特定療養費導入への議論 2000年11月5日
混合診療 保険診療と保険外診療を一連の診療行為のなかで併せて行うこと 法文上に明確な定義はないが、医療保険制度では禁止されている
混合診療と特定療養費 療養担当規則第5条 療養担当規則第18条 患者から「支払を受けることができる」ものを規定する (=混合診療?) ① 特別の療養環境の提供や予約・時間外診療などの患者の選択によるもの(選定医療) ② 入院時食事療養費の標準負担額 ③ 外来の薬剤一部負担金 ④ 患者の求めにより提供されるサービスの実費 (=混合診療?) 療養担当規則第18条 「保険医は、特殊な療法又は新しい療法等については、厚生大臣の定めるもののほか行ってはならない。ただし、特定承認保険医療機関において行う第五条のニ第二項に規定する厚生大臣の承認を受けた療養については、この限りではない」 (例外規定=特定療養費) 療養担当規則第5条に示されるように、保険外診療についても条件付きで認められている。すなわち、混合診療は既に行われているという議論もある。 また、療養担当規則第18条に示される例外、すなわち特定療養費の拡大が、混合診療を事実上公認してしまう恐れがあると言われている。
特定療養費制度 趣旨: 国民の生活水準の向上や価値観の多様化に伴う医療に対する国民のニーズの多様化、医学技術の目覚しい進歩に伴う医療サービスの高度化に対応して、必要な医療の確保を図るための保険給付と患者の選択によることが適当なサービスとの間の適切な調整を図る 特定療養費制度の趣旨
支給条件 1.被保険者が保険医療機関等において、厚生大臣の定める療養を 受けた場合 2.被保険者が特定承認医療機関において高度先進医療等を 受けた場合 ① 特別室など、特別の療養環境の提供 (94年4月から) ② 前歯部の材料差額 (84年10月から) ③ 金属床総義歯 (94年6月から) ④ 紹介外来型病院の初診 (93年4月から) ⑤ 特定機能病院の初診 (93年4月から) ⑥ 予約診療 (92年4月から) ⑦ 診療時間外の診察 (92年4月から) 特定療養費の支給条件 2.被保険者が特定承認医療機関において高度先進医療等を 受けた場合
支給方法(1) 1.「厚生大臣に認定された療養」に対する特定療養費の支給 従来の給付 : 療養にかかった費用と、その療養に相当する療養の 給付が行われた場合の費用の差額を徴収する 特別療養費制度 : 当該療養に関する給付を特定療養費として法定し、 その医療保険上の地位を明確化する 選択環境部分 患者本人が選択したサービス 自己負担 入院環境料 従来は、実際に行った療養のうち、保険給付の対象となる部分を点数計算していた。 すなわち、医療機関による運用的解釈が行われていた。 特定療養費制度制定により、保険給付の範囲を明確化することにより、適性な運用が行われることを期待された。 「厚生大臣の定める療養」 特定療養費 【例】個室料金(差額ベッド)の場合
支給方法(2) 2.高度先進医療における特定医療費の支給 従来 : 保険の対象外である高度先進医療を一部でも受けた場合には 基礎的な部分も含めて、その療養全体が自由診療となる 特定療養費制度 : 高度先進医療を除く一般の療養の給付に相当す る基礎的な診察部分については特定療養費として保険給付 自己負担分 療養のうち、高度先進部分 自己負担 検査、室料、 看護料等 高度先進医療については、その基礎的な診療部分について、あらたに給付範囲に適用された形となる。 従来から保険給付の対象となっている 基礎的な診療部分 特定療養費
制定の経緯(1) →82年 : 老人保健法の制定 1982年 : 老人保健法の制定 70年代 : 経済・財政の変化と、老人医療費の急激な増加 73年老人医療の無料化制度にともなう老人医療費の急増 70歳以上の老人の受診率の急上昇 1件あたりの診療費の増加 医療保険財政の圧迫 国民健康保険に占める老人医療費の割合:平均30%、最大50% 医療保険の国庫負担 : 3兆8億円 特定療養費制定は84年健康保険制度改革時であるが、その直前に老人保健法の制定がなされている。すなわち、84年制度改革時に残された課題は、すなわち財政改革であった。 →老人医療費の抑制と医療費適正化の必要性 →82年 : 老人保健法の制定
制定の経緯(2) 1984年 : 医療費の適正化と抑制を目標とした医療保険改革 ・84年度 医療費適正化対策と制度改革案の具体的内容 医療費適正化対策の推進 医療保険の給付と負担について厳しい見直しを行う 保健医療機関に対する指導監査を強化する 保健医療機関の指定のあり方を見直す 診療報酬の合理化、薬価基準の格差是正措置を講じる 給付の見直し 本人八割給付 給食材料費、一部薬剤の給付除外 特別療養費支給制度の創設 高所得者の適用除外 負担の公平 退職者医療制度の創設 国保に対する国庫補助率の引き下げ 日雇健康保険法の廃止 審議の議論は本人一部負担に終始し、特定療養費支給制度については、ほとんど議論がされていない。
制定の経緯(3) 1994年:保険給付の役割・範囲を見直す健康保険改革 91年7月 中医協診療報酬基本問題小委員会での検討項目 ①診療報酬体形及び改定ルールのあり方 ②技術料評価のあり方 ③医療機関の機能・特質に応じた診療報酬のあり方 ④診療報酬の適正化 ⑤患者ニーズの高度化・多様化への対応 ⑥その他 94年の健康保険改革により、特定療養費は拡大される。 →診療報酬基本問題小委員会報告
