ゲノム(染色体)の不安定性(chromosome instability; CIN)は発がんをどこまで説明することが出来るか? 山本 和生「遺伝子変異制御概論」 発がん突然変異説への挑戦 ゲノム(染色体)の不安定性(chromosome instability; CIN)は発がんをどこまで説明することが出来るか? CIN Microsatelite instability (MIN) 突然変異の生成機構について 発がん突然変異説 CIN と発がん http://www.biology.tohoku.ac.jp/~kazuo/08kyotsuB Kazuo Yamamoto
Cell cycle M G G G S 2c 2c 2c 4c GROWTH FACTORS RESTING DIVISION 紡錘体チェックポイント Cell cycle 損傷チェックポイントG2/M 2c 2c M RESTING DIVISION G G 2 中心体複製チェックポイント GROWTH FACTORS G 1 INTERPHASE S 2c 4c 損傷チェックポイントG1/S ヒト培養細胞の場合,全体は概ね24時間でM期は0.5時間程度
M期(Mitosis) 核分裂(karyokinesis)--4nの核が2n + 2nに分裂 (1) Prophase(前期):染色体が凝縮。 2つあるCentrosome(セントロゾーム:中心体)から微小管が伸びる。Centrosome duplication checkpoint (2) Metaphase(中期) (Prometaphase( 前中期)) :核膜が消失。微小管に引っ張られて染色体が赤道面へ移動。染色体が赤道面に並ぶ。 spindle checkpoint (3)Anaphase(後期): セントロメアの部分でつながっていた染色体が別れ,それぞれが極へ移動。 (4)Telophase(終期):染色体が両極へ移動し,凝縮がなくなる。核膜が形成さ,細胞質が分裂し始める。 細胞質分裂(cytokinesis) --細胞質が別れ細胞が2つになる Mitosis checkpoint 1) G2/M transition checkpoint 2) Centrosome duplication checkpoint 3) Spindle checkpoint(紡錘体チェックポイント)
karyokinesis 中心体複製チェックポイント 紡錘体チェックポイント APCが機能して後期に移行 (centrosome) (spindle pole body) 中心体などがある場所
cytokinesis 動物細胞の細胞質分裂は,細胞が赤道の所でくびれる事で始まる。アクチンとミオシンでできた収縮環が細胞質を絞り込んで,分裂溝がしょうじ,やがて完全にくびれる。
分裂中の中心体と染色体の関係 Spindle checkpoint 中心体(centrosome, centriole)と動原体(kinetochore)を微小管(tubulinでできている)がつなぐ。 微小管の均一な張力の有無を 細胞は監視して,もし良い場合は,後期に進む。この際,centromereでくっついている接着因子を分解する。 均一でない場合,後期には進まない。再挑戦又は,アポトーシス。 Spindle checkpoint Nature 407, 41 - 47 (2000)
接着因子の分解と後期への進行・spindle checkpoint At the metaphase-anaphase transition, APC/Cdc20 ubiquitinates securin. Degradation of securin activates separase. Separase then cleaves the Scc1 subunit of cohesion, allowing chromosome segregation. In response to sister-chromatid not properly attached to the mitotic spindle, the spindle checkpoint promotes the assembly of checkpoint protein complexes that inhibit the activity of APC/C, leading to the stabilization of securin, preservation of sister-chromatid cohesion, and a delay in the onset of anapha
