天然物薬品学 天然物質の取扱い
天然物の単離 天然材料・・・植物,微生物,海洋生物 抽出・・・溶媒抽出,樹脂吸着,イオン交換 精製・・・クロマトグラフィー,結晶化 構造決定・・・NMR,MS,X線
天然成分の抽出
溶媒抽出 有機化合物が親和性の高い溶媒に溶解するという性質を利用し,試料に溶媒を添加し,目的成分が溶解した溶液を分離する方法 培養液 水不混和性有機溶媒により抽出 使用する有機溶媒と水との分配係数にしたがって分配 クロロホルム,酢酸エチル,ジエチルエーテル,ブタノールなど 生体・・・多量の水を含む 水混和性溶媒または水により抽出 アセトン,エタノール,メタノール,水(熱水),アルカリ水など 生体乾燥物 目的成分を溶解する溶媒により抽出 あらゆる種類の溶媒が使用可能
吸着と溶離(溶出) 水溶液中の有機化合物・・・疎水性相互作用 ポリスチレン系樹脂(HP-20など)・・・再使用可能 吸着力弱,芳香族化合物を吸着しやすい 溶出溶媒・・・メタノール水,メタノール,アセトン水,アルカリーアセトン オクタデシルシリカ(ODS)・・・再使用可能 吸着力弱 溶出溶媒・・・メタノール水,メタノール 活性炭 吸着力強,芳香族化合物を吸着しやすい 溶出溶媒・・・アセトン水,アルカリーアセトン 非極性有機溶媒中の化合物・・・親水性相互作用 シリカゲル,(アルミナ) ヘキサン,クロロホルム,酢酸エチル,アセトン,メタノール(混合溶媒)
イオン交換 強酸性陽イオン交換樹脂・・・塩基性物質,両性物質 交換基:スルホン酸(Dowex 50など)・・・酸により活性化(H+型) 溶出液・・・アンモニア水 弱酸性陽イオン交換樹脂・・・強塩基性物質 交換基:カルボン酸・・・解離平衡があるのでNa+型でも使用可 溶出液・・・アンモニア水,塩酸水 強塩基性陰イオン交換樹脂・・・酸性物質,両性物質 交換基:4級アンモニウム(Dowex 1など)・・・塩基により活性化(OH-型) 溶出液・・・塩酸水 弱塩基性陰イオン交換樹脂・・・強酸性物質 交換基:3級アミン・・・解離平衡があるのでCl-型でも使用可 溶出液・・・塩酸水,アンモニア水
天然物の精製
分配 不混和性の2種の溶媒中では,溶質は上層と下層に分配される。 十分に低濃度の領域では,両溶媒層における溶質の濃度比は一定温度において一定である(分配律) 分配係数 P = 有機溶媒層の溶質濃度 / 水層の溶質濃度 天然抽出物 酢酸エチル-水で分配 酢酸エチル層 ブタノール-水で分配 水層 ヘキサン / 90%メタノール 水 / クロロホルム・メタノール(10:1) 水層 ブタノール層
分配クロマトグラフィー 吸着剤に固定相(水など)を吸着させ,これと展開溶媒との間の分配を連続的に行わせることにより,溶質を分離するクロマトグラフィー 順相系 固定相保持担体(吸着剤):シリカゲル,セルロース,デキストラン 展開溶媒: ブタノール/酢酸/水 ブタノール/メタノール/水 ブタノール/メタノール/緩衝液 酢酸エチル/水 逆相系 固定相保持担体(吸着剤):ODS,ポリスチレン系樹脂 展開溶媒: アセトニトリル or メタノール/水 アセトニトリル or メタノール/トリフルオロ酢酸/水 アセトニトリル or メタノール/緩衝液 ・吸着クロマトグラフィーと比較して,多量の試料処理は困難である
遠心分配クロマトグラフィー(CPC) 遠心機ローターのセル中に固定相(上層または下層)を遠心力によって保持し,移動相(下層または上層)を液滴としてセル内を通過させることににより分配を行うクロマトグラフィー 遠心力 液滴 (上層)
遠心分配クロマトグラフィー(CPC) 遠心機ローターのセル中に固定相(上層または下層)を遠心力によって保持し,移動相(下層または上層)を液滴としてセル内を通過させることににより分配を行うクロマトグラフィー 遠心力 液滴 (下層)
吸着クロマトグラフィー 吸着剤と展開溶媒との間の吸着・溶離平衡を利用し,化合物を分離するクロマトグラフィー 吸着剤と展開溶媒との間の吸着・溶離平衡を利用し,化合物を分離するクロマトグラフィー 極性吸着剤・・・シリカゲル,(アルミナ) 展開溶媒: ヘキサン/酢酸エチル クロロホルム/メタノール 非極性吸着剤・・・活性炭 展開溶媒: アセトン/水 アセトン/アンモニア水 アセトン/緩衝液 ・分配クロマトグラフィーとの明確な区別は困難であることが多い ・非可逆的吸着による分離障害がおこりうる
