6 コーポレートガバナンス 2006年度「企業論」 川端 望.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
企業 契約 金融構造 chapter. 3 原泰史. Contents 非人的資産の役割と権限の特性 従業員のインセンティブ 権限移譲およびその他の中間的所有権形 態 残余コントロール権と残余所得 評判の効果 物的資本への投資 資産の形成 統合・情報の伝達・協力.
Advertisements

1 (第 14 週) 第5章 間接金融の仕組 み § 1 銀行の金融仲介機能 ( p.91 ~ 98 ) ① 仲介機能 ② 情報生産機能 ③ 資産転換(変換)機能 ④ 銀行貸付けにおける担保の役割 § 2 貸付債権の証券化とサブプライム問題 ( p.99 ~ 104 ) § 3 銀行以外の金融仲介機関.
1 この章で学ぶこと: ①なぜディスクロージャー? ②変化する日本企業! ③会計が変わり経営が変わる! 第 10 章 ディスクロージャー ケース/ TDK.
株式投資とは 2013 年 6 月 27 日 そうへい. 目次  株式とは  投資方法  株式投資の良いところ  投資方法  注意点  考察  参考文献.
現代社会と経営 (11 月 15 日:会社とは何か ) 長岡技術科学大学 情報経営系教授 阿部俊明.
6章 7章 インセンティブ. モラルハザード よくある誤解(誤訳):倫理の欠如 私の好きな意訳:倫理の落とし穴 よくある定義 情報の非対称性があり、代理人の 行動が観察できない がゆ えに、代理人が 依頼人の意に即した行動を取らず 、自ら の利得を最大化する問題。 例:保険、負債を背負った経営者.
第5章 活性化する国際分散投資 と 日本経済の影響. ネットとグロスの違い 資本移動の場合 日本 外国 100 億円 50 億円 ネットの資本移動 100-50=50億 円の黒字 グロスの資本移動 100+50= 150 億 円.
1.欧州. 特許会社  特許会社とは …. 経営権が国に保留されている事業の、 一部または全部の経営権を、法律などに より付与された会社。  世界で最初の特許会社 モスクワ会 社.
第4章:資産価格とそのバブル P.115~137 08bc134k 畑 優花.
『企業の仕組み』 (2013年度秋学期) 第3回 株式会社とその成立について
コーポレート・ガバナンスの比較制度分析.
市場経済 金融市場メリット 需要と供給 2つの金融 経済循環 証券取引所・証券会社 資本主義経済 銀行
第2章 巨大日本企業の人事部 ーこれまでの実態ー
6 日本のコーポレート・ガバナンス 2012年度「企業論」 川端 望.
第16章 総需要に対する 金融・財政政策の影響 1.総需要曲線は三つの理由によって右下がりである 資産効果 利子率効果 為替相場効果
第3章 実態経済に大きな影響を及ぼす金融面の動向
現代の金融入門   -第1章 金融取引- 08BA210Y  一二三 春菜.
多々納 裕一 京都大学防災研究所社会システム研究分野
現代の金融入門 第5章 3節 企業統治の変質と再生
量的質的金融緩和は 日本にとってプラスか? 否定派.
第2章 バブル崩壊後における経済の長期停滞の原因をどうみるか
株式会社の基本構造 所有と経営の分離 株主代表訴訟制度の意義
企業の長期成長の為の 証券取引所への上場の是非
第4回(10月30日) 豊澄智己 講義:エコビジネス論 第4回(10月30日) 豊澄智己
(第12週)第4章 直接金融の仕組み(2) §1 直接金融と間接金融(p.69~74):確認 ◆ 短期証券(約束手形、CPなど)
2005年度マネジメント学部3年生秋学期ガイダンス
08ba036z  入江 洋志 現代の金融入門 第五章 1~2節.
