EBM 的検査法その1 :診断のために行なう検査

Slides:



Advertisements
Similar presentations
第6回 適合度の検定 問題例1 サイコロを 60 回振って、各目の出た度数は次の通りであった。 目の出方は一様と考えてよいか。 サイコロの目 (i) 観測度数 : 実験値 (O i ) 帰無仮説:サイコロの目は一様に出る =>それぞれの目の出る確率 p.
Advertisements

ベイズの定理と ベイズ統計学 東京工業大学大学院 社会理工学研究科 前川眞一. 2 Coffe or Tea 珈琲と紅茶のどちらが好きかと聞いた場合、 Star Trek のファンの 60% が紅茶を好む。 Star Wars のファンの 95% が珈琲を好む。 ある人が紅茶を好むと分かったとき、その人が.
回答と解説.
扁桃腺炎・咽頭炎.
誤診のすすめ 誤診は少ない方が良いのか?.
論文の書き方セミナー 第1回「日本語論文の書き方」
次ページボタン ではなく、 画面をクリックする 「PPT アニメーション機能」で ご覧下さい。
エビデンスとなる研究論文を検索・読解する必要があります。
第十七か ぐちとうわさ話.
田村謙太郎 ナショナルメディカルクリニック 信州大学総合診療科
THE CONTINUOUS IMPROVEMENT MODEL called ADEC
Chapter 11 Queues 行列.
全身倦怠感 全身倦怠感はさまざまな病気にみられます 疲れやすい… だるい…
Pattern Recognition and Machine Learning 1.5 決定理論
絶対だよ! 助動詞 must「~しなければならない」.
今、あなたの中からそんな声が聞こえたような気がします。
チュートリアルシリーズ 検索事例編③ 小児の頭部外傷 リスク評価について (CT検査は必要か?)
法数学勉強会(京大法医学講座) 2012/02/18 京都大学 統計遺伝学 山田
G: Objectives Can I read all the hiragana? Can I understand Japanese in a movie? Agenda A: Renshu N: らりるれろ、わをん A: Flashcards, えいが G: Can I test.
ベイズ的ロジスティックモデル に関する研究
骨折トレーニングの一歩.
DCC エボラウイルス病(EVD, エボラ出血熱) 対応フローチャート(テンプレート)
今は良いんだけど ③uAP  研修医.com.
深部静脈血栓症の診断.
虫垂炎 研修医.com       
第一回勉強会 ~風邪を正しく診断する~.
疫学概論 2段階スクリーニング Lesson 19. 評価の指標 §D. 2段階スクリーニング S.Harano, MD,PhD,MPH.
Study Design and Statistical Analysis
10.通信路符号化手法2 (誤り検出と誤り訂正符号)
The Sacred Deer of 奈良(なら)
On / in / at Honoka Tanno.
喫煙者は非喫煙者の2.42倍インフルエンザに罹患する 症状が重くなる確率は、非喫煙者30%、ヘビースモーカー54%
Chapter 1 Hamburger History
実はあなたもいつも使っている “事前確率”の話
モデリングシミュレーション入門(井庭崇)
疫学概論 感度と特異度 Lesson 19. 評価の指標 §A. 感度と特異度 S.Harano, MD,PhD,MPH.
ビールが飲みたくなる広告の研究と提案 井上拓人.
Evidence-based Health Care とは何か
チュートリアルシリーズ 検索事例編① レストレスレッグス症候群 (下肢静止不能症候群:RLS)
疫学概論 適中度と尤度比 Lesson 19. 評価の指標 §C. 適中度と尤度比 S.Harano, MD,PhD,MPH.
疫学概論 適中度と尤度比 Lesson 19. 評価の指標 §C. 適中度と尤度比 S.Harano, MD,PhD,MPH.
副鼻腔炎.
2004 WFDSA Direct Seller Survey Research Deck Taiwan
Travel by bicycle.
EBMのための 確率・統計.
2016年度日本疫学会スライドコンテスト受賞作品
ゲノム科学概論 ~ゲノム科学における統計学の役割~ (遺伝統計学)
第24回応用言語学講座公開連続講演会 後援:国際言語文化研究科教育研究プロジェクト経費
There is/are X (living thing)
法数学における ベイジアンネットワーク(2) ~成書で学ぶ~
疫学概論 感度と特異度 Lesson 19. 評価の指標 §A. 感度と特異度 S.Harano, MD,PhD,MPH.
検査に関するお知らせ Vol.4-1) 試薬変更について 単純ヘルペスIgMの試薬変更について 日々、変化する検査について、お知らせします
自信の家庭と比較しながら ドラマを視聴してください。
クラスター(集団発生)サーベイランスについて
内科ないか? 〜精神科コンサルト前に〜 沖縄県立中部病院ER 岡正二郎.
Term paper, report (2nd, final)
疫学概論 2段階スクリーニング Lesson 19. 評価の指標 §D. 2段階スクリーニング S.Harano, MD,PhD,MPH.
Tag question Aoyama Shogo.
「お薬手帳」推奨会話 事例集! ~安全な薬物治療を目指して~
親子鑑定に見る尤度比を 角度を変えて眺めてみる
東北大 情報科学 田中和之,吉池紀子 山口大 工 庄野逸 理化学研究所 岡田真人
アルゴリズムとデータ構造 2011年6月16日
~て しまう.
問診のポイント.
アルゴリズムとデータ構造 2013年6月20日
癌 - その発見 鍼灸師もチームに参加 抄録のタイトル:鍼灸師もチームに参加を
疫学概論 §C. スクリーニングのバイアスと 要件
ガウシアングラフィカルモデルにおける一般化された確率伝搬法
確率と統計 年1月7日(木) Version 3.
誰も言わなかったが、実は誰もが知っている
Presentation transcript:

EBM 的検査法その1 :診断のために行なう検査 「念のため」は意味有るか?

インフルエンザの迅速診断についてEMB的に考えてみましょう

症例 18歳男性 昨夜から咳があるためインフルエンザを心配して来院。小脇にマンガを抱えてジュースを飲みながら母と一緒に診察室に入ってきた。 ー11月初旬、現在インフルエンザ流行の兆しはないー 症例 18歳男性 昨夜から咳があるためインフルエンザを心配して来院。小脇にマンガを抱えてジュースを飲みながら母と一緒に診察室に入ってきた。

現病歴 昨夜からの咳(というが見てても一向に咳をする気配なく漫画を読んでいる) 発熱なし、全身倦怠感なし、食思不振なし 頭痛なし、咽頭痛なし、関節痛なし、

理学所見 咽頭やや発赤 呼吸音異常なし その他とくに所見なし。

診察が終わるといきなり母が話し始めた この子インフルエンザのワクチン受けてないんです。明後日に大学の推薦入学の試験があるんです。インフルエンザだと大変だと思ってきたんですが・・・ 何とか検査っていうすぐ分かる検査があるそうですね。ぜひその検査をしてください。

つづき (絶対違うと思うけどなー)と思いつつもインフルエンザ迅速検査を行ったところ・・・ なんと「陽性」だった!!

それではEBM的にこの患者さんのインフルエンザの確率を調べてみましょう!! 迅速検査が一体どのくらい正しいのか分からないと、判断できません。 Up To Date で調べてみましょう!!

UpToDateでは・・・ 感度 :72〜95% 特異度:76〜84% Rapid diagnostic tests:The sensitivity and specificity of these rapid tests have been compared to the reference standard of viral culture. One study using throat swabs directly compared Directigen Flu A, FLU OIA, Quick-Vue Influenza Test, and ZstatFlu Test to viral culture in children with influenza-like illness [33]. Influenza A was demonstrated in 49 percent of the patients; 17 percent of the cases were detected by viral culture only. Sensitivity of the four tests ranged from 72 to 95 percent and specificity from 76 to 84 percent. The ZstatFlu test had a significantly lower sensitivity than the other tests. 感度 :72〜95% 特異度:76〜84%

感度と特異度 a b c d 疾患(+) 疾患(-) 検査(+) 検査(-) 今回は検査(+)のときに、疾患(+)である確率だから・・・ 感度= a / a+c 特異度= d / b+d 今回は検査(+)のときに、疾患(+)である確率だから・・・ a / a+b を求めればよい!?

ということは・・・ 72 24 28 76 陽性検査的中率=72 / 72+24 = 0.75 疾患(+) 疾患(-) 検査(+) 感度 :72〜95%  特異度:76〜84% から仮に悪い方をとると・・・ 疾患(+) 疾患(-) 検査(+) 72 24 検査(-) 28 76 感度= a / a+c 特異度= d / b+d 陽性検査的中率=72 / 72+24 = 0.75

インフルエンザの可能性75%!!! お母さん、検査の結果お子さんがインフルエンザである可能性は75%です。 お薬を飲まれた方が良いと思われます。 ここまでのやり方は全くEBMに反するもの!!! 似て非なるもの・・・ 以上の考察中には患者である「少年の情報」が全く含まれていない。すなわち、75% は検査の性能を表す数値であって、少年がインフルエンザである確率ではない。

それでは EBM 的検査法の実際とは?・・・ この少年がインフルエンザである可能性を数字で表していきましょう!!

この時点で この患者さんがインフルエンザである可能性は? H&Pが終了した段階では、インフルエンザを疑う所見は無かった。 この時点で この患者さんがインフルエンザである可能性は? ?% これを「事前確率」といいます

この時点で この患者さんがインフルエンザである可能性は? 迅速キットの結果「陽性」だった この時点で この患者さんがインフルエンザである可能性は? ?% これを「事後確率」といいます 知りたいのは「迅速キットの性能」ではなく、 事後確率!!!

