CHA2DS2-VAScスコア別 RE-LY®サブグループ解析結果の考察 小川 久雄 熊本大学大学院 生命科学研究部 循環器病態学

Slides:



Advertisements
Similar presentations
メタボリックシンドロームの考え方. 危険因子の数と心臓病のリスク 軽症であっても「肥満(高 BMI )」、「高血圧」、「高血糖」、「高トリグリセリド(中性脂肪) 血症」、または「高コレステロール血症」の危険因子を2つ持つ人はまったく持たない人に比べ、
Advertisements

サノフィと Regeneron 社は、脂質管理の重要性の認知 向上と LDL コレステロール治療におけるアンメット メディカルニーズの研究に寄与してまいります。 脂質管理におけるアンメットニーズ 2015 年 6 月作成 2016 年 5 月改訂 SAJP.ALI 監修 : 帝京大学医学部.
米国の外来呼吸器感染症での抗菌薬投与状況 抗菌薬投与率 普通感冒 5 1% 急性上気道炎 52% 気管支炎 6 6% 年間抗菌薬総消費量 21% 【 Gonzales R et al : JAMA 278 : ,1997 】
ジャーナルクラブ 「周術期におけるヘパリンブリッジ」 聖マリアンナ医科大学 救急医学教室 津久田純平.
健診時血圧 160/100 以上 ⑨ 市町村主催の 健康教室等へ の勧誘 健診時血圧 160/100 以上 健診時血圧 160/100 以上 健診時血圧 160/100 未満 かつ未治療 のもの 汎用性の高い行動変容プログラ ム 高血圧対策(案)
1. 動脈硬化とは? 2. 動脈硬化のさまざまな 危険因子 3. さまざまな危険因子の 源流は「内臓脂肪」 4. 動脈硬化を防ぐには
DM・ HYBRID療法 (簡単・糖尿病初期寛解療法) (内科開業医御用達バージョン)
Update in ESC: Dabigatran among OAC
福山市民病院 内科 山陽病院 内科 辰川匡史 (武田製薬の資料を参考にしました )
LDL-C代謝機構の 新たなパスウェイ PCSK9 野原 淳 先生 監修: 金沢大学大学院 医薬保健学総合研究科 脂質研究講座 特任准教授
背景 CABGを必要とする虚血性冠動脈疾患の背景には動脈硬化の影響があり、プラークの退縮効果が明らかにされているスタチンを投与することで予後を改善する効果が期待される CABGを行った患者に対しスタチンを投与することで予後を改善する効果を検証することが本研究の目的である 2015/2/17 第45回日本心臓血管外科学会.
息苦しくてつらい 4年 佐野智子.
Association of Major and Minor ECG Abnormalities With Coronary Heart Disease Events 心電図異常と 心血管イベントの関係 谷川 徹也 JAMA, April 11, 2012—Vol 307, No
Yokohama City Save Hospital ☆Emergency and Critical Care Medicine☆
トラネキサム酸の効果 出血を伴う外傷患者の死亡リスクを低下 科学的根拠をここに示します.
糖尿病の病態 中石医院(大阪市) 中石滋雄.
2 二次分析の実例 日本透析医学会統計調査の公開データを用いた 目 的 結 論 二次分析とは? 二次分析の利点1) 方 法2) 結 果2)
2型糖尿病患者におけるナテグリニドと メトホルミン併用療法の有効性と安全性の検討
透析患者に対する 大動脈弁置換術後遠隔期の出血性合併症
生活習慣病について 船橋市医師会ホームページ掲載用.
メタボリック症候群(MetS)の有無と、成人以降の体重増加とCKDの関連
疫学概論 無作為化比較対照試験 Lesson 14. 無作為化臨床試験 §A. 無作為化比較対照試験 S.Harano,MD,PhD,MPH.
CHA2DS2-VAScスコア別 RE-LY®サブグループ解析結果の考察 小川 久雄 熊本大学大学院 生命科学研究部 循環器病態学
疫学概論 診療ガイドライン Lesson 22. 健康政策への応用 §B. 診療ガイドライン S.Harano, MD,PhD,MPH.
各種手術における静脈血栓塞栓症のリスクの階層化(年齢因子を含む)
