数学教育におけるテクノロジー 活用と今後の展望

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数学教育におけるテクノロジー 活用と今後の展望 北海道札幌新川高校  早苗 雅史  札幌新川高校の早苗です。  今回は発表の機会を与えていただき,ありがとうございます。  私の方からは,組織的にテクノロジー,インターネットを利用した実践例を紹介しながら,これからの可能性と課題等についてお話しできればと思います。 2002.10 鳥取大学

数学教育における組織的取り組み 現場の苦悩から生まれた数実研 テクノロジーのみに頼らない活動 教具,折り紙,実習形式なども有効 情報化に伴うWeb上での公開 公開,連携,蓄積 数学トピックス,実践記録, テーマ別共同研究,数学コンテスト,企画物  すぐに使える教材の研究や実践方法の研究をしようと9年前に札幌の高校の先生を中心に数学教育実践研究会という研究会を発足させました  指導法についても,教材の中身や生徒の興味・関心にあわせて,時には教具を用いたり,教材の中にストーリーを用いたり,また,時には折り紙を用いたり,など様々な形の指導法も研究してきました。  こうした活動の成果を‘97年よりWeb上に公開してきました。これが「数学のいずみ」です。  このページの中には数学に関する様々なトピックスや授業実践記録の他に北海道でこれまでに20年続けている数学コンテストの問題なども収録しています。  また,多くの先生方が参加している利点を生かして,テーマを絞った研究なども収録しています。

テクノロジー利用の実践例① フリーソフトを利用した授業実践 良質なフリーソフトの出現 ネット上からの配信 いつでも最新のものを入手できる 優れたインターフェース 易しい操作性 ソフト毎の利点を生かして その場面に適した使い方が可能  それでは私たちのこれまでの実践のうち,テクノロジー関連のものを3つ程,紹介したいと思います。  まずフリーソフトを用いた授業実践についてですが,先ほどの友田先生や飯島先生のソフトのように,現場の教師にとって, 良質・手軽で操作性のやさしいソフトはかけがえのないものとなってきました。  数実研では,こうしたフリーソフトを用いた授業の実践や教材作成などを積極的に行ってきました。  教室でパソコンを用いたプレゼンテーションができる環境が整う中,こうした機能性に富んだ良質な フリーソフトの役割も,今後,更に増加していくものと考えられます。

教材の中身が中心 使用場面,使用方法の研究 大事なのは教材の中身 コンピュータを用いるからといって生徒の関心は引かれない 生徒の授業理解度を高めるため 発見学習的な要素 科学的な思考力の育成 生徒に数学に関する興味や関心を喚起するため ネットを通した教材研究 大事なのは教材の中身 コンピュータを用いるからといって生徒の関心は引かれない テクノロジーにのみ頼らない指導  数実研では,こうしたフリーソフトをどういった題材で,どういった場面で使用すると効果が高いかを,色々と研究・実践してきました。  最近の生徒は,単にコンピュータを用いたからといって,みんなが顔を向けるといったものではなくなってきています。  不必要な場面で使用すると,逆効果を与える場合もあります。大事なのは教材の中身であり,その使用法だといえます。  決してテクノロジーにのみ頼らない指導というのが,必要だと思います。

テクノロジー利用の実践例② Web型コンテンツを用いた教材作成 板書では限界ある教材をイメージ化 プラットホームに独立 インタラクティブな利用法 プレゼン型の授業への利用 Java,VRML,FLASH,Web3D  2点目として, Web型コンテンツを用いた教材作成について述べたいと思います。  ブラウザソフトでインターネットを閲覧する,これがブラウザソフトの基本ですが,他のアプリケーションソフトと同様にブラウザを1つの「道具」として授業に活用するわけです。  特にブラウザ上では,プラットホームに独立なサイバースペースを構築できる点が魅力だといえます。  またインタラクティブな利用によって,プレゼン型の授業で大きな威力を発揮します。

テクノロジー利用の実践例③ 電子テキストを用いた数学教材 Web教材とドリルを連動 個別学習者の学習履歴,理解度を解析 学習者にあった教材を提示 特徴 インターネット上に教材を公開。 ネット環境があれば自由に閲覧可能。 わからないところは反復学習することで補充可能。 ユーザーIDで個人識別。 個々の学習履歴が全て記録され常時閲覧可能  3点目は「電子テキスト」です。現在,大学と高校2校が既に導入・実践しています。  これまでのCAIドリルと大きく変わるのはWeb教材と連動させ,個別学習者の学習履歴や理解度をサーバー側で解析がすぐできるという点です。特徴としては ・ネット環境があれば,自由に閲覧可能である ・そのため利用時間,利用場所を問わず,  自分のペースで自由に学習することができる ・UserIDで個人識別を行うので,個々の学習履歴が全て記録され,かつ常時閲覧可能 ・定期的に記録を個別集計することで,個々にアドバイスもできる などがあげられます。

