関西学院大学産業研究所所長・経済学部教授 伊藤 正一 中国経済の現状と課題 関西学院大学産業研究所所長・経済学部教授 伊藤 正一
GDP 成長率(%)
GDPの増加要因
固定資本形成の変化 中国の固定資本形成の加速的増加 国有部門の固定資本形成の加速的増加 基本建設投資の加速的増加
固定資本形成の変化
価格水準の変化 小売物価指数は、1998年以来マイナスであった。 小売物価指数は、2004年、2005年にそれぞれ2.8%、0.9%上昇した。 この上昇は、2004年の食品価格(特に、食糧価格)と燃料価格の上昇に影響されている。
小売物価指数の変化 (1995-2005)
財政赤字の拡大 財政赤字(中央・地方政府)は1998年から2002年にかけて急速に拡大した。 財政赤字は、2003年、2004年と減少した。 しかしながら、財政赤字は、依然として高水準である。
財政赤字(中央+地方政府) (単位:億元)
輸出入の急速な拡大 1990年以来、輸出入は大きく変動してきた。 中国のWTO加盟以来、輸出入は急速に拡大してきた。 輸出の急速な拡大は、2004年、2005年にも継続している。 しかしながら、輸入の伸び率は、2005年には大きく低下した。
中国の輸出入I(単位:億ドル)
IS バランスと貿易収支 貯蓄率 47% > 資本形成率 44.2%、2004年 (消費率: 54%) 政府財政赤字は、 1.47%、2004年 (S - I) = (G - T) + (Exp – Imp) このことは、貿易黒字がGDP比1.33%、実際は、2,86%。 ISバランスを所与として、財政赤字が減少しつつあるとする。そのことは、貿易黒字の拡大、そして、米国やEUとの貿易摩擦をもたらす。 貯蓄率が高すぎるのではないか?
中国の国・地域別輸出入 (単位:億ドル)
貨幣供給量と外貨準備額の 伸び率
用途別不動産開発投資額の伸び率
地域別不動産開発投資の伸び率
バブル抑制政策の影響 車両販売台数の変化 車両販売台数は、2004年3、4月から減少した。 車両生産台数も同じ変化。
車両生産台数I
上海証券取引所総合指数
労働市場の変化 低い失業率: 4.3% (2003年)、4.2% (2004年), 4.2% (2005年第3四半期) 実質的に高い失業率 4.2% (2005年第3四半期) 実質的に高い失業率 農村部から都市部への労働力移動 都市部労働市場の開放: 厦門の例、外部からの労働者に対しても現地労働者に対する就業斡旋サービスと同じサービスを提供 労働者の海外への派遣
中国のWTO加盟による産業への影響I: プラス効果 中国の輸出に対する関税・非関税障壁の減少 原材料・部品の輸入関税の減少 中国のWTO加盟に伴い期待される経済・市場の改善 外国企業と容易にコンタクトがとれるようになる。 繊維、アパレル、電気機械製品
中国のWTO加盟による産業への影響II:マイナス効果 製造業の製品に対する輸入関税の減少にともない輸入製品の国内価格が下落する。市場は、より競争的になる。 非関税障壁の撤廃、市場は、より競争的になる。 貿易権と流通分野が外資系企業に開放される。国内企業にとってより競争的になる。 外資の直接投資に対する制限の緩和。 自動車、通信サービス、石油化学製品
自動車の生産台数
化学繊維の生産(単位:万トン)
カラーテレビの国内生産 (単位:万セット)
国有企業改革 国有企業の利潤額の改善:解雇による雇用削減効果 赤字企業に対する政府の補助金の低下傾向 しかしながら、非国有企業と比べて競争力は遅れている。
不良債権問題 不良債権比率は、低下しつつある。 2004年3月16.6%, 2004年6月13.32% 2004年3月16.6%, 2004年6月13.32% 2005年3月12.7%, 2005年6月8.7% 中国人民建設銀行と中国銀行を香港証券市場に上場するために不良債権問題を改善する必要があった。 民間金融機関の創設の必要性 ?