1. 血糖自己測定とは? 2. どんな人に血糖自己測定が 必要なのでしょうか? 3. 血糖自己測定の実際 4. 血糖自己測定の注意点
第1章:ATIS(アテローム血栓症)とは? atherothrombosis
脳血管障害 診断・治療の流れ 診断と治療の流れ 問診・身体診察 緊急処置 一般検査 画像検査 治療 診断
汎用性の高い行動変容プログラム 特定健診の場を利用した糖尿病対策(非肥満を含む)
生活習慣を変え、内臓脂肪を減らすことで生活習慣病の危険因子が改善されます
血管と理学療法 担当:萩原 悠太  勉強会.
汎用性の高い行動変容プログラム 特定健診の場を利用した糖尿病対策(非肥満を含む)
@Minako Wakasugi, MD, MPH, PhD
脳血管 MR診断に必要な脳動脈の解剖 荏原病院放射線科 井田正博
喫煙者は非喫煙者の2.42倍インフルエンザに罹患する 症状が重くなる確率は、非喫煙者30%、ヘビースモーカー54%
裏面に新たな認定基準の一覧を掲載していますので、ご参照ください。
メタボリックシンドロームはなぜ重要か A-5 不健康な生活習慣 内臓脂肪の蓄積 高血糖 脂質異常 高血圧 血管変化の進行 動脈硬化
メタボリック シンドローム.
喫煙者は糖尿病に なりやすい!! 保険者機能を推進する会 たばこ対策研究会 003_サードハンドスモーク(3).pptx.
疫学概論 交互作用 Lesson 18. 交互作用 S.Harano, MD,PhD,MPH.
小児に特異的な疾患における 一酸化窒素代謝産物の測定 東京慈恵会医科大学小児科学講座 浦島 崇 埼玉県立小児医療センター 小川 潔、鬼本博文.
健診におけるLDLコレステロールと HDLコレステロールの測定意義について~高感度CRP値との関係からの再考察~
血液透析患者の足病変がQOLに与える影響の調査 ~SF-36v2を使用して~
第2回 市民公開講座 糖尿病を知って その合併症を防ぎましょう
脳梗塞.
福島県立医科大学 医学部4年 実習●班 〇〇、〇〇、〇〇、〇〇、〇〇、〇〇
G Royle, J Stangier,T Steiner, P Verhamme, B Wang, L Young, JI Weitz
高脂血症.
知っとく情報<春号> ○○○保険事務所 ★CONTENTS★ ■代理店●●●●情報 保険募集には無関係な代理店情報が掲載されます(写真含む)
災害時の循環器リスクスコア - AFHCHDC7 Score
St. Marianna University, School of Medicine Department of Urology 薄場 渉
UFT服薬に関しての注意事項 ☆ 患者さんには「UFT服用のてびき」をお渡し下さい。.
ノニ果汁の摂食量、飲水量及び体重に対する影響
ノニの血圧上昇抑制のメカニズムに関する研究
内科ないか? 〜精神科コンサルト前に〜 沖縄県立中部病院ER 岡正二郎.
40歳未満にも メタボリックシンドローム基準の適用を
末梢性めまいと鑑別困難な小脳梗塞例のまとめ
脳卒中急性期装具療法の検討 葛西循環器脳神経外科病院 リハビリテーション室1) 同脳神経外科2) 早川義肢製作所3)
心電図 二次チェック 非ST上昇心筋梗塞 ST上昇心筋梗塞 ー不安定狭心症 予防的治療: (禁忌でなければ): βブロッカー、ACE阻害薬
今後構築する各国立高度専門医療研究センター(NC)の疾患登録システム
「自閉スペクトラム症」の治験*に 参加くださる方を募集しています。 治験*とは 治験に参加いただける方
一過性脳虚血発作の機序: (1990年NINDSの定義と 2009年AHA/ASAの定義別に)
1. 糖尿病の患者さんは 血圧が高くなりやすい 2. 糖尿病に高血圧が併発して 合併症が早く進行する 3. 血圧コントロールの 目標と方法
吹田研究(2009年発表分) (対象:4694人、期間11.9年)
(上級医) (レジデント) 同意説明取得 無作為化 割り付け群による治療開始 来院時
外側線条体動脈領域:分枝粥腫型梗塞とラクナ
新しい医療機器の治験にご協力いただける方を募集しています。
諏訪邦夫 (当時東京大学医学部麻酔学教室所属)
人類集団の歴史的変遷 出典:Mascie-Tailor CGN (1993) The Anthropology of Disease, Oxford Univ. Press.
Presentation transcript:

