分散と凝集のレオロジー 四方俊幸 東京農工大学大学院農学研究院 第3回コロイド実用技術講座 2015/10/26日本化学会館 

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分散と凝集のレオロジー 四方俊幸 東京農工大学大学院農学研究院 第3回コロイド実用技術講座 2015/10/26日本化学会館 

分散系 の定義 非相溶な分散質が分散媒中に散在している系 ⇒「分散系:dispersion」透明な溶液とは熱力学的に区別される レオロジー的に興味のある分散系  「懸濁液:suspension」・・・[分散質]固体/[分散媒]液体   泥水みたいなもの 「乳濁液:emulsion」・・ ・ ・[分散質]液体/[分散媒]液体   マヨネーズみたいなもの 分散質(粒子)の大きさがコロイドの範囲(1~100nm)の分散系⇒コロイド分散系

懸濁液のレオロジーは複雑 斥力 剛体反発 引力 粒子半径大 粒子半径小 粘性 ブラウン運動見えず 粘弾性 ブラウン運動見える 粒子形状と 分布で分類 単分散球形粒子 多分散球形粒子 非球形粒子 粒子間力で分類 斥力 剛体反発 引力 粒子は数珠状につながる 無秩序な配列 粒子は結晶状に並ぶ 弾性体的挙動 塑性 擬塑性,塑性,チクソトロピー レオペクシー 粒子半径で分類 粒子半径大  粒子半径小 粘性 ブラウン運動見えず 粘弾性 ブラウン運動見える

粒子間相互作用の表現 ポテンシャルΨ 平均直径 2r 力 斥力 引力 剛体反発 全相互作用 r 距離 l

代表的な粒子間相互作用:引力 分散力(London 力、van der Waals力) 中性な分子でも必ず引力が働く。 l 屈折率n1の粒子が屈折率n2の媒体にl 離れて分散している時の引力ポテンシャル(l)は  (n1 = n2 で透明な分散系は引力が弱い。) l n2 n1 r 枯渇効果(depletion effect ) 粒子の分布を均一にしょうとする熱力学的な力。粒径に分布がある場合に重要。 rL rS この部分の小粒子濃度を外部のものと近づけようとする。 別の言い方:分散媒の化学ポテンシャルを下げるようにする。⇒大粒子間の距離を小さくする。 Vrij, Pure & Appl. Chem. 48, 471(1976).

代表的な粒子間相互作用:斥力 静電反発 水系では電解質は良く電離するので重要。 非水系でも誘電率が低い媒体では無視できない。 l e q r 電荷q を持つ粒子が誘電率e の媒体にl 離れて分散する時の斥力ポテンシャル(r)は 表面修飾による斥力 高分子などが粒子表面に吸着して反発層( R-r = d )を形成する。(立体反発)        触れ合うまでは生じない近接力 吸着高分子が2粒子間にまたがると強い引力に変わる。 l r d

塑性と擬塑性 塑性 応力σ 応力σ 擬塑性 . ηp 何とかゆっくり流れる Bingham 塑性体 降伏値σy ずり速度γ Ostwald流動 何とかゆっくり流れる この値までは流れない 「全体に広がるネットワーク」

構造粘性 Newtonian Fluidに基づく 分散状態(構造)の変化が粘度変化につながると考える. 粘度の定義: 擬塑性流動 塑性流動 粘度η 粘度η 擬塑性流動 この部分だけ見ると塑性体と変らない 塑性流動 Ostwald 流動 γ . γ . 静止状態で全体に広がったネットワークがだらだら壊れる。 静止状態で有限の大きさのネットワークを造り、だらだら壊れる。 限界まで壊れる(Ostwald流動) 。

降伏値以下では弾性変形を起こし、流れない.(粘度は無限に高い) コロイド結晶 (塑性流動) 降伏値以下では弾性変形を起こし、流れない.(粘度は無限に高い) 元の形に戻ろうとする⇒弾性 降伏値よりも高い応力下では構造が壊れる 粘度η 流動単位 塑性流動 応力の値に依存して破壊が進み、流れ易くなる⇒ずり速度上昇、粘度低下. γ .

擬塑性流動 静止状態(低いずり速度)でも有限の大きさの流動単位があり、それらが位置を変えたり回転することで流れる⇒高い粘度 粘度η 擬塑性流動 高いずり速度では流動単位が細分化され、流れ易くなる⇒粘度低下. さらに高いずり速度では、流動単位が極限まで細部化され、低い一定の粘度を与えることがある.(Ostwald流動) γ .