政府の財政赤字問題 財政赤字は、深刻化してきた。 2002年以後、状況は改善してきた。 OECD はかつて財政赤字を維持可能な範囲に抑えるための3条件を提示した:1)政府支出の拡大に伴い税収を増加させる、2)維持可能な社会保障制度を確立する、 3)健全な融資条件を維持し、不良債権を抑制する。
都市部の失業・解雇問題と社会保障の問題 これらの課題は時間とともに解決されるが、問題はその解決に要する時間が重要である。 上述のように、維持可能な社会保障制度を確立する必要がある。
所得格差: 農村・都市間 一人当たりGDP (2004年) 上海: 貴州=13.1:1 賃金労働者の平均賃金(2004年) 上海: 貴州=13.1:1 賃金労働者の平均賃金(2004年) 上海: 江西=2.5:1 農家一人当たり純所得(2004年) 上海: 甘粛=3.8:1
都市・農村間所得格差縮小の ための方法 農民の農業から非農業部門への移転 (都市部での雇用機会、農村私営・個人企業での雇用機会) 農業生産の改善 農民に対する様々な負担をいかに軽減するか?
中国人民元のさらなる切り上げ 管理為替相場制度からバスケット為替制度への変化 $1=8.2765 元 (2005年6月) $1=8.2765 元 (2005年6月) =8.2369 元(2005年7月) =8.0500 元(2006年2月) =8.0170 元(2006年3月末) =7.9976 元(2006年6月16日)
潜在的インフレの可能性 中国人民元の為替制度 中国人民元のさらなる切り上げ期待 人民元切り上げを避けるためのドル買い介入は外貨準備高の急速な蓄積をもたらし、貨幣供給量を増加させる結果となる。
エネルギー問題 エネルギー生産量は、1996年から2000年にかけて減少した。 エネルギー消費量は、1997年から1999年にかけて減少した。 エネルギーの生産量に占める石炭の割合は、1995年から2000年にかけて減少した。(空気汚染の問題) エネルギーの生産量に占める石炭の割合は、2000年以来増加してきた。(エネルギー需要の拡大に対応して) 石炭の使用効率性を以下に高めるか? 非石炭エネルギー源を増加できるか?
エネルギー生産の成長率
エネルギー生産と生産構造 (単位:100万トン標準炭、 %) エネルギー総生産量 石炭 原油 天然ガス 水力発電 1995 1290 75.3 16.6 1.9 6.2 2000 1070 66.6 21.8 3.4 8.2 2004 1846 75.6 13.5 3.0 7.9
エネルギー消費量と消費構造(単位:100万標準炭、%) エネルギー総消費量 石炭 原油 天然ガス 水力発電 1995 1312 74.6 17.5 1.8 6.1 2000 1303 66.1 24.6 2.5 6.8 2004 1970 67.7 22.7 2.6 7.0
石油の供給(単位:1万トン)
水不足の問題 中国北部と南部で水資源が不均等に分布 水に対する需要の拡大 水汚染問題 水資源を中国南部から北部に送る 節水政策と水汚染の抑制政策の促進 水使用に市場メカニズムを導入する可能性が考えられるのではないか?
食料・食糧生産の減少 中国の食料・食糧のピーク年は、1998年で、食料(5.123億トン)、食糧(4.562億トン) 2003年の中国の食料・食糧の生産は、4.307億トンと3.743億トン(-16%、-18%)であった。 食糧の生産量は、2004年に増加した。その理由は、米・小麦の買付価格が40-50%、大幅に上昇したことである。 2006年2月の対前年同期比米の価格指数は、2.6%増で、米・トウモロコシ・大豆の価格指数はそれぞれ7.6%、2.4%、6.0%下落した。 中国で食糧生産がまたもや減少し始めるかもしれない。
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