6: 失業とインフレーション/デフレーション

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終章 結論~迷走する経済学~ E班 堀口・石川・細野・武井・赤見・伊藤 デフレの原因はマネーサプライでもない!人工減少でもな い!ではデフレの正体は何か … この章ではその正体を含め、歴史的に見る経済低滞とデフレ の関係性、デフレの害悪、そして現在の経学の現状について も論じていく。 1.
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国民所得 エンゲル係数:生活費に占める食事の割 合 所得の増加と逆に動く指数 食費:所得が増加してもそれほど増えな い なぜなら 娯楽費:所得が増加すると増加する このエンゲル係数を国際比較すれば、各国の生活水準を比べることができ る しかし ある国の衣服費だけ上昇したとする 生活費は上昇する、が、食費は上昇しないエンゲル係数は低下する.
1 II マクロ経済学のデータ. 2 第5章 国民所得の測定 マクロ経済学とは 国内総生産 = GDP ( Gross Domestic Product ) – 社会の経済的福祉を測定する尺度の1つ ミクロ経済学とマクロ経済学の違いについては、 pp. 40 – 41 も参照.
需要と供給. 需要と供給の概念 需要:ある財の価格の下で、消費者が買 いたい(消費したい)と思う量。 (注意:実際に買った量だとは限らない) 供給:ある財の価格の下で、企業が売り たいと思う量。 (注意:実際に売った量だとは限らない)
貨幣について. 講義概要 貨幣の概念 名目と実質貨幣ストック 貨幣に対する需要 政府による金融政策.
マクロ経済学の基礎 1. マクロ経済の循環 1. 貯蓄の無い経済 2. 貯蓄・投資の存在する経済 3. 政府の存在・開放経済 2. 重要なマクロ変数 1.GDP ,失業率,物価 3. マクロ経済の経験的事実.
金融経済論(小川英治) 1 貨幣の機能と貨幣需要. 金融経済論(小川英治) 2 貨幣の機能 計算単位(価値尺度) 交換される商品の価値をある貨幣の数量で 一元的に表示する機能 交換手段 貨幣がすべての商品と交換され、すべての 商品の交換の媒介となる機能 価値貯蔵手段 貨幣が一定の価値を少なくとも一時的に蓄.
GDPとは? GDP(Gross Domestic Product:国内総生産)
<ポイント> まずは、マクロ経済学の統計用語に慣れること!
マクロ経済学初級I 第6回.
丹野忠晋 跡見学園女子大学マネジメント学部 2006年11月16日
第1章 国民所得勘定.
ゲーム理論・ゲーム理論Ⅰ (第8回) 第5章 不完全競争市場の応用
第16章 総需要に対する 金融・財政政策の影響 1.総需要曲線は三つの理由によって右下がりである 資産効果 利子率効果 為替相場効果
購買力平価 MBA国際金融2015.
<キーワード> 景気循環 総需要・総供給モデル
購買力平価 一橋大学商学部 小川英治 マクロ金融論2016.
第2回講義 文、法 経済学.
5 国際貿易の構造と理論 ーーグローバル化と貿易理論ーー
経済学入門 13 丹野忠晋 跡見学園女子大学マネジメント学部 2010年7月26日
物価 モノの動き 輸出 輸出物価指数 輸入 生産 企業 CGPI 輸入物価指数 卸売 CGPI 小売 消費者 CPI.
<キーワード> 生産関数、労働、資本 限界生産物
前回分(第1章 準備,1-1):キーワード ・ 生産,分配,消費 ・ 市場と組織 ・ 競争市場と均衡 ・ 市場の失敗と政府の介入
第8回講義 文、法 経済学 白井義昌.
第7章 どのように為替レートを 安定化させるのか
(景気が良くなり)ハンバーガーの需要が拡大すると
短期均衡モデル(3) AD-ASモデル ケインジアン・モデルにおける物価水準の決定 AD曲線 AS曲線 AD-ASモデル
GDPに関連した概念.
国際経済の基礎2 丹野忠晋 跡見学園女子大学マネジメント学部 2007年10月11日
丹野忠晋 跡見学園女子大学マネジメント学部 2006年7月20日
III 長期の実物経済.
