小学部中学年の知的障害児が、腕に軽く触れて注意喚起をし、遊びの選択カードを渡すことできるための指導
指導目標 【長期目標】 腕に軽く触れて注意喚起を行うことができる。 【短期目標】 腕に軽く触れて注意喚起を行うことができる。 【短期目標】 対面しない方向を向いている教師の腕に手で軽く触れ注意をひき、遊びカードを渡すことができる。 (したい活動の選択の場面にて)
事例に関する情報1 ・教師が自分と対面していて、目が合っている場合には、カードを渡すことができる。 ・教師が違う方向を向いている場合には、「その場に立ち尽くす」「カードを指さす」「奇声のような声を出す」のような行動をとり、教師と目が合っていない場合にはカードを渡すことができない。
事例に関する情報2 ・カードを渡すことができないまま、時間が経過すると(1分以内)、他の人や物が刺激となり、物で遊んだり人に興味を持ったりするため、自分が何をしていたのか忘れることがある。 ・周りの人に注目してほしい時などに、「あー、うっ」等の発声はあるが、声の大きさのコントロールが難しく、大きな声を出して周りの人や家の近所の人たちが驚いてしまうことがある。
標的行動(増やしたい行動) 標的行動(減らしたい行動) 相手が対面していない時に、腕に軽く触れ、注意喚起をおこしカードを渡し要求する。 相手がこちらを向いていない時に、 奇声を発する ・ カードを指さす・ 立ち尽くす・他の物に興味を示す。
方法 【対象児】 A児(特別支援学校小学部3年男児) 【指導場面】 あそびの時間 【般化場面】 A児(特別支援学校小学部3年男児) 知的障害 S-M社会生活能力検査 2歳5ヶ月 新版K式発達検査 1歳4ヶ月 【指導場面】 あそびの時間 【般化場面】 学級での日常生活の指導(給食・援助要求・トイレなど) 【教材】 遊びのカード (絵本・ビデオ・おもちゃ)
立ち尽くす 現状のABC分析(あそびの選択の時間) 時間の経過(↑) あそびの 選択の時間 違う方向を向いている教師 (カードを渡すと好きな遊具で遊べる) あそびの 選択の時間 違う方向を向いている教師 友だちから触られる(↑) 立ち尽くす 何かの活動をしている教師 教師から身体的支援(↑) 遊びのカードを選んだ後 教師からの 「何?」の声かけ(↑) 離れたところにいる教師
問題の推定原因 1.教師が違う方向を向いている時には、どういう風にカードを渡すか分からないから。 2.教師が何か違う活動をしているため、渡していいのかどうかわからないため 3.カードを渡す意義がわからないから 4.待っていると、誰かがきてくれるから
原因の解決法 (身体支援 → 声かけ支援 → 支援なし) 1.T2が身体的支援で関わり、支援を次第に減らし、できたらT1が褒める (身体支援 → 声かけ支援 → 支援なし) 2.指導者T1は後ろを向いて、児童から2メートル程度離れた場所で待つ(はじめは、他の活動はやめておく) 3.カードが渡せたら、すぐに好きな活動ができるようにする 4.待ち時間をつくらないようにする
腕に軽く触れて注意喚起を行い、カードを渡す AFTERのABC分析(あそびの選択の時間) カードが渡せた 満足(↑) あそびの選択の時間 違う方向を向いている教師 教師から「そうだね」と賞賛(↑) 腕に軽く触れて注意喚起を行い、カードを渡す 何も活動してい ない教師 教師とやりとりができた(↑) 遊びの選択カードをとった後 2メートル離れたところにいる教師 遊びの時間に すきな活動ができる(↑)
指導の手続き(1) 【介入】あそびの選択場面において 立ち位置:T1は児童の2メートル程度離れたところに、後ろを向き立つ。 T2は児童と4メートル程度離れたところに立つ。 1.児童が、カードを取りT1の方へ近づきT1の方を見ているのを確認してからT2は、「ぽんぽん」と声をかけながら身体的支援でT1の腕に軽く触れる。 2.T1は、触れられた後、「何?」と笑顔で振り向く。 3.T2は、初めは児童と一緒にカードを渡す。 4.T1はカードを受け取り、「分かりました。上手に渡せたね」と笑顔で言語賞賛を行い、児童が選んだあそびの準備をする。
記録方法・達成基準 記録方法 達成基準 ○あそびのカードを選択し、カードをとった後に、次のような教師への渡し方について得点化する。 一人で教師の腕に軽く触れ注意喚起を起こし渡せた ・・・2 「ぽんぽん」の声かけで腕に軽く触れ注意喚起を起こし渡せた・・・1 身体的支援でできた ・・・0 達成基準 ・連続3日、100パーセント達成することができた場合 は達成とする。
