「コミュニケーションを考える」 継続的キャリアアップを実現するための コミュニケーション支援 (小学部から就労までのシームレスな総合支援) 熊本大学 教育学部附属特別支援学校 主催 平成22年度文部科学省特別支援教育総合推進事業(9月3日) 「コミュニケーションを考える」 継続的キャリアアップを実現するための コミュニケーション支援 (小学部から就労までのシームレスな総合支援) 立命館大学 望月 昭 ブログ:「対人援助学のすすめ」
内容 Ⅰ.対人援助(Human Services)とは 「測る」「教える」「治す」ではなく「助ける=支援」 内容 Ⅰ.対人援助(Human Services)とは 「測る」「教える」「治す」ではなく「助ける=支援」 Ⅱ. 特別支援教育でいう「支援」とは? 「できる」とは? 「できる」=他立的他律ではなく他立的自律 Ⅲ.コミュニケーションが「できる」:他立的自律に向けて ①最重度の障害のある個人の自己決定 ②生徒の選択表明による問題行動へ対処 ③セルフマネジメントとしての自己評価という言語行動 Ⅳ.キャリア・アップという発想: 情報移行の重要性
Service Ⅰ.対人援助(Human Services)とは 御主人(当事者)が、好きな方向(自己決定)へ打つために最適なボールをあげる。 3
「対人援助」(Human Services)における 3つの作業 assist 1.援助 行動成立のための 「新たな」環境設定 advocate instruct 2.援護 3.教授 進歩するとは? 援助設定の定着のための運用(表現・要請) 個人の行動(反応)形成 望月昭(2007)編 「対人援助の心理学」(朝倉書店)
Ⅱ.特別支援でいう「支援」とは? 「支援」という概念 ●「教育」と異なるのか? 「支援」という概念 ●「教育」と異なるのか? ●ノーマリゼーションやインクルージョンといった理念は、どう反映されるか・・・・ ちなみに京都の総合支援学校のIEPは 「個別の包括支援プラン」と呼ばれる inclusive
従来の考え方 ●障害別(インペアメント)中心のグルーピングと 対処 ●障害別(インペアメント)中心のグルーピングと 対処 ●個人的単独能力(アビリティ)をボトムアップし て、障害の克服をはかる(障害のない状態に近づけ る)
総合支援 COMMUNITY ●地域社会の中で「他ならぬ一人」の人として ●学校・地域を含めた環境設定との関係や、その環境変更も伴う「行動の成立」を対象とする
「今できること」を設定したり、「今」に続く将来の「できる」を見出し、伝えること 支援の目的 「できる」を増やす 欠陥や「問題行動」に注目するのではなく、 ・ 個別の生徒において、 「今できること」を設定したり、「今」に続く将来の「できる」を見出し、伝えること 「できる」とは? 山本淳一 池田聡子
「できる」とは、何ができる? 通信簿の点数? IQ? 発達年齢? (個人属性や状態) ・“トータルな”人格的成長? 当事者(個別の生徒)にとって、 「今、やりたい行動」ができる 支援者の仕事: 当事者の「やりたい行動」の 選択肢を拡大していくこと
「できる」は発見されるもの? つまり「できる」は、皆で 創造するもの ある条件(支援)があれば(正の強化で維持される行動が)「できる」 ↓ ある条件(支援)があれば(正の強化で維持される行動が)「できる」 ↓ 「できる」は、援助つき(これがあれば=支援こみ)でかまわない つまり「できる」は、皆で 創造するもの
「援助」の内容 「援助」の設定: 機械的に論理的に決まるものではない。 先生の創意が必要。 1) 他の生徒と異なった形態を認める 「挨拶」ができない → 「靴をそろえる」 (いずれも社会的評価という結果を生み出す) 2) 現状では、完成基準を緩める(行動形成) 3) 必要な身体的・物理的な援助を加える(身体的プロンプト・支援ツール・AAC) 4) 当事者自身の「選択」を認める 「放任」とは異なる(谷:フェアなコミュニケーション参照) 「援助」の設定: 機械的に論理的に決まるものではない。 先生の創意が必要。
「これ」 (こんな条件)であれば 「できる」行動の表現方法 反応補助 先行事象 結果事象 反応 今、持っているレパートリーと揺らぎ この3つ(+反応補助)で 「できる」を表現 例:台本があれば、読み上げて、仕事完了
「できる」は単独能力ではない 自己決定 他者の指示 単独遂行 自立的自律 自立的他律 他立的自律 他立的他律 援助つき遂行 autonomy 自己決定 他者の指示 alone? 単独遂行 自立的自律 自立的他律 他立的自律 他立的他律 援助つき遂行 われわれ自身は、 どのように過ごしているか? これが ゴールか?