チクソトロピーとレオぺクシー ずり速度一定下で経時的に応力(粘度)が変化する. 応力(粘度) レオペクシー:経時的に粒子の会合が進む チクソトロピー:経時的に粒子の会合が壊れる 時間

最も重要なパラメータは、粒子のブラウン運動の速さ 剛体反発ポテンシャルのみを有する 球形粒子懸濁液 ⇒理想懸濁液 特に、単分散理想懸濁液の線形粘弾性挙動 最も重要なパラメータは、粒子のブラウン運動の速さ

ずり流動と拡散(ブラウン運動)に因る移動速度の違い ずり流動による移動速度 拡散過程(ブラウン運動)による移動速度 l t = 0 t = t 3次元だから6、 1次元なら2. 半径程度移動するのに必要な時間

拡散過程、拡散定数とは? R(t) t t 無秩序にブラウン運動する粒子の位置を時間の関数としてとらえると、 t = 0 で R(0) = 0 t = t で R(t ) に移動した. 同じことを何度も繰り返せば、粒子の平均位置R(t )が求まる. でも、R(t ) = 0 なので平均移動速度は v = R(t ) /t = 0 となり、あまり意味が無い. ところが、t を長く取ればR(t )2の平均はt に比例して増加し、 R(t )2 = 2Dt を満たす拡散過程が実現するようになる.D = R(t )2(2t )-1 [cm2s-1]は拡散定数と呼ばれ、粒子の移動速度を与える( ). t R(t) t R(t ) or R(t )2

時刻 i での一歩で r(i) 進むランダムフライト(酔歩)では、時間 t における全ベクトル R(t) やその2乗 R(t)2 は ベクトルを使って酔歩の問題を考える 時刻 i での一歩で r(i) 進むランダムフライト(酔歩)では、時間 t における全ベクトル R(t) やその2乗 R(t)2 は |r(i)| = |r(j)| = r 一歩の長さを r とする。 r(0) R(t) r(i) q r(i) r(j)

剛体反発系で大切な時定数 ぺクレ(Péclet)時間とぺクレ数 半径r の粒子が拡散定数D でブラウン運動する。 Stokes-Einsteinの法則 ぺクレ時間とかブラウン運動の時定数と呼ばれる. 粒子が自分の半径r 程度の距離を拡散するのに必要な時間 ぺクレ数:ずり流動の寄与とブラウン運動の寄与の比 γをωに置き換えることもできる. np>>1,ずり流動優勢(ブラウン運動を無視できる) np<<1,ブラウン運動優勢 .

ぺクレ数の重要性 np = 1を境にブラウン運動の寄与が見え始める。 G” G’ log η log G’ or log G” 自由にブラウン運動する エネルギーを 散逸する 無理やり流動させられる エネルギーを貯める G’ 無理やり移動させられるので、元に戻ろうとする(弾性の発現)

剛体反発性懸濁液の具体的な実験例 予想通りに粘性だけでなく、粘弾性が生じる。 h0とhの差はブラウン運動による弾性の寄与。

定常状態コンプライアンス (平均弾性率の逆数に相当) 重要なレオロジーパラメータ ゼロずり粘度 高周波極限粘度 定常状態コンプライアンス (平均弾性率の逆数に相当) 高周波極限弾性率 平均緩和時間 ゼロずり粘度をこのように表現することもできる. 緩和に因る増分(ブラウン運動の寄与)

そもそもh0を求めるために計算されたが、hを求めていたことになる。 剛体反発性懸濁液に有効な粘度式 そもそもh0を求めるために計算されたが、hを求めていたことになる。 Einsteinの粘度式、超希薄域(1911)  f :粒子の体積分率 Simhaの粘度式、希薄域(1936) 高次項での展開形式 Brinkmanの粘度式、広範囲(1952) Einsteinの式を積分したもの 修正Brinkmanの粘度式、広範囲  fM :粒子の最大充填体積分率

(identical to Brinkman’s at fM = 1) 他の有効な粘度式 Krieger-Gougherty 1959 (identical to Brinkman’s at fM = 1) Mori-Ototake 1956 (a = 2.5, fM = 0.68)

Brinkmanの粘度式はかなり優秀。

平均緩和時間とペクレ時間の関係 tw = 0.5tp が成立するので、ペクレ時間が平均緩和時間を決める. おおざっぱには   tw ~tp   とできる. 修正Stokes-Einsteinの法則を用いた

弾性率は何で決まる? 高周波極限弾性率と平均弾性率にr3をかけたものはf のみに関数になる. 実線はLionbergerとRusselの理論. J. Rheol., 38, 1885-1908 (1994) 試料中の粒子の体積程度の空間が蓄えるエネルギーを熱エネルギーの単位kBTで表現したもの。

剛体反発性懸濁液の粘弾性の一般論 r /nm 65 90 215 ac = bc = (r/rKE13)3 周波数軸方向、弾性率軸方向ともr3で規格化できる. 粒子の体積分率をfとすると、 G’r3とG”r3はf とtpの関数 .

剛体反発性理想懸濁液の粘弾性のまとめ 平均緩和時間はペクレ時間とほぼ同じ. 平均弾性率にr3をかけたものはf のみの関数. たとえば Brinkman の粘度式を使う. 結局、理想懸濁液のゼロずり粘度h0は粒子体積分率fのみの関数になる.

まとめ コロイド粒子分散系のレオロジーには粒子の分散状態が密接に関係する. 粘度は分散状態を反映する. 剛体反発性理想懸濁液は粘弾性を呈する. ぺクレ時間が剛体反発性懸濁液の緩和時間.

緩和時間はどう書けるか? 粘度極小の原因は? 付録:二様粒径分布理想懸濁液の粘弾性 緩和時間はどう書けるか? 粘度極小の原因は? 枯渇効果?