Swe1 (Wee1),Cdc25によるG2/M境界checkpoint CDK1(Cdc28) /Cyclin B P CDK1(Cdc28) /Cyclin B P Swe1 prophase G2期 G2/M 境界 G2/M境界では,Swe1はMPFをリン酸化することで,周期の進行を遅らせ,Cdc25 phosphataseは脱リン酸化することで,周期を前に進める。 PHQはSwe1 (Wee1)を安定化するので,MPFを不活性型に保ちelongated bud形成を促す。
G2/M境界checkpointシグナルと異数性の生成 Chk1 Chk1 P ATM/ATR DNA damage 環境ストレス (ROS等) chk2 14-3-3 Cdc25 Wee1 CDK1(Cdc28) /Cyclin B P CDK1(Cdc28) /Cyclin B P p53 G2/M 境界arrest ??? P21 inactive = G2 active = M Aneuploidy--> 発がん/老化 S arrest
Diploid (2n)とhaploid (n) ヒトの場合,精子や卵子はhaploidで22本の常染色体の1つずつとXまたはYをもつ たいていのヒト細胞はdiploid (2n)で,2本の相同な(但し同一ではない!)染色体をもつ。 ヒトのG2期細胞はtetraploid (4n)となっている。相同染色体がそれぞれ,同一の染色体2本(sister-chromatid)で構成される。
染色体;DNAと核タンパク質の集合体。全遺伝情報がある。多細胞生物は,父親からのと母親からの染色体をそれぞれ持つ(1対)。ヒトは23対持つ。 ゲノム(ゲノム研究) ゲノム;ある生物がもつ遺伝情報の全体。ゲノムのなかで生命活動を維持するための機能的な部品を規定しているところを遺伝子。遺伝情報の全体は染色体に保持されている。 染色体;DNAと核タンパク質の集合体。全遺伝情報がある。多細胞生物は,父親からのと母親からの染色体をそれぞれ持つ(1対)。ヒトは23対持つ。 動原体 テロメア セントロメア 分裂中期の写真なので,染色体が4本ある。 Kazuo Yamamoto
DNAは自己複製する 複製は両方向に進む 半保存的である 複製中の大腸菌DNA 大腸菌の染色体は環状 酵母や人は直鎖状 (J Cairns, CSHSQB, 28, 43, 1963)
葛飾 北斎 (1760 - 1849) 神奈川沖浪裏 Matsumoto (Kyoto Univ)
木版画(wood block printing)の作り方 1: Engrave a template. 2: Put paintings. 3: Copy on a paper.
If the template is used too much… After 1012 After 104 After 108 The very original template should be kept in the niche (Stem cell), otherwise a lot of mutations (cancer) occur.
塩基置換などによる突然変異は複製(コピー)エラーの結果である DNA複製誤りが原因である。 複製誤りを修復するシステム(mismatch repair)を生物は持っている。 mismatch repairが欠損すると,ヒトは大腸がんになる(hereditary nonpolyposis colon cancer; HNPCC) -- 細胞の突然変異頻度が高いから。
大腸菌自然突然変異 大腸菌DNApolymeraseによる複製誤り頻度は 200 x 10-8/cell/genenration。 複製後ミスマッチ修復系が働いて,変異頻度は 2 x 10-8となる。 高等生物(ヒト,植物,酵母など)での自然突然変異頻度も,同様のしくみが働いて,変異頻度は 2 x 10-8〜10-6となる。 塩基が変化するような突然変異はおおよそ 10-8の頻度で生じる。
1) DNAポリメラーゼの複製間違いが突然変異の原因である。 2) 誘導されたポリメラーゼは傷のないDNAにも変異を導入する。 大腸菌やヒトで観察される突然変異 損傷乗り越え複製酵素の誘導 DNAポリメラーゼ,損傷乗り越えポリメラーゼ (dinB, umuCD, RAD30, REV, XPV等)による間違い mismatch ミスマッチ修復系(mutS、MSH、PolA、Rad27、FEN1等) 塩基置換変異 重複、塩基付加変異 欠失変異 1) DNAポリメラーゼの複製間違いが突然変異の原因である。 2) 誘導されたポリメラーゼは傷のないDNAにも変異を導入する。 3) 10-6〜10-8の頻度で自然突然変異が生じ,変異原物質処理で10 倍内外頻度が上昇する。
