2016年島根大学医学部 神経・臨床心理 非常勤講義

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2016年島根大学医学部 神経・臨床心理 非常勤講義 2016.10.20 発達障害(ASD)と行動療法(ABA) 2016年島根大学医学部 神経・臨床心理 非常勤講義 2016.10.20

本日の話題 実験的行動分析 自閉症スペクトラムASDと様々な介入法 ASDへの応用行動分析ABA的アプローチ

G.S. レイノルズ 著 (浅野俊夫 訳) 「オペラント心理学入門ー行動分析への道ー」 1978年、東京:サイエンス社 実験的行動分析 G.S. レイノルズ 著 (浅野俊夫 訳) 「オペラント心理学入門ー行動分析への道ー」 1978年、東京:サイエンス社

(実験的)行動分析 ABAは実験的行動分析の応用部門 実験的行動分析による行動の説明 刺激と反応 実験装置 オペラント行動の獲得と消去 刺激般化と弁別 条件性強化刺激 強化スケジュール

オペラント条件づけとは オペラント条件づけとは、ある行動の結果によって、その行動の生起頻度が変容する過程を言う。 オペラント条件づけは、行動を変容させる要因を知ることで行動を理解しようとする。 行動を理解するとは予測と制御ができること 研究対象となる要因は観察・測定・再現が可能なものに限られる。

行動の説明 行動の生起確率は次の3点により規定される 行動の理解とは 環境面の重視、実践的な面が特徴 行動に先行・同伴した環境条件および事象   行動に先行・同伴した環境条件および事象   行動の結果として生じた環境変化   その環境についての以前の経験 行動の理解とは          B=f(E) B:行動、E:環境    この関数関係を明らかにすること   すなわち、行動の予測と統制(制御)ができること 環境面の重視、実践的な面が特徴 

基本概念:刺激と反応 行動を構成する諸反応は2つに大別される オペラント オペラント/道具的条件づけ    オペラント  オペラント/道具的条件づけ    レスポンデント  パヴロフ型/古典的条件づけ 環境は4つの刺激クラスに大別される    誘発刺激    強化刺激(強化子)    弁別刺激    中性刺激     弁別刺激ー反応-強化刺激 三項随伴性

誘発刺激とレスポンデント レスポンデント反応は遺伝的に受け継いだ生得的な反応であることが多い レスポンデント反応は反射的な反応で、特定の刺激により誘発される(誘発刺激)   自発する レスポンデント(古典的、パヴロフ型)条件づけにより中性刺激は誘発刺激になる レスポンデントの生起は誘発刺激の生起頻度に依存 レスポンデントの生起した結果は、その生起頻度に影響を与えない

オペラント行動と三項随伴性 オペラント行動は三項随伴性の分析を基本とする 弁別刺激-オペラント反応-強化刺激    弁別刺激-オペラント反応-強化刺激 オペラント反応に先行し、オペラント反応が自発する契機となる弁別刺激 オペラント反応に後続し、オペラント反応の出現確率を変化させる強化刺激(子)

強化刺激とオペラント行動 オペラント反応は自発する オペラント反応はその結果によって出現頻度が変化することがある 出現頻度を変化させる刺激が強化刺激   刺激の出現→出現頻度↑ 正の強化刺激                   例:空腹時の食物   刺激の除去→出現頻度↑ 負の強化刺激                   例:電撃

弁別刺激と刺激統制 オペラント反応が、そのもとで自発確率を変化させる刺激を弁別刺激という 例:「お手」を聞くとイヌが前足をあげる     例:「お手」を聞くとイヌが前足をあげる オペラント反応は弁別刺激により統制(制御)される 過去において、オペラント反応が生起したときに存在し、それが強化されるきっかけになった刺激が弁別刺激である     例:「お手」を聞いて前足をあげたイヌに好まし     い結果(報酬)が起こらなければ、「お手」は弁別     刺激にならない

