量的金融緩和政策・出口戦略と為替相場 MBA国際金融2016.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
マクロ金融論 ポートフォリオ・アプローチ. マクロ金融論 ポートフォリオ・アプローチの 特徴 内外資産が不完全代替( ← 為替リス ク) 分散投資(ポートフォリオ)によって リスクを軽減可能。 経常収支黒字累積 → 外国資産流入 → 国 際ポートフォリオ → 為替相場.
Advertisements

経常収支とは?  一国の国際収支を評価する基準の一つ。  この 4 つのうち、 1 つが赤字であっても他で賄え ていれば経常収支は黒字となる。 貿易収支 モノの輸出入の 差 所得収支 海外投資の収益 サービス収支 サービス取引額 経常移転収支 対価を伴わない 他国への援助額 これらを合わせたものが経常収支.
『マクロ金融特論』 ( 2 ) 一橋大学大学院商学研究科 小川英治 マクロ金融特論
US Corporate Sector 九州大学ビジネススクール 村藤 功 2014 年 10 月 27 日.
QE 出口戦略 利上げ先行型. 前提 主張 1 超過準備対策として利上げは有効である 主張 主張 1 超過準備対策として利上げは有効である 主張 2 保有資産の売却は経済に悪影響を与える 主張 3 利上げは経済の安定に寄与する 以上三点により、 QE 出口戦略利上げ先行 型を主張します.
YEN 蔵が読む! 為替相場の行方~最新の動向 株式会社ADVANCE 田代 岳 2015 年 3 月 16 日.
MBA 国際金融 外国為替市場の効率性. 2 効率的市場仮説 効率的市場( efficient market )とは? 為替相場が、為替相場に関連するすべての 利用可能な情報に即座に完全に反応。
第 6 章 金融政策と金融規制・ 金融監視政策の関係 07 BA 035 W 板津昌宏. 多くの中央銀行の金融政策の目的は 中央銀行はどの様な金融政策を行うべきか? 物価の安定を通じた経済の安定物価と雇用の安定 資産価格の安定を目的に掲げる国はな い.
第5章 活性化する国際分散投資 と 日本経済の影響. ネットとグロスの違い 資本移動の場合 日本 外国 100 億円 50 億円 ネットの資本移動 100-50=50億 円の黒字 グロスの資本移動 100+50= 150 億 円.
世界金融危機と国際通貨体制 マクロ金融論2010.
第1章 金融の基本的要素 Q.4~Q /5/6 棚倉 彩香.
世界ソブリンバブル衝撃のシナリオ 第8章国債バブル崩壊のシナリオ
第5章 どのように 国際的に 資金が 流れるのか 加藤 栞.
21世紀のアメリカ経済 藤女子大学人間生活学部 内田 博
①共通通貨とは ②ユーロ実現まで ③アジア通貨危機 ④ ASEAN+3の現状と展望
労働市場マクロ班.
1. Departamento de Consultoria e Assessoria
購買力平価 MBA国際金融2015.
為替相場制度の理論と実証 MBA国際金融2015.
第3章 実態経済に大きな影響を及ぼす金融面の動向
グローバル・インバランスと世界金融危機の中の国際通貨問題
通貨統合 第5回 国際金融論.
5: オープン・エコノミーのマクロ経済学 オープン・エコノミーのIS/LMモデル
購買力平価 一橋大学商学部 小川英治 マクロ金融論2016.
3 外国為替市場と  外国為替相場 1 外国為替相場 2 為替取引と為替相場 3 為替相場の決定理論.
国際収支と為替相場 一橋大学商学部 小川英治 マクロ金融論2016.
量的質的金融緩和は 日本にとってプラスか? 否定派.
ECの成立へ マーストリヒト条約の成立 通貨統合
第2章 バブル崩壊後における経済の長期停滞の原因をどうみるか
2章 外国為替市場と 外国為替相場 1 外国為替市場 2 為替取引と為替相場 3 為替相場の決定理論
国際収支と為替相場の基礎的概念 MBA国際金融2015.
『手に取るように金融がわかる本』 p.202~p.223 part1~5
JAFEE2004 冬季大会 金融商品特別セッション 為替オーバーレイ取引 12月24日 13:10-14:10 住商キャピタルマネジメント
世界金融危機と国際通貨体制 一橋大学商学部 小川英治 マクロ金融論2016.
第7章 どのように為替レートを 安定化させるのか
固定為替相場制度 vs. 変動為替相場制度 マクロ金融論2010.
『マクロ金融特論』 (4) 一橋大学大学院商学研究科 小川英治 マクロ金融特論2016.
有斐閣アルマ 国際経済学 第1章 国際貿易の概観           ー自由化への歩みと現状ー 阿部顕三・遠藤正寛.
Yushi Yoshida Faculty of Economics Kyushu Sangyo University
国際経済学入門 11 丹野忠晋 跡見学園女子大学マネジメント学部 2014年1月23日
手に取るように金融がわかる本 PART6 6-11 09bd139N 小川雄大.
国際経済学入門 10 丹野忠晋 跡見学園女子大学マネジメント学部 2013年12月23日
第8章 開放マクロ経済学.
VARモデルによる分析 高橋青天ゼミ 製作者 福原 充 増田 佑太郎 鈴木 茜
マクロ経済学 II 第5章 久松佳彰.
『マクロ金融特論』 (3) 一橋大学大学院商学研究科 小川英治 マクロ金融特論2016.
金利平価 MBA国際金融2016.
硬直価格マネタリー・アプローチ MBA国際金融2016.
為替介入 MBA国際金融2016.
ニュースの理論 MBA国際金融2016.
伸縮価格マネタリー・アプローチ MBA国際金融2016.
通貨統合と最適通貨圏 一橋大学商学部 小川英治 マクロ金融論2016.
東アジア域内物流の準国内化 逆転 逆転 2000年~2007年の相手国別貿易額の推移 2007年の貿易額内訳 中国 32.6兆円
マクロ経済学初級I 第4回.
中国の資金循環モデルによる 財政・金融政策の考察
最近の中国と通貨に関する動向 08ba231c 松江沙織.
サブプライムローン 04F1817 清水円 H19.9.27.
世界金融危機とアジアの通貨・金融協力 日本国際経済学会関東支部研究会2010年1月9日.
国際金融・為替リスク管理 一橋大学大学院経営管理研究科 小川英治 2018/11/16 一橋大学財務リーダーシップ・プログラム.
国民経済計算研究会 2005年12月3日 東アジアにおける国際資金循環の構図 張 南 広島修道大学経済科学部.
V. 開放経済のマクロ経済学.
VI 短期の経済変動.
V. 開放経済のマクロ経済学.
元高の原因を追求    九州産業大学 金崎ゼミ 張 雷 徐 雲飛 .
2019/4/22 Warm-up ※Warm-up 1~3には、小学校外国語活動「アルファベットを探そう」(H26年度、神埼小学校におけるSTの授業実践)で、5年生が撮影した写真を使用しています(授業者より使用許諾済)。
有斐閣アルマ 国際経済学 第9章 国際要素移動 阿部顕三・遠藤正寛.
岩本 康志 2013年5月25日 日本金融学会 中央銀行パネル
2009年7月 為替相場講演会資料 株式会社三菱東京UFJ銀行/東アジア金融市場部
東アジア文化論(11/20) 『成長するアジアと日本の位置づけ』.
丹野忠晋 跡見学園女子大学マネジメント学部 2007年1月18日
Presentation transcript:

量的金融緩和政策・出口戦略と為替相場 MBA国際金融2016

FRBの量的金融緩和政策 2008年12月16日にFF金利の目標値を0%~0.25%に設定。 2008年10月以降、第1次量的金融緩和政策(QE1)を採用。3000億ドルの国債と1.25兆ドルの住宅抵当担保証券(MBS)と1750億ドルのその他証券を購入することによって、マネタリーベースを2008年9月の3000億ドルから2010年3月には2.1兆ドルに急増。 2010年11月から2011年6月にかけて第2次量的金融緩和政策(QE2)を採用。6000億ドルの長期国債を毎月750億ドル、購入するものであった。それによって、マネタリーベースは2011年6月には2.64兆ドルに達した。 2012年9月より第3次量的金融緩和政策(QE3)を採用。2012年12月まで毎月400億ドルのMBSと450億ドルの長期国債(合計850億ドル)を購入し続け、マネタリーベースを増加。2014年10月終了。 MBA国際金融2016

図1a:日米欧の政策金利 Data: Datastream MBA国際金融2016

図1b:米国マネタリーベース Data: Datastream MBA国際金融2016

FRBの出口戦略 FRBは量的金融緩和政策の出口戦略に向けて量的金融緩和を減速。 MBSの毎月の購入額を400億ドル⇒350億ドル(2014年1月)⇒300億ドル(2014年2月)⇒250億ドル(2014年4月)⇒200億ドル(2014年5月)、長期国債の毎月の購入額を450億ドル⇒400億ドル(2014年1月)⇒350億ドル(2014年2月)⇒300億ドル(2014年4月)⇒250億ドル(2014年5月) ⇒ ⇒0億ドル(2014年10月)。 2014年10月にFRBは量的金融緩和政策を終了。出口戦略を遂行。 MBA国際金融2016