薄層クロマトグラフィー(TLC) 毛細管現象により浸透・上昇する溶媒を利用し,分配または吸着・溶離平衡により試料を分離するクロマトグラフィー 毛細管現象により浸透・上昇する溶媒を利用し,分配または吸着・溶離平衡により試料を分離するクロマトグラフィー 順相系・・・シリカゲル,(アルミナ) 展開溶媒: ヘキサン/酢酸エチル クロロホルム/メタノール ブタノール/酢酸/水 逆相系・・・ODS 展開溶媒: メタノール/水 メタノール/トリフルオロ酢酸/水 メタノール/緩衝液 ・カラムクロマトグラフィーより分離が優れている ・精製に用いる場合は担体をかきとり,目的物を抽出する ・カラムクロマトグラフィーと比較して,多量の試料処理は困難である
高速液体クロマトグラフィー(HPLC) 高密度の担体を充填した金属カラムを用い,高圧で展開溶媒を流すことにより,高い分離能を実現したクロマトグラフィー クロマトグラフィーの障害・・・担体間の空隙における試料の拡散 細粒化した球状の担体を高密度で充填 空隙体積の減少 → 試料拡散の減少,流速の減少 逆相系・・・ODS 展開溶媒: アセトニトリル or メタノール/水 アセトニトリル or メタノール/トリフルオロ酢酸/水 アセトニトリル or メタノール/緩衝液 順相系・・・シリカゲル 展開溶媒: ヘキサン/2-プロパノール ・ODSカラムは繰り返し使用可能である ・シリカゲルカラムは劣化しやすい
天然物精製における化合物の検出 非破壊的な方法で検出する必要がある カラムクロマトグラフィー(フラクションコレクター利用) 非破壊的な方法で検出する必要がある カラムクロマトグラフィー(フラクションコレクター利用) UV(254 nm)・・・UV吸収のない化合物は検出できない 一部とって,発色法で検出(TLC上の硫酸発色など) TLC 疎水性化合物は水発色 細長い短冊状に切り取り,発色剤により発色 HPLC・・・検出装置を連結 UV(220 nm)・・・アミド結合のUV吸収を検出できる UV(195 nm)・・・ほぼすべての有機化合物を検出できる 示差屈折計(RI)・・・ほぼすべての有機化合物を検出できる,やや低感度 使用溶媒限定
ツルアリインゲン完熟種子粉砕物(100 kg) メタノール抽出,濃縮 酢酸エチル抽出(pH 7) 酢酸エチル層 水層 酢酸エチル抽出(pH 2.5) 酢酸エチル層 水層 シリカゲルクロマトグラフィー ベンゼン/酢酸エチル(60:40~55:45) 活性炭クロマトグラフィー アセトン/水(1:1) Sephadex G-50分配クロマトグラフィー 1 M リン酸緩衝液(pH 5.4) ベンゼン/ブタノール(95:5~93:7) シリカゲルTLC クロロホルム/酢酸エチル/酢酸(8:20:1) ジベレリンA1(10 mg)
Streptomyces ribosidicus培養濾液 pH 7に調整 弱酸性陽イオン交換樹脂(NH4+型) 0.5 M アンモニア水 濃縮,pH 7に調整 0.2 M アンモニア水 濃縮 強塩基性陰イオン交換樹脂(OH-型) 水 凍結乾燥 メタノールから再結晶 リボスタマイシン結晶
Coleophoma empetri培養物(20 L) アセトン添加,濾過,濃縮 酢酸エチル抽出 酢酸エチル層 水層 ブタノール抽出 ブタノール層 水層 シリカゲルクロマトグラフィー ジクロロメタン/メタノール(3:1~1:1) ODS逆相クロマトグラフィー 50%メタノール洗浄 80%メタノール溶出 遠心分配クロマトグラフィー ブタノール/メタノール/水(4:1:5) ブタノール/酢酸/水(6:1:1) WF11899A(11 mg)
天然物の構造決定
機器分析による構造決定 1805年 モルヒネの発見 1925年 モルヒネの構造決定 120年 1928年 ペニシリンの発見 1805年 モルヒネの発見 1925年 モルヒネの構造決定 1928年 ペニシリンの発見 1945年 ペニシリンの構造決定 120年 17年 機器分析による構造決定 NMR (nuclear magnetic resonance) 原子核(特に水素と炭素)の近傍の構造,原子のつながり方 MS (mass spectrometry) 分子およびフラグメントイオンの質量(分子量) IR (infrared) 官能基の確認 UV (ultraviolet) 二重結合の共役状態,化合物の同定 X線 (X-ray) 結晶解析 立体構造決定