CHA2DS2-VAScスコア別 RE-LY®サブグループ解析結果の考察 小川 久雄 熊本大学大学院 生命科学研究部 循環器病態学 今回は、ACC2011で発表されたRE-LY試験のCHA2DS2-VASc別サブグループ解析結果についての考察を述べます。 1 1

CHA2DS2-VASc スコア C H A2 D S2 V A Sc 9 Maximum Score 危険因子 スコア 1 2 Congestive heart failure/LV dysfunction 心不全・左心室機能不全 1 H Hypertension 高血圧 A2 Age ≥75y 75歳以上 2 D Diabetes mellitus 糖尿病 S2 Stroke/TIA/TE 脳卒中/TIA/血栓塞栓の症既往 V Vascular disease (prior myocardial infarction, peripheral artery disease, or aortic plaque) 動脈疾患(心筋梗塞、末梢動脈疾患、大動脈プラーク) A Age 65-74y 65歳以上74歳以下 Sc Sex category (ie female gender) 性別(女性) Maximum Score 9 CHA2DS2-VAScスコアは、2010年にLipよって提唱された、新しい脳卒中リスク評価です。年齢に重きを置き、新たに動脈疾患やSex categoryを加えた8項目、最高9点のリスク評価です。 従来のCHADS2スコアの0-1の部分がより細分化されたとの見方もできます。 今回は、この最も新しい脳卒中リスク評価におけるサブグル―プ解析が発表されました。 maximum score is 9 since age may contrubute 0, 1, or 2 points Lip GY, et al., Chest 137, 263-272, 2010 2

RE-LY® : CHA2DS2-VASc別の 脳卒中/全身性塞栓症の発症率 (%/年) 0-1 634 2 3,408 3 5,365 4 4,378 5 2,566 6 1,185 7 451 8-9 125 患者数 1 RE-LY試験のPrimary Endpointである脳卒中/全身性塞栓症のCHA2DS2-VASc別の発症率では、リスク上昇にともない、脳卒中・全身性塞栓症の発症率が増加しており、この新しいリスク評価が臨床試験においても、十分、通用する事が示されました。 The ACC 60th Scientific Sessions, New Orleans, March 2011

RE-LY® : CHA2DS2-VASc別の 大出血(頭蓋内出血を含む)の発現率 (%/年) 0-1 634 2 3,408 3 5,365 4 4,378 5 2,566 6 1,185 7 451 8-9 125 8 患者数 大出血 頭蓋内出血 一方、頭蓋内出血を含む大出血においても、リスク上昇にともない、その発現率が上昇している事から、CHA2DS2-VAScスコアは、出血のリスクも反映している可能性が示唆されました。 The ACC 60th Scientific Sessions, New Orleans, March 2011

