ロールシャッハ・テスト技法の 使用実態と意識について

Slides:



Advertisements
Similar presentations
携帯電話・PHSのリサイクルに関する アンケート調査結果 添付資料1 電気通信事業者協会 情報通信ネットワーク産業協会 調査協力会社:株式会社マクロ ミル.
Advertisements

1 STAS-J 導入プロセスと 看護師への影響 宮城千秋(沖縄県立精和病院) 神里みどり(沖縄県立看護 大学)
地方自治体による 住民意識調査の回収率の動向 山田 茂 2009 年 5 月 9 日 経済統計学会 関東支部 1.
はじめに 近年、飲酒が関与する重大な交通事故が発生しており、未成 年の時からのアルコールについての正しい教育がより重要と なってきている。 タバコは学校において健康被害等の防煙教育が徹底されてき ているが、アルコールは喫煙と異なり健康を促す側面もあり全 否定できないため防酒教育導入の難しさがある。しかし、一方.
平成 15 年度エネルギー教育調査普及事業 研究活動報告 名古屋工業大学エネルギー教育研究会 高校生のエネルギー・環境についての 意識に関するアンケート調査 高校生のエネルギー・環境についての意識に関するアンケート調査.
神奈川県理学療法士会における 自宅会員及び休会会員に対する就業に関する アンケート調査 公益社団法人 神奈川県理学療法士会 会員ライフサポート部 ○ 西山昌秀,寺尾詩子、清川恵子、大槻かおる、萩原 文子 大島奈緒美、杉山さおり,久保木あずみ.
高等教育機関における軽度発達障害学生の支援について(2) 関東1都3県の大学・短期大学に対する2次調査の結果より
「ストレスに起因する成長」に関する文献的検討
心理検査の持ち帰り実施が 結果に及ぼす影響について
日本理学療法士協会会員を対象とした 託児室設置に関するアンケート調査
学習動機の調査 日下健 西原直人 津川眞希 吉田優駿 山下剛史.
小樽観光アンケートの分析について まず、基本情報について
包括システムによる日本ロールシャッハ学会 JRSC連続講座2013
当院における糖尿病患者の 自己効力に関する調査
企業における母性健康管理体制の現状と課題についてお話いたします。
■ 基本サービスについて TMS A 医療安全に関する意識調査 B 会員専用ホームページの閲覧 C ■ 基本サービスについて 職員500名までを対象に医療安全に関する意識調査を実施 A 医療安全に関する意識調査 職員の意識を継続的に把握することは、日頃の医療安全活動の進捗を把握するために大変有用です。
国内線で新千歳空港を利用している航空会社はどこですか?
水利用者の行動変容に関する 調査・研究 熊本大学 地域公共政策研究室
市場調査の手順 問題の設定 調査方法の決定 データ収集方法の決定 データ収集の実行 データ分析と解釈 報告書の作成.
1日目 10:25 【演習】 情報の収集とチームプレイの基本 -オリエンテーション- 松本 亜希子 障害者支援施設 虹の家.
相互評価システムの開発と大学情報科目における利用 柴田好章(名古屋大学大学院) 小川亮(富山大学教育学部)
自動車運転事故防止教育 九州大学大学院 システム情報科学研究院 志堂寺 和則.
パーソナリティの他者への投影は どの程度生じるか
がんと就労 資料1 山内班計画 がん診療連携拠点病院等 【課題】 【課題】 就労や職場の現状、法律に関する知識なし
4.「血液透析看護共通転院サマリーVer.2」 の説明
創立20周年記念事業 介護福祉士を取り巻く環境とニーズに関する調査
 女性支援ワーキンググループは、日本臨床検査医学会において女性が活動しやすい環境を提供するための方策を調査する目的で、学会員を対象にアンケート調査を行い(2015年2月)、265名より回答を得ました(回答率10%)。  ご協力をいただきました会員各位に深謝するとともに、本アンケートで寄せられた意見を今後の活動に生かしてまいります。
第21回 Southern Night Seminar アンケート集計結果
