金融市場の未来 14030846 高橋 宏吏.

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金融市場の未来 14030846 高橋 宏吏

目次 I. 論旨 II. グレーゾーン金利について III. 法改正の意義と反論 IV. 参考 V. 結論 用語の解説 参考文献 i. 範囲

I.論旨 融資の金利に関わる法律が制定されて、およそ50年が経つ今日、「利息制限 法」と「出資法」の間にある金利差が、問題視されるようになった。その問題自 体は以前から発生してはいるが、いわゆる『グレーゾーン金利』と呼ばれる問 題が報道等に取り上げられ、社会的な問題として、現在取り立てて議論される 機会を得た。 この、極端に言えば矛盾している法律は、現在、改正される動きの最中にあり 、広く使われている言葉を借りるなら、『金利の引き下げ』が行われることが決 定した。これによって、法の矛盾については解消されるのだが、この決定は日 本にとって正しいのかどうかということは、今はまだ知る術がない。 そこで、本論文では、まず現在の日本の金利の状況を詳しく知り、金利を引下 げることによって考えられる利益や損失を考察し、参考として、金利の意義や 情報の経済学等の観点から考察し、日本において、金利を引き下げるべきか について、論じたい。

II.グレーゾーン金利について i.範囲

II.グレーゾーン金利について ・利息制限法 ・出資法 金銭の貸付を行うものが業として金銭の貸付を行う場合、 元本が10万円未満の場合、その金利は年2割(20%) 元本が10万円以上100万円未満の場合、その金利は年1割8分 元本が100万円以上の場合、その金利は年1割5分(15%) (利息制限法第一条一項) ・出資法 年29.2%を超える割合の契約をしたときは、刑事罰の対象 (出資法第五条二項)

II.グレーゾーン金利について ii.制定の意図 「この罰則(出資法5条)と利息制限法とにより、利息を三段構えをもって抑制しようとするものである。すなわち、利息制限法の限度内の利息は、裁判所に訴をもって請求し、国家権力による保護を受けることができる。この限度を超え、日歩30銭までの利息は、裁判所に訴をもって請求することはできないが、刑罰の制裁は受けない。日歩30銭を超えると刑罰の制裁があることになる。利息を三段構えをもって抑制するのは、変則であることは否定できない。しかし、金利の実情から見るならば、利息を一線をもって画し民刑両面の効果を同時に付与することは、却って実情にそぐわない策であることを肯認できると思う」 (法曹時報第66号)

後法は前方に優先する原則により、「任意による支払いならば有効である」として、グレーゾーン金利は、合法的なものとして認められる。 II.グレーゾーン金利について iii.違法性 貸金業規制法43条の条文を解説すると、契約締結時に、契約内容を明らかにする書面が交付されていること(同法17条)と、支払い時に利息・元本への充当内訳等の記された書面が交付されていること(同法18条)の、2つの条件が満たされている場合、利息制限法上限以上の金利にて貸し出しを行っていたとしても、その超過分の金利は有効であることを、法律が認めている。 後法は前方に優先する原則により、「任意による支払いならば有効である」として、グレーゾーン金利は、合法的なものとして認められる。

II.グレーゾーン金利について iv.改正法について ・上限金利の引き下げ 現行の出資法の上限金利を、利息制限法の上限金利に引き下げる。 ・総量規制 返済能力を超えた、過剰な融資を抑制することを目的とし、消費者の年収の、3分の1を超える金額の融資を原則禁止とする。 ・ヤミ金業者の罰則強化・排除 罰則を強化することによって、現存するヤミ金業者の排除、新規参入を抑制する。高金利業者に1億円以下の罰金、無登録業者に懲役10年以下の罰則を科す。(改正前は、無登録業者は5年以下の懲役又は1000万円以下の罰金)

III.法改正の意義と反論 ・多重債務者の減少

III.法改正の意義と反論 ・多重債務者の減少 金利を引き下げることによって、多重債務者が減少するといわれている理由は、金利が高ければ高いほど月々の赤字ラインを超えて、自転車操業に陥る危険が大きくなり、自転車操業によって借金が膨らむプロセスも加速される。これによって多重債務者が発生すると考えられているからである。 前図では、100万円と150万円を借り入れた場合をグラフにしたものである。ここからは、少なくとも金利が低ければ低いほど、返済する必要のある金額は少なく済み、家計の黒字を維持でき、高ければ高いほど、家計は赤字に陥ると読み取ることができる。ここで発生した家計の赤字部分を、貸金業者から更に借り入れることによって補填しようとし、その分の金利まで上積みされてしまうことが、自転車操業、借金が膨らむプロセスということである。