米国の長中期金利 MBA国際金融2016 Data: Datastream

米国のCPIインフレ率 Data: Bureau of Labor Statistics MBA国際金融2016

米国の失業率 Data: Bureau of Labor Statistics MBA国際金融2016

FRBの金利引上げ 2014年3月19日のFOMCのステートメントでは、「資産購入プログラムが終わってから相当の期間はFF金利を現在の目標幅に維持することが適切であろう」と叙述されていたところ、Yellen FRB議長がFOMC後の記者会見で「相当の期間」は6か月程度であると発言。すなわち、量的金融緩和政策は終了した後、6か月ほどでFF金利を上げ始めることが示唆された。 これは、まさしく量的金融緩和政策の出口戦略から金利引上げ政策への転換を意味する。そのため、市場参加者は、2015年春には米国の金利が引き上げられ始めると予測。 その後、FRBは雇用統計による労働市場の状況を注視し、金利引上げ決定が見送られてきたが、2015年12月16日に金利引上げ( FF金利の目標値: 0%~0.25%⇒0.25%~0.5%)を実施。 MBA国際金融2016

グローバル金融危機のアジアへの影響 グローバル金融危機以前、米欧と日本との間で金利差があったが、危機時、米欧金利急低下、それ以降超低水準(図1a)。 ⇒円キャリートレードが発生。東アジア地域の域内における大きな資本フローにも関係した。 グローバル金融危機によって、キャリートレード(資金)が引き揚げられた。 東アジア域内で複雑なマネーフローによって、東アジア通貨間のミスアライメントが発生。 MBA国際金融2016

円とウォンと元のAMU乖離指標 Data: RIETI (http://www.rieti.go.jp/users/amu/index.html) MBA国際金融2016

日本と韓国の資本流出入 ( asset and liability balance (net position) of international banks ) Yen carry trades between lower interest rate of the Japanese yen and higher interest rates of the Korean won were very active from 2005 to summer in 2007 (Ogawa and Wang (2013)). Figures 3 show asset and liability balance (net position) of international banks for Japan and Korea. The two figures show that Japan had outflows of capital before the global financial crisis occurred and that it had rapid inflows of capital as US and European financial institutions close the carry trades because they damaged their balance sheet during the global financial crisis. On one hand, Korea continued to have capital inflows before the global financial institutions. Afterward, it was hit by sudden capital outflows as the carry trades closed. Assets and liabilities balance (net position) is defined as a balance of outstanding assets and outstanding liabilities. Positive net position represents capital outflows while negative net position represents capital inflows. Data: BIS MBA国際金融2016 Data: BIS

欧米金利が東アジア諸国の金利や為替瀬相場や資本フローに及ぼす影響 米国の金融政策の出口戦略が東アジア諸国の資本フローにどのような影響を及ぼすかを考察するために、米国(およびユーロ圏)の金利が東アジア諸国の金利と為替相場及び資本フローの動きにどのような影響を及ぼしてきたかについて、実証的に分析を行う。 その実証分析の手法としては、これらの経済変数の因果関係を実証的に分析することのできる2変数ベクトル自己回帰モデル(Vector Autoregressive Model, VAR)による推定を行う。 MBA国際金融2016

2変数ベクトル自己回帰モデル 自己回帰モデル 2変数ベクトル自己回帰モデル MBA国際金融2016

分析に用いたデータと分析期間 域外国としては米国とユーロ圏。 分析の対象国:日本、中国、韓国、香港、タイ、シンガポール、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムの10カ国。また、東アジア全体の影響を見るために、これら10カ国の加重平均値。 金利(日次データ):Datastreamから銀行間取引金利(3か月物)。但し、データの制約から、韓国、中国は無担保コールレート(オーバーナイト物)、フィリピンは財務省証券(TBレート・364日物)。 為替相場(日次データ):Datastream。 東アジア諸国通貨の対AMU(CMI)為替相場・AMU(CMI)乖離指標:RIETI 投資収支の内の証券投資とその他投資(四半期データ):IMF, Balance of Payments Statistics 分析期間: 2000年1月1日~2013年12月31日【日次データ】 2000年第1四半期から2013年第3四半期etc.【四半期データ】 MBA国際金融2016

実証分析の仮説(1) 1. 米国金利の変化が当該国の金利にどのような影響を及ぼすか? 仮説1:資本規制・外為管理がなければ、米国の金利が上昇すれば当該国の金利も上昇する。 2. 米国と当該国との金利差の変化が当該国通貨の対ドル為替相場にどのような影響を及ぼすか? 仮説2:資本規制・外為管理がなければ、金利差(米国金利-当該国金利)が上昇すれば当該国通貨の対ドル為替相場は減価する。 MBA国際金融2016

