新しい経済学の教科書① 第1章 出発点から考える経済学 報告者:加藤栞 飯田のミクロ 新しい経済学の教科書① 第1章 出発点から考える経済学 報告者:加藤栞
目次 ①経済学とその思考法の思想的基礎 ②インセンティブから導かれる経済原理 ③経済学はここから始まる?
①経済学とその思考法の思想的基礎
経済学の 思考法の源 (方法論的) 個人主義 (資源の) 有限性 個人主義 (方法論的)個人主義 →個々人の集合体が社会になっているとする考え方。 ×社会の中に人がいる ○人が集まって社会が出来上がっている (方法論的)個人主義 →個人の嗜好・判断を(尊重)出発点に社会を捉える考え方。 つまり、個々人の感情や満足度とは別の「社会的価値」はないという事。 「社会的価値」が個人の嗜好・判断を否定したり、 変えようとすることはあってはならない。 その意味で、個人主義=自由主義。 ex.飲酒が好きな人に飲酒をやめさせる権利はない。 個人主義的な価値観→社会的に望ましいこと→ より多くの個人がより満足な状態にある事
=国家・社会の権威に対して個人の意義と価値を重視し、 本来の個人主義よりも少々妥協した考え方 →方法論的個人主義<methodological individualism> =社会現象(社会構造やその変化)を個人の行動とその複合関係から説明しようとする考え方。 (→個人主義<individualism> =国家・社会の権威に対して個人の意義と価値を重視し、 その権利と自由を尊重することを主張する立場や理論。) ・方法論的個人主義とは、個人主義的な価値判断の正否からは一歩身を引く ・様々な分析において、個人の選択が積み重なって社会ができていると想定することで 有用な結論(経済の先行きや政策の効果などのある程度の正確な予想)が得られる。 →そのため、分析の方法、作業仮説として方法論的個人主義から出発しようと考える。 →社会は人間で構成されているから、その個々の人間の考え方が重要ということ。
→「希少な資源の最適な配分を考える学問」 主観価値説 →財の価値は人々が主観的に判断する効用によって決まるとする。 ・つまり、ある商品の価値は人それぞれ、時と場合によって異なる可能性があるということ。 ex: 目の前のステーキは肉好きで空腹なAにとって3,000円の価値。 満腹なBにとって1,000円の価値。ベジタリアンなCにとって0円の価値。 個人主義と主観価値説は表裏一体。個人の嗜好が価値を決定するから。 経済学とはなにか →「希少な資源の最適な配分を考える学問」 希少(人の欲求・関心を引き付ける対象)だから放置され続けることはない。 つまり、希少な対象は必ず誰かの所有物。 それをほしいと思った時、無料では得ることができない。そこで何らかの対価を支払わなければならない。 このような状況をトレードオフ環境という。このトレードオフ環境の取引から出発して、 経済活動・経済現象の特徴をあぶり出していくのが経済学の仕事。
②インセンティブから導かれる経済原理
インセンティブ=損得勘定 裁定取引、裁定行動 長期定常状態 経済学では、ある行動をするか否か、ある取引をするか否かを考える際に、 インセンティブ=損得勘定 経済学では、ある行動をするか否か、ある取引をするか否かを考える際に、 それによる損得を比較して行動していると想定する。 インセンティブがあるならば行い、ないならば行わない。 裁定取引、裁定行動 →ある同じ時点の異なる地点・市場間の価格差を利用して利益を得る取引。 …リスクがない儲け=長続きしない =ただでおいしい話はないという状況を経済学では、ノーフリーランチと表現する。 裁定取引によるノーフリーランチ原則が導く二つの理論モデル ・(長期的な為替レートの決定理論である)「購買力平価説」 < ・(短期的な為替レートの決定理論である)「利子率平価説」 長期定常状態 →×現実の時間軸における将来たどり着く値 ○日々の変化の通奏低音のようなもの、変化の重心。傾向的変化の先にあるもの。