発がん 正常細胞 がん細胞 細胞のがん化; 1つのがん細胞が出来る過程 マウス/ヒトのがん化;がん細胞が一つある状態から,たくさん がんは,oncogeneがpower-upあるいはがん抑制遺伝子がpower-down 正常細胞 がん細胞 正常マウス がん細胞が一つあるマウス がんマウス 細胞のがん化; 1つのがん細胞が出来る過程 マウス/ヒトのがん化;がん細胞が一つある状態から,たくさん ある状態になるまでの過程。十数年以上かかる 全ての過程には,少なくとも6〜10個の遺伝子が関わる
がん(cancer) 1) 一つの疾患ではなくて,似たような細胞特性をもつ,多くの疾病の総称。 2) すべてのがん細胞は,6〜10個の遺伝子突然変異の結果,成長の制御が不能に陥ったものである。 がんは体細胞の病気である。 3) がんの約1パーセントは家族性(familial)で,この場合,家系内でがんにかかりやすい遺伝子変異がある。残りの99パーセントは散発性(sporadic)で,この文脈では家族性ではない事を意味し,体細胞の突然変異の結果である。 4) 正常細胞からがん細胞への転換には,複数のプロトオンコジーンとがん抑制遺伝子突然変異(6-10個)を必要とする。
protooncogeneとがん抑制遺伝子 がんとの関わり; 1) protooncogeneの機能は,細胞分裂を促進するか,apoptosisを阻止すること。Oncogeneはprotooncogeneのpower up型 Ras--星状細胞腫(astrocytoma)の45パーセント,神経膠芽腫(glioblastoma;)の35-50パーセント サイクリンD--食道がんの35パーセント,膀胱がんの15パーセント,乳がんの15パーセント 2) がん抑制遺伝子(tumor suppressor gene)の機能は,細胞分裂を阻害するか,アポトーシスを促進すること。 P53--すべてのがんの半数以上で,p53が機能を失っていることが示されている p16/p19ARF--神経膠腫(脳腫瘍の一種)の55パーセント,中皮腫 (mesothelioma)の55パーセント,黒色腫の50パーセント以上で,機能喪失が観察される。
1回のaneuploidyで複数の遺伝子変化を起こすことが出来る。 遺伝子が特定された病気(一部) 染色体 代表的がん遺伝子名 その他病気遺伝子数 1染色体 ●がん遺伝子Nras(p13.2) ●がん遺伝子trkA(q23-q24) 78 ●乳がん(p36) 2染色体 ●遺伝性非ポリポーシス大腸がん(p22-p21とq31-q33) 45 ●がん遺伝子Nmyc(p24.1) 5染色体 ●大腸がん(q21) ●大腸ガン抑制遺伝子MCC 32 ●家族性大腸ポリポージス抑制遺伝子APC(q21-q22) 第7染色体 ●大腸がん(p22) ●がん遺伝子met(q31) 44 第13染色体 ●網膜芽細胞腫抑制遺伝子RB ●家族性乳がん(q12.3) 18 第15染色体 ●がん遺伝子fea(q26.1) 23 第17染色体 ●乳がん(p13.3)p53に関連 ●がん遺伝子erbB2(q11) 52 ●神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病) ●がん遺伝子erbA(q11.2) ●がん抑制遺伝子p53(p13.1) ●家族性乳がん(q21) ●乳がん抑制遺伝子プロヒビチン 第18染色体 ●がん遺伝子yes(p11.3) ●遺伝性非ポリポーシス大腸がん(q1) 17 ●膵臓がん・大腸がん(q21.1)がん抑制遺伝子●がん抑制遺伝子DCC 1回のaneuploidyで複数の遺伝子変化を起こすことが出来る。
発がんと突然変異 がん細胞のoncogene,TSGに変異がある 突然変異頻度の高い遺伝病(ミスマッチ欠損,色素性乾皮膚症など)は,発がん頻度が高い 発がん化学物質は突然変異誘発作用がある がん突然変異説を信じるとして,例えば6個の遺伝子変異でがんになるとする。それぞれの遺伝子突然変異頻度を10-5として, 6個の遺伝子変異で説明すると,がんに至るまでの頻度は(10-5)6 = 10-30 /cell/generationとなる。 ヒト個体は,1012-1013 の細胞で構成されている。生涯の細胞数を1014と仮定(100歳まで生きるとすると,合計は36500日;分裂するstem cellが仮に0.1%あり,1日1回分裂するとすれば,1013 x 0.1% x 36500 = 36500 x 1010 = 3.65 x 1014;stem cellの分裂は1:1)しても,突然変異だけで説明すると,ヒトはがんに罹る可能性はきわめて低い。