専門特殊講義 2010/11/11 担当:内藤.
第14回 商事関係法 2005/11/21.
第7章 どのように為替レートを 安定化させるのか
社会人基礎Ⅱ 第2回 業界・企業分析の基礎 法令の視点から.
監査とは テキスト第8章 田宮治雄.
第11回 商法Ⅱ 2007/01/15.
金融の基本Q&A50 Q41~Q43 11ba113x 藤山 遥香.
第3回 商事関係法 2006/10/23.
第15回 商事関係法 2005/11/28.
4 国際通貨 1 国際通貨の基礎理論 2 国際通貨の機能と選択 3 管理通貨制度下の国際通貨 国際金融2002(毛利良一)
第三章 会社のグループを形成する.
国際経済3 多国籍企業 6-1.直接投資と多国籍企業の現状 6-2. 多国籍企業と直接投資の理論 6-3. 多国籍企業とM&A・国際提携
開発金融論 第3章 銀行型システムか市場型システムか
手に取るように金融がわかる本 PART6 6-11 09bd139N 小川雄大.
フランスの年金調整会議 年金調整会議は、2000年に創設された。常設の団体であり、メンバーは国会議員、経営者・労働組合の代表、専門家、国の代表である。その主たる目的は、フランスの年金制度を監視すること、年金に関連する公的政策への勧告をすることであり、専門的知識と全ての参加者による協議に基づいている。
中小企業の発展と管理会計 ~戦略とBSCに焦点を当てて~ 発表者:商学部3回生 萬徳貴久.
経営学総論 ガイダンス Thursday, April 15, 2004
COBIT 5 エグゼクティブ・サマリー.
経営情報論A(2・3・4年生) 第10回企業の統治(4章5節) 長期利益の獲得(p.108) 長期利益の獲得
公共政策大学院 鈴木一人 第7回 政治と経済の関係 公共政策大学院 鈴木一人
第22回 商事関係法 2006/01/ /11/8.
第8回 商法Ⅱ        2006/11/ /11/8.
社会人基礎Ⅱ 第2回 業界・企業分析の基礎 法令の視点から.
新会社法と会計参与制度 ~中小会社における会計参与の役割~ 立教大学坂本ゼミナール .
第16回 商事関係法 2005/11/ /11/9.
株式会社における出資者と経営者 経営とは、一定の事業計画を構築し、それに沿って経営資源を調達し、さらにそれを用いて、社会に財やサービスを効率的に提供しようとする一連の営みである。 投資家(株主) 取締役 (経営者) 株主総会 所有者 経営 所有と経営の分離 資本の循環 資本金 商品 生産 商品´ 売上.
会社法Ⅰ 第1回.
第10回 基礎ゼミcクラス 監査役と監査役会(pp.99) 監査役とは
経営学総論 サマリー Thursday, January 11, 2007
『「良心」から企業統治を考える』1章~4章 2015年11月14日 常盤塾 上原 渉.
上級アドミニストレータ連絡会 関西研修会 平成18年11月25日 公認会計士・公認システム監査人 藤野正純
入門会計学 第2章 株式会社 .
社員育成 ~企業変革における社員教育の重要性と戦略との適合性~
第23回 商事関係法 2006/01/ /4/14.
第6回 商法Ⅱ 2006/11/13.
Unit9 閉鎖型の株式会社 新「会社法」は、所有と経営の分離を徹底しているのか? 会社法295条の意義
東京海上ホールディングス ケーススタディー(Cグループ)
~求められる新しい経営観~ 経済学部 渡辺史門
岩本 康志 2013年5月25日 日本金融学会 中央銀行パネル
第10回 商法Ⅱ 2006/12/11.
財務管理 2010年1月13日 業績評価と経営者報酬 名古屋市立大学 佐々木 隆文.
第4回 商法Ⅱ 2006/10/ /8/28.
マーケティング・チャンネル戦略.
Presentation transcript:

6 コーポレートガバナンス 2006年度「企業論」 川端 望

6-1 株式会社制度

株式会社とは何かDO 企業形態としての株式会社 株式会社の経済的機能:私的個人の限界を突破した企業活動の保証 出資者の持分が均等に細分化され、株式という形を取る 株主や経営者の人格と区別された法人格を持つ 出資者は、会社の債務について出資額を限度として有限責任を負う 株式会社の経済的機能:私的個人の限界を突破した企業活動の保証 個人所有の限界を超えた資本規模の拡大 個人の能力の限界を超えた経営者と経営機構の確保 個人の寿命の限界を超えた企業活動の永続化

株式会社を支える制度 持分の証券化と流通=株式市場 資本充実の原則とディスクロージャー 法人格と会社機関 出資は投資リスクを伴うのでコントロール必要 公開株式会社:株式市場での自由売買(経営不関与もあり得る) 持分売却による出資分回収 ベンチャー企業:経営関与(株式市場での売買不可能) 資本充実の原則とディスクロージャー 出資者全員有限責任→債権者保護が必要 経営者と投資家の間の情報の非対称性→投資家保護が必要 法人格と会社機関 株主が企業を所有しなければ、私的所有の制度の基本が揺らぐ←→企業は法人が所有する 会社機関・経営者がこのギャップを埋める 株主は直接には経営者をコントロールすることで法人をコントロールし、間接的に会社それ自体をコントロールする(という建前で制度が構成される)

株式会社のコーポレート・ガバナンス問題とは何か 株式会社とその経営者の統治原理はどうなっており、またどうあるべきかの問題 シェアホルダー型ガバナンス(である。であるべきだ) ステークホルダー型ガバナンス(である。であるべきだ) 「所有に基づく支配」の観点から:株主-経営者間の本人ー代理人(プリンシパル・エージェント)関係問題 仕事を委託された代理人が本人の利益に反して行動する可能性をめぐる問題(それをコントロールする取引費用の問題) 探査と情報、交渉と意思決定、監視と強制のコスト 「会社それ自体」の成立の観点から 「会社自体」の発展には独自の価値があり、それは支配的株主の利益と一致するとは限らない

所有と経営の分離(1) 株式会社の発達により、所有者たる株主と経営者たる経営者が人格的に分離する 発達した株式会社では経営者は専門経営者となり、トップ・ミドル・ローワアの3区分に代表されるような階層構造をなす その具体的形態は法制度と慣行により、国毎に異なる。

所有と経営の分離(2) 株式会社では株主総会で選出された取締役が取締役会を構成する。 日本の公開株式会社のオーソドックスな形態(取締役設置会社だが委員会設置会社ではない) 取締役会は業務執行の決定を行い、取締役および執行役の職務の執行を監督する。 代表取締役と業務執行取締役が業務を執行する 社外取締役は業務を執行しない 日本の委員会設置会社 社外取締役が過半数でなければならない 取締役会に指名委員会、監査委員会、および報酬委員会を設置する 執行役が業務を執行する 取締役は執行役を兼ねることができる →監督と執行の分離がポイントであり、アメリカの制度に近い

経営者企業化の二つの契機DO 「所有なき支配」 経営者資本主義=専門的経営者による経営の実質的権限把握(経営者支配) 企業巨大化と株式分散による経営者支配への傾向(バーリ&ミーンズ[1932=1958]) 企業が巨大化し、個々の株主は高い持分比率を保てなくなる 経営者が取締役選出権限を握り、株主にその地位を左右されなくなる 大量生産・大量消費、それに伴う起因する企業経営の専門化・複雑化による経営者支配への傾向(バーナム[1941=1965])(チャンドラー[1977]=[1979]) 財の流れの規模・速度の調整が管理的調整(権限とルールによる統治)によって行われることが必要となり、専門的知識のない株主(個人、金融機関)では対応できなくなる 経営者が管理的調整を担い、株主は介入できなくなる 「所有なき支配」

6-2 ガバナンス構造

用語上の注意DO 用語が誤解を招くので置き換える 内部コントロール→組織的コントロール 外部コントロール→市場的コントロール 「発言」によるコントロール 外部コントロール→市場的コントロール 「退出」によるコントロール ※内部・外部は「内部組織を通した」、「外部の市場を通した」という意味のようだが、「内部者による」「外部者による」と誤読されかねない。

組織的コントロール(図6.2) 取締役会が監督し、経営執行役が執行するというアメリカ型の機関設計を想定 S→B B→E 株主総会において株主は取締役を任免し、企業提案に対して賛否の採決を行う B→E 取締役会が執行役を任免し、経営の成果をモニターし、その報酬を決定する

市場的コントロール(図6.2) S→M M→E 非公開会社ではこのメカニズムは働かない。 株主は市場での評価に基づき、株式を売買する。 株価の下落による信用低下や乗っ取りの脅威が経営者の行動に影響する。 非公開会社ではこのメカニズムは働かない。 上場をめざす場合は、その見通しをとおして間接的には働く

