てんかんについて 京都市立病院小児科 岡野創造 H22.8.23
てんかんとは? 種々の病因によってもたらされる 慢性の脳疾患であって、 大脳ニューロンの過剰な放電 (脳波で認められる)から由来する 反復性の発作を主徴とし、それに変異に 富んだ臨床ならびに検査所見表出が伴う。(WHO)
病名 症状 肺炎 発熱、咳 てんかん けいれん、ひきつけ 意識障害など
てんかんの症状 けいれんだけではない。 ぼーっとして話しかけられても返事 ができない、意味不明な行動をする、 変な物が見える、動作が止まる、 痛いなど、多彩である。 繰り返し起こることが特徴。
てんかんの原因 (1)頭部CTやMRIで 脳の構造に異常が認められるもの 新生児仮死、脳炎、頭部外傷、 脳血管障害(脳梗塞、脳出血) などによる後遺症、 脳の奇形、脳腫瘍、脳の変性疾患、 神経皮膚症候群など。
(2)頭部CTやMRIで 異常が認められないもの こちらが3分の2を占める。 脳の構造の異常ではなく、 おそらく遺伝子の異常に基づく 脳の機能の異常。 今後明らかにされていくはず。
てんかん患者は どのような医者が診ているか (1)てんかん発作の予防にどんな薬を使うか、 生活指導など(主治医) 生活指導など(主治医) 精神科、神経内科、脳神経外科 小児科(特に小児神経科) (2)けいれん重積など。緊急時の対応 (上記の医者に加え、) 救急に対応できる病院の内科、小児科
てんかん患者にみられる 合併症状 知的障害(精神遅滞) 脳性麻痺 自閉症 不随意運動 多動など
てんかんの診断にはどのような 検査が必要か 脳波検査:脳の活動をみる。 発作時が理想だが、実際には 発作間歇期で代用。 発作が火山の噴火とすれば 煙が出てるかどうかを見る。 頭部画像検査(CT、MRIなど): 脳の形をみる。
てんかんの発作と間違えやすいもの チック症、不随意運動、偏頭痛、 低血圧による転倒や意識消失 (いわゆる脳貧血)、 失神、重度の不整脈、 チック症、不随意運動、偏頭痛、 低血圧による転倒や意識消失 (いわゆる脳貧血)、 失神、重度の不整脈、 ヒステリー(解離性障害)、 偽性発作
てんかんの治療について 1)抗てんかん薬の内服 2)脳の手術(部分切除や離断) 3)ケトン食療法 など
てんかんの分類 (1)てんかん発作の分類 発作の症状で分類。抗てんかん薬の選択に重要。 (2)てんかんおよびてんかん症候群の分類 てんかんの分類 (1)てんかん発作の分類 発作の症状で分類。抗てんかん薬の選択に重要。 (2)てんかんおよびてんかん症候群の分類 発作の症状だけでなく、検査(脳波、CT、MRI)、 発症年齢、経過などで分類。 ○○てんかん、など病名の分類 予後がわかる(治りやすいか、 発作のコントロールがしやすいか、など)。
(1)てんかん発作の分類 部分発作:脳の一部からの異常放 電による。 全般発作:脳全体の異常放電によ る。
部分発作 単純部分発作:意識が保たれたまま、 体の一部が勝手に動く、 たり、硬くなる。 幻覚、錯覚、恐怖感、 変な感覚を感じる、 体の一部が勝手に動く、 たり、硬くなる。 幻覚、錯覚、恐怖感、 変な感覚を感じる、 上腹部不快感、頭痛、 四肢のしびれ、など。
複雑部分発作: けいれんはないが、意識がなくなる。 意味のない動き(自動症)を 伴うことが多い。 持続時間は数十秒から数分であり、 発作後は入眠することが多い。 発作時のことを記憶してない。
全般発作 強直間代発作:体をつっぱった後、 四肢をピクピクさせる。 その後脱力し睡眠または 朦朧状態。 顔色不良、意識はない。 四肢をピクピクさせる。 その後脱力し睡眠または 朦朧状態。 顔色不良、意識はない。 大発作とも言う。 欠神発作:突然起こる短時間の意識障害。 過呼吸で誘発されやすい。 声かけへの反応はないが、 倒れることはない。小発作とも言う。
ミオクロニー発作:ピクッとする。 強直発作:全身に力がはいる。 間代発作:ピクピク。 脱力発作:力がぬけて転倒する。 二次性全般化:部分発作の後 全般発作に。
てんかんの発作型の鑑別の難しさ *複雑部分発作と欠神発作の鑑別 どちらも意識消失する。 *強直間代発作 いきなり始まったのか、 てんかんの発作型の鑑別の難しさ *複雑部分発作と欠神発作の鑑別 どちらも意識消失する。 *強直間代発作 いきなり始まったのか、 部分発作の二次性全般化なのか。 *知的障害があると自覚症状をうまく訴えられない。 *麻痺があると音などの刺激で体に力が はいったり、不随意運動が誘発されるので、 けいれんと紛らわしい。
発作型、検査結果、発症年齢、既往歴 (2)てんかんおよび てんかん症候群の分類 などにより、大きく2つの基準によって 分類する。 てんかん症候群の分類 発作型、検査結果、発症年齢、既往歴 などにより、大きく2つの基準によって 分類する。 部分 特発性 全般 症候性 潜因性
局在関連(部分)てんかん: 異常放電の焦点が はっきりしているもの。 つまり、部分発作をもつ てんかん。 全般てんかん: 発作当初から脳全体に 異常放電のみられるもの。 つまり、全般発作をもつ