環境化学物質の突然変異原性(遺伝毒性),発がん性の試験 1) エームス(Ames)試験--サルモネラ菌を用いて, DNA損傷に依存したDNA複製依存性突然変異原性の有無を調べる。 2) マウス実験--化学物質を数百匹のマウスに投与し,2年間飼育して,発がん性を調べる。 発がん物質 変異物質 非変異・発がん物質;例,アスベスト,ベンゼン,o-phenylphenol 変異・非発がん物質;例,ヒドロキシルアミン,9-アミノアクリジン 変異・発がん物質(50-60%);例,過酸化水素,ニトロソグアニジン,放射線 変異・非発がん物質が存在 非変異・発がん物質が存在
放射線誘発突然変異と細胞悪性形態変化の頻度は違う 生存曲線● X線を照射したゴールデンハムスター細胞を二群に分け,一方で細胞悪性形態変化 (malignant morphological change)を指標にして細胞がん化頻度を求め,他方でHGPRT遺伝子座における体細胞突然変異頻度を調べた(京都大学,渡邉正己) 細胞がん化と突然変異誘導動態が全く異なる 細胞悪性形態△ 突然変異□ 10-5
突然変異による発がんとaneuploidyによる発がん 突然変異だけで説明すると,ヒトはがんに罹る可能性はきわめて低い(前の頁の説明)。 遺伝子の変異が生じると,その表現型はすぐに現れる。がんは10年以上の時間をかけてゆっくり発病する。 世の中には非変異・発がん物質や変異・非発がん物質が存在する。突然変異だけでは発がんを説明できないことの証拠。 非変異・発がん物質は,M期arrest,中心体の断片化,異数化等を誘発する。変異・発がん物質も中心体の断片化やaneuploidyを誘発する。ほとんど全てのがん細胞でaneuploidyは観察される。 異数性だけではがんにはならない(Bub変異の両親;広島大,松浦)。 突然変異とaneuploidyは共に発がんmultistepにかかわる。
Science, vol297, 2002 がん突然変異説に対する疑問 正常細胞 がん細胞の染色体数は正常細胞のとは異なる。Aneuploidy(異数性) Aneuploidy(異数性) Polyploidy(倍数性) 大腸直腸がん
Jallepalli & Lengauer (2001) Aneuploidy (異数性)とがん ひと大腸直腸がん細胞 Jallepalli & Lengauer (2001)
同じCAN1遺伝子の変異でもdiploidとhaploidで突然変異頻度が異なる カナバニン抵抗性突然変異(CanR) 10-2 10-3 10-4 10-5 10-6 10-7 diploid (CAN1/Δcan1) CanR frequency 組み換えによる変異≒ LOH haploid 0 50 100 複製誤りによる変異 紫外線 (J/m2) 酵母のCAN1遺伝子の突然変異を調べると,diploid heterozygousの時は,haploidに比べて頻度が100倍高い。組み換えなどによるloss of heterozygosity (LOH)の頻度が高いからである。 Kazuo Yamamoto
酵母aneuploidy実験系とCanRの生成 ADE2 酵母aneuploidy実験系とCanRの生成 0 20 40 60 80 % can1⊿ 遺伝子変換 LYS2 未処理 組み換え aneuploidy ADE2 ADE2 0 20 40 60 80 % 遺伝子変換 MMS (1 mM) LYS2 組み換え CanR ADE+ LYS+ CanR ADE+ lys- CanR ade- lys- aneuploidy 0 20 40 60 80 % 遺伝子変換 組み換え 異数性 遺伝子変換 ADEとLYSのマーカーによって,CanRを分類をする。 MMS,H2O2処理で,頻度は約10倍上昇する。 H2O2 (1 mM) 組み換え aneuploidy DNA損傷物質は組み換えとaneuploidyを誘発する
Loss of heterozygosity (LOH) = can1(+/-)からcan1(-/-)の生成 ADE2 塩基置換突然変異 ADE2 Loss of heterozygosity (LOH) = can1(+/-)からcan1(-/-)の生成 CanR Ade+ Lys+ (1%以下) can1Δ X LYS2 can1Δ LYS2 遺伝子変換 組み換え 染色体喪失(異数性) + CanR Ade- Lys- (10%) 1) 遺伝子変換と組み換えはDNA損傷が引き金となって生じる 2) 染色体喪失は細胞分裂の異常 その機構は? CanR Ade+ Lys+ (20%) CanR Ade+ Lys- (70%)
