豊中高校土曜講座「数学セミナー2003」 プラトン多面体の数学 なぜ正多面体は5種類しかないのか 大阪府立豊中高等学校 深川 久
正多面体の定義 有限個の面からなる凸多面体 各面は合同な正多角形 各頂点のまわりに集まる面の数は同じ 言葉で正確に言い表してみよう。 定義をもとに,正多面体の種類を決定したい。
正多面体の種類 正四面体 (面の形は正三角形) 正六面体 (面の形は正方形) 正八面体 (面の形は正三角形) 正多面体の名前と,面の形をあげてみよう。 正四面体 (面の形は正三角形) 正六面体 (面の形は正方形) 正八面体 (面の形は正三角形) 正十二面体 (面の形は正五角形) 正二十面体 (面の形は正三角形) 「他にない」ことはどうやって証明できるだろうか?
正多面体の種類(図) これらの存在は認めよう。他にないことを証明したい。
二通りの証明の方針 角度を用いる方法 一つの頂点に集まる面の内角の和を 考える。(硬い方法) 頂点・辺・面の数の関係を使う方法 硬い方法とやわらかい方法がある。 角度を用いる方法 一つの頂点に集まる面の内角の和を 考える。(硬い方法) 頂点・辺・面の数の関係を使う方法 オイラーの多面体公式を利用する。 (やわらかい方法) これから両方の証明を見ていこう。
角度を用いる方法 頂点のまわりに最低何枚の面が集まる? 頂点に集まる正多角形の内角の和の値のとりうる範囲は? 正n角形の一つの内角は何度? 面は正n角形,1頂点に集まる面はr枚としよう。 頂点のまわりに最低何枚の面が集まる? 頂点に集まる正多角形の内角の和の値のとりうる範囲は? 正n角形の一つの内角は何度? これらから自然数の組(n,r)を決定する。
角度を用いる方法(2) n≧3,r≧3である。 一つの頂点に集まる面の内角の和は, 360°よりも小さい。
角度を用いる方法(3) 正n角形の一つの内角は・・・ これをr枚あつめて360°未満だから・・・ この不等式を満たす(n,r)をすべて見つけよう。
角度を用いる方法(4) 前ページの不等式を変形する。 n≧3,r≧3である自然数でこの不等式を満たすのは, (n,r)=(3,3),(4,3),(3,4),(5,3),(3,5) これらが正4,6,8,12,20面体に対応し, これですべてである。 (証明終)
V-E+F=2 オイラーの多面体公式 多面体の頂点の数をV,辺の数をE,面の数をFとおけば,次の関係が成り立つ。 この公式を証明し,それを用いて正多面体が5種類しかないことを示そう。
正多面体の頂点・辺・面の数 頂点 辺 面 V-E+F 正四面体 正六面体 正八面体 正十二面体 正二十面体 既知の正多面体に対して確かめよう。 頂点 辺 面 V-E+F 正四面体 正六面体 正八面体 正十二面体 正二十面体
正二十面体と正十二面体の双対性 頂点の数は双対多面体の面の数。
正多面体の頂点・辺・面の数 頂点 辺 面 V-E+F 正四面体 4 6 2 正六面体 8 12 正八面体 正十二面体 20 30 正二十面体 結果は以下のとおり。 頂点 辺 面 V-E+F 正四面体 4 6 2 正六面体 8 12 正八面体 正十二面体 20 30 正二十面体
オイラーの公式の証明(1) 多面体の面を1つ取り除き平面上に広げる。(F’=F-1とおく) 右端のような図形に対してV-E+F’=1を示せばよい。(注:外部は面ではない)
オイラーの公式の証明(2) 多角形の面を三角形に分割しても, V-E+F’の値は変わらない。 辺を2本追加して三角形に 分割すると,面も2つ増える。 頂点は不変。 平面上の,三角形分割された穴のない領域に対してV-E+F’=1を証明すれば十分である。
オイラーの公式の証明(3) 一つの三角形に対しては成り立っている。 三角形を追加すると・・・ こうして,オイラーの多面体公式が証明された。 V=3,E=3,F=1より, V-E+F’=1 三角形を追加すると・・・ V-E+F’は不変 こうして,オイラーの多面体公式が証明された。
オイラーの公式を用いる方法 r,V,Eの関係式 : rV=2E n,F,Eの関係式 : nF=2E 1頂点に集まる面の数をrとする。 r,V,Eの関係式 : rV=2E 1頂点にr本の辺が集まる。 この r と頂点数Vの積は, 各辺を両端の頂点から2度数えた値2Eに一致。 n,F,Eの関係式 : nF=2E 1面にn本の辺がある。この n と面数Fの積は,各辺を その両側の面から2度数えた値2Eに一致。 これらとオイラーの公式から(n,r)を絞りこむ
オイラーの公式を用いる方法(2) r,n,V,F,Eの関係 前項から, オイラーの公式 代入する 変形整理
オイラーの公式を用いる方法(3) n,r を絞り込む 前頁の結果 n≧3,r≧3である自然数でこの不等式を満たすのは, n≧3,r≧3である自然数でこの不等式を満たすのは, (n,r)=(3,3),(4,3),(3,4),(5,3),(3,5) これらが正4,6,8,12,20面体に対応し, これですべてである。 (証明終)
二つの方法の関連を探ろう 正六面体の場合 1つの頂点に集まる面の内角和は? それは360°に対してどれだけ足りない? (この「足りない角」を不足角と呼ぼう) 不足角を,すべての頂点に対して足してみよう。 (この和を「不足角の総和」と呼ぼう) 不足角の総和は,360°の何倍か? 他の正多面体についても,同じ計算をしてみよう。
不足角とは(図) 1頂点の周りで展開すると・・・ 平面上に展開すると,欠けた部分ができる。この部分の角を,360°に足りない,という意味で不足角と呼ぶ。 正六面体の場合,1頂点に正方形が3枚集まっている。正方形のひとつの内角は90°だから,不足角は 360°- 90°×3 = 90°
不足角の総和を調べてみよう 1頂点不足角 不足角の総和 360°の何倍 正四面体 正六面体 正八面体 正十二面体 正二十面体
不足角の総和を調べてみよう(結果) 180° 720° 2倍 90° 120° 36° 60° 1頂点不足角 不足角の総和 360°の何倍 正四面体 180° 720° 2倍 正六面体 90° 正八面体 120° 正十二面体 36° 正二十面体 60° 不足角の総和は正多面体によらず,360°の2倍。
不足角の2はオイラーの2 表の右端に2が並ぶ・・・似ている! 例を増やしてみよう。 V-E+F=2 の 2 は,不足角の総和の2なのではないか? 予想:「不足角の総和=オイラー数×360°」 例を増やしてみよう。 正多面体以外の多面体で,オイラー数V-E+Fと不足角の総和を計算して,比べてみよう。
例を増やす:トーラスでは トーラス・・・浮き袋の表面 隠れた面を想像しながら,オイラー数と,不足角の総和を計算してみよう。 「不足角の総和=オイラー数×360°」はここでも成立
さらに例を増やす:n人乗り浮き輪 2人乗り浮き袋 この例でも,予想は成り立つだろうか。
まとめ 正多面体は5種類:2通りの証明 頂点に集まる面の内角和の制約による方法 不足角の総和とオイラー数の関連 オイラーの公式を用いる方法 不足角の総和とオイラー数の関連 「不足角の総和=オイラー数×360°」 さらに,n人乗り浮き輪の穴の数とオイラー数の関係へと考察をすすめることもできる。 ---正多面体の分類から有向閉曲面の分類へ---