弁別刺激と条件性強化刺激 強化刺激には生得的な強化刺激、一次性強化刺激、と経験により強化力を持つようになった条件性強化刺激がある ある中性刺激を強化刺激に同時あるいは先行して提示すると、その中性刺激は行動を強化する力を持つ   例:チンパンジーのポーカーチップ実験 一般に弁別刺激は反応の結果として与えられると条件性の強化刺激として機能する それは行動の連鎖の中で重要な役割を演じる

実験装置 スキナー箱 Operant chamber 累積記録

オペラント行動の獲得 自発したオペラント行動に強化刺激を後続して与えることによって、その反応の出現頻度が高められる オペラント反応は一般に行動形成(shaping)と呼ばれる方法で獲得させる    例:サルのキイ押しの獲得 この例で、反応はキイのスイッチのon, offで検出されるものである。→反応型トポグラフィー

オペラント行動の消去 獲得されたオペラント行動の出現頻度を下げるには、後続させていた強化をなくすことで達成される。これを消去という 消去でオペラントが減少するが、強化スケジュール(後述)などの変数が減少の程度(消去抵抗)に影響する→連続、間欠強化 消去をしばらくおこなわないと、オペラント行動が回復する(自然的回復)

刺激統制:般化 ある刺激のもとでオペラント行動を強化すると、他の刺激もその行動を統制するようになる。それを般化という 般化の程度は般化勾配で示されるが、いろいろな条件によって異なる 右の例では黄刺激のみで強化した

刺激統制:弁別 2つの刺激のそれぞれのもとで、強化された反応の一方を強化しつづけ、一方を消去すると、強化されなかった反応は減少してゆく。これを弁別という これは生物が2つの刺激を区別、弁別していたことを意味する

刺激統制:選択的注意と対比 選択的注意 + - この課題は形に注目しても、 色に注目しても、正しい反応を 行うことができる。  この課題は形に注目しても、 色に注目しても、正しい反応を 行うことができる。  動物はしばしば一方の刺激 次元のみに注目して反応する。  これは選択的注意の一例。 手続き2で、橙、黄色での反応が減少すると 赤色への反応が上昇している。これが対比 現象。このほかに弁別における般化の効果が みられている

刺激統制:その限界 動物の心理物理測定 チンパンジー 各周波数における 刺激閾を結んだもの ヒト 聞こえる、聞こえないの境目

弁別刺激と条件性強化刺激 条件性強化刺激は連鎖の中で重要な役割を演ずる チンプのポーカーチップの例 弁別刺激1-オペラント反応1 条件性強化刺激は連鎖の中で重要な役割を演ずる       チンプのポーカーチップの例  弁別刺激1-オペラント反応1               ↓            条件性強化刺激1-オペラント反応2         (=弁別刺激2)      ↓                       強化刺激         これは2つの連鎖の例だが、さらに多くの連鎖がありうる 貨幣は強力な条件性強化刺激である           → 般性条件性強化刺激

強化スケジュール 自発したオペラント反応にどのように強化刺激を後続させるかの問題 常に強化刺激を提示する連続強化スケジュールと、強化刺激を与えたり、与えなかったりする間欠強化スケジュールがある 後者は、反応回数と時間に基づいて強化刺激を提示するものに分かれる さらに反応回数、時間を固定するものと、変化させるものがある。→4基本スケジュール

variable interval (VI) schedule 変動間隔スケジュール 平均t秒後の第1回目の反応に対して強化刺激が提示される 反応は一定の率で自発されるが、反応率は低い 累積記録 強化刺激

variable ratio (VR) schedule 変動比率スケジュール 平均n回の反応に対して強化刺激を提示する 安定した高反応率の反応がみられる

fixed interval (FI) schedule 固定間隔スケジュール 前の強化の生起から一定間隔経過後の第1反応が強化される 強化の生起に向かって反応率が上昇するスキャロップ・パターンがみられる

fixed ratio (FR) schedule 固定比率スケジュール 一定回数の反応に対して強化刺激を提示する 高反応率で反応するが、強化刺激の提示後に反応の休止が見られる   →強化後休止 休止の長さは比率に正比例する

その他の強化スケジュール 複雑な強化スケジュール 反応を減らすスケジュール(問題行動に)   多元スケジュール multiple schedule  A, B継時   並列スケジュール concurrent schedule  A, B同時, choice 反応を減らすスケジュール(問題行動に)   DRL: Differential reinforcement of low rates   DRO: Differential reinforcement of other response   DRI: Differential reinforcement of incompatible behav.   DRA: Differential reinforcement of alternative behav.

