李 秀澈 名城大学経済学部 slee@meijo-u.ac.jp 2013年7月6日 日本のエネルギー・環境政策選択シンポジウム 日本の炭素税改革の経済・環境効果分析 ーE3MGモデルを用いた分析ー い すぅちょる 李 秀澈 名城大学経済学部 slee@meijo-u.ac.jp 共著者 Hector Pollitt(Cambridge Econometrics, UK) 植田和弘(京都大学大学院経済学研究科教授)
本研究の目的 日本の地球温暖化政策の概要 日本の炭素税改革 目次 E3MG モデル シナリオ分析と推定結果 結論
本研究の目的
本研究は、ケンブリッジエコノメトリックス研究所により開発されたE3MGモデルを用いて、日本の炭素税改革が日本の経済及び環境に与える影響を定量的に評価することである。 まず、2012年10月に施行された日本の炭素税が経済及び環境に与える影響を分析 日本がコペンハーゲンで宣言した2020年に1990年レベルの25%削減を達成するために必要な炭素税 率を求める. 炭素税改革の二重配当論(炭素税による二酸化炭素 削減効果と、その税収を所得税など他の税の削減に 充てることによる経済活性化効果)を検証
環境税の二重配当論のしくみ 減税分 環境税収 政府 税・社会保険料 雇用促進 企業 消費者 景気活性化
日本の地球温暖化政策の概要
1998年に「地球温暖化対対策法」が制定 温室効果ガスの算定、産業界や家庭部門の努力義務炭素税や排出権取引制度など国民に費用負担を求める制度は保留 特に産業界は、経団連を中心とした「環境自主行動計画」に大きく依存 家庭部門は、政府主導のクールビズやワームビズキャンペインに参加
政府は2009年に「地球温暖化対策基本法案」を国会に提出 この法案では、温室効果ガスの中期目標(2020年まで1990年レベルの25%削減)と長期目標(2050年まで80%削減)を設定 目標達成の手段として ①炭素税, ②排出権取引制度 (ETS),③再生可能エネルギーに対する固定価格買取制度の導入 2012年10月に、アジアでは最初に炭素税を導入したが、排出権取引制度は保留 2012年7月には、再生可能エネルギーに対する固定価格買取制度を導入.
図表1 日本の中長期温室効果ガス削減目標 出所: 環境省(2012) 100 108 99.7 (13.6億トン) (1990=100) 図表1 日本の中長期温室効果ガス削減目標 100 108 99.7 (13.6億トン) (1990=100) (13億トン) (12.6億トン) 90 福島原発事故後民主党政府の 政策レポート2012 の中での削減目標 80 75 2010日本政府の目標 長期目標 (-80%) 2010 2020 2030 2050 1990 2005 出所: 環境省(2012)
日本の炭素税改革
図表2 日本の石油石炭税と炭素税(1) 2,800円/kl 1,860円/ton 1,370円/ton 炭素税 図表2 日本の石油石炭税と炭素税(1) 新しい 石油石炭税の税率 (既存税+炭素税) 2,800円/kl 1,860円/ton 1,370円/ton 炭素税 320円/CO2 ton(炭素税) 旧 石油石炭税(CO2換算税) 原油、石油製品 LNG, LPG 石炭 旧 石油石炭税の税率 2,040円/kl 1,080円/ton 700円/ton
図表3 日本の石油石炭税と炭素税(2)
E3MG モデル
E3MGモデルの概要 E3MGモデル (Energy-Environment-Economy Model at Global level)は、ケンブリッジ大学とケンブリッジエコノメトリックス研究所が開発したコンピュータベースの計量経済モデルである。 E3MGのヨーロッパ版であるE3ME( Energy-Environment-Economy Model at Europe level )モデルは、EU Commissionやイギリス政府を中心としたEUの政府関連機関の政策レポートの作成に数多くかかわってきたモデルであり、特にIPCCの第4次報告書では、計量経済モデルとしては唯一分析に採用されたモデルでもある。
e.g. industrial emissions of SF6 図表4 E3MG モデルの基本構造 経済 (国家別国民勘定) e.g. industrial emissions of SF6 funding R&D 技術・関連 コスト prices and activity investment fuel use fuel use fuel prices and costs エネルギー (国家別エネルギー 統計) 環境排出物 (国別環境統計) fuel use 詳しくは www.e3mgmodel.com を参照
