マクロ経済学入門 第4話 失業の原因 立命館大学経済学部 松尾匡
労働生産性とは Y N 労働者1人(労働1単位)が生産する財の量 生産量 雇用量 イラストポップ http://illpop.com/png_jobhtm/industry_a14.htm
実質賃金率とは w w p p 労働者1人(労働1単位)が受け取る財の量 貨幣賃金率 物価 イラストポップ http://illpop.com/png_jobhtm/industry_a14.htm
Y > w N p w w p Y > p N = 残りは利潤へ 利潤が出る。 ∴ 生産する。 ならば 利潤が出ない。 ∴ 生産しない。 イラストポップ http://illpop.com/png_jobhtm/industry_a14.htm
ある企業(R社)の例を図示 労働生産性
ある企業(R社)の例を図示 労働生産性 雇用量 NR
ある企業(R社)の例を図示 労働生産性 雇用量 NR
ある企業(R社)の例を図示 Y 労働生産性 生産量 R 面積が生産量 雇用量 NR
ある企業(R社)の例を図示 労働生産性 実質賃金率 雇用量 NR
ある企業(R社)の例を図示 (実質)利潤 労働生産性 実質賃金率 労働者の分配分 雇用量 NR
全企業について労働生産性の高いものから順に並べる A社 B社 C社 D社 E社 F社 NA NB NC ND NE NF
長方形の面積が 各企業の生産量 Y Y A Y B Y C Y D Y E F A社 B社 C社 D社 E社 F社 NA NB NC ND NE NF
実質賃金率がこんな高さなら 利潤が出る 生産する! 利潤が出ない 生産しない 利潤が出る 生産する! 利潤が出ない 生産しない A社 B社 利潤が出ない 生産しない C社 D社 E社 (w/p)1 F社 NA NB NC ND NE NF N1
実質賃金率がこんな高さなら 利潤が出る 生産する! 利潤が出る 生産する! 利潤が出る 生産する! 利潤が出る 生産する! A社 B社 利潤が出ない 生産しない C社 D社 E社 F社 (w/p)2 NA NB NC ND NE NF N2
世の中に無数の企業があると 生産性が微妙に異なる無数の企業がある(一つの企業にも、生産性の異なる無数の生産ラインや工場や事業部門がある)と、グラフの刻みが細かくなり…
曲線で近似できる (w/p)1 実質賃金率がこの高さなら N1 ここまで雇用される
曲線で近似できる (w/p)2 実質賃金率がこの高さなら N2 ここまで雇用される
つまりこの曲線は 労働需要曲線 D w N p N 縦軸に実質賃金率ととると、そのときの雇用量を横軸に示すグラフ (w/p)1 (w/p)2 N1 N2 N
このときの生産量は Y1 A社 A社、B社、C社の生産の合計 B社 C社 D社 E社 (w/p)1 F社 NA NB NC ND NE NF
このときの生産量は Y2 A社 A社、B社、C社、D社、E社の生産の合計 B社 C社 D社 E社 F社 (w/p)2 NA NB NC ND NE NF N2
曲線で近似した場合は N D w p 需要曲線の下のNまでの部分の面積が生産量 (w/p)1 Y1 N1 N
曲線で近似した場合は D w N p N 需要曲線の下のNまでの部分の面積が生産量 Yが増加するときはNも増加する。 Y2 (w/p)2 N2 N
生産と雇用の関係をグラフにすると N D w Y p (w/p)1 Y1 Y1 N1 N1 N N
生産と雇用の関係をグラフにすると N D w Y p Y2 Y1 Y2 (w/p)2 N2 N1 N2 N N
Nが増えたときのYの増え方は N D w Y p (w/p)1 ΔY1 Y1 Y1 ΔY1 N1 N1 N N ΔN ΔN
Nが大きいと小さくなる N D Y w p N N ΔY2 Y2 ΔY1 Y1 Y2 (w/p)2 ΔY2 N2 N1 N2 ΔN ΔN
つまりこうなっていない Y × N 実質賃金率が下がるごとに、以前は採算のとれなかった労働生産性のヨリ低い資本設備が採算がとれるようになって、稼働されていくから。
どんな式の形か具体的にははっきりわからないが、ともかく「Nの式」だということを表している。 これを「生産関数」と呼ぶ Y F( ) Y N = どんな式の形か具体的にははっきりわからないが、ともかく「Nの式」だということを表している。 N
