心理学Ⅱ 12月11日 反応の条件づけ①
生物と環境 生理的反応にせよ運動・行動にせよ、 生物は環境の様々な出来事に反応する 生物は環境の強い影響下にある 情動反応もこうした反応の一種
しかも生物は学習する 環境に適応する 与えられた環境の中での最適な行動パターンを身につける ここで言う「学習」とは、 環境の変化に対する反応の変化
生物は環境の中のどのような刺激にどのように反応するのか? 刺激のあり方が変化すると生物の反応にはどのような変化が起きるか? ⇒生理学・心理学の一分野で、学習の研究 (学習心理学、行動分析学)
※ 「学習」と言っても、英語とか数学とかの学習の事ではない 少なくとも現状では、より単純なレベルでの「学習」が研究対象 もっと複雑な、あるいは抽象的な学習や行動については、今後の課題
反応と学習 学習には様々なものが考えられるが、 大きく分けると次の2種類に集約される、と言われている レスポンデント条件づけ(古典的条件づけ) オペラント条件づけ(道具的条件づけ)
レスポンデント条件づけ パブロフの犬 実際、パブロフのこの研究が発端 特に専門家になるのでなければ、 「ああパブロフの犬のことね」 「条件反射のことね」 ぐらいの理解でいいかも。
レスポンデント条件づけの用語 無条件刺激 無条件反応 (中性刺激) 条件刺激 条件反応
無条件刺激と無条件反応 無条件反応 例) 口の中に梅干を入れると唾が出る 熱い物に触ると瞬間的に手をひっこめる 乳幼児を見ると興奮?する
こうした反応は一般的に生まれつき備わっている たいてい、「本人の意志に関わらず」、もしくは「頭で考えるより先に」発生する こうした生得的反応のことを無条件反応と言い、無条件反応を引き起こす引き金となる刺激のことを無条件刺激という
※ 一般に、無条件反応には必ずそれの引き金となる無条件刺激が存在する 無条件刺激なしに勝手に無条件反応が生起するのは、たいていは神経系の異常
しかし、そうした反応が、 本来はそうした反応を引き起こす刺激でないはずのものに対して生起する、 ということがありうる ⇒レスポンデント条件づけ
レスポンデント条件づけ 例:パブロフの犬 無条件刺激・・・肉 無条件反応・・・唾が出る(唾液分泌) 条件づけ操作(作業) ・・・肉をあげる前にはいつもベルを鳴らす (専門用語では「ベルと肉との対提示」)
ベルは、唾液分泌という無条件反応に対する無条件刺激ではない (生まれつき、ベルの音を聞いただけでよだれをたらす犬はいない) しかしベルと肉との対提示を何十試行と繰り返していると、 やがて、ベルの音を聞いただけでよだれが出るようになる
このとき、唾液分泌反応は「ベルの音に条件づけられた」と言い、 そのときの唾液分泌を「条件反応」、 ベルの音を「条件刺激」と言う 条件反応はこのときレスポンデント反応とも呼ばれる そしてこの一連の操作(作業)のことをレスポンデント条件づけと言う
まとめ 無条件反応・・・生まれつきの反応は大抵これ。ある刺激に対して生起するようになっている 無条件刺激・・・無条件反応を引き起こす刺激 条件反応(レスポンデント反応)・・・条件づけの結果、無条件刺激と同様の反応が、本来それを引き起こすはずのない刺激に対して生起するようになったもの 条件刺激・・・その刺激 レスポンデント条件づけ・・・これらをもたらす操作
補足 ちょっとややこしい点 「無条件反応としての唾液分泌」 「条件反応としての唾液分泌」 ・・・無条件刺激(肉、梅干etc)に対して 発生した唾液分泌 ・・・条件刺激に対して発生した唾液分泌
専門的なことを言うと・・・ 唾液分泌の場合はたぶん両者に違いないが、 反応によっては、無条件反応としての反応Aと条件反応としての反応A´が厳密には同じでないことがある なのでこの区別が重要
パブロフの犬だけでなく、 ほとんどあらゆる種の生物の、 ほとんどあらゆる無条件反応に対して、 レスポンデント条件づけが可能である と言われている 情動反応についても結構可能 映画「時計仕掛けのオレンジ」