各国のガバナンス構造の違い 組織的コントロール:会社機関のあり方に依存 市場的コントロール:金融システムに依存 ドイツの監査役会 アメリカ 株主代表と従業員代表から構成される 監査役会と経営執行役のメンバーは重複しない アメリカ 取締役会と執行役の分離 最高経営責任者(CEO=執行役のトップ)が取締役会議長を兼ねることによる強大な権限 日本(前述) 市場的コントロール:金融システムに依存

その他のガバナンス機能 債権者によるガバナンス 市場競争によるガバナンス(市場的) 自律的ガバナンス(組織的) 短期的貸出による負債の規律付け作用(市場的) メインバンクのモニタリング(組織的) ただしその強弱や効果は議論がある(第4章参照) 市場競争によるガバナンス(市場的) 自律的ガバナンス(組織的) 市場競争に対応して、内部組織を効率化

ガバナンスの類型(表6.1を修正) 株主コントロール 負債圧力 市場競争 組織的コントロール 取締役任免 株主総会での審議 メインバンクのモニタリング 内部組織効率化 市場的コントロール 株式市場での売却と買収の脅威 短期貸し付け 財・サービス市場での競争

アメリカの経営者企業のガバナンス構造(1)(図6.3) バーリ&ミーンズ的経営者企業の成立 株式分散によりS→Bが無効となる 経営陣が取締役を事実上任免できるようになったためB→Eが無効となる 経営者は自己の利益を追求する 企業成長モデルの経営者企業の出現 1960年代以後、機関投資家の台頭によりM→Eが強化される 株価を制約条件として経営者は効率を追求せざるを得ない

アメリカの経営者企業のガバナンス構造(2) 負債圧力と市場競争の圧力は弱い 自己金融の発展 寡占市場。1960年代以後、弱体化 繊維、鉄鋼、テレビ、VTR、自動車、半導体などに日米貿易摩擦発生 企業成長モデルの経営者企業は、株主利益を実現しているか?していないか? 1970年代初頭までは、「経営者企業だが株主の利益は実現している」とみなされた(=株価は上がっていた) 1970年代後半から80年代前半に株式市場が低迷し、「経営者企業であるから株主利益が実現しない」と批判が出てくる

日本の経営者企業のガバナンス構造(1)(図6.5) 法人資本主義(奥村[2005]など) (図6.6) 株式持ち合い 1960年代後半以後、安定株主工作が進み、金融機関・事業法人の持株比率が7割に 利潤証券ではなく支配証券としての保有 「法人所有に基づく経営者支配」によるS→Bの無効化 持ち合いによりA社経営者がB社を支配、B社経営者がA社を支配 相互に発言も売却もしないのでモニタリング不在 1980年代に頂点に達し、90年代に崩れ始めた 取締役が大部分内部取締役であることによるB→Eの無効化

日本の経営者企業のガバナンス構造(2) MB→E?(第5章) 市場競争の圧力は強かった モニタリング説は疑問がある メインバンクが介入する可能性が、経営者のインセンティブになっていたとは言える 市場競争の圧力は強かった 国内市場での企業間競争 国際市場でキャッチアップする必要

長期志向か量的拡大志向か 日本=長期利潤志向、アメリカ=短期利潤志向説(80年代に強かった意見) 日本企業は株価制約が弱いので、株主の短期的利潤にとらわれず、会社自体の発展のために長期的視野で行動した 日本=量的拡大志向説(90年代に強くなった意見) 日本企業はガバナンスが弱いので低利潤率の拡大投資ができた 技術革新→売上拡大→規模の経済→コスト競争力強化→利益確保(率は低く、量は大きい) このパターンが可能なうちは、市場競争圧力は直接の収益性確保圧力とならずに生産・経営規模拡大を促してしまう。 終身雇用・年功賃金慣行と量的拡大志向が親和的だった(第3章) メインバンクは貸出=預金量の拡大を志向してこれを後押しした(第5章)

日米経営者企業のガバナンスメカニズム(表6.2を修正) 株主コントロール 負債圧力 市場競争 アメリカ経営者企業 売却・買収の脅威による市場的コントロール 自己金融 寡占市場 日本経営者企業 持ち合いにより不在 メインバンク介入の脅威による組織的コントロール。ただし、量的拡大志向に作用 競争的。ただし量的拡大志向に作用

