物体間の関係記述に基づく 実世界中のイベント検索手法 ○柳沢 豊,服部 正嗣,平松 薫,岡留 剛 NTT コミュニケーション科学基礎研究所 日本電信電話株式会社
研究の背景 実世界のさまざまな事象をセンサで取得できるようになりつつある. 物体の位置,移動軌跡,形状,色,温度,等々 センサデータから,実世界で生じている現象を,検索・予測したいという要求が高まる. 物と物との関連性(相関性)の発見 イベント把握,行動予測
応用例 物体間の関係 実世界イベントの把握・予測 オフィス・工場での構内構造の最適化 商品間の相関性抽出(商品配置デザイン) ロボットの実世界認識の支援 実世界イベントの把握・予測 オフィス内・工場内での人間行動のサポート 異常なイベントの検出(防犯,防災,故障発見)
問題点 センサデータの意味づけ(記号化)は,人間の主観により個別に行われている. 課題 アプリケーションごとに異なるグラウンディング 論理(推論) 課題 主観に依存しない意味づけ手法を 新たに考える. 記号 センサデータ
要件 主観によらず一意に関係が記述できること 構造化が容易であること データの補完が容易であること データの管理/検索を効率化するため データの補完が容易であること センサデータは欠落しやすい → 周辺のデータから欠落した情報をある程度補完する必要がある. 各センサノードごとにローカルにデータが管理できること センサノードは頻繁に移動する → データをローカルに管理し,必要に応じて集約する.
アプローチ 物体の位相的な特徴に注目する. 利点 物体の接触関係,支持関係のみを用いる. 接触: 物体の周囲の一部が他と接する. (向きなし) 支持: 他方の重さを支えている. (向きあり) 利点 ▼ 物理的な関係を用いるため, 関係を一意に書ける. ▼ 支持関係による半順序関係 の定義が可能 ▼ 物理的関係から,不足する 情報をある程度補完可能 ▼ 局所関係の積み重ねによる 全体構造の把握が可能 接触 支持
モデル(1) 物体 a の記述 形状(物体の境界面の集合 Pa = {p1, … pn} )と 識別子 ua により記述 p1 = tri((0,0,0),(2,0,0),(1,1,1)) p1 = box((0,0,0),(1,0,1)) p2 = box((1,0,0),(1,1,1)) a = [ua, Pa] b = [ub, Pb] ua = “箱” ub = “ピラミッド” Pa = {p1, … p6} Pb = {p1, … p4}
モデル(2) a a b b s(a,b) t(a,b) 物体間の関係の記述 2物体間の「接触」と「支持」関係により記述する. 「支持」を優先する.(支持関係があれば,接触関係は必ず存在する) a a b b s(a,b) t(a,b) ・方向(順序関係)あり ・物体 a に対して,s(a, x) なる x が必ず存在する. .・方向(順序関係)無し
関係記述例 ある日の机の上… コード コード マウス コード 机 資料 電気スタンド パッド ディスプレイ ペン 資料 コード スタンド ノートPC PC 資料 机
不足データの補完 支持関係から,関係記述の不足を発見する ことができる. c b a ・ センサシステムで検出した関係: s(a,b), t(c,b) c b ・ c を支持する物体が存在しない! a ・ t(c,b) から s(c,b) であろうと推測
物体データの管理と検索 必要に応じて,局所的なデータを互いに交換し物体の検索を行う. c e b a センサ A センサ B d a, b, c に関する 構造データを管理 物体の存在するエリア b, d, e に関する 構造データを管理 「 a の上に乗っているもの全てを求めよ」 という問いに 答える場合には,A, B の両方のデータを使う.
物体データの管理と検索 主に支持関係による階層構造を利用 キーボード マウス 資料D コード ノートPC 資料A コード 資料C 机 ディスプレイ PC 資料B コード 資料A PC と同じ机に載っている ものを探す場合 資料Aの上に載っている ものすべてを探す場合 PC に接続されている機器 を探す場合 支持関係を順番に辿って 検索する. 階層構造を利用して検索 接触関係を利用して検索
イベントの記述 時間の経過情報を加えてイベントを記述する. グラフの変移=イベント 極めて「プリミティブ」な イベントを「一意に」記述 オントロジとの組み合わせで, より複雑なイベントを記述 手 ペン ペン 机 机 「ペンを取る」 手 本 本 本 本 現状では書けないイベント ▼ 物を並べる(位置関係) ▼ 文字を書く(テクスチャ) 机 机 「本を積む」
センシング方法(検討中) 電子タグによる形状の記憶 物体に電子タグを付与する. 形状と,タグの位置を測定して タグに書き込む. タグ間の距離・形状から,局地的な 接触・支持関係を推論する. +画像処理など別の手段も利用
実験(予定) センサルームを用いた実験を実施中 「接触」「支持」による関係記述能力の検証 センシング方法の検討 擬似オフィス(作業)部屋を作成 実際の人間(物体)の動きから,接触・支持で記述できる関係を抽出 センシング方法の検討 画像センサ,位置センサ,感圧センサ等,複数種のセンサを取り付けた実験室を作成 支持・接触関係を実際に検出
まとめ 接触・支持関係を用いた実世界中の物体間の 関係記述法を提案した. 今後の予定 実環境への適用:実験室内の物体間の関係記述,イベント記述,検索などの実験を行う. オントロジとの結合による推論能力の強化 センシングシステムの構築 関係の追加(相対的な位置関係など)