III.法改正の意義と反論 ・自殺や犯罪の減少

III.法改正の意義と反論 ・自殺や犯罪の減少

III.法改正の意義と反論 ・自殺や犯罪の減少 現在の日本の自殺者総数約3万人のうち、経済苦・生活苦を理由にした自殺者は約8000人であり、自殺者数全体の約4分の1を占めている。上記の理由から、金利を引き下げ、多重債務に陥る人を減らすことで、経済苦、生活苦による自殺者数を減少させることができると考えられる。 また、平成14年の成人強盗事犯を動機・原因別にみると、債務返済が全体の9.5%を占めている。債務返済を原因とする強盗事犯の割合は、平成8年ころから急激に伸びており、自己破産申立件数や経済・生活苦による自殺者数が増加し始めた時期とほぼ一致する。このため、上限金利引き下げによって多重債務者が減少することで、債務返済を原因とする犯罪も減少すると考えられる。

III.法改正の意義と反論 ・景気の底上げ 金利を引き下げることにより、今まで貸金業者への返済に充てられてきた利息分の多くが消費者の手元に残ることになる。多重債務者は、これまで自分の生活費を切りつめて生活してきているから、生活必需品購入等の消費行動に対し強い動機を有していると考えられる。 このため金利引き下げの結果、多重債務者の家計にゆとりが生まれたならば、消費の底上げが助長され、安定的な景気回復の大きな原動力になると考えられている。金利を引き下げることによって発生する、この経済効果を推計すると、7555億円になると言われている。

III.法改正の意義と反論 ・公租公課回収の効率化

III.法改正の意義と反論 ・公租公課回収の効率化 多重債務者の数が減少すれば、公租公課回収の効率がよくなると言われている。その理由は、多重債務者の多くは債務の返済のために、公租公課を滞納している場合が多いためだといわれている。 図に表したのは、多重債務者が弁護士を訪ねた際に、日本弁護士連盟会が調査したアンケートの結果である。。上限金利を引き下げ、多重債務者を減らすことで、これまで返済に充てられていたお金を税金や学費、公共料金の支払に回すことができる。日弁連の調べでは、これら多重債務者の数は200万人は存在すると言われていて、その効果は小さくはないと考えられる。

III.法改正の意義と反論 ii.反論 金利を引き下げることについての反論の多くは、資金需要者に資金が回らなくなる、ということである。これはどういうことかというと、金利は貸し倒れ等を懸念した上で設定されているべきはずのものである。これを引き下げるということは、貸し倒れへの警戒を強めることになり、貸金業者は資金を貸し出すときに行う審査の場で、資金需要者を必要以上に警戒することになり、資金の貸し出しを渋る可能性が発生する。過去、これによく似た現象が、日本で発生したことを紹介する。

1997年頃に起こり始めた、いわゆる銀行の貸し渋り、貸し剥がしである。これによって、日本の多くの中小企業は大きな打撃を受けることとなった。 III.法改正の意義と反論 ii.反論 1997年頃に起こり始めた、いわゆる銀行の貸し渋り、貸し剥がしである。これによって、日本の多くの中小企業は大きな打撃を受けることとなった。 また、歴史を遡ること約200年、時は江戸時代徳川幕府の頃、棄捐令という徳政令が発令された。これは、江戸幕府が借金に苦しむ旗本や御家人を救済するために、債権者である商人に対し、債権の放棄、または債務の繰り延べをさせた法令である。これによって、一時的に旗本や御家人は貧困から解放されることにはなったが、それより後、商人達は棄捐令を恐れ、返済の不確実な貸し出しを渋るようになり、旗本や御家人の生活苦、経済苦は解決することはなかった。

III.法改正の意義と反論 ii.反論 今度はこれらの現象が中小企業や旗本、御家人ではなく、現代の日本国民の家計に影響を及ぼす可能性が発生した、ということである。これらのことは過去の事例からの推測に過ぎないが、過去のよく似た事例が、それも一度ではなく数度、歴史的事実としてあることを考えるならば、念頭に置く必要があると考えるべきである。 当然のことながら、以上のような問題が発生すれば金利引下げの意義はなくなる。借り入れの不能により、多重債務以前の経済苦、生活苦の発生が想定され、消費はさらに切り詰められることとなり、自殺や犯罪の現象、景気の底上げなども期待できない。また、公租公課の回収についても、同様の理由から期待することは難しい。

IV.参考 i.金利 ここでは、金利というものを、例を用いて考えたい。一般の商店を、まず想定する。商店では、商品を仕入れ、一定の利率で値段をつけて売り、利益を徴収し、その利益をもってして商店の運営に充てている。 消費者が掛けで商品を買ったとすると、一定の期間がたった後に、代金が徴収される。これを金融業に置き換えるなら、現金を商品として売り、金利という利率で値段をつけ、掛け売りしたように一定の期間がたった後に代金を徴収する。 これが、金融業の用いる金利は一般の商店で言うところの、商品の値段であるということである。 こう考えるならば、貸金業は一般の商店と同様に考えることができる。

消費者金融のサービスの低下は、一部の消費者金融とシステムを提携している、正規の金融機関にも影響を及ぼす可能性があると言われている。 IV.参考 i.金利 さて、一般の商店で値下げをするということは、それ相応のコストの削減が必要とされる。ところが、金融業では、仕入れコストの削減は不可能に近いと考えることができる。 一般の商品と同じように、中国に工場を置き生産する、等というようなことができないからだ。ということは、仕入れコストを削減できない商店では、不要な人員の削減や、設備の削減をする必要が発生する。貸金業でも、値下げをすることによって、必然的に人員の削減や設備の削減が行われ、何らかの形でサービスの低下が起こると考えることができる。 消費者金融のサービスの低下は、一部の消費者金融とシステムを提携している、正規の金融機関にも影響を及ぼす可能性があると言われている。