生産量は、実質賃金率の式としても表させる。 同様の書き方をして 生産量は、雇用の式で表させる。 F( ) Y N 雇用は、実質賃金率の式で表される。 生産関数 = w N D N D ( ) 労働需要曲線の式 = p 生産量は、実質賃金率の式としても表させる。 w ( ) Y Y 供給関数 = p 上二式を組み合わせたら出る
財市場均衡で生産が決まると 供給需要 Y C I + Y C I + = Y * 縦横長さが同じ c I C 45° Y Y *
それが生産関数に入って雇用が決まる Y F( ) Y = N Y* 財市場を均衡させる雇用量 N* N
それが労働需要曲線に入って実質賃金率が決まる N D w 財市場を均衡させる実質賃金率 p (w/p)* N
D w N S N p 失 業 N 労働供給曲線がこんな曲線だとすると 実質賃金率と、働きに出たがる量の関係 (w/p)* 企業が雇いたい量 失 業 (w/p)* 企業が雇いたい量 労働者が働きに出たい量 N* N
つまり Y Y Y = F( ) N C + I Y C + I = c I C Y Y N N D * w p N S 失 業 N 財市場 供給需要 生産関数 Y Y Y = F( ) N C + I Y C + I = Y* c I 45° C Y Y N N D * w p N S 財市場が均衡するように生産量と雇用量と実質賃金率が決まったら、労働市場では供給超過で失業が生じることがあり得る。 失 業 (w/p)* 労働市場 N
1930年代大不況が始まって… w w p N D N D S > N それまでの主流経済学(新古典派)の主張 ニューヨークで食糧無料配給の列に並ぶ人々 イエール大の1935年から45年の写真のアーカイブPhotogrammar より http://photogrammar.yale.edu/records/index.php?record=fsa1998018760/PP それまでの主流経済学(新古典派)の主張 貨幣賃金率低下 w 実質賃金率低下 w p 雇用増大 N D 失業 N D S > N
失業がなくならないのは労働組合が貨幣賃金率の引き下げに抵抗するせいだ。 つまり、新古典派の主張は N D w 貨幣賃金率低下 w 実質賃金率低下 p S N p 当初の実質賃金率 やがて、完全雇用が実現 当初の失業 (w/p)1 失業がなくならないのは労働組合が貨幣賃金率の引き下げに抵抗するせいだ。 (w/p)2 ND2 NS2 N* (w/p)* NS1 N ND1
しかし現実には… 貨幣賃金率が低下しても、失業は一向になくならなかった。 平成不況の日本でも同じ。貨幣賃金率が低下してますます失業は悪化した。
貨幣賃金率が低下しても失業がなくなるもんか! ケインズ理論の登場 貨幣賃金率が低下しても失業がなくなるもんか! This work is in the public domain in the European Union and non-EU countries with a copyright term of life of the author plus 70 years or less. http://en.wikipedia.org/wiki/John_Maynard_Keynes#/media/File:Lopokova_and_Keynes_1920s.jpg
Y Y Y = F( ) N C + I Y C I + = c I C Y Y N N D * w p N S N D S w > N w 財市場 供給需要 生産関数 Y Y Y = F( ) N 財供給 C + I Y1 Y C I Y1 N1 + = 財需要 Y* c I 45° C N* Y Y N N D * w p N S N D S w > N w p 失業 財供給>財需要 (w/p)* 労働市場 (w/p)1 N
Y Y Y = F( ) N C + I Y C + I = c I C Y Y N N D * w p N S N D S w > N w 財市場 供給需要 生産関数 Y Y Y = F( ) N 財供給 C + I Y1 Y C + I = 財需要 Y* c I 45° C Y1 N* N1 Y Y N N D * w p N S N D S w > N w p 失業 財供給>財需要 (w/p)* 労働市場 p w p (w/p)1 元に戻る! N
つまり! 総需要が少なくて、企業は製品が売れないのだから、貨幣賃金率が下がってコストが減ると、雇用を増やすのではなく、売り上げが伸びるよう売値を下げる。 ライバルも同じことをするので、一般物価が下がるだけで、結局売り上げは伸びない。 かくして、貨幣賃金率が下がるかぎり、物価が下がり続けるだけ。(デフレ)
