集団における適応 知識構造論講座 下嶋研究室 M1 関本 和弘
前回のおさらい ~集団を媒介とする適応~ 「三人寄れば文殊の知恵」という言葉に期待されるような創発性は、なかなか生じない。 グループにおける意思決定は非効率であるが、重大なエラーを事前に防ぐ働きがある。
適応とはなにか? 進化生物学的適応の概念に基づいて説明すると、「ある社会的行動が社会的環境において個人(血縁者)の生存という最終目標にどのような意味で有利になるか」と言うことである。 人の適応環境は、(人同士が協力したり争ったりする)相互依存関係にある。そこで、人の適応的行動が他者にとっての社会的環境を作り出し、それがその人の行動に再び影響するという個人(マイクロ)と社会・集団(マクロ)の相互規定関係がある。
-The Prisoner‘s Dilemma- 囚人のジレンマ -The Prisoner‘s Dilemma- 銀行強盗を働いた犯人(A)と犯人(B)はついに 逮捕され、刑務所に拘留されてしまった。 二人は互いに話をしたり、 メッセージを交換したりする ことが絶対にできない状態で、独房に入れられている。 警察は、二人を重罪で有罪にするだけの十分な証拠は持っていない。 そこで自白させるために次のような取引を持ちかける。。。
取引の内容 二人とも<協調しようと>黙秘し合ったら +3 +3 二人とも<裏切って>告白したら +1 +1 +3 +3 二人とも3年減刑。 二人とも<裏切って>告白したら +1 +1 二人とも1年の減刑。 Aが<協調しようと>黙秘し、Bが<裏切って>告白したら Aは減刑ナシ、Bは無罪放免 +0 +5 Aが<裏切って>告白し、Bが<協調しようと>黙秘したら Aは無罪放免、Bは減刑ナシ +5 +0
つまりこういうこと A\B 協調 裏切り 協調 [cooperation] 3年減刑 3点 減刑ナシ 0点 裏切り [defect] > > > > A\B 協調 裏切り 協調 [cooperation] 3年減刑 3点 減刑ナシ 0点 裏切り [defect] 無罪放免 5点 1年減刑 1点
思惑その1・・・ Aが協調するなら Bが裏切るなら 協調 → Aは3年減刑(3点獲得) 裏切り → Aは無罪放免(5点獲得) A\B 協調 裏切り 3年減刑 3点 減刑ナシ 0点 無罪放免 5点 1年減刑 1点 思惑その1・・・ > > > > Aが協調するなら 協調 → Aは3年減刑(3点獲得) 裏切り → Aは無罪放免(5点獲得) Bが裏切るなら 協調 → Aは減刑ナシ(0点獲得) 裏切り → Aは1年減刑(1点獲得) better better どちらにしても裏切った方が得(?)
思惑その2・・・ しかし、 Bも同じような状況なので <裏切り>を選択する可能性が高いということ。 A\B 協調 裏切り 3年減刑 3点 減刑ナシ 0点 無罪放免 5点 1年減刑 1点 思惑その2・・・ > > > > > > > > しかし、 Bも同じような状況なので <裏切り>を選択する可能性が高いということ。 共に裏切れば、共に1年減刑(1点獲得)。 共に協調していたら、共に3年減刑(3点獲得)。 better 安易に裏切るよりも協調すべき(?)
そしてジレンマ・・・ どちらにしても裏切った方が得(?) 安易に裏切るよりも協調すべき(?) × ○ 1点or5点 共に裏切って A\B 協調 裏切り 3年減刑 3点 減刑ナシ 0点 無罪放免 5点 1年減刑 1点 そしてジレンマ・・・ > > > > 根本的に: × ○ どちらにしても裏切った方が得(?) 1点or5点 共に裏切って 1点の可能性大 裏切られて 0点のリスク しかし: × ○ 安易に裏切るよりも協調すべき(?) 0点or3点
人はなぜ協力するのか? 仮に私がAだとする。このとき相手の容疑者Bが協調しようと裏切ろうと、私は裏切るほうが常に得になる。 たとえば、相手が協調する場合、私が裏切れば無罪、協調すれば3年刑が減るだけになる。 一方、相手が裏切る場合、私も裏切れば1年刑が減るが、協調すれば最悪減刑なしになる。 どちらの場合でも協力行為(協調)をとることは得にならない。
社会的ジレンマ 個人にとって利益と3者以上からなる集団全体 との利益が対立する事態 「自分ひとりくらいはいいだろう」と思って行動することが 結局は集団全体の首を絞める結果につながる社会的状況
社会的ジレンマ -定義- ①.各個人は、その状況で協力か非協力か選ぶことができる。 ②.1人1人にとっては協力よりも非協力を選ぶほうが有利な結果が得られる。 ③.しかし全員が自分にとって有利な非協力を選んだ場合の結果は、全員が協力を選んだ場合の結果より悪い。
社会的ジレンマの例 環境汚染 税金 違法駐車 割り込み乗車 など
まとめ 固定した集団で生きていく上でもっとも適応的な行為は、他の人間と安定した交換関係を築いていくことであり、そのためには利益が相反しても協力的に振舞うことが必要である。
結論 個人の利益追求とグループ全体の利益とが一致しないこと から生じるのが社会的ジレンマである。 このようなジレンマに直面したとき、しばしば人々は、ばらばら に行動するのをやめ、グループ全体としての統一施策を集合 的に作り出そうとする。こうした行為は、メンバーがグループと しての共通運命に積極的に関与していく、「集団を媒介とする 適応行動」にほかならない。