実証分析の仮説(2) 3. 日米金利差の変化が他の東アジア通貨にどのような影響を及ぼすか? 仮説3:日米金利差(米国金利-日本金利)がプラスに拡大すれば、キャリートレードを活発化し、他の東アジア通貨が対円(あるいは対AMU)で増価する。 4.米国と当該国との金利差あるいは予想収益率差の変化が当該国の資本流出入にどのような影響を及ぼすか? 仮説4:米国と当該国との金利差あるいは予想収益率差が米国に有利に変化すれば、当該国から資本が流出する。 MBA国際金融2016

表1:欧米の金利と東アジア諸国の金利との関係 ○:有意に(95%の信頼区間)期待される結果。△:有意ではないが、期待される結果。×:期待される結果ではない。 MBA国際金融2016

米国金利ショック( 1S.D. )に対する累積応答関数 (点線:± 2 S.E.) Interest rate in US ⇗ ⇢ interest rate East Asian country ⇗ Japan Korea Each graph shows estimation results of VAR model with four lags in 10 days. Accumulated Response to Cholesky One S.D. Innovations ± 2 S.E. (Japan) Relationship between interest rate in US (IUSD) and interest rate in Japan (IJPY) From the upper left to the down right, response of interest rate in US to interest rate in US; response of interest rate in US to interest rate in East Asian country; response of interest rate in East Asian country to interest rate in US; response of interest rate in East Asian country to interest rate in East Asian country. Analytical period: January 1, 2000 to December 31, 2013. Hong Kong Singapore MBA国際金融2016

表2:欧米との金利差と東アジア諸国通貨為替相場との関係 MBA国際金融2016

金利差ショック( 1S.D. )に対する累積応答関数 (点線:± 2 S.E.) Interest differentials (US–Asia) ⇗ ⇢ exchange rates (N.C./US$) ⇗ Depreciation of N.C. against US$ Japan Korea Hong Kong Singapore MBA国際金融2016

金利差ショック( 1S.D. )に対する累積応答関数 (点線:± 2 S.E.) Interest differentials ((US+euro)–E.Asia) ⇗ ⇢ US$+euro/AMU ⇘ Depreciation of AMU against US$+euro MBA国際金融2016

表3:日欧米金利差と東アジア諸国通貨為替相場との関係 MBA国際金融2016

日米金利差ショック( 1S.D. )に対する累積応答関数 (点線:± 2 S.E.) Interest differentials (US–Japan) ⇗ ⇢ N.C./AMU ⇘ Appreciation of N.C. against AMU Korea Hong Kong Singapore Thailand MBA国際金融2016

表4:内外金利差・予想収益率格差と資本フローとの関係 MBA国際金融2016

金利差ショック( 1S.D. )に対する累積応答関数 (点線:± 2 S.E.) Interest differential ⇗ ⇢ portfolio investment (Asset–Liability) ⇗ Japan Korea Hong Kong Singapore MBA国際金融2016

金利差ショック( 1S.D. )に対する累積応答関数 (点線:± 2 S.E.) Interest differential ⇗ ⇢ other investment (Asset–Liability) ⇗ Japan Korea Hong Kong Singapore MBA国際金融2016

予想収益率差ショック( 1S.D. )に対する累積応答関数 (点線:± 2 S.E.) Expected return differentials ⇗ ⇢ portfolio investment (Asset–Liability) ⇗ Japan Korea Hong Kong Singapore MBA国際金融2016

予想収益率差ショック( 1S.D. )に対する累積応答関数 (点線:± 2 S.E.) Expected return differentials ⇗ ⇢ other investment (Asset–Liability) ⇗ Japan Korea Hong Kong Singapore MBA国際金融2016

実証分析結果のインプリケーション-出口戦略・金利引上げの影響- FRBの出口戦略・金利引上げによって、東アジア諸国の金利がそれを追随するような形で上昇することが予想される。 東アジア諸国金利の上昇が抑制されたり、後れを取ると、米国に有利な金利差が発生し、東アジア諸国通貨が米ドルに対して減価することが予想される。 FRBの出口戦略・金利引上げによって、内外金利差や予想収益率格差を東アジア諸国に不利となり、東アジア諸国から証券投資やその他投資において資金逆流や資本流出が発生することが予想される。 MBA国際金融2016

FRB利上げに対する金利の反応 MBA国際金融2016 Data: Datastream

FRB利上げに対する韓国・香港金利の反応 MBA国際金融2016 Data: Datastream

FRB利上げに対する中国金利の反応 MBA国際金融2016 Data: Datastream

FRB利上げに対する為替相場の反応(2015.1.1=1) MBA国際金融2016 Data: Datastream