Y Y = F( ) N Y C + I c I C Y Y N N D * w p N S N 完全雇用にするには 財市場 供給需要 生産関数 ここを通るように Y Y = F( ) N Y C + I Yf c I 45° C Yf Nf Y Y N N D * w p N S 労働市場 完全雇用 (w/p)f Nf N
I C + Y Y = F( ) N Y c I c I C Y Y N N D * w p N S N 財市場 供給需要 生産関数 ここを通るように C + Y Y = F( ) N Y Yf c I c I 45° C Yf Nf Y Y N N D * w p N S 投資が増えればよい 労働市場 失業は企業の投資不足が原因。 完全雇用 (w/p)f Nf N
総需要拡大政策 よってケインズが唱えたのは 金本位制度をやめて金融緩和して利子率を下げて、設備投資を増やすこと。 政府支出を拡大して、政府が直接総需要を増やすこと。 総需要拡大政策 「大きな政府」
これと混同してはならないのが 供給能力を高めるための政策。 小泉「構造改革」、アベノミクス「第三の矢」など、いわゆる「新自由主義」政策。 「小さな政府」志向。 規制緩和、法人税減税などで労働生産性を高める。 輸入自由化によって、財の入手に必要な労働を少なくする(経済全体で見て、労働生産性上昇と同じ効果)。
首尾よく彼らの狙い通りいけば × X社 生産性が高い企業の新規参入 F社 NF 生産性の高い既存企業の規模拡大 A社 既存企業の生産性up B社 C社 生産性の低い企業の淘汰 D社 E社 NX NA NB NC ND NE
曲線で近似すれば N D N D w 労働需要曲線が 上シフト(移動)する p N
生産関数も上シフトする Y N
Y Y Y = F( ) N C + I I c I C Y Y N N D * w p N S N 財市場 もし需要が拡大するならば 供給需要 生産関数 Y Y Y = F( ) N C + I Y* I c I 45° C N* Y Y N N D * w p N S 失業 (w/p)* 労働市場 N
しかし! I Y = F( ) N Y C + Y I c I C Y Y Y N D N * * w p N S N 財市場 もし需要が拡大するならば 供給需要 生産関数 I Y = F( ) N Y C + Y Y* Y* I c I 45° C N* N* Y Y Y N D N * * w p N S 実質賃金率が下がらずに 失業が減ることもあり得る。 (w/p)* 労働市場 しかし! N
Y Y Y = F( ) N C + I c I C Y Y N N D * w p N S N 財市場 もし需要が変らないならば 供給需要 生産関数 Y Y Y = F( ) N C + I Y* c I 45° C N* Y Y N N D * w p N S 失業 (w/p)* 労働市場 N
Y = F( ) N Y Y C + I c I C Y Y N * w p N S N D N 財市場 もし需要が変らないならば 供給需要 生産関数 Y = F( ) N Y Y C + I Y* c I 45° C N* N* Y Y N 雇用は減り、失業が増え、実質賃金率が上昇する。失業が多くて貨幣賃金率が上昇しないならば、物価が下がるということ。→デフレ (非正規化で労働時間が短くなるなら一人当たりの実質賃金が増えるわけではない。) * w p N S 失業 (w/p)* (w/p)* 労働市場 N D N
小泉「構造改革」の場合 2001年ジェノバサミットでの小泉首相記者会見発言 「景気が回復したら、改革する意欲がなくなってしまう。……ある程度の低成長は覚悟して、『改革なくして成長なし』という方針通り選挙後もやっていこうと思っている。」 http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Junichiro_Koizumi_%28cropped%29_during_arrival_ceremony_on_South_Lawn_of_White_House.jpg 米国政府によるパブリックドメイン
その結果・・・ 大失業・デフレ時代の到来 2002年 完全失業率5.4% 完全失業者数359万人 実質GDPは減っていない 雇用は大幅減 内閣府データにより松尾が作成