佐野孝好 (大阪大学レーザーエネルギー学研究センター)

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佐野孝好 (大阪大学レーザーエネルギー学研究センター) 磁気乱流と惑星形成 佐野孝好 (大阪大学レーザーエネルギー学研究センター)

(動機)惑星系形成のシナリオ作り 惑星の誕生現場 原始惑星系円盤(ガスと塵でできた星周円盤) 背景の光を密度の高い円盤ガスが遮っているので、円盤部分は影として見える。中心の明るい点は、誕生したばかりの星。

原始惑星系円盤+磁場… …ほとんどの領域で常に乱流状態 ↓ 従来の惑星形成シナリオでは乱流の減衰が惑星形成のスタート 乱流中での惑星形成モデルの必要性     多様性の起源?

手法:MHDシミュレーション 差動回転円盤中の磁気乱流 磁気回転不安定がドライブ 乱流の飽和レベルが円盤の構造や進化を決定 局所的解析 Global Disk Simulation 局所的解析 円盤の一部分を切り出した シミュレーション

アウトライン 系外惑星の発見(観測) 惑星形成の標準シナリオ 磁気回転不安定 惑星形成における磁気乱流の役割 磁場の効果は従来考えられていなかった 磁場を考慮することで新たなシナリオ

1.系外惑星の発見

太陽系の惑星 岩石惑星(地球型惑星) 巨大ガス惑星(木星型惑星) 太陽系外惑星はどれくらい見つかっているか?

系外惑星 発見された惑星の数は200個以上 ほとんどが木星型惑星 多様な惑星系の姿→新しい理論モデルの必要性 発見方法は主に2種類 ドップラーシフト法 トランジット法

観測手法1 (ドップラー法) 惑星の存在によって恒星がわずかに円運動 恒星の吸収線のドップラーシフト

観測例 最初に発見された惑星 周期・速度 ↓ 惑星の質量と中心星からの距離がわかる    ↓ 惑星の質量と中心星からの距離がわかる 地球の公転速度 30km/sec 銀河の回転速度 220km/sec

惑星の頻度 太陽のような星の周りには10%以上の確率で存在 惑星が存在 する頻度 星の金属量 (惑星の材料)

観測手法2 (トランジット法) 惑星の食によって恒星の明るさがわずかに減少 惑星の半径がわかる

惑星の内部構造 質量・半径から内部密度  惑星の内部構造が議論できる ほとんどが木星型惑星(巨大ガス惑星) 木星の内部構造 分子水素 遷移層 金属水素? 木星中心部の固体コアの質量 どうやっても木星が誕生したかが分かる ↑ 大気層の水素の硬さ(状態方程式)に依存 固体コア

レーザー衝撃圧縮による 高圧水素の状態方程式実験 金属水素へ遷移する 200GPa & 5000K を実験室で再現し 木星内部の 状態方程式を 実験的に検証する

多様な惑星系の姿 今後の観測目標 従来の惑星形成シナリオ(標準シナリオ)は太陽系のみを考えていた 多様性を生じさせる新たなシナリオ作りが必要 直接撮像 地球型惑星の発見 従来の惑星形成シナリオ(標準シナリオ)は太陽系のみを考えていた 多様性を生じさせる新たなシナリオ作りが必要

2.惑星形成の標準シナリオ

惑星形成の現場 誕生したばかりの星の周りの原始惑星系円盤 星間磁場を取り込む 若い星 原始惑星系円盤の影 円盤のサイズは数100AU (太陽系の約10倍) 惑星系形成の現場 散乱光によって 背景は薄明るい オリオン座領域の可視光の観測

原始惑星系円盤の進化 惑星系形成の標準シナリオ(京都モデル) 初めはガスと塵が一様に混ざった円盤 塵だけが赤道面に沈殿して、微惑星を形成 微惑星が合体成長して地球型惑星へ 重いものはさらにガスを捕獲して木星型惑星に 現在の太陽系の姿に進化

標準シナリオの問題点 角運動量輸送機構は何か?その効率は? 乱流は本当にやむのか? ダストが沈殿してダスト層を形成できるか?

降着円盤 回転平衡(ケプラー回転)円盤: 円盤から黒体輻射 角運動量輸送:円盤の進化・構造 (重力)=(遠心力) 重力エネルギーの解放→降着 降着するためには角運動量を外側に輸送 角運動量輸送メカニズムは1970年代から謎←これを解決するのが研究の動機

降着円盤の角運動量輸送機構 原始惑星系円盤 回転平衡円盤の進化→角運動量輸送 分子粘性は小さ過ぎる→乱流粘性 しかし…乱流の起源は? 赤外超過→降着円盤 円盤の寿命は数百万年 回転平衡円盤の進化→角運動量輸送 分子粘性は小さ過ぎる→乱流粘性 しかし…乱流の起源は? Haisch et al. (2001)

3.磁気回転不安定 Magneto-Rotational Instability(MRI) 条件:差動回転円盤+弱い磁場 Velikhov(1959)、Chandrasekhar(1960)、Balbus & Hawley(1991) 条件:差動回転円盤+弱い磁場 特徴:成長率が大きい(回転角速度程度) 数回転で円盤ガスは乱流状態 磁気応力による角運動量輸送                   Hawley et al.(1995;1996)、Matsumoto & Tajima (1995)

