日本語学科建設に関する諸問題 ― 日本語教育のカリキュラム作りを中心に ― 北京外国語大学日本語学部 于日平
1、中国の外国語教育現状に対する 分析と反省 2008 年は、中国の改革 · 開放 30 周年にあ たり、外国語教育指導委員会を中心に 外国語教育の総括と反省が行われた。 A )中国における外国語教育に対する評価 中国における外国語教育は、世界の中で最も 盛んで最も進んでおり、その成果は世界的に 評価されている。
B )中国の外国語教育における諸問題 問題1 研究について=言語学に関する基礎研 究や教育実績に対する理論付け的な研究が弱く、 国際的に認められるような研究成果が少ない。 問題2 教育について=教育においては、知識 伝授型が広く行われていて、言語運用能力の育 成に教育中心が移っていない。
問題3 人材育成について=外国語という言 葉の実用面にばかり注目する結果、習得した 知識は範囲が狭く、技能が単一である。 『大学外国語専門教育の発展に関する報告( 1978 - 2008 )前書 き』 新時代に相応しい外国語教育の目的を 正しく認識し、それに基づく教育理念 と目標を確実に定め、目標を実現させる効果 的な教育方針や教授法をたてる。
2、中国における外国語教育の 目的 · 目標 · 方針について A )教育目的=交流の架け橋になる人材の育成 B )教育目標=5技能の習得 C )教育方針と教授法= ①「読解・翻訳」を中心とするもの ②「読解・聴解」を先行させながらも「会話・作 文」 を重視するもの ③「コニュニケーション能力」を中心とするもの ④「読解・作文」を中心とするもの
D )人材育成の目標転換と教育方針の転換 1 )ある専門分野において、外国語を使って外 国語 による書籍を読んだり、外国人と直接にコ ミュニケー ションができる専門家や研究者、 2 )二ヶ国語の使用者であると同時に、両国文 化の 良し悪しを熟知する批評家であり、外国の優 れた 文化を自国に紹介したり、自国文化を外国に 紹 介したりして、相互理解を深めることができ る人材。
3、日本語教育についての 現状紹介と諸問題 A )日本語専攻の教育を行っている大学 と日本語学習者数 ① 514 校(教育部統計) ②約 8 万在校生 B )習得年限から見る教育体制と学生構成 ①学習暦 10 年 ②学習暦 4 年 C )授業科目と授業時間 ①5技能に関する科目 ② 4 年に 1600 時間
4、運用能力重視の日本語教育 限られた修業年限において、 5技能 を身につけた運用能力の高い 人材 を育てるという教育目標を実 現する ためには、どんな教育方針を定め、どう いう ふうに教育カリキュラムを作って教育を 進め ていったらよいのであろうか。
4.1. 教育方針の転換に伴う 教授法の改革 A )知識伝授型 → 運用能力育成型 B )読解力重視 → 発表力重視 C )知識習得型 → 理解研究型
4.2. 各授業の役割分担に関する 分析と反省 各授業がばらばらに授業目標を立てて 進められているのが多く、体系的に作 られたカリキュラムのもとで合力的に行われて いるものが非常に少ない。 「知っていればよい」ような教養主義的な考え 方が根強く残っていて、知識伝授型の授業が多 く、伝授した知識が学生の運用能力の育成や向 上に必ずしも結び付いていない。
A )習得の段階性が不明で、全体目標と段階目 標を明確にしたカリキュラム作りができてい ない。 B )各授業の役割分担が明確であっても、それ を踏まえて上での相互支援体制が確立されて いない。 C )運用力で教育効果を確認するという教育理 念が欠けている。
5、体系化した日本語教育の カリキュラム作り ◎体系化したカリキュラム作りの要点 A )各授業の教育目標と段階目標・教育重点・ 授業特徴・教授法・実施段階と期間など、 B )日本語教育の総目標を実現するために必要 な諸条件を明確にし、各授業は役割を果たし ながら協力体制を形成していく。
5.1. 「特色ある学科建設」 知識輸入型授業= 精読、聴解、会話、速読、 日本事情、文学作品、新聞読解、 論文指導、講座など 運用輸出型授業= 会話、話題討論、作文、 ゼミ発表、卒業論文など 総合技能型授業= 翻訳、通訳、同時通訳など
体系化したカリキュラムの 下で進 められる授業の役割分担・ モジュー ル化及び相互補完関係 A )各授業の役割分担を明確にし、共通した教 育目標を持つ授業をモジュール化する。 B )各授業・各モジュールの相互補完・支援の 関係形成を考慮してカリキュラムを作る。
5.2. 日本語運用能力を重視する 外国語教育 言語運用能力 1 :会話・発表力の育成 会話 → 話題討論 → ゼミ発表 → 論文の構想発表など ↑ ↑ ↑ ↑ 精読/聴解/会話/速読/文学作品/新聞読解/各種講座など ↓ ↓ ↓ ↓ 初級作文 → 中級作文 → 発表レジュメ作り → 卒論な ど 言語運用能力 2 :作文力の育成
5.3. 教育目標実現のための 授業協力体制作り 体系的なカリキュラムのもとで各授業が 各自の教育目標実現を目指すと同時に、 段階ごとに他の授業と協働関係を結んで 相互的な教育目標を実現していくという 授業協力体制を作り出して、日本語教育 の総目標の実現を図っていく。
6、日本語作文授業の位置づけ と役割及び教授法 A ) 日本語作文授業の位置づけと役割 日本語を使って生活や仕事に必要 な文章を作成する作文力を身に付 け、高めることを目標とするもの。
作文力の育成に必要な条件 ①知識の蓄積と運用=必要とするすべて の知識の習得 ②言語運用能力の育成=言語知識の蓄積 と運用能力 ③思考力の育成=科学的な思考能力
B )作文授業の教育目的・重点・特徴 習得した知識を運用させるに十分 な外国語運用能力と、その言語運 用能力に裏付けられた科学的な思考能力 を育て、高めること。文章習得を中心に、 言語運用能力の向上と知識応用力の育成 を統一させて進めるものとする。
C )運用能力育成としての作文授業の教授法 文章作成を練習方法とし、学生の運 用能力育成を中心とするピアレスポ ンス式、討論式、発表式などの授業方法、 D )作文授業と他の授業の相互補完関係 単語の蓄積 · 文法知識の蓄積 · 読解力の蓄 積 · 必要とする知識の蓄積などが前提
E )作文力と研究能力の関係について 言語運用能力によって示される知識運用能力 と思考能力の総合力である。 F )日本語学部で行われた国際シンポジウ ム 日语课程模块建设国际研讨会 ー阅读和写作的纵向教学目标和横向教学互 动ーー
7、中国における外国語教育の 新理念 教育目的と目標に基づき、体系化 したカリキュラムの下での教育。 A )各授業の役割分担と特徴を明確に。 B )各授業のモジュール化と相互補完・支援関 係の確立。 C )各授業・モジュールの相互補完・支援関係 に基づいたカリキュラムを作る。
中国のための外国語教育 ①中国社会が求めている人材を育成するため ②中国の実情に合ったカリキュラム作り ③中国人を対象とする効果的な教授法の開発 運用能力育成という教育新理念に従っ て、現在の教育体制やカリキュラム、 教育方針や教授法、教科書や練習方法などを 再検討する。
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