特発性:原因がはっきりしないもの (頭部画像検査で異常なし) 症候性:原因がはっきりしているもの (頭部画像検査で異常あり) 潜因性:原因ははっきりしないが、 脳の異常の存在が推定される もの (検査法の進歩で明らかになる かもしれない)
てんかんおよびてんかん症候群の分類 における治りやすさのめやす 特発性局在関連性てんかん 特発性全般てんかん における治りやすさのめやす 特発性局在関連性てんかん 特発性全般てんかん ほぼ100%治る。 80〜90%治る。 ローランドてんかんなど 小児欠神てんかんなど 症候性局在関連性てんかん 潜因性/症候性全般てんかん 60〜70%治る。 20〜30%しか治らない。 前頭葉てんかん、 ウェスト症候群、 側頭葉てんかんなど。 レノックス症候群など。
感染症に例えれば、 てんかん発作型の分類は、咳が出てるのか、 熱が出てるのか、症状の分類であり その症状に対して薬を決めるのに役立つ。 複数の発作型がみられることもある。 てんかんおよびてんかん症候群の分類は、 咳や熱の原因が風邪なのか、肺炎なのか、 肺結核なのか、つまり重症度や予後に関係する。
抗てんかん薬について(総論) *原則として1剤で治療開始する。 *薬剤の選択は発作型などをもとに選択する。 *初期量(少量)から開始し、維持量にする。 *血中濃度を投与量の目安にする。 *少量でも効果が得られる場合もある。 *1剤の量を増やしても効果が不十分なら、 新たな薬剤を追加する。 *眠気を伴う薬剤が多い。 *最終目標は、「発作がゼロ」ではなく、「生活の質の向上」。
具体的な抗てんかん薬について *バルプロ酸(デパケン細粒、デパケンR、デパケンS、 セレニカR、エピレナートS、ハイセレニン、バレリン) *バルプロ酸(デパケン細粒、デパケンR、デパケンS、 セレニカR、エピレナートS、ハイセレニン、バレリン) 全般発作の第1選択薬、あまり眠気はない。 熱性けいれんの予防にも使われる。 副作用:肝障害、食欲亢進、催奇形性 *フェノバルビタール(フェノバール、ルミナール、 ワコビタール坐薬、ルピアール坐薬) 強直間代発作に有効 熱性けいれんの予防にも使われる。
*カルバマゼピン(テグレトール) 部分発作の第1選択薬 副作用:薬疹 *ゾニサミド(エクセグラン) 副作用:発汗減少、尿路結石 *フェニトイン(アレビアチン) 副作用:歯肉増生、多毛 *クロナゼパム(ランドセン、リボトリール) 副作用:気道分泌の増加
*エトスクシミド(ザロンチン、エピレオプチマル) 欠神発作に有効。 副作用:消化器症状 *クロバザム(マイスタン) 初期の効果が次第に低下してくることがある。 *ビタミンB6(アデロキザール、アデロキシン) West 症候群に大量投与で有効なことがある。
最近の新薬について いずれも難治性てんかんに効果 これまでの抗てんかん薬に併用する。 *ガバペンチン(ガバペン) *トピラマート(トピナ) いずれも難治性てんかんに効果 これまでの抗てんかん薬に併用する。 *ガバペンチン(ガバペン) *トピラマート(トピナ) 副作用:発汗減少 *ラモトリギン(ラミクタール) 小児適応がある。 *レベチラセタム(イーケプラ) もうすぐ発売される。
ダイアップ坐薬について *使用目的:けいれんを止める、または予防。 *3種類の大きさがある。(4、6、10mg) ダイアップ坐薬について *使用目的:けいれんを止める、または予防。 *3種類の大きさがある。(4、6、10mg) *血中濃度は投与後15〜30分で有効濃度域 に達する。 (つまりすぐに効くわけではない) *副作用:ふらつき、興奮など。
てんかんが治ったと判断するための 条件 3〜5年発作が抑制できたときには、 脳波所見の改善、 てんかんの診断名(予後に関係) などを参考に、抗てんかん薬の減量、 さらに止薬を検討する。
重症心身障害児 (重度の知的障害+ 重度の脳性麻痺)のてんかん治療の問題点 *難治性てんかんであることが多い。 *多剤を内服していることが多い。 *確実な服薬が困難なことがある。 *発作や副作用に気づきにくい。 (たとえば、ボーッとしていたら複雑部分発作 なのか、眠いのか。 ピクッとしたら、ミオクロニー発作なのか、 びっくりしたときの反応なのか、など) *体温調節が苦手。
自閉症児とてんかん 自閉症児における てんかん合併率:25% 発症のピーク:乳幼児期と思春期 こだわり・味覚過敏などで服薬困難 自閉症児とてんかん 自閉症児における てんかん合併率:25% 発症のピーク:乳幼児期と思春期 こだわり・味覚過敏などで服薬困難 なことがある。
発作時の対応 1)あわてず、冷静に。 2)危険の回避。安全な場所へ移動し、 立てない発作の場合は、寝かせる。 立てない発作の場合は、寝かせる。 3)口の中に箸や指やスプーンを入れない。 嘔吐を誘発するから。 4)可能なら発作の様子の観察。 今後の治療方針にかかわることがある。 発作型はわからなくてもよい。 具体的な症状の記録と報告。 5)必要ならダイアップ坐薬の投与。 6)発作が長引いたり、短時間に繰り返すなら、 早めの医療機関受診を。
お疲れさまでした。 ご清聴ありがとうございました。
※この資料は、平成22年度 総教研で使用したものです。 ※岡野Dr.の了解のもと載せさせていただきました。