購買力平価 →長期の為替レートを決定する 2国間の通貨の購買力によって両国の物価が決定されるという説。 購買力平価 →長期の為替レートを決定する 2国間の通貨の購買力によって両国の物価が決定されるという説。 ex:日本で標準的な車が100万円、アメリカでほぼ同様の車が1万ドル。 →この時、購買力平価(PPPレート)は、1ドル=100円。 ノーフリーランチの原則が成立しているため、この為替レートは安定的。 (貿易から為替の影響よりも)金融市場などの影響力が強い時: × 各国の物価差に応じて為替レートが変化する ○ 為替レートに応じて各国の物価が変化する ・現実の為替レートではなく購買力平価レート事態が変化することで 両国の物価差を縮小しようと調整する。
利子率平価 →購買力平価説に代わって為替レートの決定の考え方として存在する。 金融商品に関するノーフリーランチの原則から導かれるもの。 これは金利の高い国の通貨と金利の安い国の通貨、どちらを持っていても1年後 (すなわち長期的に運用した結果)の儲けは変わらないというもの。 →金利差が為替レートの変化の方向を決定することがわかる。 実際の為替の動きは現在のみならず、 現在から将来にかけての両国の金利動向(の予想)に左右されることになる。 利子率平価から得られる結論 →「現時点で(他国より)低金利の国の通貨は今安く、将来高くなる(と予想されている)」 「現時点で高金利の国の通貨は今高く、将来安くなる(と予想されている)」というもの。 ・金利は各国の物価動向とは無縁ではいられない。 政府の影響を強く受けるため、実際の相場を見る限りでは購買力平価説の影響が小さく感じられてしまう。
③経済学はここから始まる?
個人 政府 企業 経済主体(個人・企業・政府) 経済主体 →自身の主観的な満足度を最大化しようと行動している しかし、経済学の対象は希少。 経済主体(個人・企業・政府) →自身の主観的な満足度を最大化しようと行動している しかし、経済学の対象は希少。 つまり、経済主体は一定の制約の下で より高い満足度を得るように合理的に行動している =経済学は制約付き最適化問題であるという定義ができる。 現代的な経済学の、すべての理論・モデルは 制約付き最適化問題。 18世紀までの貿易理論 →絶対優位説とされる →1776年にアダム・スミスが重商主義に代わるものとして唱えた。
BUT SO 絶対優位説 →ある財に関して生産性の高い方の国が輸出し、低い方の国は輸入することになるということ。 絶対優位説 →ある財に関して生産性の高い方の国が輸出し、低い方の国は輸入することになるということ。 より多く輸出する=貿易黒字=国際競争力がある国 絶対優位説には困ったところがある。 …とにかく生産性の優劣だけで物事が決まってしまうから。 ex:ある国がありとあらゆる財について生産性を達成していたならば、 その国は輸出ばかりして輸入はしないということになってしまう。 この時、輸出国側が海外から何も買わないならば、輸出するインセンティブはなく、 ただの物資援助となっている。 絶対優位説には、生産能力が有限であるという希少性の観点が欠如している。 比較優位説 →リカードが提唱した外国貿易および国際分業に関する理論。 1国の各商品の生産費を他国と比較し、優位の商品を輸出して 劣位の商品を輸入すれば双方が利益を得て国際分業が行われるという説。 BUT SO
貿易と鎖国どっちが得か ・数値例を用いて比較優位説を説明 ・世界には日本とアメリカの2国。 ・両国は労働力だけを材料に、自動車とオレンジを作っている。 日本は自動車もオレンジもアメリカより絶対的に生産効率がよい =絶対優位。 絶対優位説に従うと… →アメリカはなにも生産せず、日本がアメリカの分まで 自動車もオレンジも作るという事になってしまう。 しかし、それはできない。なぜなら、日本の生産能力には限界があるから。 自動車1台 オレンジ1t 労働人口 アメリカ 30人 20人 240人 日本 10人 15人 120人