課題① 新教科「情報」登場の影響 コンピュータに関する部分 数学Bの一部を除いて消える 必修科目新教科「情報」 課題① 新教科「情報」登場の影響 コンピュータに関する部分  数学Bの一部を除いて消える 必修科目新教科「情報」 情報に関する科学的な見方・考え方の習得 情報社会に主体的に参加する能力・態度の育成 「数学科」教員の「情報科」への流出 コンピュータを用いた数学教育の後退が危惧  次に現在の課題について,自分なりの考えを簡単に述べたいと思います。  一つ目は,新教科「情報」の登場による影響です。北海道では3年間で430人の情報免許保有者が誕生しましたが,そのうちの4分の1近くが数学の教員です。  私も含めてコンピュータに興味のある教員の多くが,情報科に流れることでテクノロジーを用いた数学教育の億体が懸念されるのではないかということです。

課題② 中途半端な「教育の情報化」 「教育の情報化」プロジェクト:校内LAN整備 全ての教室にインターネット 課題② 中途半端な「教育の情報化」 「教育の情報化」プロジェクト:校内LAN整備 全ての教室にインターネット ブロードバンド対応の環境整備事業 中途半端な事業 本当に使いやすい環境になっているか? コンピュータは? プロジェクタは? 速さは?  課題2点目についてですが,北海道でも「教育の情報化」プロジェクトによる校内LAN整備がほぼ完了し,道内の全校に光が引かれました。これによりプレゼンでの授業が日常的になり,黒板とチョークだけであった授業の形態が変わろうとしています。  ただ,一つ指摘しておきたいのは予算の関係で事業が中途半端な状態になってしまったということです。  当初,一教室に2台のコンピュータと1台のプロジェクタの配置予定が,北海道では,1台のコンピュータとワンフロアに1台のプロジェクタの配置に変更になってしまいました。  個人的にはプロジェクタを天井据え置きで,すぐにパソコンから投影できる環境が欲しかったのですが,そうした点はこれからの課題として現在ある環境でできる範囲の事をしていく必要があります。

課題③ 不足するコンテンツ 欧米に比べ圧倒的に不足するコンテンツ量 課題③ 不足するコンテンツ 欧米に比べ圧倒的に不足するコンテンツ量 検索サイトに見るデータ比較 日本語サイトで「高校数学」 3,000件弱 英語サイトで「school mathematics」 750万件 現場に即したコンテンツの構築 実践記録集  課題の3点目は,不十分ながらも整備されてきた校内LAN環境のもとで,使えるコンテンツ量が欧米に比べ圧倒的に不足している点です。  某検索サイトで「高校数学」「school mathematics」で調べたところ検索サイトや調べた時期にもよりますが,そのヒット数の件数が圧倒的に差がありました。  こうした現場に即した,デジタルコンテンツの蓄積が,今後更に求められると思われます。

方向性① 主役は“教室” コンピュータ教室は1つでは足りない 一つは情報へ,他教科用にもう一つ 変わる授業形態 方向性① 主役は“教室” コンピュータ教室は1つでは足りない  一つは情報へ,他教科用にもう一つ 変わる授業形態 プレゼン型,問題発見型の授業の増加 主役は教室での使用 インターネットを教材庫  Web上から様々な教材を取り出し提示  最後に,これからの方向性について,自分なりの考えをいくつか述べさせていただきます。  川上先生のレポートにもありましたように,コンピュータ教室が1つでは足りない事態が生じてきています。  現在でもなかなか思うように取れない実体がありますが,高校の場合,来年度から新教科「情報」が入るため,他教科はほとんど使用できない事態になります。  そのため数学の授業での使用方法は,必然と教室が主役になり,校内LAN整備も相まって,教室でのプレゼン型の授業が主流となります。

方向性② 一斉授業以外での活用 個人での学習への支援 開かれるべきコンピュータ教室 空き時間に自由に学習できる環境 管理体制はどうあるべきか 方向性② 一斉授業以外での活用 個人での学習への支援 開かれるべきコンピュータ教室 空き時間に自由に学習できる環境 管理体制はどうあるべきか どこででも学べる環境とデジタル教材作成 自由度のあるコンテンツ作り 学習履歴の把握  方向性の2点目としては,一斉授業以外でのテクノロジー活用です。  先ほどのデジタルテキストのような,好きな時間に自由に学習できる環境が求められると思います。  そうしたシステム作りがこれから必要になると思われます。  特に学校においてはコンピュータ教室の自由な解放による,空き時間の学習体制が必要になります。  これは管理体制を初めとした校内のコンセンサス作りが必要になります。

方向性③ ネットを利用した研究体制 ネットワークの基本は人と人 現場レベルからの研究組織の連携 更なるネットワーク利用の方策の必要性 方向性③ ネットを利用した研究体制 ネットワークの基本は人と人 現場レベルからの研究組織の連携 テレビ会議システムの利用 授業実践のネット公開 更なるネットワーク利用の方策の必要性  最後にネットワークを利用した授業の方法,効果等も含めてどういった形での取り組みが必要なのか,一斉授業への必要性も含めて実践・研究が必要ではないかと思います。  そのためにも現場レベルでのネットを通した研究組織の連携というのも是非行っていきたいと思います。  私の発表は以上で終わらせていただきます。  ありがとうございました。