〜 「バネ力学を用いた正二十面体測地線格 子の改良(Tomita et al, 2001)」 正二十面体格子大気モデル IGModel プロジェクト 〜 「バネ力学を用いた正二十面体測地線格 子の改良(Tomita et al, 2001)」 神戸大学 地球および惑星大気科学研究室 M1 河合 佑太 2011/07/14 大気セミナー
目次 はじめに バネ力学を用いた正二十面体格子の改良 まとめ Williamson(1992) の標準実験による改良された格子の評価 スペクトルモデルと格子点モデルについて 正二十面格子モデルの歴史 従来の正二十面体格子モデルの問題点 IGModel プロジェクトとは バネ力学を用いた正二十面体格子の改良 Williamson(1992) の標準実験による改良された格子の評価 非線形帯状地衡流の全球定常状態の実験 コンパクトサポートを持つ非線形帯状地衡流の定常状態の実験 まとめ
全球モデルにおけるスペクトル法と格子点法 はじめに 全球モデルにおけるスペクトル法と格子点法 正二十面体格子モデルの歴史 従来の正二十面体格子モデルの問題点 IGModel プロジェクトとは
全球モデルにおけるスペクトル法と格子点法 1 球面上において, 大気・海洋の現象を記述する偏 微分方程式を解く方法はたくさんある. 例) スペクトル法と格子点法 . 大気循環モデルでは歴史的に, スペクトル変換法がよく 用いられてきた. スペクトル法のメリット・デメリット ○ 通常の格子点法と比較したときの数値精度の良さ. ☓ 高解像度の場合, ルジャンドル変換の計算コストが高い. ☓ 高解像度の場合, 並列計算に伴うデータのノード間通信コストが高い. ☓ ギブス振動, 負にならないスカラ量の取り扱い.
全球モデルにおけるスペクトル法と格子点法 2 上のスペクトル変換法の問題から, (静力学平衡が成り立たないほど)高 解像度の大気大循環モデルの力学コアを開発するにあたって, 近年は 格子点法を採用する流れがある. 格子点法における極問題 緯度経度座標では, 極付近で時間ステップを大きく取れない(CFL 条 件). 極問題の解決法の一つが, 準一様格子を採用することである. 緯度経度座標において, 格子点の密度を調整(Kurihara, 1965). 立方格子, 正二十面格子といった多面体格子の使用.
正二十面体格子モデルの歴史 最初の研究は, Williamson(1968)やSadourny et al(1968)に始まる. その後, いくつかの研究グループによって研究 が進められたが 「波数 5 問題」に苦労してい た. 90 年代後半から, 再び注目され始めた. 極問題の根本的な解決. ベクトル化・並列化の容易さ. とりわけ正二十面格子は, 一様性・等方性が良 い.
従来の正二十面体格子モデルの問題点 解像度を上げた際に, 数値解が期待される精度 を保って厳密解に収束しない. 解像度を上げたにもかかわらず精度がむしろ悪化する場合さえ ある(Stuhne and Peltier, 1999). 修正を施さない正二十面格子を用いた場合, 空間微分の精度が 良くない(Heikes and Randall, 1995). 彼らは, 格子を修正することでその誤差を最小化した.