他立的他律から他立的自律へ 事例: 進行性の障害のある生徒に、電動車椅子での移動によるridingの楽しみを実現したい Lim Hyunjong・坂明恵・丹生卓也・中鹿直樹・望月昭(2009) 「重複障害児における電動車椅子の操作スキル獲得によるQOLの向上に関する考察」. 日本対人援助学会第1回大会 発表ポスターセッションWEB論文.15. http://humanservices.jp/pdf/15imu.pdf
「自動車教習所」のように電動車椅子運転を教える
課題 表1.訓練1の課題分析ステップ ステップ 1 ジョイスティックをつかむ。 2 ジョイスティックを倒す。 3 ぬいぐるみの前に行く。 4 ジョイスティックを戻す。 5 ジョイスティックを離す。 6 ぬいぐるみをとる。 7 8 9 課題提示者の前に行く。 10 11 12 ぬいぐるみを渡す。
成果報告会でのエピソード ●校長: 「この子が、ひとりで電動車椅子を使えるようになったら、どこへ行ってしまうか。そんな危ないことの指導を依頼した覚えはない」 ●学生: 「え!!」 ・自立=自律 という先入観(一般論?) ・援助つきの自律(他立的自律)による QOLの拡大(楽しみの拡がり)を。 必要なのは緊急停止用のキルスイッチ
「できる」は表現してナンボ 「できる」は皆が認めなければ意味がない ・ どうやって、どれくらいの教授で、できたか? 先の例:(安全確保の援助があれば)「自由」に ライディングができる。 ・ どうやって、どれくらいの教授で、できたか? (これまでにない)創造的な「できる」状況 定着のためには、関係者のコンセンサスと 申し送りが必要。 要請活動=「援護」が不可欠 ●学校での表現手段の例: 個別の教育支援計画(IEP)
「できる」を成立させ、進展する連環作業 assist 1.援助 「情報移行」(重要) advocate instruct 2.援護 3.教授 1.援助 行動成立のための 「新たな」環境設定 「情報移行」(重要) advocate instruct 2.援護 3.教授 進歩するとは? 援助設定の定着のための運用(表現・要請) 個人の行動(反応)形成 望月昭(2007)編 「対人援助の心理学」(朝倉書店)
Ⅲ.コミュニケーションが「できる」: 他立的自律に向けて コミュニケーション: 単に「ことば」を表出することではない。 「人を動かし、人に動かされる」という機能を持った「社会的行動」として成立させる必要あり。 話し手(生徒)単独の行動ではなく、聴き手(他の生徒・先生・保護者その他)との 共同行動
①最重度の障害のある個人の 「自己決定」
「やあ、いらっしゃい。 飲み物は何にしますか?」 自己決定? 「やあ、いらっしゃい。 飲み物は何にしますか?」
「自己決定」 (障害のある本人が)自らの環境設定や環境随伴性の変更について、社会成員にその実現のための援助を要求する社会的行動(コミュニケーション)である。 「単独」で行う行動ではない。
コミュニケーションとしての 自己決定の援助 コミュニケーションとしての 自己決定の援助 The proposal is to develop our sensitivity to the various forms of communication used by people with severe disabilities so that we may do more of what they want and impose on them less of what we assume they want or want them to want. Baer, D. M. (1998): Commentary: Problems in Imposing Self-Determination. JASH, 23(1), 50 - 52.