バーリ&ミーンズのステークホルダー型ガバナンス論 株式会社は、現実には経営者や支配的少数株主が支配して、支配者は自分の利益を追求している=所有なき支配が現実である 所有者の利益優先(シェアホルダー型ガバナンス)に戻ることは困難だし、望ましくない。 経営に関与しない株主の利益だけを追求することは妥当でない 所有なき支配者の利益追求は、私有財産の社会では正当化できない したがって、利益追求を第一義的に追求することをやめるしかない 株式会社は、ステークホルダーの諸要求をバランスさせる「中立的テクノクラシー」になるべきである。

バーリ&ミーンズ説の政策的含意 株式会社が「中立的テクノクラシー」にならなければ、資本主義には正当性がなくなり、社会主義の台頭を防げないだろう ドラッカー[1942=1998]も同じ危機感を表明 株式会社を「中立的テクノクラシー」とするために政府が介入することは正当である バーリ&ミーンズはニューディーラーであった バーリ&ミーンズ説の遺産 所有なき経営者権力には正当性があるか?あるとすればその理由は自己利益追求以外のところになければならない。

バーリ&ミーンズ説の限界 1960年代以後、機関投資家の台頭によりM→E、S→Bが復活 経営者は、管理的調整は専門的に担うとしても、株主の利益を少なくともある程度優先的に考慮せざるを得ない 企業成長→株価引き上げ→株主利益 「中立的テクノクラシー」にはなれない

アメリカのシェアホルダーガバナンス論 1980年代以後のM&Aブームを背景としたシェアホルダーガバナンス論 M→Eの市場的コントロール強調 株式集中の復活により、敵対的買収によるものを含むS→Bが可能に 1990年代の、機関投資家の積極的行動を背景としたシェアホルダーガバナンス論(図6.7) 年金基金など機関投資家の台頭が背景に。 敵対的M&Aが一段落 社外取締役による監督と執行の分離、委員会機能の強化によりB→Eを強化 ストックオプションで、株価引き上げのインセンティブを執行役に与えてM→Eを強化

シェアホルダーガバナンス論の問題点 短期的な株価上昇の追求が、企業活動の継続的発展につながっていないという批判 M&Aはビジネスを発展させないという批判(マドリック[1987=1987]、バロー&ヘルヤー[1990=1990]など) エンロン事件、ワールドコム事件などの不正会計によるディスクロージャーと株式市場の完全さへの懐疑

6-3 日本のコーポレートガバナンス改革

日本企業におけるガバナンスの不在の露呈 もともとガバナンスが弱く、量的拡大志向に誘導されやすいが、高度成長期はそれでよかった バブル崩壊以後、それでは業績があがらなくなる 業績が上がらないのに経営者がチェックされないので業績がさらに悪化 株主コントロール 負債圧力 市場競争 日本経営者企業 持ち合いにより不在 メインバンク介入の脅威による組織的コントロールだが量的拡大志向に作用→不良債権の累積 競争的だが量的拡大志向に作用→量的拡大では業績が上がらない。「選択と集中」が必要に

ガバナンス改革としての委員会設置会社 B→Eが機能しなかったことの反省 日本の委員会設置会社(スライド7再現) 取締役会は業務執行の決定を行い、取締役および執行役の職務の執行を監督する。 社外取締役が過半数でなければならない 取締役会に指名委員会、監査委員会、および報酬委員会を設置する 執行役が業務を執行する 取締役は執行役を兼ねることができる 従来の法的枠組みのまま執行役員を導入する会社もあるので注意 実態は会社による。取締役を名目的に減らして役員ポストを維持するために利用している場合もある

株主構成の変化 株式持ち合いの弱体化(図6.9) 個人・外国人持株比率の上昇 機関投資家持株比率は横ばい 法人持株比率の低下 モニタリングを不在にしていた要因が弱体化する 買収防止工作のため再度強化しようとする動きも 個人・外国人持株比率の上昇 全体としては、短期的利益をもとめる市場的コントロールM→Eの圧力が強まる 企業再生ファンドは長期利益追求か短期利益追求かケース・バイ・ケースで見る必要 機関投資家持株比率は横ばい 発展方向はまだ未知数

長期期待の重要性 ガバナンス不在状態が弱まり、短期期待によるM→Eが台頭 長期期待はどこから来る可能性があるか?(図6.11) 持ちあい解消は長期期待弱体化ではなく、ガバナンス不在の解消DO 長期期待はどこから来る可能性があるか?(図6.11) 再度の持ち合いからは生じない 機関投資家のS→Bか? ステイクホルダーの組織的コントロールか? 市場競争に対応した経営内部の効率化か?