日米が鎖国した場合: それぞれが自動車・オレンジに労働者を半分ずつ投入して、国内向けに生産する場合。 合算された生産量は自動車10台・オレンジ10t。 自動車4台 オレンジ6t アメリカ 自動車6台 オレンジ4t 日本
その一方で、日本が全労働力を投入して自動車を、アメリカがオレンジを作った場合。 全世界の生産量は自動車12台・オレンジ12tと両財ともに増加することになる。 生産物を交換できることで両国が分業を行う。 この分業によって、両国とも鎖国している時よりも望ましい消費が可能になる。 結論:鎖国時よりも貿易をした方がインセンティブがある。 そのため、自動車12台・オレンジ12tの総生産は貿易を通じて、 日本は自動車6台以上・オレンジ4t以上、 アメリカは自動車4台以上・オレンジ6t以上の配分を得ることができる。 オレンジ12t アメリカ 自動車12台 日本
機会費用 ※絶対優位説は一つの大きなコストを見落としている。 =機会費用と呼ばれるコスト概念。 機会費用 →何かを行う陰で犠牲になるモノ・事・カネのこと ex:今晩ラーメンを食べる→お寿司は食べれない。読書をする→他の仕事や勉強ができない。 何かを行うということは、他の何かを行わないことを選択することでもある。 絶対優位説が注目したのは、人を何人使うかといった単純なコストだけ 労働という資源の総量が限られている状況でより重要なのは、 「自動車を作ることで犠牲になるオレンジ」、「オレンジを作ることで犠牲になる自動車」の方。 →機会費用で比べると自動車はアメリカよりも日本で安く、オレンジは日本よりもアメリカで安いことになる。 このような状況を、日本は自動車に関してアメリカよりも比較優位である、 アメリカはオレンジに関して日本よりも比較優位であると表現できる 自動車1台 オレンジ1t アメリカ ㋔1.5t ㉂2/3台 日本 ㋔2/3t ㉂1.5台
完全特化 →各国が比較優位財の生産に全労働力を集中させる ・完全特化によって世界全体の生産量は最大化される ・大切なのは、一定の条件の下では、より低い機会費用で作ることができる財の生産を 集中させた結果として完全特化状態になるという話であり、特化すべきということではないこと。 機会費用に応じて日本国内では「自動車1台とオレンジ2/3t」、 アメリカ国内では「自動車1台とオレンジ1.5t」が交換レートとする →このような財と財との交換レートのことを相対価格と呼ぶ ・両国で相対価格が違う時には、ノーリスクの利殖法(裁定機会が存在する) →しかし、それを続けられることはできない。 →なぜなら、日本の全労働者が自動車をつくり、アメリカの全労働者がオレンジを作るようになった時、 これ以上の増産は不可能になる。 →それゆえ、裁定取引が生産力の壁(労働の希少性)にぶつかるところが、完全特化である。
<比較優位説を数式で説明> 数学 =理論・モデルを誤解なく表現する手段 =パターン化された方法で解を求めることができる、便利な表現ツール 数学 =理論・モデルを誤解なく表現する手段 =パターン化された方法で解を求めることができる、便利な表現ツール 数学を用いる利点=表現のシンプルさ <比較優位説を数式で説明> 自動車の生産量をX オレンジの生産量はY アメリカの添え字u(USA) 日本の添え字j(Japan)
比較優位説の制約付き最適化問題とはなにか →世界全体の総生産量X+Yを、各国の生産技術と労働力という 制約の下で最適化するということ。 アメリカ:30Xu+20Yu=240 (1) 日本 :10Xj +15Yj=120 (2) ※(1)の意味 アメリカで作る自動車の台数×30人→アメリカで自動車生産に従事する労働者の人数 アメリカで作るオレンジの生産量×20人→アメリカでオレンジの生産に従事する労働者の人数 その合計が総労働者数である240人になる ※(2)の意味 (1)と同様に、自動車・オレンジ生産の従事者の合計が総労働者数に等しくなる。