The proposal is to develop our sensitivity to the various forms of communication used by people with severe disabilities so that we may 彼らが望むことをするand彼らが望むと推測されることや、望むことそのものを押しつけないようにする。 Baer, D. M. (1998): Commentary: Problems in Imposing Self-Determination. JASH, 23(1), 50 - 52.
選択肢を押しつけない選択機会は、具体的にはどのように設定すればよいか? impose 選択肢を押しつけない選択機会は、具体的にはどのように設定すればよいか? 否定選択肢設定の導入について
選択肢提供者の予想を「裏切れる」選択肢 Choice option 1 Choice option 2 Rejection
「選択肢否定」は要求言語行動の機能の 条件でもある。(要求していないものが供給された場合に,「違います」という 否定の反応が出るか) Choice option 3 Choice option 4 Rejection
…..less of we want them to want 既存選択肢(選択機会自体)からの離脱 …..less of we want them to want 長期にわたる施設生活 聴覚障害の疑いあり JASH(1995) Nozaki & Mochizuki 食事・水分制限あり
Option 1 Option 2 Option 3 Rejection Nozaki & Mochizuki (1995)
②生徒の選択表明による 問題行動へ対処 金山好美・望月昭(2005) ADHD児における選択機会を伴う受容的環境の検討-逸脱行動に対する「行ってきますカード」手続きの効果-.日本行動分析学会第23回大会発表論文集,87.
事例3:金山・望月(2005)の研究 問題行動を抑えてから、自律的な行動の成立へ向かうのではなく、自律的(選択)行動を 認めることで、問題行動を減らしていく。 ●研究1:行動を丹念に記録することで、本人属性だけの問題ではないことを確認。 ●研究2:当事者の選択を認めるという 「援助設定」を導入することで状況打開
研究1 行動的アセスメントと教室環境での薬物療法ついて 研究1 行動的アセスメントと教室環境での薬物療法ついて 【目的】 通常学級に所属するADHD児の実態・経過を行動観察し、問題行動の機能分析を行うことを目的とした。 【方法】 週3回、3名が教員補助として観察を行った。
対象児 A児(7歳 男児) 入学時から多動な行動が見られた。 ・教室から逸脱する。 ・すぐに上半身裸になる。 ・水道の水を体にかける。 逸脱時は「保健室」に行く。 行き先は告げていかない。 「国語」「算数」はできる。 10月に医療機関で「ADHD傾向の疑い」と受診される。
授業内容によって差がある (重要な分析) 図2 時間帯による授業参加 図3 教科別授業参加率 「個人属性」ではない → 対処可能性を示す
【結果】 図1 教室在室率
研究2 逸脱行動に対しての「いってきますカード」導入の効果 【目的】 薬物療法で参加率を上げる事が難しくなった対象児に対して、対象児に行動の選択機会をあたえ、教室での参加・行動変容の検証を行った。 【方法】 リタリンの処方で授業参加が可能になっていたが、2年時2学期から教室からの逸脱行動が頻繁になった。 そこで,教室を出る場合は,「行き先カード」を残し,タイマーを持って出かける.定時に帰室し「記録」を書く.
【結果】 図5 教室滞在率と行動観察結果
1)周囲も認めることのできる、 「今」できる援助設定を設定 2)当事者の「選択機会」を導入する 1)周囲も認めることのできる、 「今」できる援助設定を設定 2)当事者の「選択機会」を導入する それには、周囲の協力が不可欠 「援護活動」(情報移行)が前提となる 情報共有のための「援助設定」必要 IEPは、そのためにある。
③セルフマネジメントとしての 「自己評価」という言語行動 太田隆・稲生ゆみ子・松田光一郎・望月昭 (2008). 「総合支援学校高等部生徒の職場体験実習における機能分析とセルフ・マネ-ジメント行動の獲得に向けて」. 立命館大学人間科学研究.17.107-115.
