金融商品取引法 04F1731 下出 直也
はじめに 2007 年 9 月に新たに施行される金融商品 取引法。現在、各金融機関などはこの法 律に対応するための準備を進めており、 金融業界への影響が新聞紙上などでも報 じられている。今回はこの新しい法律に ついて、従来の法律からの改正点や業界 への影響などを中心に、調べていきたい と思う。
目次 1. 金融商品取引法とは 2. 業界への影響 3. 今後の課題
1. 金融商品取引法とは ①法の概要 ②制定の経緯 ③改正点のポイント
法の概要 2007 年 9 月末に完全施行する金融資本 市場の基本的な取引のルールを定めた 法律。 証券取引法や金融先物取引法などを一 本化し、「投資商品」全般について包 括的・横断的なルールを定めた。利用 者保護などの新たなルールを盛り込ん だのが柱の一つ。また、投資ファンド も規制対象に加え、処分できるように した。
法の概要
制定の経緯 利用者の視点 金融技術の進展などを背景として、利用者保 護法制の対象となっていない金融商品が出現 しており、利用者被害が生じるケースも見ら れる。 包括的・横断的な利用者保護ルールを整備し、 利用者が安心して投資を行える環境を整備す る必要
制定の経緯 市場の視点 「貯蓄から投資」への流れが課題となるなか、 他方で投資の受け皿となる市場のあり方をめ ぐり、様々な問題が浮上 市場の公正性・透明性を向上させ、市場に対 する信頼を回復させる必要
制定の経緯 国際化の視点 金融・資本市場のグローバル化が進展するな か、諸外国・地域では市場法制や市場インフ ラの整備が進められている。 国際市場としての魅力を高めるためにも取り 組みをする必要
改正点のポイント ①利用者保護法制(いわゆる投資サービス法) の構築 ②開示制度の拡充 ③取引所の適正な自主規制業務の確保 ④不公正取引への罰則強化
利用者保護法制の構築 規制対象商品の拡大 証券取引法 ・国債 ・地方債 ・社債 ・株式 ・投資信託 ・有価証券デリバティ ブ 取引など 金融商品取引法 ・国債 ・地方債 ・社債 ・株式 ・投資信託 ・信託受益権全般 ・集団投資スキーム持 分(包括的な定義) ・多様なデリバティブ 取 引など 集団投資スキーム(いわゆるファンド)に関する権利 を包括的に有価証券と位置付ける
利用者保護法制の構築 規制の柔構造化 金融商品取引法では投資に関する専門知識 のある特定投資家(プロ)と一般投資家(ア マ)を区別。 ・アマ投資家向け販売 → 規制を整備 利用者保 護 ・プロ投資家向け販売 → 保護を必要とせず 一部の規制が 適用除外 取引の円滑化の促進
利用者保護法制の構築 販売・勧誘ルールの強化 契約の概要、手数料の概要、「損失が生じるおそ れ」などを記載しなければならない 顧客の知識・経験・財産の状況、投資の目的に照ら して不適当な勧誘をしてはならない 利点だけを強調するといった著しく誤認を招くよう な広告の禁止 ・・など (ただし①、②についてはプロ投資家には適用されない) ①金融商品取引契約締結時の書面交付義務 ②適合性の原則 ④虚偽事実・不確実な事項について断定的判断の提供の禁止 ③広告の規制
開示制度の拡充 上場会社のディスクロージャー 上場会社に対して「四半期報告書」の提出 を義務づけ、公認会計士・監査法人による監査 の対象 とする 上場会社に対して事業年度ごとに「内部統制 報告書」の提出を義務づけ、その有効性を評価 する。 公認会計士・監査法人による監査の対 象とする 四半期開示の法定化 財務報告にかかる内部統制の強化
開示制度の拡充 公開買付制度の見直し 規制がいくつか追加された。具体的には・・・ ・市場内外などの取引を組み合わせた急速な 買 付けで所有割合が3分の1を超えるよう な場合は 公開買付けの手続きによらなければ ならない ・公開買付け期間を実日数ベースから営業日 ベー ス(20営業日~60営業日)に変更 ・買収防衛策が発動された場合は公開買付者 に よる公開買付けの撤回や買付価格の引き 下げが 認められる ・・・など
開示制度の拡充 大量保有報告制度の見直し 機関投資家は特例として株式の大量保有報告書の提 出期間が株取得から最長「3か月半」だったが、こ れが「3週間以内(2週間ごとにまとめて5営業日 以内に報告する)」に大幅に短縮された。(*) 投資行動が見えにくいのを利用して投資ファンドな どが突然大株主として出現するような不公正取引が 行われるのを防ぐ狙い。 (*)保 有割合が 10 %以下の場合
