距離を保つ: 空間距離手がかりが感情と評価に与える影響 Williams & Bargh (2008) Psychological Science, 19, 302-308.
解釈レベル理論(Trope & Liberman, 2003) 心的距離に関する理論体系 遠方の出来事を考える時は抽象的に、近接の出来事を考える時は具体的に考える(Liberman & Trope, 1998; Trope & Liberman, 2003) 様々な心的距離が存在し、同様の効果を示す(Liberman et al., in press; Trope & Liberman, 2003) 心的距離には、社会的距離や空間的距離も含まれる 他者や他の時点に対して、現在の自己を参照点とする
著者らの異論 空間的距離は、心的距離の単なる派生ではない 空間距離は言語習得前の子どもが利用可能な最初期概念のひとつ(Clark, 1973; Mandler, 1992; Leslie, 1982) 空間的距離の理解は、後に発達する心的距離概念の基礎をなす(Lakoff & Johnson, 1980; Fauconnier & Turner, 2002) Boroditsky(2000) 「前」「上」などの空間概念を活性化すると、時系列関係のより抽象的な部分の判断に影響を及ぼした Meier & Robinson (2004) 単語の感情価判断は、画面の下半分よりも上半分に表示された方が高まる Schubert(2005) 水平配置よりも垂直配置の方が勢力関係を見いだしやすい
著者らの主張 自己を参照点にしなくても、空間的距離は人の判断や感情状態に影響を及ぼしうる。 空間的距離手がかりは適応的価値がある 「遠いと安全」という原理が深く浸透しており、空間的距離と感情状態とが密接に関連している Campbell(1956, 1960) 視覚自体が適応的。触らずにすむ。 Bowlby(1969) 愛着対象との距離を狭めておき、常にその距離を監視することが生存に直結 Mobbs et al.(2007) 漠然とした脅威との距離に比例して情報処理が前納から中脳にシフトする
二つの含意 自己を参照点にせずとも空間表象の活性化は主観的経験に影響しうる 空間的に遠方であることの活性化は、刺激の情動的インパクトを軽減する これらの含意は、解釈レベル理論の考え方と異なる 本研究の仮説 主観的経験は、2次元座標上の相対的距離によって異なる
研究1 恥ずかしい話 仮説 中庸な距離プライム条件と比較して、遠方プライム条件は恥ずかしい(embarrassing)物語をより好み、近接プライム条件はより好まないだろう 実験参加者 大学生73名(女性41名、男性32名)
研究1 方法 手続き 「新しい心理テスト素材の予備調査」を実施した 方眼紙に二つの点を打つように求めた 恥ずかしい話を読ませた 研究1 方法 手続き 「新しい心理テスト素材の予備調査」を実施した 方眼紙に二つの点を打つように求めた 近接条件: (2, 4)と(-3, -1) 中庸条件: (8, 3)と(-6, -5) 遠方条件: (12, 10)と(-11, -8) 恥ずかしい話を読ませた “Good in Bed”(Weiner, 2001); 主人公が雑誌に自分が書かれていることを知る。以前の恋人が「デカイ女を愛すること」というタイトルだった。 話を好む程度を評定した(9件法) 楽しかったか? おもしろかったか? 愉快だったか?
使用した方眼と点(赤:近接、青:中庸、緑:遠方)
研究1 結果 F(2, 67)=3,14, η2=.09. 近接<中庸<遠方の順におもしろさが増大した。 研究1 結果 F(2, 67)=3,14, η2=.09. 近接<中庸<遠方の順におもしろさが増大した。 距離プライムが、自己や社会的概念を参照することなしに 評価的影響を及ぼした。
研究2 暴力メディア 代替説明の可能性 実験参加者 手続き 2点を除いて研究1と同じ 空間距離プライムが反応レベルで影響した? 研究2 暴力メディア 代替説明の可能性 空間距離プライムが反応レベルで影響した? 大きい数字のプライミングは評定を大きくする(Mussweiler & Strack, 2001; Oppenheimer et al., 2008) 実験参加者 大学生42名(女性26名、男性16名) 手続き 2点を除いて研究1と同じ 恥ずかしい物語から暴力的な話に変更した “Survivor”(Palahniuk, 1999) 自動車事故で生き残った二人の兄弟、そのうち一人が醜く外傷し、岩で殴り殺すよう懇願する。 PANAS(Watson et al., 1988)に感情評定した
研究2 結果 否定的感情 肯定的感情 空間手がかりは、自覚なく、嫌悪メディアへの反応に影響する F(2, 39)=4.37, η2=.18 研究2 結果 否定的感情 F(2, 39)=4.37, η2=.18 近接条件(M=2.31) > 遠方条件(M=1.75) ※中庸条件の報告なし 肯定的感情 有意な効果なし(F<1) 暴力メディアに触れて、快を感じた人も不快を感じた人もいるようだ(Andrade & Cohen, in press) 感情改善の影響かもしれない 空間手がかりは、自覚なく、嫌悪メディアへの反応に影響する
研究3 カロリー評定 仮説 解釈レベル理論による対立仮説 研究3 カロリー評定 仮説 遠方プライムされた人は、近接プライムの人と比較して、不健康な食品に含まれるカロリーを少なく評定するだろう。その一方で、健康食品に対する評定には差は見られないだろう 解釈レベル理論による対立仮説 カロリーは健康食品、不健康食品それぞれの低次で周辺的な特徴なので、どちらの食品でもプライムの影響が現れる
研究3 方法 実験参加者 手続き 研究1と同じ距離プライムを実施 10点の食品リストを見せ、カロリー評定させた 研究3 方法 実験参加者 成人59名(女性31名、男性28名) 3(空間プライム:近接・中庸・遠方)×2(食品:健康・不健康)の参加者間1要因参加者内1要因の混合配置 手続き 研究1と同じ距離プライムを実施 10点の食品リストを見せ、カロリー評定させた 健康食品5つ(ヨーグルト、オートミール、玄米、リンゴ、ベークドポテト) 不健康食品5つ(アイスクリーム、フレンチフライ、ポテトチップス、チョコレートバー、チーズバーガー)
研究3 結果 交互作用効果, F(2, 56)=3.36, η2=.10 健康食品ではプライム効果はなかったが、不健康食品では距離プライムが影響し、 遠方になるほど、カロリーを低く見積もった
研究4 愛着 目的 仮説 より長期的視点に基づく評価への影響をみる 研究4 愛着 目的 より長期的視点に基づく評価への影響をみる 感情と自己同一性の中心的、重要な源泉である家族と地元に対する愛着に対する効果を検証する 仮説 遠方プライムされた人は、近接プライムされた人と比べて、家族や地元に対する愛情が弱いと報告するだろう
研究4 方法と結果 方法 結果 遠方プライムされた人は、近接プライムされた人と比べて、家族や地元に対する愛情が弱いと報告した 研究4 方法と結果 方法 実験参加者 大学生84名(女性43名、男性41名) 研究1と同じ距離プライムを実施した その後、きょうだい、両親、地元への愛着を7件法で回答した きょうだい、両親、地元への愛着評定を平均した 結果 有意な効果, F(2, 81)=.97, η2=.11 遠方条件(M=4.86) < 近接条件(M=5.61) 遠方プライムされた人は、近接プライムされた人と比べて、家族や地元に対する愛情が弱いと報告した
考察 空間的距離に関する知覚、運動表象は、自己への参照なしに、現象論的経験に影響を及ぼしうる。 情動を喚起するフィクションの影響を調整する 感情的判断に影響する 任意の空間的距離表象は、距離概念の抽象的な表象を自動的に活性化し、環境への反応を変容させる