「できました」という言語行動 セルフ・マネジメント(自己管理)のひとつ: 単独でやる(自立)という意味ではなく、 自分で、自分の仕事を楽しくするための行動 (自分の行動の手がかりを自分で創る) 企業の例:カイゼン 「できました」 自らの行動を、自分で言語的に評価するという行動
課題分析表:「Hの家」脱衣所清掃の例
ここで問題が生じた! A君は、いちいち職員やジョブコーチに、作業を確認して時間をくってしまう。 そのくせ、細かい仕上げ(鏡の曇り、床のチリが残る)ができない。 ●課題分析表のみなおし? 1)もっと細かい「課題」に別けて行う? 2)視力検査をする?
機能分析の結果 「自分で自分の仕事の完成度を評価する」 仕事遂行の後のこの機能の欠如があった。 これは当事者の能力(自立)問題ではなく、 仕事遂行の後のこの機能の欠如があった。 これは当事者の能力(自立)問題ではなく、 支援の結果として、自律力を奪ってしまっていた可能性あり。
自己チェック表という援助
他者への確認行動の減少 B君の報告・確認行動は、図1のチェックリストが無いときは平均18回であったが、B条件でチェックリストに自分で記入するようになったら平均4回に減少した。
作業達成の変化 B条件「チェック表有」 A条件「チェック表なし」 A条件 ○ B条件ではA条件と比較してB君の課題達成率が上昇した。これはB君自身 が確認することを促す作業チェック表を用いることで、作業の完成度が高くなった ためであると考えられる。
「できました」という言語行動が、自らの行動の評価の報告ではなく、「ともかくやったので、見てください(評価してください)」の機能になっていた。 「自立」の実現を焦るなかで、「自律」が損なわれる可能もある。 → 「決められない」「指示待ち」の状況 これは、特別支援だけではなく、一般の中学や高校、さらには、大学でもそうではないか?
Ⅳ.キャリアアップという発想 企業からの意見 ●「100%就労を目指すのか、当事者のQOL拡大を 目指すのか?」 ●「完成された生徒を期待しているわけではない」 ●「もっと先生の『御苦労』を知りたい」 (一点突破の)「就職試験支援」ではなく、 「継続的(就労)支援」へ ・在校中の「できる」の支援過程を、どのように継続的に「情報移行」していけるか
移行時だけではなく、継続的な 「できる」を語り継ぐ必要あり 支援プランの書き換え(更新): ○学校でどれほど生徒の「できる」を丁寧に辿ってきたかの証明。 ○支援者自身、保護者、そして移行先の関係者 (就労先関係者)が、当該生徒に対して、 さらなるキャリア・アップのための行動をすることを 勇気づけるものでなくてはならない。
キャリアアップ: 当事者の参加による 「行動選択肢の拡大」 実践からの確認 就労・進学 就学 今 実践 「できる」の変遷 移行支援 キャリアアップ: 当事者の参加による 「行動選択肢の拡大」 実践からの確認 時間(年月)
従来の支援内容(情報移行)の問題 目標(ノルマ)があり、それに不足した部分を 「課題」として残す(「引き算」の支援評価) 目標(ノルマ)があり、それに不足した部分を 「課題」として残す(「引き算」の支援評価) 「何ができるか」は記録しても、 ・何があったら(援助)、 ・どうやったら(教授)それができるようになったか、という記録がない 「できやすくする」ように、自分で環境を変えるスキル(セルフ・マネジメント)を教えない 「生徒を伸ばす」ことが担任の個人的で職人的技術に任されている 情報を蓄積し、移行する方法(伝統)がない?
FA宣言とキャリア・アップ 生徒は、FA宣言をした野球選手のようなものである。 選手のキャリアアップをはかる作業である IEPとは、「選手」を高く売り込むための、そして異動後のキャリア・アップを促進する「売り込み書類」である