と安全性の検討
第37回ハイリスク児フォローアップ研究会 極低出生体重児の学童期以降の予後 生活習慣病のリスク
透析患者に対する 大動脈弁置換術後遠隔期の出血性合併症
甲状腺疾患 カイエー薬局 グループ発行 健康シリーズ 女性に多い 最近、テレビでも放送されましたが、いくつもの病院を
運動と呼吸 および 心機能.
かゆみが血液透析患者のQOLに与える影響の検討 ~SF-36v2を使用して~
高血圧 診断・治療の流れ 診断と治療の流れ 問診・身体診察 二次性高血圧を除外 合併症 臓器障害 を評価 危険因子 生活習慣の改善
1. 糖尿病による腎臓の病気 =糖尿病腎症 2. 腎症が進むと、生命維持のために 透析療法が必要になります 3. 糖尿病腎症の予防法・治療法
輸血の適応/適正使用 赤血球製剤 琉球大学輸血部 佐久川 廣.
インスリンの使い方 インターンレクチャー.
当院における透析間体重管理指導方法についての検討
Hironori Kitaoka.
1. 痛風・高尿酸血症とは 2. 糖尿病・糖尿病予備群と 痛風・高尿酸血症の関係 3. 高尿酸血症の治療は 3ステップで 4.
平成19年8月 腎臓と腎不全 東京事業本部  治療機器販促部透析課.
裏面に新たな認定基準の一覧を掲載していますので、ご参照ください。
裏面に新たな認定基準の一覧を掲載していますので、ご参照ください。
肥満の人の割合が増えています 肥満者(BMI≧25)の割合 20~60歳代男性 40~60歳代女性 (%)
メタボリックシンドロームはなぜ重要か A-5 不健康な生活習慣 内臓脂肪の蓄積 高血糖 脂質異常 高血圧 血管変化の進行 動脈硬化
『学術講演会』のお知らせ ~新薬の適正使用のために~ ~薬剤師が知らねばならないこと~』 日時/ 平成29年10月19日(木) 19時~
奥越調剤研究会 開催のご案内 『慢性腎臓病患者における動脈硬化』 日時/ 平成28年12月8日(木)19:15~ 場所/ 大野商工会議所
CKD患者に対する食事記録が 食事療法に及ぼす効果の検討
I-HDF施行前後における透析中の血圧変化率の評価
Lカルニチン治療の血液透析患者の腎性貧血への効果
栄養成分表示は、 健康づくりに役立つ重要な情報源 栄養成分表示ってなに? 栄養成分表示を活用しよう① 〈留意事項〉
脂質異常症.
4.生活習慣病と日常の生活行動 PET/CT検査の画像 素材集-生活習慣病 「がん治療の総合情報センターAMIY」 PET/CT検査の画像
健診におけるLDLコレステロールと HDLコレステロールの測定意義について~高感度CRP値との関係からの再考察~
血液透析患者の足病変がQOLに与える影響の調査 ~SF-36v2を使用して~
医療法人社団 高山泌尿器科 臨床工学部門 斎藤 寿 友西 寛 工藤 和歌子 佐藤 友紀
医療法人社団 高山泌尿器科 臨床工学部門 斎藤 寿
高脂血症.
災害時の循環器リスクスコア - AFHCHDC7 Score
V型ダイアライザーPinnafine® -180Xの性能評価
指導日時 平成 年 月 日( 曜日) AM・PM : ~ : . 指導内容
具だくさんの 幸せ みそ汁 つまってる! 野菜をたくさん入れ て栄養たっぷり! 汁の量が減るので、 塩分控えめ。体に 優しくおすすめです。
具だくさんの 幸せ みそ汁 つまってる! 野菜をたくさん入れ て栄養たっぷり! 汁の量が減るので、 塩分控えめ。体に 優しくおすすめです。
医療法人社団スマイル 広島ベイクリニック1)
慢性腎臓病患者における食事療法の 経過及び腎障害抑制の効果の検討
目的 オメガ3脂肪酸エチルは,エイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)を含む魚由来の製剤で,中性脂肪低下作用を持ち,抗動脈硬化作用を持つとされている. 現在までに心血管系イベントの抑制効果についての報告がなされているが,慢性腎臓病(CKD)に対する効果ははっきりしない. このため,当院でのCKD患者にオメガ3脂肪酸エチルを投与した結果について,各種疾患やCKDステージとの関連を含めて検討した.
緊急輸血・大量輸血 山形大学輸血部 田嶋克史.
高齢慢性血液透析患者の 主観的幸福感について
裏面に新たな認定基準の一覧を掲載していますので、ご参照ください。
1. 糖尿病による腎臓の病気 =糖尿病腎症 2. 腎症が進むと、生命維持のために 透析療法が必要になります 3. 糖尿病腎症の予防法・治療法
脱水・ 循環血液量低下.
HF療法における 血行動態の安定化 冨田兵衛 1),2) ・青柳直樹 1) ・壱岐一平 1)
透析周辺機器の入れ替えに伴う透析液水質と患者臨床データの変化
1. 糖尿病の患者さんは 血圧が高くなりやすい 2. 糖尿病に高血圧が併発して 合併症が早く進行する 3. 血圧コントロールの 目標と方法
1. ご高齢の糖尿病患者さんと 若い人との違いはなに? 2. ご高齢の糖尿病患者さんの 治療上の注意点 3. ご高齢の糖尿病患者さんの
(2)-ア-a-A 食事摂取基準.
衛生委員会用 がんの健康講話用スライド.
Presentation transcript:

