造血幹細胞移植 福井大学輸血部 浦崎芳正.

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造血幹細胞移植 福井大学輸血部 浦崎芳正

移植における基本用語 移植片: 移植するもの(造血幹細胞・腎臓など) 患者と提供者の関係 移植の種類 ドナー: 移植片を提供する方 レシピエント: 移植を受ける人(患者) 移植の種類 同種移植: 同一種から同一種 同系移植: 遺伝子が完全に一致したもの 自己移植: 自分から自分

造血幹細胞移植の目的 白血病に対する化学療法の限界 化学療法剤は正常細胞と悪性細胞を区別できない 抗腫瘍剤に対して感受性が高いのは造血幹細胞 毒性 化学療法剤 骨髄 消化管 抗腫瘍剤 抗腫瘍効果 白血病 ナディア 寛解 化学療法剤は正常細胞と悪性細胞を区別できない 抗腫瘍剤に対して感受性が高いのは造血幹細胞 自己造血を完全に破壊する量の化学療法剤は投与できない

造血幹細胞移植による造血支持 自己造血(白血病)を完全に破壊する治療 造血を支持するために造血幹細胞を移植 放射線 自己 化学療法剤 同種

造血幹細胞移植の目的(まとめ) 骨髄毒性を無視した大量治療薬による抗腫瘍効果 白血病や他の悪性疾患に対する免疫療法 骨髄破壊的な治療で生じる血液毒性の回避 骨髄以外の毒性(肝臓や肺)は回避しない 白血病や他の悪性疾患に対する免疫療法 大量化学療法+同種免疫療法

造血幹細胞種類と特徴 骨髄 末梢血 臍帯血 ドナーの負担 全身麻酔 G-CSF投与 体外循環 ほとんどない 自己血貯血 要 不要 採取 確実 ほぼ確実 患者<30kg 造血回復 標準 早い 遅い 拒絶 少ない 多い *GVHD 慢性は多い? **HLA適合度 厳密 あまい *GVHD: graft vs host disease, **HLA: human leukocyte antigen

成人造血幹細胞移植の適格条件 同種移植では適切なドナーの存在が前提 自己移植 同種移植 RIST 70歳未満 同種移植よりは全身状態は良くなくても可能 同種移植 55歳未満 全身臓器の保たれている患者 RIST どの程度の合併症や年齢まで許容できるか臨床研究が進行中

自己造血幹細胞移植の適応(成人) 同種造血幹細胞移植の適応(成人) 大量抗がん剤で治癒・予後改善が見込める 再発したHodgkinリンパ腫 High risk non-Hodgkinリンパ腫 多発性骨髄腫 同種造血幹細胞移植の適応(成人) 大量抗がん剤だけでは治癒が見込めない 急性非リンパ性白血病第二寛解期 急性リンパ性白血病(フィラデルフィア陽性) 慢性骨髄性白血病 骨髄異形成症群

造血幹細胞移植 前処置 合併症に対する支持療法 骨髄における造血 日数 レシピエント ドナー 造血幹細胞移植 (day 0)

前処置(コンディショニング)の役割 前処置は免疫抑制と抗腫瘍効果の2つを担う レシピエントの免疫抑制 抗腫瘍効果 ドナー細胞を生着させる準備として必須 抗腫瘍効果 ドナー細胞の生着には必ずしも必須ではない 治療効果を強力にしたければ骨髄破壊的にする

造血幹細胞における免疫療法の役割 急性白血病患者において 自己移植では大量の治療薬により治療成績を向上させた Zittoun et al, NEJM 1995; 332: 217-223 同種移植 自己移植 化学療法 急性白血病患者において 自己移植では大量の治療薬により治療成績を向上させた 同種移植では大量の治療薬に加え、同種免疫力が治療成績をさらに向上させた

ドナーの条件 健康であること Human leukocyte antigen (HLA)の一致 HLA-A, B, DRを適合 採取処置による健康被害防ぐ Human leukocyte antigen (HLA)の一致 HLA-A, B, DRを適合 自己 (100%) 同系 (100%) 同胞 (25%) 非血縁