非変異・発がん物質によるaneuploidy 0 20 40 60 80 % ADE2 遺伝子変換 未処理 組み換え can1⊿ aneuploidy LYS2 遺伝子変換 ADE2 ADE2 AA 100 mM 組み換え aneuploidy LYS2 遺伝子変換 CanR ADE+ LYS+ CanR ADE+ lys- CanR ade- lys- AN 75μM 組み換え aneuploidy 遺伝子変換 aneuploidy 組み換え 遺伝子変換 無処理-- 1 x 10-4 Acrylamide (AA 100 mM) 1x 10-3 Acrylonitrile (AN 75μM)9 x 10-4 Carbendazim (CD 0.2 mM) 6 x 10-4 CD 0.2 mM 組み換え aneuploidy
化学物質によるaneuploidy生成機構;o-phenyl phenol ,PHQの作用機構 輸入柑橘類の防カビ剤として使用されるポストハーベスト剤。突然変異は誘発しない。DNAに作用しない。マウスに膀胱がんを誘発する。 Fe3+ Fe2+ O2 O2- NAD• NADH OPP phenylhydroquinone (PHQ) Phenyl benzoquinone (PBQ) 100 10-1 10-2 10-3 10-4 10-2 0 (mM) 0.1 0.25 0.5 Surviving fraction 10-3 Frequency 10-4 CanR-frequency 10-5 塩基置換 遺伝子変換 組み換え aneuploidy 0.00 0.25 0.50 OPP (mM)
2) CanR 変異(LOH)が濃度依存的に誘導される 3) aneuploidyの誘導 4) 塩基置換型突然変異の誘発はない PHQのaneuploidy誘導性 100 80 60 40 20 100 10-1 10-2 10-3 10-4 致死作用 組み換え Surviving fraction Distribution (%) CanR変異頻度 aneuploidy 遺伝子変換 Can-R frequency 0.00 1.00 2.00 DHBP (mM) 1 1.5 致死作用に閾値がある。 2) CanR 変異(LOH)が濃度依存的に誘導される 3) aneuploidyの誘導 4) 塩基置換型突然変異の誘発はない 5) マウスに膀胱がんを誘発する DHBP (mM)
ヒト培養細胞でもPHQはAneuploidyを引き起こす 70 60 50 40 30 20 10 ≦40 41 42 43 ≧47 46 45 44 Chromosome numbers HCT116 : 染色体数 主に45本 PHQ16hr処理 ↓ Wash 通常の培地で 数日培養 染色体観察 Proportion of chromosome numbers (%) No treated 1day 2day 3day 4day 5day day after addition of PHQ Aneuploidy (%): 43 73 67 56 57 57 DNA損傷を作らないPHQでもAneuploidyを誘発 --> 非標的仮説
PHQは,酵母の細胞周期をG2-M期で停止する A YPD 100 80 60 40 20 PHQは,酵母の細胞周期をG2-M期で停止する G1-S B % cells YPD 2 mM PHQ 15 g/ml Noc 180 G2-meta 150 Ana . 0 50 100 150 200 120 Minutes after release from G1 2 mM PHQ 100 80 60 40 20 90 G1-S G2-meta 60 % cells 30 Ana . 0 50 100 150 200 Minutes after release from G1
PHQ 処理すると酵母の形態異常 (elongated bud)が観察される 拡大図 YPD 0.1% MMS 15 g/ml Nocodazole 2 mM PHQ Budの形態形成が不十分な状態で周期の進行が止まっている。 Mophogenesis checkpoint -- G2/M境界でdelay。 正しい状態を確認してMPFを活性化してM期に進む。 酵母swe1(wee1 homolog)欠損株ではelongated bud形成は無い。Swe1欠損株ではG2/M境界delayも無い。 MPF = mitosis promoting factor = CycB + Cdk1 (Cdc28)
Swe1 (Wee1),Cdc25によるG2/M境界checkpoint CDK1(Cdc28) /Cyclin B P CDK1(Cdc28) /Cyclin B P Swe1 prophase G2期 G2/M 境界 G2/M境界では,Swe1はMPFをリン酸化することで,周期の進行を遅らせ,Cdc25 phosphataseは脱リン酸化することで,周期を前に進める。 PHQはSwe1 (Wee1)を安定化するので,MPFを不活性型に保ちelongated bud形成を促す。