国際経済学 丹野忠晋 跡見学園女子大学マネジメント学部 2009年10月19日
第8章 開放マクロ経済学.
6: 失業とインフレーション/デフレーション
第4回講義 マクロ経済学初級I  白井義昌.
<キーワード> 景気循環 総需要・総供給モデル
2.需要と供給.
マクロ経済学 II 第10章 久松佳彰.
マクロ経済学初級I 第4回.
マクロ経済学初級I 第5回講義.
第4章 投資関数.
国際経済学10 丹野忠晋 跡見学園女子大学マネジメント学部 2010年1月18日
生産要素への需要と生産要素価格: 労働市場・資本市場・土地の市場
経済学とは 経済学は、経済活動を研究対象とする学問。 経済活動とは? 生産・取引・消費 等 なぜ、経済活動を行うのか?
国際貿易の外観.
市場経済 商品を買 いたい人 商品を売 りたい人 市場 (いちば) 外国と交易し, 商品範囲を広げる 商人は 利得を拡大 客の要望 が増大.
デフレ・スパイラル 2009年以降の事例から 長谷川 正
2008年までの好景気がつづいた 世界経済が現在同時不況 日本経済?
経済原論IA 第5回 西村「ミクロ経済学入門」 第5章 消費者需要理論の応用と拡張 京都大学経済学部 依田高典.
第10回講義 文、法 経済学 白井義昌.
貨幣の流通速度 貨幣が平均して1年間にいくつの経済主体 の間を移動するのかを表わす MV=取引総額(年間) Vは流通速度あるいは平均回転率.
V. 開放経済のマクロ経済学.
VI 短期の経済変動.
V. 開放経済のマクロ経済学.
第8回講義 マクロ経済学初級I .
経済学入門 13 丹野忠晋 跡見学園女子大学マネジメント学部 2010年7月26日
物価指数とデフレーター(deflator)
GDPで読み解く世界経済 跡見学園女子大学 山澤成康.
© Yukiko Abe 2014 All rights reserved
16.独占的競争.
産業組織論 10 丹野忠晋 跡見学園女子大学マネジメント学部 2016年1月14日
循環構造 民間部門経済循環の流れ circular flow 家 計 企 業 (価格メカニズム) 市場機構 が働く p p 消費財市場 y
© Yukiko Abe 2014 All rights reserved
第6章 生計費の測定 生計費=生活費(cost of living) 生活水準の比較
マクロ経済学初級I タイプIIクラス 白井義昌
労働市場 国際班.
古典派モデル(1) 基本モデル 生産要素市場の均衡(労働市場,資本市場) 生産関数 消費関数,投資関数 財市場の均衡 政策の効果
第9回講義 マクロ経済学初級I タイプIIクラス.
第6章 デフレの鍵は賃金 ー「なぜ日本だけが?」の答え
12章 貨幣量の成長とインフレーション 1.インフレーションの古典派理論 物価水準と貨幣の価値は逆数の関係
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6: 失業とインフレーション/デフレーション インフレーションとデフレーション インフレーション(inflation):「一般物価水準」の持続的な上昇のことを意味する。 デフレーション(deflation):「一般物価水準」の持続的な下落のことを意味する。 「一般物価水準」は全ての財・サービスの価格を指すが,「全て」の財・サービスの価格を調べることはできないから,実際には代表的な財・サービスの価格を集計した価格指数(price index)によって,「一般物価水準」の変化を測っている。 代表的な価格指数 卸売物価指数(wholesale price index: WPI):工業製品,農水産物,鉱産物など「企業間で取引される全ての物的商品の価格を集約的に捉える」ことを目的とする価格指数であり,サービスは含まず,製造業の製品(中間投入財を含む)・原材料の比重が大きい。 卸売物価指数は日本銀行が作成されていたが,2002年12月から名称を変更して,企業物価指数(corporate price index : CGPI) に移行した。 (詳細は日本銀行のホームページを参照,WPI,CGPI) マクロ経済学(Ⅱ)

