通貨統合と最適通貨圏 一橋大学商学部 小川英治 マクロ金融論2016.

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QE 出口戦略 利上げ先行型. 前提 主張 1 超過準備対策として利上げは有効である 主張 主張 1 超過準備対策として利上げは有効である 主張 2 保有資産の売却は経済に悪影響を与える 主張 3 利上げは経済の安定に寄与する 以上三点により、 QE 出口戦略利上げ先行 型を主張します.
2016/5/6 EU 入門 1 EU における経済統合 一橋大学大学院商学研究科 小川英治. EU 入門 2 EU における経済通貨統合に関 する参考文献 授業資料( 5/6 ・ 5/13 ): u.ac.jp/~ogawa/hit-u/ European Union.
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IV 長期における貨幣と価格.
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通貨統合と最適通貨圏 一橋大学商学部 小川英治 マクロ金融論2016

マクロ金融論2016 単一共通通貨ユーロの導入 1999年1月1日より経済通貨同盟(EMU: Economic and Monetary Union)の第3段階に入る。EU(発足当時11か国、現在、19か国)が金融取引においてユーロを導入。 2002年1月1日よりユーロ紙幣・硬貨が流通。 ユーロ導入国: ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、オランダ、ベルギー、オーストリア、フィンランド、ポルトガル、アイルランド、ルクセンブルグ、ギリシア、スロベニア、 キプロス、マルタ、スロバキア、エストニア、ラトビア、リトアニア 【未参加:イギリス、スウェーデン、デンマーク、新EU7か国[ポーランド、チェコ、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、]は未参加。その内、ERMⅡ国は、デンマーク】

マクロ金融論2016 ユーロとその導入国 2015年1月1日より リトアニア Source: European Central Bank

表1:ユーロ圏と日・米の比較主要データ ユーロ圏 米国 日本 人口* (100万人) 303 278 127 面積 (1,000 km2) マクロ金融論2016 表1:ユーロ圏と日・米の比較主要データ ユーロ圏 米国 日本 人口* (100万人) 303 278 127 面積 (1,000 km2) 2,495   9,373 378 GDP** (10億ユーロ) 6,553 10,709 5,145 世界貿易に占める割合 15.2% 20.3% 8.1% 出典:欧州委員会

マクロ金融論2016 通貨同盟への道のり 1979年に当時のEC加盟国が欧州通貨制度(EMS:European Monetary System)を導入し、為替相場メカニズム(ERM:Exchange Rate Mechanism)を採用。   EMS参加国通貨の加重平均値である欧州通貨単位(ECU:European Currency Unit)が導入。ECUを基準にグリッド方式でEMS参加国通貨間の為替相場を±2.25%(一部の国、時期には6%や15%)の許容変動幅(band)内に安定化。 1990年よりEMUの第1段階 1992年に欧州通貨危機が発生 1994年よりEMUの第2段階 1999年よりEMUの第3段階 2002年よりユーロ紙幣・硬貨が流通

マクロ金融論2016 経済通貨同盟(EMU)の3段階アプローチ 出所:http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/n_eu/k_kankei/pdf/eu_j_0408.pdf#01

欧州中央銀行制度 欧州中央銀行制度(ESCB: European System of Central Banks) マクロ金融論2016 欧州中央銀行制度 欧州中央銀行制度(ESCB: European System of Central Banks)   欧州中央銀行(ECB: European Central Bank)と各国中央銀行(NCB: National Central Bank)によって組織 欧州中央銀行が一元的な金融政策を運営。 欧州中央銀行が金融政策を決定し、各国中央銀行が金融政策を遂行する。 欧州中央銀行の金融政策の目標は物価安定の維持(消費者物価指数を中期的に2%を下回ること)。

図4:ECBと各国中央銀行 欧州中央銀行制度 ECB 理事会 各国中央銀行 各国中央銀行 各国中央銀行 各国中央銀行 【政策決定】 マクロ金融論2016 図4:ECBと各国中央銀行 欧州中央銀行制度 ECB 理事会 【政策決定】 各国中央銀行 各国中央銀行 各国中央銀行 各国中央銀行 【政策運営】