はじめに 糖尿病の患者数も予備軍を含めて1600万人と増加しており、一方糖尿病専門医は3000人あまりとその診療能力には限界があります。糖尿病療養指導士はそのような中で必要不可欠な存在ではありますが、その資格の位置づけなど問題もあります。 現在約1万人の糖尿病療養指導士が活躍しており、第1回資格取得者は4年目を迎え5年の任期を目前とし、資格更新のために努力していると思われます。
平成25年度 小平市がん検診受診率向上事業.
家族の介護負担とメンタルサポート (part II)
大学での講義中の スマートフォンの私的使用 ―その頻度と内容-
若者はいま -新しいライフスタイルを求めて- 労働調査協議会
統計リテラシー教育における 携帯端末の利用
直接金融と間接金融 ~今後日本はどうなるか~
バウムテストにおける5枚法 に関する基礎的研究
健やか親子21中間評価のための 母性健康管理指導事項連絡カード認識率調査 ~自由記載分析~
2009年度卒業研究発表会資料 excelによるデータ分析手法を研究 氏名:荒尾 直也 ゼミ名:飯田ゼミ.
Webで恋愛の類型を測り集計しレポートにまとめる
女子大学生におけるHIV感染症のイメージと偏見の構造
アンケート調査結果よりわかった主なポイント・協議会での委員の意見
少人数職場の実態調査 アンケート結果 要約  群馬県理学療法士会(以下、県士会)所属の理学療法士が勤務する少人数職場( 理学療法士2名以下の職場)への支援体制づくりのための実態調査を目的としてアンケート調査を実施した。  アンケート回答率は40%(30/75施設)であり、ブロック別回答率は北毛ブロック76.9%であり、その他のブロックは20~40%程度であった。
ドローン(UAV)とPhotoScanを用いた 3次元データの作成・活用及び業務 対策セミナー アンケート集計
第12回 介護福祉士の就労実態 と専門性の意識に関する調査 平成29 年(2017年) 3 月
看護管理学特論 救急・集中治療領域における家族看護
MPIによる行列積計算 情報論理工学研究室 渡邉伊織 情報論理工学研究室 渡邉伊織です。
○坂下正幸(びわこ学院大学教育福祉学部) 徳永喜久子(ハーネスト唐崎)
出発点となる2つの問い 概念化 1つめの問い 「(自立生活)能力の有無」を軸にして、なぜ位相の異なるQOL観が並列的に位置できているか(例えば「寝たきり老人」「認知症高齢者」における違い) 2つめの問い 昨今、「QOL」が数値化されているが、そもそも主観を尺度化できるのか 尺度化.
女性活用の「組織」「自分」へのメリットを理解する
メンターチームによる初期研修について 1 現在の課題 国の方向性
教育センターにおける エネルギー環境教育講座実施の実態 ( 川村先生)
ルーブリック・チャート(評価) の活用と課題
(C)2011女性にやさしい職場づくりナビ.
健診当日におけるオプション追加のメリット
在宅医療・介護多職種連携協議会 多職種連携・情報共有システム部会
STAS-Jでの情報収集に困難を感じるのはケアの困難さと関連があるのか
筑波メディカルセンター病院 緩和ケア病棟 佐々木智美
理論研究:言語文化研究 担当:細川英雄.
1.因子分析とは 2.因子分析を行う前に確認すべきこと 3.因子分析の手順 4.因子分析後の分析 5.参考文献 6.課題11
1日目 10:25 テキストp.◯ 【演習】 情報の収集とチームプレイの基本 -オリエンテーション- 松本 亜希子 障害者支援施設 虹の家.
松山大学学生意識調査 ~一般基礎演習と経済基礎演習は必要なのか~
事前指示書作成における当院血液透析患者の現状意思調査
呂 雷寧 RO, Rainei (上海財経大学 外語学院・ 常勤講師)
MPIを用いた並列処理計算 情報論理工学研究室 金久 英之
看護学生への喫煙教育による認識の変化からみた禁煙支援
情報処理技法(リテラシ)II 第1回:オリエンテーション 産業技術大学院大学 情報アーキテクチャ専攻 助教  柴田 淳司 パソコンの基本操作.
入門会計学 第1章 会計学の意義 .
第2回実務者会議の議論を受けた検討 資料14 1 第2回実務者会議での議論の概要 (○:有識者意見、●:関係府省意見) 1
話し言葉における「け(れ)ど(も)」の使用 ―「が」との比較を通じて― 1.研究目的及び研究方法 ◆研究目的
論文紹介 大学生はインターンシップをどのように認識しているのか?
Presentation transcript:

ロールシャッハ・テスト技法の 使用実態と意識について 使用実態と意識について       丹治光浩(花園大学) 松本真理子(名古屋大学)

目的 ロールシャッハ・テストは世界的に広く用いられている心理検査の一つで、その実施法・解釈法については従来からさまざまな技法が提唱されている。 本研究は、わが国の臨床場面において使用されているロールシャッハ技法の実態とそれに対する臨床家の意識について調査し、ロールシャッハ・テスト教育の今後の方向性を検討することを目的としている。

  方法 (1)調査対象は、日本ロールシャッハ学会,および包括システムによる日本ロールシャッハ学会の名簿から無作為抽出した588名で、無記名の郵送法で行った。調査期間は2012年2月~3月であった。 (2)調査内容は、最初に学んだロールシャッハ・テスト技法、現在使用しているロールシャッハ・テスト技法、使用技法変更経験の有無とその理由、解釈に用いる分析内容、使用頻度の高いその他の投映法検査などの計12項目であった(別紙)。

 結果1 (1)405名から回答が得られた(回収率68.9%)が、そのうち回答に不備があった4名を除外し、最終的には401名の結果を分析の対象とした。回答者の内訳は、男性149名(37%)、女性252名(63%)で、平均年齢は43.1(SD10.1歳)であった。回答者の臨床歴は、平均17.0年(SD10.1年)であった。 (2)回答者の所属は、図1のように医療機関が最も多く209名(49%)、次いで司法・矯正が77名(18%)、教育(教員)が61名(14%)、福祉41名(10%)、教育(SC)が33名(8%)、開業7名(2%)となっている(福数選択可)。

結果2 (3)回答者のテスト歴は図2に示した通り、初心者からベテランまで全体にバラついているものの、11年~15年の中堅が最も多く、平均値は約15年となる。 (4)ロールシャッハ・テストの年間実施件数は、図3のように1~10件が最も多く(64%)を占め、次に11~20件(14%)、21~30件(8%)の順であった。この結果を月平均に換算するとロールシャッハ・テストの年間実施件数は10数件となり、1か月に換算すると1件程度となる。

 結果3 (5)ロールシャッハ・テスト技法については図4に示したように、最初は片口法で学んだ者が最も多いものの(60%)、現在は他技法からの変更も含め包括システムで実施している者が最も多かった(59%)。その他、阪大法、名大法については、ほとんど変化がなかった。 なお、技法の変更は回答者全体の51%にみられ、中でも片口法から包括システムへの変更が最も多く、変更者全体の65%を占めていた。

 結果4 (6)技法の変更理由(表1)として最も多かったのは、「勤務先で使用されていたから」(21%)と「客観性に優れ、エビデンスがあるから」(21%)であった。技法を変更したメリット(表2)としては、「スコアリングや解釈が容易になった」が最も多く(30%)、変更のデメリット(表3)はメリットより少ないながらも「解釈が表面的、画一的になった」(22%)などが挙げられた。 (7)技法を変更していない202名に変更希望を尋ねたところ、34名(17%)が変更を希望していた。変更希望の理由と変更できなかった理由は表4に示した。

表1.使用技法を変更した理由 ( )内は% 理 由 勤務先で使われている技法に合わせて 55(21) 客観性に優れ、エビデンスがあるから    表1.使用技法を変更した理由                    (  )内は%             理       由   勤務先で使われている技法に合わせて 55(21)   客観性に優れ、エビデンスがあるから   研修・講義を受けて 35(13)   分かりやすい・学びやすい 40(15)   世界の主流だから 33(13)   役立つから(フィードバック・情報量など) 22( 8)   臨床能力が向上する 8( 3)   その他(改訂についていけない、自分にあってる) 10( 4)           計 260(100)

表2 技法変更のメリット ( )内は% スコアリングや解釈が容易 80(30) 客観性・エビデンスに優れている 60(22)    表2 技法変更のメリット                       (  )内は%                  メ リ ッ ト   スコアリングや解釈が容易 80(30)   客観性・エビデンスに優れている 60(22)   見方が広がった・解釈が深まった 39(14)   フィードバックしやすい 25( 9)   他職種と情報交換しやすい 20( 7)   研究・文献が多い 18( 7)   仲間や研修の機会が増えた 13( 5)   その他(クライエントの負担の軽減、時間計測が不要) 15( 6)                  計 270(100)

表3 技法変更のデメリット ( )内は% デ メ リ ッ ト 表面的・画一的な解釈になった 27(22) 習得に時間がかかる 20(16)    表3 技法変更のデメリット                      (  )内は%              デ メ リ ッ ト   表面的・画一的な解釈になった 27(22)   習得に時間がかかる 20(16)   スコアリングが難しい 18(14)   少数派なので共通認識を持ちにくい 10( 8)   前の技法と混乱する 9( 7)   基礎データが少ない 7( 6)   学べる場が少ない 4( 3)   その他(精神力動面が弱い、数値に頼りすぎる、再施行が負担) 30(24)                     計 125(100)

表4 技法の変更希望理由、変更しなかった理由 ( )内は% 表4 技法の変更希望理由、変更しなかった理由                                (  )内は%              変更したい理由   包括システムが主流だから 12(41)   現在の技法では不十分だから 8(28)   視野を広げたい 6(21)   職場の技法が異なっているから 3(10)      計 29(100)           変更したいが、しなかった理由   現在の技法でやれているから 23(68)   多忙だから ・ 習得に時間がかかるから 7(21)   学ぶ機会がなかったから 2( 6)   用いる機会がないから                 計 34(100)