6-4 ステイクホルダー型ガバナンス

ステイクホルダー型ガバナンスの基本問題 追及する目標 経営者のインセンティブ 株主価値最大化以外の目標 ステイクホルダーごとに利害が異なる ステイクホルダーの利害に沿って経営者を動機づけることが必要だが、困難 利潤面で企業としての存立条件を損なわないことが必要条件

TCEによる関係特殊的投資に由来するステイクホルダーガバナンス論 長期にわたる関係特殊的投資が企業発展に貢献する可能性 長期雇用 サプライヤー・システム 短期的期待に基づくコントロールは、企業の長期的発展を損なう 短期期待に基づくM→Eは不適当 関係特殊的投資の主体はステイクホルダーとなり、ガバナンスへの関与が正当化される

関係特殊的投資に基づくステイクホルダーガバナンス論は日本企業のシステムに適合しないDO 技能が発揮主体の資産として認知されていないのでステイクホルダーにならない 技能は労働者個人に帰属せず「みんなのもの」や「会社のもの」とみなされがち(第3章) サプライヤーの技能は取引毎に評価されて対価が払われているのではない(第4章) 長期継続取引の有効性が否定されると、ステイクホルダーの地位も否定される(第3章、第4章) 長期継続取引が、テクニカルな意味での関係特殊的技能に基づいている部分は限られている 日本の経済的関係によって関係特殊的と評価された技能であれば、雇用流動化、系列弱体化などで評価が変わってしまう

日本企業のガバナンス規範と従業員(1)DO 会社それ自体の成長・発展が価値あるものとされる ガバナンス不在のもとでの量的拡大 経営者の自己利益追求に帰結するおそれもある(バブル期の企業不祥事) 労働者(従業員)はガバナンスの主体でなく会社にとっての配慮の対象 会社は、コアとなる労働者(従業員)の生活に配慮しなければならない コアとなる労働者は、それ以外の労働者、株主、債権者よりも配慮すべき対象である

日本企業のガバナンス規範と従業員(2)DO 従業員の生活に配慮した経営者の地位もまた守られるべきである コアとなる従業員の生活への配慮を否定するガバナンスは許されない 短期的利益に基づくシェアホルダーガバナンス 従業員に配慮している経営者を否定し、従来の雇用システムを否定するおそれのある敵対的買収

日本企業のガバナンス変革の方向DO 変革圧力は雇用システム、サプライヤー・システムより強い 現実に進行するシェアホルダーガバナンスへの方向 従来のシステムのパフォーマンスが悪すぎるから 現実に進行するシェアホルダーガバナンスへの方向 権利・義務をクリアーにした契約社会化 短期利益追求の傾向 シェアホルダーガバナンス化が雇用システムやサプライヤー・システムの変化を加速する ステイクホルダーガバナンスの可能性はあるか? 長期期待を持つ株主と、主体としてのステイクホルダーに転換した労働者 地域社会住民、サプライヤー、顧客の関与 雇用システム、サプライヤー・システムの改革と両立するガバナンス改革

主要参考文献 奥村宏[2005]『最新版 法人資本主義の構造』岩波書店。 奥村宏[2005]『最新版 法人資本主義の構造』岩波書店。 アドルフ・A・バーリ&ガーディナー・C・ミーンズ[1932=1958]『近代株式会社と私有財産』文雅堂銀行研究社。 アルフレッド・D・チャンドラー,Jr.[1977=1979](鳥羽欽一郎・小林袈裟治訳) 『経営者の時代(上)(下)』東洋経済新報社。 ジェームズ・バーナム[1941=1965](武山泰雄訳)『経営者革命』東洋経済新報社。 ジェフ・マドリック[1987=1987](竹中征夫・久世洋一訳)『企業乗っ取りの時代』ダイヤモンド社。 ブライアン・バロー&ジョン・ヘルヤー[1990=1990](鈴田敦之訳)『野蛮な来訪者 RJRナビスコの崩壊(上)(下)』日本放送出版協会。