6: 失業とインフレーション/デフレーション インフレーションとデフレーション 代表的な価格指数 卸売物価指数(wholesale price index: WPI):工業製品,農水産物,鉱産物など「企業間で取引される全ての物的商品の価格を集約的に捉える」ことを目的とする価格指数であり,サービスは含まず,製造業の製品(中間投入財を含む)・原材料の比重が大きい。 卸売物価指数は日本銀行が作成されていたが,2002年12月から名称を変更して,企業物価指数(corporate price index : CGPI) に移行した。 (詳細は日本銀行のホームページを参照,WPI,CGPI) 消費者物価指数(consumer price index):消費者が購入する多数の商品・サービスの価格を代表する指数である。約3分の1が食料(外食も含む),その他に家賃,光熱費,医療費,交通・通信費,教育費,娯楽費などサービスの価格が半分のシェアを占めている。 (詳細は総務省のホームページを参照,CPI) WPI,CPIは共にラスパイレス指数である。含まれる財・サービスの構成を基準時点で固定され,それをバスケットとして集計に利用される。 マクロ経済学(Ⅱ)

6: 失業とインフレーション/デフレーション インフレーションとデフレーション 代表的な価格指数 企業物価指数 CGPI 消費者物価指数 CPI CPIの上昇は大きい。 73-74年と79-80年の2回のオイル・ショックを受け,CPIとCGPIは急上昇した。 90年代以降デフレ傾向が続いていた。 〔資料〕 総務省 「消費者物価接続指数総覧」,「消費者物価指数月報」 日本銀行ホームページ 「統計 物価関連統計 企業物価指数(時系列データ)」 マクロ経済学(Ⅱ)

6: 失業とインフレーション/デフレーション インフレーションとデフレーション 代表的な価格指数 GDPデフレーター(GDP deflator): (パーシェ指数) GDPデフレーター = 名目GDP / 実質GDP = GDPデフレーターとCPIの違い: ① GDPデフレーターは国内で生産されたすべての財・サービスの価格を反映するのに対して,CPIは消費者が購入された財・サービスの価格を反映する。それゆえ,企業や政府によって購入された財・サービスの価格はGDPデフレーターに含まれるが,CPIには反映されない。逆に,海外からの輸入された財の価格はGDPデフレーターに含まれないが,CPIに反映される。 ② GDPデフレーターの算出に用いられる財・サービスのグループは時間を通じて自動的に変化するに対して,CPIの算出に用いられる消費財バスケットはあまり変化しない。 (詳細は内閣府のホームページを参照,GDPデフレーター時系列) マクロ経済学(Ⅱ)

6: 失業とインフレーション/デフレーション インフレーションのもたらす「害悪」 ハイパー・インフレーション(hyper-inflation):物価上昇率は天文学的な水準に達するような超悪性インフレーションのことをいう。この背後には「財政破綻」があることが多い。経済システムへの重大な脅威である。 緩やかなインフレーション:全ての財・サービスの価格が同率で上昇するのであれば,インフレーションの「害悪」はそれほど大きなものにはならない。現実には全ての財・サービスの価格が同率で上昇することは不可能である。これによって,「得する人/企業」と「損する人/企業」を必ず生み出す。実質資産を債権者から奪い,債務者へと再分配する。(例えば,年金の受給者はインフレーションにより損失を被る。) 緩やかなインフレーションやデフレーションのもたらす害悪は,正当化することのできない所得/資産の再分配にある。 マクロ経済学(Ⅱ)

6: 失業とインフレーション/デフレーション インフレーションのもたらす「害悪」 名目利子率と実質利子率 名目利子率(nominal interest rate):「お金の利子率」である。現在の100円が1年後に103円になるのであれば,名目利子率は3%である。「お金とお金の間の収益率」を表す。 実質利子率(real interest rate):「物と物の間の利子率」,即ち「今日の財(現在財)と明日の財(将来財)の間の相対価格(交換比率)である。 数値例: 年始のリンゴ価格 P0=100円/個,年末のリンゴ価格 P1=105円/個, 債券の名目利子率 i=10% ,年始に1個のリンゴを持つ投資家がリンゴを100円に換金して債券で運営すると,年末に何個のリンゴが手に入るか。 1個+1個×r =1+r リンゴ 1個 110円/105円/個=1.05個 換金:P0=100円/個 リンゴ購入:P1=105円/個 債券 100円 100+100×10%=110円 年初 年末 マクロ経済学(Ⅱ)