ワルファリン: CHADS2 スコア別Net Clinical Benefit 2.22 4-6 0.58 3.75 2.07 3 1.21 2.79 0.97 2 0.43 1.41 0.19 1 -0.27 0.45 従来のワルファリン療法は、CHADS2 0-1点のような低リスク患者においては、その効果と出血リスクのバランスから、積極的な推奨がなされていませんでした。 ATRIA試験における脳卒中抑制作用と頭蓋内出血リスクの解析でも、CHADS2 0-1のメリットはしめされず、CHADS2 0-1の患者に対する最適な抗血栓療法は、我々、循環器内科医の悩みでもありました。 -0.11 -0.44 -0.20 -1 -0.5 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 Worse with Warfarin Better with Warfarin Singer DE, et al. : Ann Intern Med. 151, 297-305, 2009

脳卒中/全身性塞栓症の発症率 150mg×2回/日 vs. ワルファリン 110mg×2回/日 vs. ワルファリン 3 4 5-9 0.5 0.50 1.00 1.50 ダビガトラン がよい ワルファリン 交互作用P値 0.60 150mg×2回/日 vs. ワルファリン 0.50 1.00 1.50 ダビガトラン がよい ワルファリン 110mg×2回/日 vs. ワルファリン 交互作用P値 0.81 年率, % CHA2DS2-VASc D150 D110 ワルファリン ≦2 3 4 5-9 0.5 0.8 1.0 2.1 0.9 1.3 1.6 2.4 0.8 1.4 2.0 2.8 今回ACCにて発表された、RE-LY試験のCHA2DS2-VASc別解析結果を見ると、CHA2DS2-VASc 2未満、3、4、5-9の4段階のリスク層別にかかわらず、ダビガトラン150mg1日2回投与群は、ワルファリンに対する一貫した優越性をしめし、110mg1日2回投与群は、一貫した非劣性を示していました。 The ACC 60th Scientific Sessions, New Orleans, March 2011

頭蓋内出血の発現率 150mg×2回/日 vs. ワルファリン 110mg×2回/日 vs. ワルファリン 3 4 5-9 0.11 0.50 1.00 1.50 ダビガトラン がよい ワルファリン 交互作用P値 0.09 150mg×2回/日 vs. ワルファリン 0.50 1.00 1.50 ダビガトラン がよい ワルファリン 交互作用P値 0.77 110mg×2回/日 vs. ワルファリン 年率, % CHA2DS2-VASc D150 D110 ワルファリン ≦2 3 4 5-9 0.11 0.32 0.21 0.63 0.15 0.16 0.29 0.32 0.38 0.76 1.04 0.84 頭蓋内出血の発現においては、低リスクから高リスクまで、両群ともにその発現を低下させていた事は、非常に大きなインパクトをもって受け止められました。 The ACC 60th Scientific Sessions, New Orleans, March 2011

ダビガトランは、脳卒中低~高リスク患者において、 ベネフィットが期待できる。 まとめ CHA2DS2-VAScスコアが高くなると、脳卒中、出血のリスクは上昇する。 ダビガトランのワルファリンに対する脳卒中発症抑制は CHA2DS2-VAScスコアにかかわらず 150mg×2回/日投与で優越性が示された。 110mg×2回/日投与で非劣性が示された。 ダビガトランの両用量群はCHA2DS2-VAScスコアにかかわらず、頭蓋内出血のリスクを低下させた。 ダビガトランは、脳卒中低~高リスク患者において、 ベネフィットが期待できる。 今回の発表をまとめますと、CHA2DS2-VAScスコアが高くなると、脳卒中のみならず、出血のリスクも上昇する事がしめされました。 ダビガトランのワルファリンに対する脳卒中発症抑制効果は、CHA2DS2-VAScスコアにかかわらず、150mg群で優越性が、110mg群で非劣性が示されました。 また、重篤な出血である、頭蓋内出血においても、ダビガトランは、150mg群、110mg群ともにCHA2DS2-VAScスコアにかかわらない、リスク低下を示しました。 以上の点から、ダビガトランは、脳卒中の低リスク群から高リスク群まで幅広い患者に有効かつ安全に使用する事ができ、多くの患者にベネフィットをもたらすと考えられます。