骨髄採取の実際 全身麻酔 後腸骨棘付近 骨髄液を患者体重あたり15 ml/kg 自己血貯血が必要(600 ml以上採取する場合) 麻酔科医師

造血幹細胞移植の手技 造血幹細胞 移植片として造血幹細胞を多く含む血液を輸血する 容積が少なければ凍結保存可能

G-CSFによる末梢血幹細胞の動員 末梢血幹細胞採取 (/mm3) **G-CSF皮下投与 *CD34+細胞数 投与前 2 3 4 5 6 100,000 80,000 60,000 40,000 20,000 (/mm3) **G-CSF皮下投与 *CD34+細胞数 末梢血中のCD34+細胞数の推移  グラン投与開始4、5及び6日目のいずれの時点においても末梢血中のCD34+細胞数は、投与量群間に有意差は認められなかったものの、その中央値は400μg/㎡投与量群で最も高く推移しました。 ◎ポイント・注意点  用量を400μg/㎡と決定した上で重要なデータのひとつです。  検定方法である「Kruskal-Wallis検定」は、投与群間のばらつきをみる検定方法です。    400μg/㎡投与量群と他の投与群の差を検定する方法ではありません。    ご注意下さい。    この試験のPBSC採取タイミングは第Ⅰ相試験の結果より、「グラン投与4~6日目」としています。   このグラフでも同様に、CD34+細胞数のピークが4~6日目にあることからも、このプロトコールは   適切であったことがわかります。 投与前 2 3 4 5 6 14 (日目) *CD34陽性細胞: 造血幹細胞, **G-CSF: granulocyte-coloy stimulating factor

末梢血幹細胞採取の実際 50-60 ml/minで体外循環し150 ml/Kgの血液を処理する 末梢血幹細胞の容量は100 ml前後

臍帯血採取の実際 妊婦の同意を得る 検査を行う 感染症 先天性代謝疾患 胎児の娩出後臍帯血を凍結保存

造血幹細胞移植の合併症 Regimen-related toxcity (RRT) コンプロマイズドホストに対する感染症 抗腫瘍剤と放射線 Veno-occlusive disease コンプロマイズドホストに対する感染症 好中球減少+細胞性免疫抑制状態 移植片対宿主病 (Graft vs host disease) 移植したリンパ球がホストを障害する 生着不全・拒絶 有害事象による同種移植のnon-relapse motality≒30%

移植片対宿主病 (GVHD) 急性移植片対宿主病 慢性移植片対宿主病 移植片対白血病効果の裏返し 移植患者のADLの鍵を握る 移植したリンパ球 好発は肝臓、皮膚、消化管 慢性移植片対宿主病 造血幹細胞から分化したリンパ球 SSc、SjSなどの自己免疫様病態 免疫不全 移植片対白血病効果の裏返し 移植患者のADLの鍵を握る

急性移植片対宿主病 (acute GVHD)

同種造血幹細胞移植後の感染症

成人造血幹細胞移植のドナー 血縁をまず考慮 血縁ドナーの無い場合 それでもドナーが無いときは臍帯血も考慮する 末梢血か骨髄かはそれぞれ ドナーの安全性に十分配慮 血縁ドナーの無い場合 骨髄バンクを検索 骨髄バンクでは骨髄のみ可能 末梢血幹細胞採取は認められていない それでもドナーが無いときは臍帯血も考慮する

骨髄バンク 血縁ドナーの無い場合 骨髄バンクを検索 骨髄バンクでは骨髄のみ可能 骨髄移植推進財団:平成3年12月18日に設立 Japan Marrow Donor Program(JMPD) ドナー登録者数は約20万人(平成16年12月現在) 骨髄バンクを介した骨髄移植例数は6000例

骨髄バンク移植 (ドナーの立場でJMPD HPより) 1.あなたの白血球の型(HLA 型)が、患者さんと適合した場合は、ドナー候補者の1人として選ばれたことを骨髄バンクからご連絡します。 2.骨髄バンクから送られる質問票にお答えください。その後コーディネーターとの面談があり、骨髄提供に関する詳しい説明があります。 3.骨髄移植を成功させるために、さらに詳しい血液検査と健康チェックを行います。DNAタイピングという方法で精密な適合度を確認します(確認検査)。 4.ご家族の同意を含めた最終的なご本人の意思が確認されます(最終同意)。 5.安全な採取に備えて健康診断が行われます(術前健診)。 6.骨髄液の採取に伴う貧血を防止するために、事前にドナーご本人の自己血を採取し、骨髄採取時の輸血用に保存しておきます。 7.骨髄提供には入院が必要です。骨髄採取の前日か前々日に入院していただきます。通常4~5日で退院できます。 8.骨髄採取は全身麻酔下で行われます。骨髄液は腰骨から通常500~1000ml採取します。 9.採取後は、通常2~3日で退院できます

骨髄バンクの問題点 ドナーの不足。目標30万人。米国、台湾、韓国バンクも可能。 ドナーの負担。有害事象の存在。安全性委員会による健康フォローアップ 移植までの期間。コーディネートー迅速コースによる100日以内移植をめざす。 新感染症など。クロイツフェルトヤコブ病、ウエストナイル熱、インフルエンザやSIRSの流行

臍帯血バンク 臍帯血バンクの問題点 血縁ドナーも骨髄バンクも困難な場合など 日本さい帯血バンクネットワーク:1999年8月発足     それぞれ独立した11個の地域バンクの集合体 コーディネートの必要がなく、移植までの期間が短い 臍帯血バンクを介した累計移植実施症例数 2146例 臍帯血バンクの問題点 細胞数の不足       複数臍帯血同時移植スタート 生着までの期間が長い DLIができない