事前確率はどう求める? 疾患によっては症状から事前確率がエビデンスとして出されている*のでこのような情報は積極的に利用する。 (Evidence-Based Physical Diagnosis Steven R. McGee など) しかし、 多くの場合、H&Pと臨床医の経験から判断するしかない。 即ち、 事前確率=臨床判断能力

事後確率はどう求める? 事前オッズ×尤度比=事後オッズ これを「ベイズの定理」といいます おっず??? ゆーどひ???

オッズとは? 確率=ある事象/全事象 オッズ=ある事象/そうでない事象 確率 1/3 → 確率 1/10 → オッズ 1/2 → 確率  1/3 → 確率  1/10 → オッズ 1/2 → オッズ 3  → オッズ 1/2 オッズ 1/9 確率  1/3 確率  3/4

尤度比とは 検査所見陽性によって疾患を持つ可能性がどれほど高まるか 「陽性尤度比」=感度/(1−特異度) 感度・特異度を調べた文献から引用する。 <参考>  陰性所見によって疾患をもつ可能性がどれほど低まるか 「陰性尤度比」=(1−感度)/特異度

少年がインフルエンザである確率は? 事前確率:ほぼ疑ってない=1% とする 事前オッズ:1/99 仮にUp To Date の悪い値をとる*と・・ 感度 0.72 特異度 0.76 陽性尤度比=感度/(1−特異度)       =0.72/(1−0.76)=3 *これも EBM の1つの手法。文献の発信者にもよるがメーカーであれば極力良いデータとするはず。 中央値をとるのも1つの手法

事後確率を求める インフルエンザである確率は僅か3%! 陽性尤度比 3 事後オッズ=事前オッズ×尤度比 =1/99 × 3 =1/33 陽性尤度比 3 事後オッズ=事前オッズ×尤度比       =1/99 × 3       =1/33 事後確率 =1/34=・・・3% 迅速キット陽性でも・・この少年が インフルエンザである確率は僅か3%!

検査の最終結果 迅速キットを行ないこれが陽性であったことを加味しても、少年はインフルエンザでは無い確率の方が遥かに高い。 迅速キットはこの少年に対して用いてもインフルエンザを診断する検査としては殆ど役に立たないことが分かった。

復習1 事前確率が10%で感度・特異度ともに90%である検査が陽性であった場合の事後確率は? 事前確率=1/10 事前オッズ=1/9 陽性尤度比=感度(1−特異度)=0.9/(1-0.9)=9 事後オッズ=事前オッズ×尤度比=1/9×9=1 事後確率=1/2=50% 診断に迷ってないときに「いい検査」をするとかえって迷うことにしかならない。

復習2 事前確率=3/5 事前オッズ=3/2 陽性尤度比=感度(1−特異度)=0.9/(1-0.9)=9 事前確率が60%で感度・特異度ともに90%である検査が陽性であったとき事後確率は? 事前確率=3/5 事前オッズ=3/2 陽性尤度比=感度(1−特異度)=0.9/(1-0.9)=9 事後オッズ=事前オッズ×尤度比=3/2×9=27/2 事後確率=27/30=9/10=90%  臨床判断で方向性がついている場合は、検査は強力な武器になる。(可能性あると思うんだけど、ちょっと自信無いというときこそ検査の意味がある)

どの程度疑ってたら検査すべき? 実際には感度・特異度ともに90%などという良い検査法はなかなかない。 かなり良い検査で感度・特異度ともに80%であったとしても、 事前確率が 25% であるときに、検査陽性の際の事後確率は・・ 事前確率=1/4 事前オッズ=1/3 陽性尤度比=感度(1−特異度)=0.8/(1-0.8)=4 事後オッズ=事前オッズ×尤度比=1/3×4=4/3 事後確率=4/7=57%  とやっと半分以上の確率となる。 一般論的には、疑っている確率が 25% 以下の場合はかなりいい検査でも、行なうとかえって誤診する確率の方が高くなってしまう。

わかったこと ・十分に臨床判断ができているときは、どんなに良い検査であっても誤った臨床判断を訂正するための手だてにはならない。 ・「念のため」「とりあえず」といった検査の手法は意味が無いばかりか、誤診の可能性につながり有害といえる。

かの有名な 「COPE’S Early Diagnosis of the ACUTE ABDOMEN」には 「Radiologic or ultrasonic examinations, CT, and the vast array of laboratory tests available to all of us today will not compensate for a poor or incomplete history and physical examination.」とある。 まさに、事前確率が低ければ、いい検査しても役に立たないよ!ということか・・