従来の正二十面体格子モデルの問題点 その結果.. Tomita, et al(2001) はそれらの問題を解決した. バネ力学を用いた正二十面体格子の新たな修正法を考案した. その格子を用いた浅水モデルを開発. その結果.. Arakawa-A 型格子の使用に起因する組織的な格子ノイズの減少 高い数値精度と(時間積分に対する)安定性
IGModel (Icosahedral Grid Atmospheric Model) プロジェクトとは 正二十面体格子を用いた全球大気大循環モデルを 開発している. NICAM(Nonhydrostatic Icosahedral Atmospheric Model) の開発歴史が教科 書 Tomita, et al(2001); Tomita and Satoh(2002); Satoh(2002); Tomita and Satoh(2004) … 地球流体電脳倶楽部上でプロジェクトを展開 電脳製品(主に gtool, GPhys )を活用する. dcmodel の開発スタイルの良い面を踏襲する. http://www.gfd-dennou.org/member/ykawai/work/IGModel.htm
バネ力学を用いた正二十面体格 子の改良
正二十面体格子(STD-grid)生成法 正二十面体の各面の三角形の 4 辺の中点を計算し, それらの中 点を球面上へ射影する それぞれの中点を測地線で結ぶ. 結果, 1 つの三角形から 4 つ の三角形が生成される. この処理を目的の解像度まで再帰的に繰り返す. (この繰り返し 回数を glevel と呼ぶ. ) 分割レベル0 分割レベル2 分割レベル4
微分演算子の離散化方法 微分演算子の離散化には, 有限体積法を用 いる. 発散演算子 回転演算子(鉛直成分) 勾配演算子 STD-grid のコントロールボリューム(Tomita et al, 2001 の Fig 2). コントロールボリュームの頂点は, 近傍格子点の重心にとる. bi : 点 Pi と点Pi-1 間の測地距離 ni : 辺 PiPi-1 の法線ベクトル mi : 辺 PiPi-1 の接ベクトル A(P0) : 格子点 P0 のコントロールボリュームの面積 k : 格子点 P0 の接平面の法線ベクトル
格子の修正 1 格子点 P0 の位置をコントロールボ リューム(Control Volume: CV)の重 心に移動させる. (STD-GC-grid と呼ぶ) STD-grid に対して, 微分演算子に対する精度が 向上する. この特性は数学的に証明される. 特に, 局所的な誤差が大幅に改善さ れる. STD-GC-grid の格子点とコントロールボリューム(Tomita et al, 2001 の Fig 3). コントロールボリュームの頂点を, 近傍格子点の重心にとり, さらに格子点をコントロールボリュームの頂点に置き直す.
しかし, 依然として格子の三角形端に沿って大 きな微分演算子の数値誤差が発生する. STD-GC-grid の問題点1 しかし, 依然として格子の三角形端に沿って大 きな微分演算子の数値誤差が発生する. Glevel 1 の境界で主な誤差が発生する. 再帰的な格子生成と関係して, 各 glevel の境界 で誤差が継承されてしまう. この誤差分布(フラクタル構造)は, 時間積分 を行う際に組織的なグリッドノイズを生じさせ る. この誤差の原因は, 格子が一様に分布していな いことに起因する.
STD-GC-grid の問題点2(誤差の原因) 格子が一様分布していないために, CV の面積や 形の歪の分布が単調に分布しない. 面積の勾配が大きいところで, 誤差が発生する. STD-GC-grid における非発散場の発散の分布(発散演算子の誤差分布) STD-GC-grid におけるコントロールボリュームの面積分布
格子の修正 2 バネ力学を用いて, 格子の間隔を一様 化した後, コントロールボリュームの 頂点を求める. そして, 修正 1 を施 す. (この格子を SPR-GC-grid と呼ぶ) バネ力学を用いた格子の修正(Tomita et al, 2001 の Fig 5). 各格子をバネを用いて接続する. r0 : P0 の位置ベクトル α : 摩擦係数 k : バネ定数 M : 任意の質量 di : P0Pi の弧の長さ β : チューニングパラメタ
修正 2 による誤差の改善 SPR-GC-grid における格子の修正は, 微分演算子に対す る数値誤差を改善する. 全球上に広がっていた誤差は, 特異点近傍だけに現れるようになった. 誤差分布のフラクタル構造は解消された. SPR-GC-grid における非発散場の発散の分布(発散演算子の誤差分布) SPR-GC-grid におけるコントロールボリュームの面積分布
数値誤差の評価方法 以下の 3 種類の誤差ノルムで評価する. x,x_t : 任意の物理場(スカラー場 or ベクトル場) x : 数値解 I : 全球平均
微分演算子の数値誤差の定量的評価 m=3, n=3 に対する各微分演算子の誤差ノルムの収束性を検証 発散 回転 勾配
IGModel-SW(全球浅水モデル) における Williamson(1992)の標準テスト のケース 2, 3 の結果 ( http://www.gfd-dennou.org/member/ykawai/work/IGModel-SW/ sample/Williamson_1992/standard_test_Williamson_1992.htm )
IGModel-SW (正二十面体格子全球浅水モデル) 支配方程式系 数値モデルの設定 水平離散化 有限体積法(2 次精度) 時間積分 3 次の Adams=Bashforth 法 運動方程式 連続の式 v : 速度ベクトル t : 時刻 ζ : 相対渦度 f: コリオリパラメータ g : 重力加速度 h : 流体の表面高度 h* : 流体層の厚さ hs : 下部境界の地形の高度場 ( h = h* + hs ) k : 球面座標の鉛直方向の単位ベクトル