α factorでG1に同調し,release後65分にPHQを加える。 10%SDS-PAGEで流してwestern blotting PHQはSwe1を安定化する Time (min) 0 30 45 60 75 90 105 Swe1 YPD Loading control 0 30 45 60 75 90 105 Swe1 2 mM PHQ Loading control α factorでG1に同調し,release後65分にPHQを加える。 10%SDS-PAGEで流してwestern blotting PHQはSwe1のリン酸化を抑制して安定化する
Swe1変異株ではPHQ処理しても細胞周期は正常に進む 100 80 60 40 20 Swe1変異株ではPHQ処理しても細胞周期は正常に進む Swe1欠損株YPD G1-S Swe1株のFACS YPD 2 mM PHQ 15 g/ml Noc % cells 180 G2-meta 150 Ana 120 Minutes after release from G1 0 50 100 150 200 90 100 80 60 40 20 Swe1欠損株2 mM PHQ G1-S 60 % cells 30 G2-meta Swe1欠損株ではPHQ処理は周期を止めない Mad2変異株ではPHQは周期を止める PHQはG2/M境界で周期を止める Ana 0 50 100 150 200 Minutes after release from G1
DNA damage checkpointとG2/M transition checkpoint Chk1 Chk1 P ATM/ATR DNA damage 環境ストレス (ROS等) chk2 14-3-3 Cdc25 Wee1 CDK1(Cdc28) /Cyclin B P CDK1(Cdc28) /Cyclin B P p53 X G2/M 境界arrest P21 Swe1(Wee1)はHog1(p38MAPK)およびChk1の下流 S arrest
PHQはHog1をリン酸化し,その下流のSwe1を安定化する。 PHQはCdc25をリン酸化(不安定化)する(HCT116での結果)。 PHQはHog1(p38)をリン酸化する NaCl PHQ DMSO MMS Nocodazole 0 30 60 30 60 30 60 30 60 30 60 min p-Hog1p Hog1 PHQはHog1をリン酸化し,その下流のSwe1を安定化する。 PHQはCdc25をリン酸化(不安定化)する(HCT116での結果)。 従って,PHQはG2/M transitionで細胞周期を止める。
Hog1, swe1, chk1変異株でのPHQによる突然変異の誘発 PHQ (mM) Hog1, swe1, chk1変異株でのPHQによる突然変異の誘発 . 5 1 2 1 hog1 swe1 survival wt chk1 Hog1, swe1変異株は,PHQに対して抵抗性になる。2倍体でのLOHは誘発されない。 Chk1株は正常株と同様の感受性で突然変異も誘発される。 PHQはATM/ATR経路を動かさない。 Hog1-swe1を動かして突然変異を誘発する。 10-1 10-2 Mutation frequency=LOH wt chk1 10-3 swe1 異数化は起きない hog1 10-4
Hog1, swe1変異株ではPHQによる異数性は誘発されない 100 80 60 40 20 wt 1.5 mM PHQ 0 mM PHQ 2 mM PHQ Chk1株 Loss of heterozygosity ADE2 % 100 80 60 40 20 can1Δ Hog1株 Swe1株 LYS2 Gene crossover loss conversion Gene crossover loss conversion CanR ADE+ LYS+ CanR ADE+ lys- CanR ade- lys- Wt, chk1株では,PHQで異数性だけが誘発される PHQはRad53(chk2)をリン酸化しない(not shown) hog1, swe1株では異数性は誘発されない。 PHQはhog1-swe1経路を活性化,ATM/ATR経路には 作用しない Gene conversion crossover loss