特定療養費導入に関する議論 国会審議(84年4月 渡辺恒夫厚相) Q : 制度の創設により高度先進医療がいつまでも自由診療のままにおかれ、保険診療の後退をもたらすのではないか? A : 高度先進医療も必要にして適正な医療で、普及度がある程度の段階に達したときには、これまでどおり保険に取り入れる考え方にかわりはない →質問のほとんどは、大学病院等での高度先進医療と保険診療の関連に集中 →差額病床や今後の特定療養費制度による保険給付の在り方についての質疑はほとんど行われないまま制定にいたる 審議の議論は本人一部負担に終始し、特定療養費支給制度については、ほとんど議論がされていない。
特定療養費改正に関する議論 94年 中医協診療報酬基本問題小委員会報告 医療に対するニーズは、増大するとともに多様化・高度化してきている →特に最近は、生活水準が向上する中で慢性疾患を有する患者が増大し てきており生活関連部分のニーズ(食事・療養環境等)が拡大してきている →こうしたニーズに対応していくためにはいかに患者の自主的な選択を尊 重し、確保できるかが重要になってきている。 →診療環境、予約診療等多くのサービスについて、今後特定療養費制度を 活用して多様化していく患者ニーズに応えていくことが期待される。
94年医療保険改革による特定療養費の「一般化」 範囲の拡大 室料差額適用範囲の拡大 旧)1病室の病床数は2床以下 全病床数の2割以下 新)1病室の病床数は4床以下(1人当たり病室面積が6.4㎡以上) 全病床数の5割以下(国公立病院は2割以下) 技術料への拡大 金属床総義歯の特定療養費制度化 アメニティなど医療の周辺部から、技術料への拡大 室料差額の病床割合は、94年10月にさらに拡大された。その内容は、 ①国立・公立でない病院が厚生大臣の承認を得た場合は、許可病床の5割を超えることができる。 ②公立病院(自治体病院)は原則3割まで可能となる → 特定療養費へのアクセスの向上 → 「保険外負担は周辺医療サービスのみ」の原則の撤廃?
混合診療の論点 2000年7月 行政改革推進本部・規制改革委員会 「規制改革に関する論点公開」 「・・・いわゆる混合診療の禁止については、患者のニーズに対応するための抜本的な見直しが必要ではないか?」 ①混合診療の定義と制度運用のルールの明確化が必要ではないか? ②療養費給付の規格化、標準化、定型化のために、患者のニーズに応じきれていないのでは? 混合診療を保険制度に組み込むべきではないか? 厚生省の見解 ・「混合診療」は特定療養費制度を除き、原則として認められない →保険外診療部分について不当な患者負担が生じる危険性がある ・保険診療については中医協の競技を経て決定している →現行の医療制度においては、極めて不適切である ・国民のニーズの多様化については、対応することが重要である
混合診療の是非 二十一世紀の国民医療(与党共案・97年8月) 医療保健福祉審議会・制度企画部会意見書 ① 一定の範囲内で、医師及び歯科医師が特定療養費制度を参考にしつつ、その技術や経験が評価できる途を開く ② 医療機関の設備投資・維持管理費に付いては地域格差を反映させた評価を行う、いわゆるアメニティなどの医療周辺部分は、医療機関が施設利用料などとして患者からの支払いを受けることを原則自由とする。 医療保健福祉審議会・制度企画部会意見書 「診療報酬体系のあり方について」(99年4月) ① 医療従事者の技術に経験年数などによる差があることは事実であるが、この点に着目して差額徴収を行うことは、国民の受診機会の平等性、公平性から見て問題 ② 医療技術の進歩などに対応できる医療従事者とそうでない医療従事者を区別せず、画一的に評価することは、国民の選択する権利を奪うことになり問題
特定療養費の「一般化」と混合診療(まとめ) ○特定療養費の「一般化」 ・ 適用条件の拡大 ・ アメニティから技術料への拡大 ・ 解釈の拡大 →混合診療の例外規定の拡大 ○混合診療 ・ ニーズの多様化への対応は必要である ・ 保険医療の質が低下し、受診機会の平等が失われる可能性がある
・「ニーズの多様化」という側面からは特定療養費制度の趣旨と合致 → しかし、アメニティにも高度先進医療にもあたらない 生活改善薬の特定療養費制度化 ・「ニーズの多様化」という側面からは特定療養費制度の趣旨と合致 → しかし、アメニティにも高度先進医療にもあたらない → 医薬品自体は「技術料」に該当 ・医薬品全体に参照価格制度と特定療養費制度を導入することにより「患者の選択」と「薬剤費抑制」の双方を満たすことも可能 →医薬品分野の医療制度改革は現在保留中 →反対派の圧力が強い(特に製薬会社) →「生活改善薬の保険適用」自体の問題 生活改善薬に関する医療保険の側面からの議論は見つかりませんでした。 そのため、いままでの説明を踏まえて自分なりに生活改善薬についてまとめてみました。 →「ニーズの多様化への対応」という面から、長期的には特定療養費制度化も十分考えられるが、そのためには様々な阻害要因がある。