取引所の適正な自主規制業務の確保 現在、証券取引所は株式会社化が認められているが、 との間に利益相反が生じるおそれが指摘されている。 そこで「金融商品取引法」では取引所の自主規制業務 の適正な運営を確保するため、 ことを可能とする制度が整備。 *取引所の「自主規制業務」には例えば、上場・上場廃止 に関する業務や取引参加者の法令遵守状況の調査などが ある ・株式会社としての営利性と、 ・取引所取引の公正性・透明性確保に向けた「自主規制業務」 ①自主規制業務を「自主規制法人」に委託する ②自主規制業務に関する事項を扱う「自主規制委員会」を置く
取引所の適正な自主規制業務の確保 ①取引所から独立した法人 「自主規制法人」が自主 規制業務を担う場合 (例 東京証券取引所) ②同一法人内に独立性の 高い「自主規制委員 会」を置く場合 (例 大阪証券取引 所 ) 金融商品 取引所 自主規制 法人 持ち株会社 金融商品 取引所 自主規制 法人 金融商品 取引所 自主規制委員会 取締役会
不公正取引への罰則強化 罰則の強化 金融商品取引法では開示書類の虚偽記載や 不公正取引などについて罰則の法定刑の水準 を上げている 。 (例)インサイダー取引 懲役 3 年以下 罰金 (個人) 300 万円以下 (法人) 3 億円以下 懲役 5 年以下 罰金 (個人) 500 万円以下 (法人) 5 億円以下
2. 業界への影響 ①銀行の場合 ②証券会社の場合 ③ファンドの場合 ④その他
銀行の場合 投資信託や外貨預金などのリスク商品 の販売の仕方に影響 (書面交付義務 や広告の規制など) 各行は対応の準備を進めている (例)顧客に投資目的や資産状況などを書いても らう質 問書の作成、行員研修の強化、販売 体制の切り 替え、パンフレットの差し替 えなど 販売コスト増は避けられな い!
銀行の場合 コスト増は中小金融機関ほど痛手 → 地域金融機関再編の一つの要因 に!? こまかい部分でどこまでが法違反にな らないかなど法解釈をめぐる混乱も
証券会社の場合 銀行と同様に販売コストは上がる しか し販売体制への影響はそれほどないか!? ・普段からリスク商品を専門に扱う証券会社 ・従業員の商品に関する知識 → 商品説明について の技 術的な不安はない ・証券業界は銀行から顧客を奪うチャンスとして投資 に関す るアドバイス能力や利用者ニーズに合わせた商 品提案力 の一層の拡充を進めている。 あらためて証券会社の存在が評価 されるのではという見方も !?
ファンドの場合 ライブドアがニッポン放送の株を取得した時 や村上ファンドが阪神電鉄株を取得した時の ような脱法的なやり方は完全に違法に ファンド業者は政府への登録又は届出が必要 となる 規制に対応できない業者は 選別・淘汰されるか!?
その他 上場企業 原則としてプロの投資家として扱われる → 一部の企業からは戸惑いも 取引所 行き過ぎた自主規制は他市場へのマネーの 流 出を促しかねない → 「市場活力」と「投資家保護」を どう両立さ せるか。難しいかじ取 りを追われている
3. 今後の課題 ①株券のペーパーレス化 ②資本市場のグローバル化 ③投資サービス法から金融サービス法 へ
株券のペーパーレス化 有価証券を証券・証書の有無でわけて それぞれ定義 証券・証書のあるものを基本的な類型 としている 株券が電子化されれば定義の見直しも 必要
資本市場のグローバル化 グローバル化への対応は証券取引法時代 からの改正によりある程度進め、それら は金融商品取引法にも引き継がれる(外 国基準によるディ スクロージャーの許 可など) しかし将来いっそうグローバル化が進展 した時に、自国市場の投資家保護を貫く か、国際的なルール統一に合わせるかと いう問題(アメリカは前者、 EU は後者の 考え方)
投資サービス法から金融サービス法 へ 金融商品取引法では投資商品に関する 商品横断的・業者横断的なルールを定 めた 今後は預金契約や保険契約を含め「金 融サービス法」の制定が課題とされる
終わりに 金融機関にとっては、個人投資家を対 象とした金融商品の販売は新たな収益 源との期待が高く、リスク商品は成長 分野だけに金融機関にとっては収益期 待と訴訟リスクの高まりという「もろ 刃の剣」になると言える。今後は販売 体制や人材管理体制がいっそう重要に なりそうだ。
参考文献 金融商品取引法入門 日経文庫 金融丁 日本経済新聞 野村證券 HP 大和総研 HP