PHQ作用のまとめ (1)PHQはMAPK経路を活性化(Hog1-Swe1経路)することに より, 細胞周期をG2/M境界で止める PHQが誘発する異数性(Aneuploidy)の中心経路である (3)PHQはATM/ATRを活性化しないので,chk1由来の G2/M境界arrestは起きない。Chk1変異株は野生株と 同じようにPHQに反応する。
PHQはヒト培養細胞にアポトーシスを誘導する PHQ (μM) Cont Noc 100 125 PHQ Noc 核(DAPI) 細胞 No treated 薬剤で48時間処理後,DNAの断片化と,apoptosis特異的PolyADP ribose polymerase (PARP)の分解を見た。 116kDa PARP 85kDa Actin Nocodazole 150 nM。 PHQ 100 M。 Kazuo Yamamoto
PHQは中心体の増幅もしくは断片化を誘導 -tubulin merge ≧3の割合 Interphase 核 1.9 % -PHQ 4.9 % PHQ処理(16hr) Mitosis 2.4% -PHQ 11.4% PHQ処理(16hr)
G2/M境界での停止が何故染色体異数化を誘導するのか? 中心体 分裂期における紡錘体形成中心であり,この増幅により多極紡錘体が生じ,異数化やM期崩壊の原因となる。 G1~S期にかけて複製され,G1/S期停止やS期遅延により過剰複製・断片化が起こる 中心体 g-tubulin DAPI Merge コントロール PHQ Fig.8 PHQ処理による中心体増幅(3個以上の g-tubulin foci を持つ)細胞の割合
非変異・発がん物質OPP 1) エームス試験陰性。大腸菌,ヒトやマウスの培養細胞などでも突然変異は誘導しない。Haploid酵母でも突然変異誘発はない。DNA損傷は作らない。 2) マウスに膀胱がんを作る(aneuploidy を伴う)。 3) 染色体喪失型LOH(monosomy =aneuploidy)の誘発と発がん。 -仮の説明- ●もし一方の染色体上のがん抑制遺伝子に前もって突然変異があるとき,OPP処理で正常遺伝子を持つ染色体が喪失すると(-/0)となりがんになる。 ●一方の染色体が喪失すると,がん抑制遺伝子が(+/+)から(+/0)と半分になる。ゆくりとがんになる。
細胞分裂の不調 PHQの作用点? DNA損傷とそのprocessing 細胞周期と遺伝的不安定性 異数体 (aneuploidy) 4倍体 (倍数体) 細胞周期と遺伝的不安定性 G2-M期チェックポイントの間違い G2-M期チェックポイントの間違い 細胞分裂の不調 PHQの作用点? 2倍体(diploid) Rad52経路 DNA損傷とそのprocessing DNA損傷チェックポイントの間違い 転座 欠失 遺伝子あるいは染色体の増幅 LH Hartwell and M Kasten 1994 Science, 266,1821
Aneuploidy(CIN)を考えると何がいえるか 塩基置換変異(MIN)の10倍の頻度で生じる 非常にまれというわけではない 染色体22本対を考えると,1対の染色体には 複数のがん関連遺伝子が乗っている。 1回のeventで複数の遺伝子の変化を説明できる がん抑制遺伝子で発現量の低下による発がんがある Protooncogeneで発現量の増加による発がんがある。
+ + a) がん抑制遺伝子の場合 b) proto-oncogeneの場合 Aneuploidy (CIN)とがん 1) Heterozygous (-/+)から(-/0)となる 2) Homozygous(+/+)から(+/0)となる b) proto-oncogeneの場合 + 正常protooncogeneが 3個になる→増殖傾向
P53(+/-) マウスの発がん機構 (Kuperwasser C et al. , Am J Pathol Balb/c p53+/+ (n=5) Balb/c p53-/+ (n=56) LOHの結果(-/0)となる (+) alleleのloss-- 乳ガン 2) (-/+)のまま p53量が1/2 -- lymphoma haploinsufficiency Probability of tumor-free Balb/c p53-/-(n=85) Weeks 矢印 は 50%のマウスにガンができる週。
がんは突然変異?Aneuploidy? ヒトがん細胞にはaneuploidyがあるか突然変異があるか? --両方ある --両方ある Non-mutagenic carcinogenはすべてaneuploidyを導くか? -- 一部YES, 一部NO 染色体の増減で,protooncogene,がん抑制遺伝子の発がんの機構をすべて説明できるか? -- 出来るのもあるし,出来ないのもある