教材
結果(1) 記録表 試行回数と得点 11/21(指導開始) あそびの選択 1試行目 0 あそびの選択 2試行目 あそびの選択 3試行目 結果(1) 記録表 試行回数と得点 11/21(指導開始) あそびの選択 1試行目 0 あそびの選択 2試行目 あそびの選択 3試行目 11/22 あそびの選択 1試行目 0 あそびの選択 2試行目 11/24 あそびの選択 1試行目 0 あそびの選択 2試行目 1 あそびの選択 3試行目 エプロンの紐を結ぶ援助要求
結果(2) 記録表 試行回数と得点 11/25 あそびの選択 1試行目 1 あそびの選択 2試行目 2 エプロンの紐を結ぶ援助要求 結果(2) 記録表 試行回数と得点 11/25 あそびの選択 1試行目 1 あそびの選択 2試行目 2 エプロンの紐を結ぶ援助要求 11/29 あそびの選択 1試行目 2 あそびの選択 2試行目 エプロンの紐を結ぶ援助要求 エプロンの紐をとる援助要求 自立課題の終了報告
結果(2) 記録表 試行回数と得点 11/30 あそびの選択 1試行目 2 エプロンの紐を結ぶ援助要求 エプロンの紐をとる援助要求 12/1 結果(2) 記録表 試行回数と得点 11/30 あそびの選択 1試行目 2 エプロンの紐を結ぶ援助要求 エプロンの紐をとる援助要求 12/1 あそびの選択 1試行目 2 あそびの選択 2試行目 エプロンの紐を結ぶ援助要求 エプロンの紐をとる援助要求 鞄のホックをとる援助要求
教室あそびで、腕にふれてからカードを渡す指導 教室あそびで、腕にふれてからカードを渡す指導
結果 指導を始めて、4日目からは、他の場面でも自然と般化することができた。 指導を始めて、1日目と2日目は、身体的支援で関わったが、3日目からは、声かけ支援のみで腕に軽くふれ、注意喚起をすることができた。 指導を始めて6日目で達成することができた。
考察1 「人に軽く触れる」ことで、人がこちらを向いて注意を向けてくれることを学んだ後は、自然に様々な場面で使えるようになった。以前は、家庭でも、力の加減が分からず弟をたたいてしまうことがあったが、優しく「ぽんぽん」と触れることができるようになった。 T1とT2で、フォーメイションをしっかり打ち合わせしたことが効果的であった。
考察2 一日2~3回程度の試行回数を確保することで、身体的支援から声かけ支援に減らしても、増やしたい行動が見られた。試行回数の頻度をあげたことで定着が早くなったと考えられる。 T2の後方からのガイダンスを行うことで、誤学習をすることなく定着し、般化場面も多く見られるようになった。
般化場面について1 (エピソード評価) 次のような場面にて、対面しない方向を向いている教師の腕に手で軽く触れ注意をひき、「カードを渡す」「手を合わせる」(お願いしますの意味)等の方法で要求の意志、終了を伝えることができた。 ※給食前にエプロンを着ける際、エプロンの紐を結 ぶ援助要求(手を合わせる) ※自立課題ができた後の終了報告(カードを渡す) ※鞄のホックを外す援助要求(手を合わせる) ※排尿の意志(下腹部をタッピングする)
般化場面について2 (エピソード評価) ※給食の時のおかわり要求 ※お茶を飲む時、コップにお茶を入れる援助要求 般化場面について2 (エピソード評価) ※給食の時のおかわり要求 ※お茶を飲む時、コップにお茶を入れる援助要求 ※「なかよしタイム」でのしたい活動を選びカードを 渡す ※補装具をはく時の援助要求 ※おうちでの、家族への注意喚起
課題と今後について1 今は、排尿の意志を伝える際に、「ぽんぽん」と注意喚起を行ってから下腹部を押さえる動作をして意志を伝える練習を行っているが、「下腹部を押さえる動作」が出てからすぐに排尿をする時があるので、なかなか身体支援を行い指導を行うのが難しい。 「トイレサイン」が出たときに、T1とT2の役割分担で指導を行いたいが、他の児童の排泄指導等で二人の教員が関わることができず、(T2がいないため)学習する機会がなくなる、または誤学習をしてしまう。
課題と今後について2 「ぽんぽん」と触れるときに、相手の体の向きによっては、相手の胸をぽんぽんしてしまうことがある。 「ぽんぽん」と人に触れるときに、持っているカードで人に触れることがある。