炭素税 影響の経路 CO2排出削減 図表5 炭素税の経済への 化石燃料需要減少 燃料輸入減少 製造コスト上昇 貿易効果 消費者物価 上昇 化石燃料価格 上昇 化石燃料需要減少 製造コスト上昇 CO2排出削減 貿易効果 消費者物価 上昇 生産影響 国内消費減少 図表5 炭素税の経済への 影響の経路 雇用影響
図表6 炭素税税収の還元効果 炭素税収入 所得税など 減税 雇用増加 可処分所得 増加 生産増加 国内消費増加
シナリオ分析と推定結果
4つの政策シナリオを想定 1つは、2012年に導入された日本の炭素税の環境及び経済へ与える影響を分析 残り3つは、1990年基準2020年までに二酸化炭素排出量を25%削減可能な炭素税プランを設定
図表7 シナリオの要約 シナリオ 炭素税率 炭素税収の活用 2012年の炭素税率 財政赤字返済 2020まで25%削減 図表7 シナリオの要約 シナリオ 炭素税率 炭素税収の活用 S1 2012年の炭素税率 財政赤字返済 S2a 2020まで25%削減 S2b 95%は所得税減税、5%はエネルギー効率投資 S2c 75%は所得税の減税、25%は雇用者の勤労者に対する社会保険負担緩和(医療・雇用保険など)
図表8 E3MGによる炭素税インプット 石油 LNG 石炭 燃料平均 E3MG 炭素税インプット (円/toe) S1 S2a S2b S2c 石油 LNG 石炭 燃料平均 2012 325 305 371 17,721 20,529 19,812 2013 26,982 25,843 29,316 2014 651 610 743 29,508 29,215 32,487 2015 30,709 28,652 32,468 2016 989 915 1,131 32,500 27,460 33,318 2017 35,257 28,750 35,868 2018 39,749 33,140 41,531 2019 43,192 36,528 45,426 2020 44,240 35,615 45,811 注: 為替レートは、2012年末時点の 1ドル = 76.8 円を適用. S1 は、2012年日本の炭素税率を適用 S2 は、1990~2020年にCO2を25%削減するための炭素税率 出所: E3MG, Cambridge Econometrics.
環境とマクロ経済効果 S1 S2b S2c S1 S2a S2a,S2b,S2c 分析結果 1 分析結果 1 環境とマクロ経済効果 下記の図は、各シナリオ別基準年対比CO2の削減のレベルを示している 下記の図は、各シナリオ別 基準年対比GDPに与える影響を示している ⇒S2bのGDPパフォーマンスが最も良い S1 S2b S2c S2a,S2b,S2c S1 S2a 炭素税導入初期には、GDPは急速に落ちるが、 その後、税収還元効果とエネルギー効率投資 の影響により好転される。
25%削減目標の雇用と産業別生産に与える影響 分析結果 2 25%削減目標の雇用と産業別生産に与える影響 S2b は、雇用にももっとも良い影響をもたらしている 生産に最も悪い影響を受ける業種は、 電気、ガス、金属、繊維などであり、良い影響を受ける業種は飲食・宿泊、商業など消費関連産業である。
図表9 シナリオ別マクロ経済効果 マクロ経済効果 S1 S2a S2b S2c GDP 0.0 -1.2 1.1 0.9 雇用 -0.1 図表9 シナリオ別マクロ経済効果 マクロ経済効果 S1 S2a S2b S2c GDP 0.0 -1.2 1.1 0.9 雇用 -0.1 0.4 家計消費 -1.6 2.0 1.7 投資 -0.6 0.7 輸出 -0.5 -0.4 輸入 -0.3 物価 0.1 2.5 1.4 注: 各数値は、基準年度からの変化率である。 出所: E3MG, Cambridge Econometrics.
図表10 実質生産効果 部門別実質生産効果 S1 S2a S2b & S2c (S2b) (S2c) ガス -0.3 1次金属 -2.0 図表10 実質生産効果 部門別実質生産効果 S1 S2a S2b & S2c (S2b) (S2c) ガス -0.3 1次金属 -2.0 出版 6.1 5.6 電気 -1.0 繊維・衣服 -2.6 宿泊 5.3 5.1 -6.6 飲食 4.8 -28.5 繊維 4.1 注: 各数値は、基準年度からの変化率である。 出所: E3MG, Cambridge Econometrics.
Conclusion
日本の2012年の炭素税プランは、GDPと雇用に与える影響は軽微である。 25%削減目標を達成するための経済的コストは大きい方が、耐え難いほどではない。 しかも税収が効果的に他の税の減税に回せば、経済にプラスの影響を与える。 結論的に、炭素税改革が適切にデザインすれば、CO2排出削減と経済改善のいわゆる「二重配当」の恩恵を頂くことにある。
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