メカニズム(遠心力超過⇔磁気張力) 不安定波長 最大成長率 速←回転→遅 SIDE VIEW TOP VIEW 磁気張力 角運動量

線形不安定モード 軸対称モードが最も不安定(チャンネル流) 水平方向の速度にシアー&二枚のカレントシート 非線形でも厳密解 磁場を効率的に増幅(降着円盤のダイナモ機構) 磁力線 xz平面 電流密度

MRIの三次元非線形進化 角運動量輸送効率←非線形シミュレーションが不可欠 局所円盤モデル 不安定の進化をより詳しく 飽和乱流状態での磁場分布

基礎方程式 局所近似(円盤の曲率無視) 回転している系 コリオリ力と 有効ポテンシャル (重力+遠心力) オーム散逸

磁場の非線形飽和 磁場の散逸によってガス圧は単調増加 MRIによって磁場が増幅後、急激に減少 同時にガス圧が上昇←磁気リコネクション

典型的な時間進化 非線形段階でMRIは飽和 MRIによる磁場増幅と磁気リコネクションによる散逸の釣り合い Sano & Inutsuka (2001) 軸対称MRI の成長 磁気 リコネクション

角運動量輸送効率 磁気乱流が効率的に角運動量を輸送 スパイク状の激しい時間変動 Maxwell応力 Reynolds応力 磁気応力の時間進化 XY成分= 円柱座標でのRΦ成分 回転

飽和レベルは何が決めているか? 大局的な磁場に貫かれていると激しい乱流 Channel Flow Size (Unit Structure) with Net Vertical Field 大局的な磁場に貫かれていると激しい乱流 Channel Flow Size (Unit Structure) Saturation Amplitude of MRI Turbulence 2H x 2H x H (256 x 256 x 128) without Net Vertical Field

4.原始惑星系円盤における磁気乱流

原始惑星系円盤では… 電離度が極めて低いため磁場とガスの結び付きが弱い ↓ 弱電離効果(Ohm散逸)による安定化は? 原始惑星系円盤でMRIが起こるとしたらいつ?どの領域で? 角運動量輸送効率は?

Ohm散逸による安定化 磁気Reynolds数 (Lundquist数) 短波長から安定化 Lundquist数が1以下で成長率が大幅減少 散逸の程度を示す 短波長から安定化 Lundquist数が1以下で成長率が大幅減少 Sano & Miyama (1999)

Resistive Regime 磁気レイノルズ数が1以下の場合 最も不安定な波長 最大成長率 磁気回転不安定における磁気レイノルズ数 Ideal MHD (Alfven Time) = (Dissipation Time) Ideal MHD

Ohm散逸による乱流の減衰 Ohm散逸によって乱流は減衰 MRIによって乱流は維持される→十分な角運動量輸送効率 磁気応力の飽和レベルの Lundquist数依存性                Ohm散逸によって乱流は減衰                MRIによって乱流は維持される→十分な角運動量輸送効率 臨界値はHall効果や他の物理パラメータには一切依存しない Sano & Stone (2002b)

電離状態がMRI成長の鍵 磁気拡散係数 荷電粒子の存在量 電離平衡を仮定 主な電離源は宇宙線 気相反応+ダスト上での再結合反応 Sano et al. (2000) 磁気拡散係数 荷電粒子の存在量 電離平衡を仮定 主な電離源は宇宙線 気相反応+ダスト上での再結合反応

荷電粒子の存在量 電離平衡を仮定 反応ネットワーク 電離反応 気相反応 ダスト上での反応 宇宙線による電離 charge transfer 再結合反応

電離度 基本的に密度と温度の関数 高密度になるほど低電離度 原始惑星系円盤では10-10以下 e Me+ mo+ G(0) G(±1) e

低密度領域 H2 e H2+ Me+ mo+ H3+ 宇宙線 Me CO Mg

高密度領域 H2 e H2+ Me+ mo+ H3+ G- G+ 主要な荷電粒子はダスト 磁場とのカップリングは絶望的 CO Mg ダスト 宇宙線 ダスト G- CO Mg G+ 主要な荷電粒子はダスト 磁場とのカップリングは絶望的

不安定領域とデッドゾーン 不安定条件: 20AUよりも外側で不安定 →ほとんどの領域が乱流状態 Sano et al. (2000) 不安定条件: MRI不安定波長がスケールハイト以下 20AUよりも外側で不安定           →ほとんどの領域が乱流状態 高密度領域はOhm散逸により安定化      →デッドゾーン

ダストの合体成長・沈殿の影響 ダストが成長・沈殿すると不安定領域が拡大 円盤進化の後期段階でもMRIは重要 Sano et al. (2000) ダストサイズ依存性 ダスト存在量依存性

ダスト上での再結合 ダスト上での反応→ダストの総表面積に比例 ダスト一粒のサイズが大きいと… or 沈殿して上層のダスト量が減ると… ダストの総表面積が小→電離度が上がる

原始惑星系円盤中のキープロセス Laminar or Turbulent? Ionization Degree Angular Momentum Transport by MRI

乱流中のダストの進化 一様に分布したダスト→ダストの集積!? top view 方位角方向 10回転後 動径方向

まとめ 太陽系以外で惑星が多数発見され、多様な惑星系の姿が明らかに 惑星形成シナリオの再構築が急務 原始惑星系円盤は低電離度にもかかわらず磁気流体不安定により乱流状態←角運動量輸送機構 乱流中でのダスト成長(惑星形成)の研究が現在注目されている