自閉症スペクトラムと さまざまな介入法

自閉症スペクトラム 自閉性障害とは。 DMS-IVより 自閉性障害の症状。観察、実験データ 自閉症へのさまざまな介入法 Richman (2001) より

自閉性障害とは:DSM-Ⅳより 対人的相互反応における質的障害 意志伝達の質的障害 行動、興味、活動が限定的、反復的、常同的であること   アイコンタクトや身振りなどの非言語的行動の欠如、仲間関係の欠如、楽しみを他人と共有することの欠如、など 意志伝達の質的障害   話し言葉の発達の遅れ、常同的な言語の使用、ごっこ(見立て)遊びの欠如、など 行動、興味、活動が限定的、反復的、常同的であること   一つのものや行動へのこだわりや熱中、自己刺激行動の頻発

自閉性障害の症状 発達年齢の低い自閉症児(観察データ) 発達年齢の高い自閉症児(実験データ) 共同注視ができない:他者とともにあるものを見る   共同注視ができない:他者とともにあるものを見る   原叙述的行動ができない:相手に状況を示そうとする行動   叙述的指さしができない:要求でなく、状況を指し示すもの   参照的注視ができない:ものと人を交互に見る    スライド 発達年齢の高い自閉症児(実験データ)   他者の知覚の理解ができない   感情の原因の理解ができない   誤信念課題ができない:他者の心の状態、「心の理論」、mind reading、スライド

前言語的伝達行動 共同注視 指差し 参照的注視 これらの行動は言語に先立ち出現するが、言語と共通の基盤があると考える研究者がいる 自閉症児ではこれらがみられないという報告が多くある 山本(2000)より

誤信念課題 けんちゃんがお部屋でおもちゃで遊んでいました。その後、おもちゃを青い箱にしまって外へ出て行きました。するとそこへいたずら者の黒ひげ君がやってきて、勝手におもちゃを取り出して遊んだ後、赤い箱にしまって出て行きました。しばらくして、けんちゃんがお部屋に戻ってきました。 信念質問:けんちゃんは今、おもちゃがどこにあるとおもっていますか? 現実質問:おもちゃは本当はどこにありますか? 記憶質問:最初、けんちゃんは、おもちゃをどこにしまっていきましたか? この3問すべて正解で、他者の信念の理解があるとした。

様々な介入法 Richman (2001) より 精神分析的アプローチ 食事療法 ファッシリテイテッド・コミュニケーション 聴覚トレーニング  精神分析的アプローチ  食事療法  ファッシリテイテッド・コミュニケーション  聴覚トレーニング  感覚統合療法  だっこ法  オプションズ・セラピー (サンライズ)

様々な介入法 音楽療法/芸術療法/ダンスセラピー TEACCHプログラム Treatment and Education of Autistic and related Communication handicapped Chirdren 構造化、スケジュール化の重視。次の応用行動分析と親和的 応用行動分析 Applied Behavioral Analysis, ABA Richmanはあげていないが、Baron-Cohenの共感化-システム化仮説に基づく介入法などがある 今回Baron-Cohenの考え方を紹介する余裕がないので、邦訳されている著作をあげておくにとどめる

Simon Baron-Cohenの著作  共著『自閉症入門-親のためのガイドブック』久保紘章・内山登紀夫・古野晋一郎(訳)、中央法規出版、1997    『自閉症とマインド・ブラインドネス』長野敬・長畑正道・今野義孝(訳)、青土社、1997, 2002  『共感する女脳、システム化する男脳』三宅真砂子(訳)、NHK出版、2005  『自閉症スペクトラム入門-脳・心理から教育・治療までの最新知識』水野薫・鳥居深雪・岡田智(訳)、中央法規出版、2011