当院透析スタッフに知っておい て ほしい透析処方 ~日本透析学会2013年血液透析処方 ガイドラインの概要と私案~ きたうらクリニック 北浦圭介 平成25年5月作成

 透析量は尿素( BUN) の single pool Kt/Vurea を用いる。 (sp Kt/V は日本で最も使用される UN の除去指標)  透析量は月1回測定する。  Single pool Kt/Vurea ・最低透析量: 1.2 ・目標透析量(当院の最低基準値): 1.6以上 ・1.8以上まで死亡リスクが有意に低下している ・短時間高効率ではなく、透析時間を延長して、透析量を 延長 して透析量を増大することで、さらに死亡リスクが低下す る可能性 がある。 血液透析量(小分子物質)

 透析時間と予後 ・日本の平均透析時間は約4時間である。 ・4時間より透析時間が短いほど予後不良であり、長いほど 死亡リスクが低くなる。 ・4時間未満の短時間透析において Kt/V を大きくしても死亡 リスクの低下は期待できないかもしれない。  推奨される透析時間 ・透析時間が長いほど死亡リスクが低下する。 ・ Kt/V 値に関係なく、透析時間が長いほど死亡リスクは低下 する。 ・「透析時間は生命予後規定因子」である。 透析時間 ①

 血液流量と透析液流量 ・「シャント血液流量」と「透析装置の血液流量」は異なる。 ・ Qb 400 - 500 ml/ 分では心臓や血圧の急激な変化も認め ず、死亡 リスクや心臓関連死も増加していない。 → 高血流量の Qb は循環器系の負担を気にしなくていい (高シャント血液流量が循環器系に負担を与える) ・積極的な Qb 確保が必要である。 ・適切な設定 → Qb:Qd ≒1:2 透析時間 ②

 「 β 2 -MG は尿毒素物質であるとともに透析患者の 予後関連因子である。」 (30㎎ /L 以上で死亡リスクが上昇する)  Β 2 -MG の分子量は11800である。  Β 2 -MG は拡散や内部濾過促進で除去率は向上する。  透析前 β 2 -MG 30㎎ /L 未満を最低目標とする。 (25㎎ /L 未満を当院では目標とする)  3か月に1回はモニタリングする。 血液透析量と β 2 - ミクログロブ リン

 栄養状態を向上するには食事摂取はもちろんのこと、体内の尿毒素 をしっかりと除去し、炎症反応を陰性化させる必要がある。  透析効率の増加には循環動態「シャント血流量」の安定が必要であ る。 → 透析条件の変更以外に、「透析中の血圧低下を起こさないこと」、 「良好なブラッドアクセスを保つこと」、「再循環を起こさない こと」が 大切である。 栄養評価の指標 ①

