日本語学科建設に関する諸問題 ― 日本語教育のカリキュラム作りを中心に ― 北京外国語大学日本語学部 于日平.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
社会学部 模擬授業 社会調査から見る日本社会 グラフからよみとれること 社会学科准教授 村瀬洋一  41 歳 東北大学大学院出身(行動科学専攻分野)  1997 年 10 月 立教大学社会学部に着任  専門分野 政治社会学、計量社会学、社会階層と社会意識  趣味 ドライブ、スキー、水泳、パソコンいじり.
Advertisements

インドネシアの高等教育における 日本語教育の現状と問題 Wawan Danasasmita インドネシア教育大学( UPI )
言語教師としての 役割と認知 平成 21 年度教員免許状更新講習 3 共立女子大学 02/08/2009 笹島茂 1.
日本語教授法 & 日本語教育とは  外国語としての日本語、 第二言語としての日本語 についての教育の総称である。
登録ランドスケープアーキテクト (Registered Landscape Architect) 資格制度の概要 登録ランドスケープアーキテクト(RLA)資格制度総合管理委員会 一般社団法人ランドスケープコンサルタンツ協会(CLA)
平成19年度 「長崎県国語力向上プラン」 地区別研修会
大学入門講座の 実施に向けて ●桑折範彦   
学力向上の課題と今後の具体的な取組 【 今後の具体的な取組 】 学力調査 【 課 題 】 ①授業での理解力の向上 ②家庭学習への意欲化
言語教育論演習プレゼン課題 A11LA042 鴨井みのり
日本語教育学臨地研究 香港大学 派遣期間:2006年9月15日~29日
日本の高校における英語の授業は 英語で行うのがベストか? 日本語の介在の意義
大分県教育庁佐伯教育事務所 学校改革担当指導主事 有田千香
富山大学教育学部 附属教育実践総合センター 助教授 小川 亮
第42回日本語教育学講座講演会 認知言語学からみた言語獲得 講師:谷口一美先生(京都大学大学院准教授) 入場無料
平成17年度 大学教育の国際化推進 プログラム (戦略的国際連携支援)
マイクロティーチング 演習 指導案作成 模擬授業発表
日本語教育における 発音指導の到達目標を考える
教職院 ナッキョン 奈良市高畑町 得意: 授業での「つかみ」
ー大学院教育課程強化に関するプログラムについてー
      特別支援学校 高等部学習指導要領 聴覚障害教育について.
東北外国語専門学校 学校紹介.
国際経営科.
日本の高校における英語の授業は英語でがベストか?
日本語教育は 多言語化した日本語を教えられるのか
平成27年度ポートフォリオ説明会 専攻科長より キーワード: ①総合システム工学 専攻科長 高野明夫 ②学習・教育目標
アジア恊働大学院(AUI)構想 AUI推進機構/設立趣意書
教師教育を担うのは誰か? 日本教育学会第70回大会ラウンドテーブル 2011年8月24日 千葉大学 2108教室
2010年度 コンピュータリテラシー クラス:  B1 講義日: 前学期 月曜日7時限.
学科組織・学科教育カリキュラム・ 化学実験教育・入学前教育、等
2011年6月24日(金) 於 名桜大学言語学習センター 国際学群 伊藤孝行
平成17年度 大学教育の国際化推進 プログラム (戦略的国際連携支援)
奈良県スポーツアカデミーの検討経緯 資料2-1 1 平成26年度の取組 3 平成28年度の取組 2 平成27年度の取組
スポーツ経営学 第4回目 スポーツ経営学の特徴.
複言語・複文化状況における日本語教育 -ことばの教室で私たちがめざすもの
人間性豊かな人材の養成を通じて、科学技術と人間社会の調和的発展に寄与する
社会学部 模擬授業 社会調査から見る日本社会 グラフからよみとれること 社会学科准教授 村瀬洋一
基礎看護の授業を通して思考力,判断力,表現力,技能を育成する指導方法の工夫改善についての研究
2004年6月3日 第2分科会 国際競争力のある人材育成.
地域・社会貢献をするために人として必要な資質
校内研修プログラム 研修1 ~外国語教育についての理解を深める~
小中連携を進めるために! 外国語教育における 三つのステップと大切にしたいこと 岐阜県教育委員会 学校支援課
平成25年3月27日(水) 東京工科大学 コンピュータ蓑寝椅子学部 在学生ガイダンス
第70回全国連合小学校長会 研究協議会北海道大会 第61回北海道小学校長会 教育研究函館大会
社会学部 模擬授業 社会調査から見る日本社会 グラフからよみとれること 社会学科准教授 村瀬洋一
組織論による特色ある カリキュラムの理論と実際 第11回 特色あるカリキュラムづくりの理論と実際 兵庫教育大学大学院 教授
第60回 北海道小学校長会教育研究 宗谷・稚内大会
課題研究ルーブリック評価の 活用マニュアル 平成30年1月10日 愛媛大学高大接続推進委員会 「課題研究」評価ワーキンググループ
3言語×3視座: 外国語学部とグローバル教育センターが 目指す人材育成
「日本語教育 プログラム論」の提案 札野 寛子 (金沢工業大学) 2017年度日本語教育学会春季大会パネルセッション6(早稲田大学)
社員育成 ~企業変革における社員教育の重要性と戦略との適合性~
別紙1:政策学部のカリキュラム ■積み上げ型政策学教育 [基本教育] [導入教育] 大学院進学
日本の高校における英語の授業は 英語がベストか?
NetMeeting ~ドイツ語授業形態としての提案
デジタルアーカイブ専攻 コア・カリキュラム構成の設定と学習内容・行動目標 デジタル・アーキビスト の養成 育成する人物像 入学前課題
理論研究:言語文化研究 担当:細川英雄.
理論研究:言語文化研究 担当:細川英雄.
社会学部 模擬授業 社会調査から見る日本社会 グラフからよみとれること 社会学科准教授 村瀬洋一
社会学部 模擬授業 社会調査から見る日本社会 グラフからよみとれること 社会学科准教授 村瀬洋一
超域研究 -PBLによる学習- 超域研究ガイダンス 2010年10月4日 .
通訳研究分野の概観図 General Map of Interpreting Studies
獨協大学 国際教養学部言語文化学科 永田小絵
第2(国際競争力)分科会 国際競争力のある人材育成の キーワード
生きる力を育む国語教育 説明的文章の読解を通して 鹿沼市立南摩中学校                 坂井清貴.
国際教育論1 オリエンテーション.
出雲農林高校 地域との協働によるカリキュラム開発の研究
図15-1 教師になる人が学ぶべき知識 子どもについての知識 教授方法についての知識 教材内容についての知識.
文脈 テクノロジに関する知識 教科内容に関する知識 教育学 的知識
英語音声学 前期・木1・CALL1 担当:福田 薫
平成20・21年度 国立教育政策研究所・教育課程研究センター指定
学習指導要領の改訂 全国連合小学校長会 会長 大橋 明.
Presentation transcript:

日本語学科建設に関する諸問題 ― 日本語教育のカリキュラム作りを中心に ― 北京外国語大学日本語学部 于日平

1、中国の外国語教育現状に対する 分析と反省 2008 年は、中国の改革 · 開放 30 周年にあ たり、外国語教育指導委員会を中心に 外国語教育の総括と反省が行われた。 A )中国における外国語教育に対する評価 中国における外国語教育は、世界の中で最も 盛んで最も進んでおり、その成果は世界的に 評価されている。

B )中国の外国語教育における諸問題 問題1 研究について=言語学に関する基礎研 究や教育実績に対する理論付け的な研究が弱く、 国際的に認められるような研究成果が少ない。 問題2 教育について=教育においては、知識 伝授型が広く行われていて、言語運用能力の育 成に教育中心が移っていない。

問題3 人材育成について=外国語という言 葉の実用面にばかり注目する結果、習得した 知識は範囲が狭く、技能が単一である。 『大学外国語専門教育の発展に関する報告( 1978 - 2008 )前書 き』 新時代に相応しい外国語教育の目的を 正しく認識し、それに基づく教育理念 と目標を確実に定め、目標を実現させる効果 的な教育方針や教授法をたてる。

2、中国における外国語教育の 目的 · 目標 · 方針について A )教育目的=交流の架け橋になる人材の育成 B )教育目標=5技能の習得 C )教育方針と教授法= ①「読解・翻訳」を中心とするもの ②「読解・聴解」を先行させながらも「会話・作 文」 を重視するもの ③「コニュニケーション能力」を中心とするもの ④「読解・作文」を中心とするもの

D )人材育成の目標転換と教育方針の転換 1 )ある専門分野において、外国語を使って外 国語 による書籍を読んだり、外国人と直接にコ ミュニケー ションができる専門家や研究者、 2 )二ヶ国語の使用者であると同時に、両国文 化の 良し悪しを熟知する批評家であり、外国の優 れた 文化を自国に紹介したり、自国文化を外国に 紹 介したりして、相互理解を深めることができ る人材。

3、日本語教育についての 現状紹介と諸問題 A )日本語専攻の教育を行っている大学 と日本語学習者数 ① 514 校(教育部統計) ②約 8 万在校生 B )習得年限から見る教育体制と学生構成 ①学習暦 10 年 ②学習暦 4 年 C )授業科目と授業時間 ①5技能に関する科目 ② 4 年に 1600 時間

4、運用能力重視の日本語教育 限られた修業年限において、 5技能 を身につけた運用能力の高い 人材 を育てるという教育目標を実 現する ためには、どんな教育方針を定め、どう いう ふうに教育カリキュラムを作って教育を 進め ていったらよいのであろうか。