レスポンデント反応の基本的性質 般化 条件づけに使われたのと違う刺激であっても、元の刺激と「似た」刺激であれば、弱いながらも反応が生じる 条件づけに使われたのと違う刺激であっても、元の刺激と「似た」刺激であれば、弱いながらも反応が生じる 例)1000ヘルツの音に反応 →900ヘルツの音にも反応 →500ヘルツの音にも若干反応
2.消去 例: (1)ベル&肉の対提示をやめて1年後 (2)ベルだけ鳴って肉が出ない、ということが何度も続く ⇒反応が生起しなくなってくる
2.消去 このように、 (1)長い間、対提示がなかったり、 (2)条件刺激単独の提示が続くと、 反応が生起しなくなってくる このとき、反応は「消去された」と言い、 そのように反応を消去させる操作のことを「消去」と言う
実はもっと単純な「学習」もある ⇒ 馴化
馴化 例えばすぐ近くでバーンと大きな音がすると普通はビクッとなってしまうが、 それがバーンバーンと何度も続けて起こっていると、やがてビクッビクッとしなくなってくる ⇒ 馴化
馴化・・・刺激の反復提示により、その刺激に対する反応が弱くなってくること 例) ・目覚ましの音に慣れてしまうと起きない ・同じ音楽を何度も聞いていると何も感じなくなってくる
レスポンデント条件づけと違う点 すべての反応について生じるわけではない 刺激の対提示ではなく単独提示 刺激提示が不規則だと生じにくい (例:ピピッピピッ・・・でなくピッピピ・・・ピピピ・・ピピピッピ・・・・ピ!・・)
レスポンデント条件づけと共通する点 般化・・・ある刺激に対して馴化が起こると、それと「似た」刺激にも馴化している 消去・・・その刺激にさらされなくなってからしばらくたつと、また反応が戻ってくる
ある麻薬常習者の悲劇 ある麻薬常習者A氏 だんだん、少量の麻薬ではエクスタシーを感じられないようになり、消費量がどんどん増大 ある日、いつもとは違う場所で麻薬をやった 異常な拒絶発作を起こして死んでしまった
レスポンデント条件づけの観点から解釈することができる(専門用語では「脱制止」) 無条件刺激・・・麻薬 無条件反応・・・麻薬に対する耐性反応 条件刺激・・・いつもの部屋 条件反応・・・麻薬に対する耐性反応
薬物耐性の条件づけ 薬物の摂取を続けていると、体内ではやがてその薬効を打ち消すような代謝反応が形成されるようになる →(薬物)耐性が作られる、という (その薬が効かない体になってくる) この代謝反応が、ある特定の刺激に条件付けられて生起することがありうる
いつも同じ部屋で麻薬 →その部屋の風景や匂いが条件刺激となって、代謝反応がどんどん増進 あるとき違う部屋で麻薬 →いつも代謝反応を促進していた刺激がない →薬が効きすぎて拒絶反応
補足 A氏にとっては残念なことに、 「いつも同じ部屋で薬をやっていれば、その部屋に入っただけで気持ちよくなる」ということは起こらないらしい 薬物に対する覚醒反応の条件づけは一般的には難しい
飽きた音楽にもう一度感動を A氏の場合は悲劇に終ったが、 ①脱制止の利用で、音楽への馴化を多少解除できるかも? あるいは、 ②自発的回復の利用
自発的回復 一度消去された、あるいは馴化された反応が、 長時間、その刺激にさらされないでいると、自然に回復してくる現象 ただし再び馴化や条件づけが始まると、一般にその進行は最初のときより早い
楽曲への感動反応?の復元? 飽きるまではいつも同じ環境条件で聞く。飽きたらそこで初めて違う環境条件で聞けば、脱制止が起こって、感動回復? しばらく曲を聞くのをやめる。いちどやめたらもう絶対聞かない。そのあと、半年ぶりとか1年ぶりとかに聞くと・・・? ※成功は保証できませんのであしからず
臨床場面への応用 行動療法 代表的な技法として、 系統的脱感作(かんさ)
系統的脱感作 発想はわりと単純 例) クモ恐怖症に対する処方 ちょっとだけクモに似た物体に馴れる もう少しクモに似た物体に馴れる クモに似た生物に馴れる 小さいクモに馴れる 大きいクモに馴れる
一応、専門的に言うと、 不適切な反応を馴化によって除去 不適切な反応が不適切な刺激に条件づけられていると思われるものを、消去 不適切な反応に対抗する反応を確立
もっと乱暴な(?)技法も たとえばフラッディング 例) 風船恐怖症の人を、 風船でいっぱいの部屋に放り込む