<生産量の可能な範囲を示すグラフ> ※(1)を図に直す 横軸に自動車の生産量、縦軸にオレンジの生産量 30Xu+20Yu=240 Yu=-3/2Xu+12 →Xuがゼロの時、Yuは12。 つまり、自動車を全く作らないで、 オレンジばかり作るならオレンジは12tできる。 <生産量の可能な範囲を示すグラフ> 240人の労働者がいればこの直線の内側ならば作れるということを示す。 直線の内側の自動車とオレンジの量の組み合わせが可能な生産パターン。 直線上は240人全員を使った場合に生産できる自動車とオレンジの組み合わせ このように、達成可能な領域を図示したものを→生産可能性集合という。 そして、資源を無駄なく作っている直線上が→生産可能性フロンティアという。 つまり、(1)式はアメリカの生産可能性フロンティアを表す式
※(2)を図に直す 10Xj+15Yj=120 Yj=-2/3Xj+8 →生産可能性フロンティアが求まる ・これらのグラフは各国の機会費用そのもの。 ・日本の場合、自動車の生産を1台増やすと、 オレンジの生産は3分の2t減ってしまうという機会費用を表している。 ※問題の制約になっているのは2つの式。両式をくっつけてみる。 →日米両国合算の生産可能領域はこれになる これが、現在考えている、 世界全体での生産可能性集合体ということになる。
制約付き最適化問題を考える →ここでは、自動車の台数とオレンジのt数を単に足し合わせたモノを最大化することが目標であると考える 制約付き最適化問題を考える →ここでは、自動車の台数とオレンジのt数を単に足し合わせたモノを最大化することが目標であると考える つまり、目標は総生産量X+Y ・ 世界全体での生産量をk kを最大にするのが目的 X+Y=k Y=-X+k ・このkが大きければ、この線自体がもっともっと上側に行く、 kが小さいならば下の方にいく ex:kが10の時、20の時、30の時、というように。 ・世界全体の生産量が多くなればこの目的関数を表す直線は右上に広がっていく。
E点ではどのような活動が行われているのか ※ここで世界全体の生産可能性フロンティアと目的関数を同じ図に書き入れる ・各国の人口には上限があるため、 生産可能性フロンティアの内側でしか生産活動を行うことはできない。 目的関数について考える →生産可能性フロンティアの内側で最も右上方向に位置する目的関数は …太線のk=24とわかる 生産可能性フロンティアと目的関数の接点であるE点において 目的関数は最適化(最大化)されている。 E点ではどのような活動が行われているのか →これは、日本は自動車12台を生産し、アメリカはオレンジ12tを作っている状況。 両国ともに1種類の財しか生産していない。 つまり、E点は日本とアメリカがともに完全特化している状況を表している。
結論 →比較優位説は、ある生産技術と人口という制約の下で、世界全体の生産量を最大にするのは、 結論 →比較優位説は、ある生産技術と人口という制約の下で、世界全体の生産量を最大にするのは、 各国が比較優位を持っている財の生産に特化した場合 →もっとも、完全特化が望ましい、自由貿易によって完全特化が達成されるという結論は 「機会費用が一定」、「財の総量=満足度」という仮定に依存している。 経済モデルを評価する場合 →結論を導くための「必須の仮定」はどこにあるのかに注意すると良い。 経済モデル →演繹的(すでに分かっていることを基にして、その正しいことを説明しようとする考え方)な構造を持っている、 →仮定が妥当であれば結論も妥当である。 ・したがって、少ない仮定から導くことができる結論 →汎用性が高い。(さまざまな用途や場面で用いることができ、有用である。) ごく自然で妥当な仮定から導かれている結論 →信頼できる
ありがとうございました。