4.1. 教育方針の転換に伴う 教授法の改革 A )知識伝授型 → 運用能力育成型 B )読解力重視 → 発表力重視 C )知識習得型 → 理解研究型

4.2. 各授業の役割分担に関する 分析と反省 各授業がばらばらに授業目標を立てて 進められているのが多く、体系的に作 られたカリキュラムのもとで合力的に行われて いるものが非常に少ない。 「知っていればよい」ような教養主義的な考え 方が根強く残っていて、知識伝授型の授業が多 く、伝授した知識が学生の運用能力の育成や向 上に必ずしも結び付いていない。

A )習得の段階性が不明で、全体目標と段階目 標を明確にしたカリキュラム作りができてい ない。 B )各授業の役割分担が明確であっても、それ を踏まえて上での相互支援体制が確立されて いない。 C )運用力で教育効果を確認するという教育理 念が欠けている。

5、体系化した日本語教育の カリキュラム作り ◎体系化したカリキュラム作りの要点 A )各授業の教育目標と段階目標・教育重点・ 授業特徴・教授法・実施段階と期間など、 B )日本語教育の総目標を実現するために必要 な諸条件を明確にし、各授業は役割を果たし ながら協力体制を形成していく。

5.1. 「特色ある学科建設」 知識輸入型授業= 精読、聴解、会話、速読、 日本事情、文学作品、新聞読解、 論文指導、講座など 運用輸出型授業= 会話、話題討論、作文、 ゼミ発表、卒業論文など 総合技能型授業= 翻訳、通訳、同時通訳など

体系化したカリキュラムの 下で進 められる授業の役割分担・ モジュー ル化及び相互補完関係 A )各授業の役割分担を明確にし、共通した教 育目標を持つ授業をモジュール化する。 B )各授業・各モジュールの相互補完・支援の 関係形成を考慮してカリキュラムを作る。

5.2. 日本語運用能力を重視する 外国語教育 言語運用能力 1 :会話・発表力の育成 会話 → 話題討論 → ゼミ発表 → 論文の構想発表など ↑ ↑ ↑ ↑ 精読/聴解/会話/速読/文学作品/新聞読解/各種講座など ↓ ↓ ↓ ↓ 初級作文 → 中級作文 → 発表レジュメ作り → 卒論な ど 言語運用能力 2 :作文力の育成

5.3. 教育目標実現のための 授業協力体制作り 体系的なカリキュラムのもとで各授業が 各自の教育目標実現を目指すと同時に、 段階ごとに他の授業と協働関係を結んで 相互的な教育目標を実現していくという 授業協力体制を作り出して、日本語教育 の総目標の実現を図っていく。

6、日本語作文授業の位置づけ と役割及び教授法 A ) 日本語作文授業の位置づけと役割 日本語を使って生活や仕事に必要 な文章を作成する作文力を身に付 け、高めることを目標とするもの。

作文力の育成に必要な条件 ①知識の蓄積と運用=必要とするすべて の知識の習得 ②言語運用能力の育成=言語知識の蓄積 と運用能力 ③思考力の育成=科学的な思考能力

B )作文授業の教育目的・重点・特徴 習得した知識を運用させるに十分 な外国語運用能力と、その言語運 用能力に裏付けられた科学的な思考能力 を育て、高めること。文章習得を中心に、 言語運用能力の向上と知識応用力の育成 を統一させて進めるものとする。

C )運用能力育成としての作文授業の教授法 文章作成を練習方法とし、学生の運 用能力育成を中心とするピアレスポ ンス式、討論式、発表式などの授業方法、 D )作文授業と他の授業の相互補完関係 単語の蓄積 · 文法知識の蓄積 · 読解力の蓄 積 · 必要とする知識の蓄積などが前提

E )作文力と研究能力の関係について 言語運用能力によって示される知識運用能力 と思考能力の総合力である。 F )日本語学部で行われた国際シンポジウ ム 日语课程模块建设国际研讨会 ー阅读和写作的纵向教学目标和横向教学互 动ーー

7、中国における外国語教育の 新理念 教育目的と目標に基づき、体系化 したカリキュラムの下での教育。 A )各授業の役割分担と特徴を明確に。 B )各授業のモジュール化と相互補完・支援関 係の確立。 C )各授業・モジュールの相互補完・支援関係 に基づいたカリキュラムを作る。

中国のための外国語教育 ①中国社会が求めている人材を育成するため ②中国の実情に合ったカリキュラム作り ③中国人を対象とする効果的な教授法の開発 運用能力育成という教育新理念に従っ て、現在の教育体制やカリキュラム、 教育方針や教授法、教科書や練習方法などを 再検討する。

ご静聴 ありがとうございま す