IV.参考 ii.上限金利の持つ意味 制定法により上限を規制するときは、すべての場合にその上限をもって利息とする現象が生じる。 何故なら、上限金利こそが、適法の中で最高の利益を得ることが可能な金利であるからである。 また、上限を制定するということは、脱法的手段を弄して実質的には法定以上の金利を取得することが、広くなされるであろうことが考えられる。 そのために、ヤミ金業者を取り締まる罰則を強化したのであろうが、追っては現れ、追っては現れのいたちごっこにならないかが懸念される。

IV.参考 iii.消費者は弱者なのか ・情報の経済学 情報の経済学の中で、情報の非対称性というものがある。本論文の趣旨に合わせて簡単に解説するなら、金利や元本を本当に返済できるかどうかということは、貸し手よりも借り手の方がよくわかっているのが一般的な現象である。 このように、取引において、一部の人が知っている情報を他の人は知らないことを、情報の経済学では「情報の非対称性」と言い、このとき、資金需要者(借り手)と資金供給者(貸し手)との間に、情報の非対称性が発生している。このことを踏まえて、次のことを考える。

IV.参考 iii.消費者は弱者なのか ・情報の経済学 現在では、自己破産や過払い請求というものが容易にできてしまう。つまり、資金需要者は、これによって心理的に返済を重要視しなくなり、極論するならば「多少金利が高くても、後で過払い分の返還請求をすれば良い」や、「高金利で借りても、返せなければ自己破産すればいい」というように考え、結果として、返済を考えない借り入れをすることも可能であると考えられる。 こういった可能性が考えられる場合、資金供給者は騙されるのを恐れ、取引が行われにくくなる。このように、取引をする前から情報の非対称性が発生している現象を、情報の経済学では「逆選択」と言う。

IV.参考 iii.消費者は弱者なのか ・情報の経済学 以上のような状況の下で、経済の原理から考えるならば、不利なのは資金供給者であるのは明らかである。 何故なら、資金供給者には、資金需要者が本当に返済を行うかは確認できず、貸し倒れの危険を完全に回避することは難しい。

IV.参考 iii.消費者は弱者なのか ・訴訟の問題 現在の金利の問題において、過払い金は返還請求ができるというのが一般論になりつつある。 そして、その大抵の返還請求については、裁判において、消費者が勝訴、貸金業者が敗訴という結果になっている。これらの中には、ごくごく一部ではあるとしても、過払い金の返還に値しない消費者もいるはずである。 訴訟が「何でもあり」のような状況において、消費者の立場は貸金業者より、高い位置にいると考えることができる。

以上のことより、消費者は、完全な保護を必要とするほどの、弱者ではないと考えることができる。 IV.参考 iii.消費者は弱者なのか 以上のことより、消費者は、完全な保護を必要とするほどの、弱者ではないと考えることができる。 当然のことながら、「借りなければ生活が困難である」と言う人の存在も忘れてはいけないが、返済できるかどうか、等の視点から考えると、やはり強者は消費者になる。

V.結論 結論として、金利を引き下げることについては、日本の利益にも損失にも繋がる可能性があり、どちらに進むかを考えるのは難しい。 また、利益と損失の、どちらが大きくなるかの測定も難しいため、両者を比較してどちらが良いかを考えることも難しい。しかしながら、金利というものの性質を考えるならば、現行の金利が高いものであるとは言えど、一線を引いて規制するということは実情にそぐわないと考えることができる。 そもそも、本当に違法な金利を取り立てる業者を取り締まらないことには、これらの問題は永遠に解決しないだろう。 これらの理由から、本論文の結論としては、上限金利の引き下げは望ましいものではないと考え、金利の法律としての規制についても反対である。

用語の解説 i.法律 ・利息制限法 金利を取り締まる法律の一つ。債権者保護の側面がある。 ・出資法(出資の受け入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律) 刑事罰を伴う、金利を取り締まる法律の一つ。債務者保護の側面がある。 ・貸金業規制法(貸金業の規制などに関する法律) 貸金業の登録や、みなし弁済の規定等が書かれている。 ii.金融 ・金利 手数料と並ぶ金融機関の収入源。通常、元本に利率をかけて計算される。 ・上限金利 法律で定められている金利の上限。 ・貸金業 政府金融機関から一般の金融機関までのすべての金融機関を指して言う。 ・ヤミ金融 無登録、違法な高金利での貸付等をしている金融業者を指して言う。 iii.その他 ・公租公課 水道、電気、ガス等の公共料金、健康保険料金や、その他各種税金等のこと。 ・債権、債務 債権は、債務を受け取る権利。債務は、債権を支払う義務のこと。

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