 MIS(Malnutrition Inflammation Score) :自覚症状、身体状況、 BMI 、アルブミン、 TIBC で栄養評価  透析前血清アルブミン値:3.7 g/dl 以上  GNRI :92以上  CRP :0.5㎎ /dl 以下(陰性が望ましい) 栄養評価の指標 ②

 ドライウェイトの定義(すべて満たすこと) ① 体液量が適正(浮腫など溢水がない) ② 透析流の過度な血圧低下がない。 ③ 長期的にも心血管系の負担がない ドライウェイトの設定 ①

 最大透析間隔日の「体重増加を6%未満」にすることが望ましい。  通常短時間透析(3時間など)と長時間透析(6時間以上)では自ずと 体重増加の目標は違ってくる。 (短時間透析のほうが体重増加制限が厳しい。)  「食塩摂取量」、「飲水量」、「尿量」、「便秘の日数」が重要な規定 因子である。 ☆重要ポイント!! 透析間体重増加で最重要項目は「食塩摂取量」である。 (食塩が飲水量を増やし、食欲を増進させ、血圧を上げ、心臓に負担を与 えて しまう。) ドライウェイトの設定 ②

 ドライウェイトの適切な設定は透析従事者にとって最低限必要な責 務でもあり、最も難しい責務である。  ドライウェイトの設定方法 ・透析中に著明な低血圧がない ・高血圧や浮腫がない ・胸部 XP で肺うっ血がない ・心胸比が50%以下(女性は53%以下) ・ hANP が60以下である ・透析後の心臓エコーで左心房(40㎜以上)や IVC (7㎜以下)を 目標とする。 エコーの場合、心臓や肺の基礎疾患によって目標設定が変わって くる。 ドライウェイトの設定 ③

○ 血清ナトリウム濃度と塩分摂取  塩分をたくさん摂取しても、基準値を超えるような高ナトリ ウム血症になることはない。  塩分摂取 ≠ 高ナトリウム血症である。  体重増加が多い → まずは「塩分制限」を徹底。  血清ナトリウムが135 mEq/L 以下の場合 「水分貯留でナトリウムが希釈されている」状態 → 水分摂取が多い可能性がある。 ドライウェイトの設定 ④

 透析中の血圧低下の主な原因は「ドライウェイト があっていない」のではなく、「除水速度が速 い」ために生じることが多い。  平均除水速度は10 ml× 体重 / 1時間 (例:体重50㎏の場合、500 ml/ 1時間の除 水)  除水速度や生命予後の観点からも透析時間を延長 した方が望ましい。 ドライウェイトの設定 ⑤

 2010年4月よりオンライン HDF に対応した人工透析装置 が承認された。  2012年4月よりオンライン HDF の保険点数が承認された。 (ただし、原則としてヘモダイアフィルターを使用するこ と)  オンライン HDF の適応病名(透析アミロイドーシスなど)は 限定されておらず、すべての慢性維持透析患者に施行が可能 となった。  前希釈オンライン HDF が透析患者愁訴を改善させる報告が多 い。 オンライン HDF①

 Β 2ミクログロブリンの除去効果が高い。  貧血改善効果や ESA 製剤抵抗性を抑制する可能性がある。  炎症改善効果  透析依存性血圧低下の軽減効果  生命予後の改善、心血管イベントによる死亡リスクの抑制 オンライン HDF②

 標準血液透析:週3回、3 - 6時間未満  長時間透析:週3回、6時間以上  頻回透析:週5回以上 ・頻回短時間血液透析:週5回以上、1.5 - 3時間未満 ・頻回標準時間血液透析:週5回以上、1.5 - 3時間未満 ・頻回長時間透析:週5回以上、6時間以上 透析スケジュール ①

○ 長時間 / 頻回血液透析のメリット  除水量が少ない分、透析中の血圧が下がりにくい。  血圧コントロールが良好になる。  降圧剤の減量が可能となる。  心収縮率の増加や左心室重量の減少。  リン値の減少やリン吸着剤の減量。(食事摂取量が増加す る)  カリウム値が下がる傾向にあるため、果物や野菜の摂取制限 が少なくなる。  心血管イベントの減少、入院率の低下、 QOL の向上 透析スケジュール ②