6: 失業とインフレーション/デフレーション インフレーションのもたらす「害悪」 名目利子率と実質利子率 数値例: 年始のリンゴ価格 P0=100円/個,年末のリンゴ価格 P1=105円/個, 債券の名目利子率 i=10% ,年始に1個のリンゴを持つ投資家がリンゴを100円に換金して債券で運営すると,年末に何個のリンゴが手に入るか。 1+r=1.05=110/105=(100+100×10%)/105 1+r=100×(1+10%)/105 1+r=P0(1+i )/P1 実質利子率 1個+1個×r =1+r リンゴ 1個 110円/105円/個=1.05個 換金:P0=100円/個 リンゴ購入:P1=105円/個 債券 100円 100+100×10%=110円 年初 年末 マクロ経済学(Ⅱ)

6: 失業とインフレーション/デフレーション インフレーションのもたらす「害悪」 名目利子率と実質利子率 数値例: 年始のリンゴ価格 P0=100円/個,年末のリンゴ価格 P1=105円/個 債券の名目利子率 i=10% ,年始に1個のリンゴを持つ投資家がリンゴを100円に換金して債券で運営すると,年末に何個のリンゴが手に入るか。 1+r=1.05=110/105=(100+100×10%)/105 1+r=100×(1+10%)/105 1+r=P0(1+i )/P1 物価上昇率 非常に小さい マクロ経済学(Ⅱ) 実質利子率=名目利子率-物価変化率

6: 失業とインフレーション/デフレーション インフレーションの原因 不完全競争の下で,(独占)企業は限界費用が限界収入に等しくなるような生産水準と価格を決定する。 P=「マークアップ」×「製品1単位当りのコスト」 「製品1単位当りのコスト」=平均費用=(WL+PRR)/Y W:賃金 L:雇用量 PR:原材料価格 R:原材料投入量 Y:生産量 マークアップ:企業が製品1単位をつくり出すのに要するコストの何倍に価格を設定するかを表す比率であり,需要の価格弾力性に依存する。 規模に関して収穫一定の場合, 限界費用MC=平均費用AC 生産量 価格,費用 限界費用曲線 個別需要 曲線1 限界収入1 個別需要 曲線2 限界収入2 最適生産水準1 最適生産水準2 最適価格 マークアップ 需要の価格弾力性 マクロ経済学(Ⅱ)

6: 失業とインフレーション/デフレーション インフレーションの原因 不完全競争の下で,(独占)企業は限界費用が限界収入に等しくなるような生産水準と価格を決定する。 P=「マークアップ」×「製品1単位当りのコスト」 「製品1単位当りのコスト」=平均費用=(WL+PRR)/Y W:賃金 L:雇用量 PR:原材料価格 R:原材料投入量 Y:生産量 原材料が輸入品である場合,PR=ePR* となる。(PR*:ドル建原材料価格) 労働生産性 原材料生産性 マークアップを一定と仮定すると, W↑→P↑,PR*↑→P↑,e↑(円安)→P↑,(Y/L)↑→P↓,(Y/R)↑→P↓ マクロ経済学(Ⅱ)

6: 失業とインフレーション/デフレーション インフレーションの原因 不完全競争の下で,(独占)企業は限界費用が限界収入に等しくなるような生産水準と価格を決定する。 W:賃金 L:雇用量 PR:原材料価格 R:原材料投入量 Y:生産量 原材料が輸入品である場合,PR=ePR* となる。(PR*:ドル建原材料価格) マークアップを一定と仮定すると, W↑→P↑,PR*↑→P↑,e↑(円安)→P↑,(Y/L)↑→P↓,(Y/R)↑→P↓ p:物価の変化率 w:賃金の上昇率 pR*:国際市場ドル建原材料価格の上昇率 x:為替レートeの減価率 gL:労働生産性の上昇率 gR:原材料生産性の上昇率 a:総費用に占める人件費のシェア 1-a:総費用に占める原材料費のシェア マクロ経済学(Ⅱ)

a:総費用に占める人件費(WL)のシェア 1-a:総費用に占める原材料費(ePR*R)のシェア