表5 技法の変更を希望しない理由 ( )内は% 変更したくない理由 今の技法が素晴らしいから 58(30) 必要性を感じないから   表5 技法の変更を希望しない理由                     ( )内は%            変更したくない理由   今の技法が素晴らしいから 58(30)   必要性を感じないから 46(24)   今の技法が主流だから 26(14)   他の技法も併用しているから 20(10)   今の技法をさらに深めたい 18( 9)   今の技法を使い慣れているから 9( 5)   他の技法を学ぶ機会がない 8( 4)   他の技法を学ぶと混乱するから 4( 2)   自分に合っているから 3( 2)                   計 192(100)

結果5  (8)結果報告(所見)に盛り込む内容としては、1151回答中、形式分析が355(31%、回答者の89%)、内容分析が331(29%、回答者の83%)、系列分析が287(25%、回答者の72%)、限界吟味が117(10%、回答者の29%)、その他が61(1%、回答者の15%)であった(図5)。 (9)ロールシャッハ・テスト以外の投映法検査でよく使っているものとしては、1069回答中、SCTが289(27%)、バウムテストが282(26%)、HTPが158(15%)、P‐Fスタディが125(12%)、風景構成法が110(10%)、人物画が71(7%)、その他が34(3%)であった(図6)。

結果6 (10)最後にロールシャッハ・テストに対する日頃の思いを尋ねたところ、表6のようにさまざまな回答が寄せられた。その多くはロールシャッハ・テストの有用性について述べたものであったが、「スコアリングの難しさ」「研修の機会」「職場の理解」「技法の違いをめぐる対立」「大学院教育の充実」などの課題も多く挙げられた。

表6 ロールシャッハ・テストに対する思い<複数回答あり> ( )内は% 表6 ロールシャッハ・テストに対する思い<複数回答あり>                                             (  )内は%                    思 い   ロールシャッハ・テストは有用で素晴らしい 77(23)   今後も研鑽を積みたい 68(20)   さらなる研究が必要 50(15)   研修の機会がほしい 25( 7)   実施や解釈に時間がかかる   初学者がもっと勉強すべき 22( 6)   職場(医師)の理解がほしい 19( 6)   検査の限界を考えるべき(過信しない) 14( 4)   臨床能力による違いが大きい 12( 4)   スコアリングが難しい 11( 3)   技法の違いを巡る対立をなくすべき 7( 2)   大学院教育の充実が必要 6( 2)   その他(保険点数が低い、将来性が乏しい) 5( 1)                     計 341(100)

 考察1   小川(2011)の調査で片口法が60.3%、包括システムが14.9%だったことと比較して、今回の結果はその関係が逆転していた。これは、調査対象の約半数が包括システムによる日本ロールシャッハ学会の会員であることが影響していると思われる。    また、技法の変更者が全体の51%に認められ、その理由やメリットとして「エビデンスの存在」「分析・解釈の容易さ」などが挙げられた点については、近年のエビデンス・ベイスドや効率化といった社会的潮流の影響が背景にあることが示唆される。

 考察2   一方、技法変更のデメリットとして「解釈が表面的である」という回答が多く認められたが、解釈には形式分析(89%)のみでなく、内容分析(83%)、系列分析(72%)を盛り込むとした回答も多く、我が国におけるロールシャッハ・テストの伝統として形式分析のみでなく、内容分析や系列分析を重視する傾向が示唆された。この点は、今後のロールシャッハ法教育における重要な視点であろう。    また、「習得に時間がかかる」、「スコアリングが難しい」といった回答の背景には、一度習得した技法が新しい技法の習得を阻害していることがあるかもしれない。

 考察3    ロールシャッハ・テスト以外の投映法の使用頻度について小川(2011)の調査では、バウムテスト、SCT、HTP、風景構成法、P‐Fスタディの順になっているが、今回の調査では、SCT、バウムテスト、HTP、P‐Fスタディ、風景構成法となっていた。これは、今回の調査対象の違いが影響していると推測される。    ロールシャッハ・テストに対する自由記述で挙げられた「スコアリングの難しさ」「研修の機会」「職場の理解」「技法の違いをめぐる対立」「大学院教育の充実」などは、今後のロールシャッハ・テスト教育について技法を超えた教育のあり方を検討する必要性を示唆しているのではないだろうか。

文献 小川俊樹(2011):心理臨床に必要な心理検査教育に関する調査研究 第1回日本臨床心理士養成大学院協議会研究助成研究成果報告書  文献 小川俊樹(2011):心理臨床に必要な心理検査教育に関する調査研究 第1回日本臨床心理士養成大学院協議会研究助成研究成果報告書 斎藤高雄・元永拓郎(編著)(2012):新訂臨床心理学特論 放送大学教育振興会