非線形帯状地衡流の全球定常状態の実験 Williamson(1992) のテストケース 2 <計算設定> 格子系 : STD, STD-GC, SPR-GC 水平解像度 : glevel 4,5,6,7 Alpha : 0, 0.05, PI/2-0.05, PI/2 [rad] 時間刻み : glevel の順に 728, 364, 182, 91 [s] <初期場> 速度場 : 剛体回転 高度場 : 速度場に対して, 地衡流平衡を満たす高度場 Glevel 4 : 約 448 km Glevel 5 : 約 224 km Glevel 6 : 約 112 km Glevel 7 : 約 56 km
非線形帯状地衡流の全球定常状態の実験 格子系(STD-grid, STD-GC-grid, SPR-GC-grid) に対する数値誤差(ノルム無限大)の依存性 (glevel 5, alpha=0) STD-grid STD-GC-grid SPR-GC-grid
非線形帯状地衡流の全球定常状態の実験 数値誤差(ノルム無限大)の水平解像度に対す る依存性 (SPR-GC-grid, alpha=0) glevel 4 glevel 5 glevel 6 glevel 7
コンパクトサポートを持つ非線形帯状地衡流の定常状態の実験 Williamson(1992) のテストケース 3 <計算設定> 格子系 : SPR-GC 水平解像度 : glevel 4,5,6,7 Alpha : 0, PI/3 [rad] 時間刻み : glevel の順に 728, 364, 182, 91 [s] <初期場> 速度場 : コンパクトサポートを持つ剛体回転場 高度場 : 速度場に対して, 地衡流平衡を満たす高度場 Glevel 4 : 約 448 km Glevel 5 : 約 224 km Glevel 6 : 約 112 km Glevel 7 : 約 56 km
コンパクトサポートを持つ非線形帯状地衡流の定常状態の実験 SPR-GC-grid に対する解像度向上による誤差ノルムの収束性 (alpha = PI/3, 5 days) 解像度を上げたとき精度が悪化する問題(Stuhne and Peltier, 1999)を解決している. おおむね 2 次精度で数値誤差は収束している.
まとめ IGModel プロジェクトでは, 正二十面体格子大気モデル群を開発 IGModel 数値モデル群の一つ目として, 全球浅水モデル (IGModel-SW)を開発した. Williamson(1992) に習ったテスト計算の実施 STD-grid をバネ力学を用いて改良した SPR-GC-grid を用いる ことで, 微分演算子の数値誤差や数値計算の安定性が改善される ことが分かった. 水平解像度を上げても, 誤差の収束(2 次精度)が悪化することはない ことが分かった.
今後の展望 非静力学コアの開発を本格的にスタートす る !! ~ 2011 夏 IGModel-SW のテスト計算を続行. Williamson(1992) の残りの テストケースを実施する. IGModel-SW のドキュメントを整備する(したい). 非静力学コア開発のための準備, スキームの再考 CIP マルチモーメント法 MPI / OpenMP hybrid 技術 etc どのような大気現象をシミュレーションしたいのかを, 真剣に 考える. 2011 秋 〜 非静力学コアの開発を本格的にスタートす る !!
参考文献・参考資料 Tomita, H., Tsugawa, M., Satoh, M., Goto, K., 2004: Shallow water model on a modified icosahedral geodesic grid by using spring dynamics. J. Comp. Phys., 174, 579--613. Williamson, D. L. , Drake, J. B. , Hack, J. J. , Jakob, R., Swarztrauber, P. N. , 1992: A Standard Test Set for Numerical Approximations to the Shallow Water Equation in Spherical Geometry. J. Comput. Phys., 102, 211--224. Heikes, R., Randall, D. A., 1995: Numerical integration of the shallow-water equations on a twisted icosahediral gird. Part I: A detailed Description of the grid and analysis of numerical accuracy. Mon. Wea. Rev., 123, 1881—1887. SPMODEL 球面浅水モデルを用いた Williamson et al. (1992) のテスト (http://www.gfd-dennou.org/library/numexp/spshallow-zd_bench/exp/index.htm) 石岡圭一, 2004 : スペクトル法による数値計算入門, 東京大学出版会 GFD Dennou Club gtool project, 2008: http://www.gfd-dennou.org/library/gtool/, GFD Dennou Club.
補足スライド
IGModel プロジェクトの構造 gphys (and paraview) gtool5 IGModel プロジェクトの sub プロジェクトの階層構造 可視化ツール gphys (and paraview) IGMTool IGModel 数値モデル群 IGMBaseLib IGModel-SW ?? io util core gtool5 NetCDF, 数値計算ライブラリ etc