小さなピカソたちの夢 本当にあった話だよ
生まれた時から口の中に障害があったなお 君は、食べる事も話す事もうまくできない ダウン症の男の子。 赤ん坊の頃から何度も手術を受け言語指導 や手作りの絵カードや写真を使って長い年 月、訓練を続けてきましたが効果は少しも 現れず、お母さんは なお君から「お母さ ん」と呼んでもらえる日は永遠に訪れない のではないかと気持ちが暗く沈んでしまう こともありました。 パジャマで朝食の話
そんな なお君がやっと「おかか ん」「おとったん」と言えるように なった頃、 なお君には四つ年下の元気な弟が出 来ていました。 お母さんはこの二人の男の子を障害 のある子もない子も平等に育てよう と どんな時でも同じように接してきた つもりでしたが、弟の成長があまり にも早く、 なお君が出来る事を獲得する為に一 つ一つ積み重ねてきた努力の日々を、 弟はあっという間にたやすく追い越 していったのです。 パジャマで朝食の話
弟は小学校高学年の反抗期にさしか かった頃、学校が休みの日になると 一日中パジャマのまま過ごすように なり お母さんがいくら注意しても 「めんどくせぇ」 「どうせ夜になったらまたパジャマ 着るんだからこのままでいいんだ」 などと言い決して言うことを聞きま せんでした。 とうとうお母さんも根負けしていつ しか注意するのをあきらめてしまい ました。 パジャマで朝食の話
そんなある日、ついに なお君まで もがパジャマのまま朝ごはんを食べ にテーブルについたのです。 一度身に着けた事はきちんと守るな お君で朝起きたら自分で着替えをし 食卓に着くのがすっかり習慣になっ ていたのでお母さんはびっくりして 「パジャマのままご飯を食べるのは 病気の時だけよ。お着替えしておい で」 すると なお君はだまって自分の部 屋へ戻っていきました。 やっぱりあの子は素直でいい子だ なぁとホッとしているお母さんのも とへ 再び現れたなお君は、なんと 別のパジャマに着替えて来たのでし た。 パジャマで朝食の話
弟は大笑い。 でもお母さんは口では言い返せないなお君 が、弟のことは許し、自分だけ着替えをさ せられた事に全身で抗議しているように思 えて衝撃を受けたのでした。 パジャマで朝食の話
なお君も思春期を迎え心の成長を 言葉ではなく自分なりの方法で周 りの人たちに伝えようとしている のです。 それもとびっきりのジョークで。 その日は 兄弟仲良くパジャマ姿 で朝ごはんをいただきました。 パジャマで朝食の話
PandA-J研究所 平成25年 4月発行 小さなピカソたちの夢