通貨同盟参加のための経済収斂条件(マーストリヒト基準) マクロ金融論2016 通貨同盟参加のための経済収斂条件(マーストリヒト基準) EMUに参加して、ユーロを導入するためには、以下の経済収斂条件(マーストリヒト基準)を満たす必要がある。 物価:過去1年間、消費者物価上昇率が、消費者物価上昇率の最も低い3か国の平均値を+1.5%より多く上回らないこと。 財政: GDPに対して財政赤字が3%以下であり、GDPに対して政府債務が60%以下であること。 為替相場:少なくとも2年間、独自に切下げを行わずに、深刻な緊張状態を与えることなく、欧州通貨制度EMSの為替相場メカニズム(ERM)の許容変動幅内にあること(ERMⅡの許容変動幅は15%) 金利:過去1年間、消費者物価上昇率が最も低い3か国の長期金利の平均値を2%より多く上回らないこと

マクロ金融論2016 表1:ユーロ導入直前(1998年)の経済収斂条件 Data: ECB

マクロ金融論2016 図5a:ユーロ圏諸国のインフレ率 Data: ECB

マクロ金融論2016 図5b:ユーロ圏諸国の長期金利 Data: ECB

マクロ金融論2016 図5c:ユーロ圏諸国の財政赤字 Data: ECB

マクロ金融論2016 図5d:ユーロ圏諸国の政府債務 Data: ECB

未参加国のユーロ導入とERMⅡ ERM(Exchange Rate Mechanism)Ⅱ ・ユーロ導入の1999年1月1日から実施 マクロ金融論2016 未参加国のユーロ導入とERMⅡ ERM(Exchange Rate Mechanism)Ⅱ ・ユーロ導入の1999年1月1日から実施 ・通貨同盟未参加国のユーロ導入の準備段階 ・当該国通貨とユーロの為替相場を一定の変動幅で連動させる。 ・ERMⅡ国:デンマーク

通貨統合の理論:最適通貨圏 最適通貨圏とは、通貨同盟に参加して、共通通貨を利用することが適している地域。 マクロ金融論2016 通貨統合の理論:最適通貨圏 最適通貨圏とは、通貨同盟に参加して、共通通貨を利用することが適している地域。 各国間で非対称的ショックが発生したときに、通貨統合後は、為替相場以外の手段で非対称的ショックによって生じる各国経済間の不均衡を調整する必要がある。

非対称的ショックに対する対応 A国 好況 B国 不況 労働者不足 失業 労働の移動 貿易 財政移転 為替相場による調整 A国通貨増価 マクロ金融論2016 非対称的ショックに対する対応 A国 好況 B国 不況 労働の移動 貿易 財政移転 為替相場による調整 A国通貨増価 B国通貨減価 労働者不足 失業

マクロ金融論2016 最適通貨圏の基準 ショックの対称性 労働の移動性 貿易面における経済の開放度 財政移転

ショックの対称性 非対称的な供給ショック(石油ショック、生産性ショック) 為替相場以外の調整が必要となる。 マクロ金融論2016 ショックの対称性 非対称的な供給ショック(石油ショック、生産性ショック)  為替相場以外の調整が必要となる。 非対称的な需要ショック(消費者の選好ショック、投資や輸出に与えるショック)  自然失業率仮説から言えば、各国における物価による調整によって、長期的な非対称的な需要ショックは消失する。

マクロ金融論2016 表2:総供給ショックの相関(1969~89年)

労働の移動性 非対称的な供給ショックに対して、労働の移動性によって対応可能。 A国 好況 B国 不況 労働者不足 労働者移動 失業 賃金上昇 マクロ金融論2016 労働の移動性 非対称的な供給ショックに対して、労働の移動性によって対応可能。 A国 好況 B国 不況 労働者不足 労働者移動 失業 賃金上昇 賃金低下

貿易面における経済の開放度 需要増大ショック←輸入増で対応 需要減少ショック←輸出増で対応 マクロ金融論2016 貿易面における経済の開放度 需要増大ショック←輸入増で対応 需要減少ショック←輸出増で対応 貿易面において経済が開放されていないと、需要ショックを国内で吸収。GDPや物価水準が変動。

財政移転 好況の国で得られた租税を不況の国に補助金として支払う。 マクロ金融論2016 財政移転 好況の国で得られた租税を不況の国に補助金として支払う。 国際的な財政移転が可能となるためには、財政政策における国際政策協調や各国の財政主権の統合が必要。 EUにおいては、リスボン条約において財政移転を禁止。しかし、欧州安定化メカニズム(European Stability Mechanism: ESM)は、2012年10月に恒常的設立。