応用行動分析ABA的アプローチ S. リッチマン 著 (井上雅彦・奥田健次 監訳、テーラー幸恵 訳) 2015年、 東京:東京書籍

応用行動分析の自閉症の捉え方 障害行動の原因を障害児の中のみには求めない(内的なモジュールのみの説明には組しない) 障害は障害児と環境とのかかわりにおける問題として捉える(障害を内部のモジュールの欠落に帰するならば、行動を改善させようという視点がでてきにくい) 障害児の特性に注意し、適切な環境を用意することにより、問題行動は変容可能と考える

応用行動分析ABA的アプローチ 三項随伴性 弁別刺激(先行条件)ー反応ー強化刺激(後続条件) 行動の形成  弁別刺激(先行条件)ー反応ー強化刺激(後続条件) 行動の形成 Successive approximation   エラーレス   Shaping  プロンプトとFading 連鎖 Chaining 般化

三項随伴性 行動の変化は観察でき評価可能なもの 行動と状況をセットで考える 状況には行動の前と後の出来事がある 出来事を操作することで行動を変える 行動の前の出来事が弁別(手掛かり)刺激、先行条件 行動の後の出来事が報酬、強化刺激、強化子、後続条件 先行、後続条件を明らかにする機能評価、分析     functional assessment, functional analysis

先行条件、弁別(手掛かり)刺激 弁別刺激(手掛かり刺激)、先行条件   特定の行動をでやすくするために提示される指示    言葉:短く、具体的、初めと終わりを明確に    絵カードなど視覚的なもの:写真、文字    具体的なもの:車のキイ、パズル    ジェスチャー、指さしなど 提示前に、注意をひく。指示に従わない時には直ぐに正しい反応を教える。一貫性の対応

後続条件、強化刺激(強化子) 報酬、強化刺激、強化子、後続条件 正の強化子の例 強化子は子ども、状態により変化する 強化子は行動の直後に   クッキーなどの食べ物、「よくできたね!」などの言葉かけ、人形などのおもちゃ、くすぐり、歌などの社会的なもの、散歩やテレビを見るなどの活動 強化子は子ども、状態により変化する 強化子は行動の直後に 強化子のレベルを有効に利用。自然なものに

行動形成 Shaping 新しい目標の行動に段階的に近づけて強化する Successive approximation そこにはエラーをできるだけ少なくしようとする、エラーレスerrorlessの考えがある それはエラーによる罰、モチ―ベーションの低下を避けるため そのために次に述べる、プロンプトPromptとそのフェイディングFading、連鎖Chainingが 様々な状況で安定した反応のための般化が

プロンプトとフェイディング 目的とする反応を出やすくするヒント、援助 最終的にはこれをなくす必要がある Fading  言葉によるプロンプト:有効だが、なくすのが難しい  視覚的プロンプト:文字、絵カード。最終的にFading  位置プロンプト:例-忘れないように帽子をドアノブに  モデリング/ジェスチャー:実際にやってmodeling、模倣を バイバイ、黙れなどのジェスチャー。正反応に小強化子を  身体的プロンプト:課題ができるように、身体に触れて導く     着替え、トイレ訓練などに適用。fadingは比較的容易

連鎖 chaining 一般に日常の行動は連鎖よりなっている 一連の行動を分解し、一つ一つを順番に学習させる 順番には2つある:連鎖の先頭から教える順行連鎖化と、最後から教える逆行連鎖化 一般に、後者の逆行連鎖化が有効と考えられている すなわち、強化子に近い方から教える

般化 generalization 特定の状況(例えば、大学の研究室)で行動が学習されても、その他の状況(例えば、家庭)でその行動がでなければ、学習の効果は限定的である その意味で、般化は支援にとって重要な課題である 多くの般化がある   人に関わる般化:教師、母親、・・・。だれにでも   状況に関わる般化:学校、家庭、・・・。どこでも

般化 generalization   多様な手掛かり刺激への般化:    「どこに住んでいるの?」、「住所はどこ?」   応答の般化:「島根県」、「出雲市」   時間に関わる般化:いつでも 般化も訓練が必要で、例えば状況に関わる般化では、研究室、家庭、社会など、いろいろな場面を注意深く、段階的に訓練することにより、般化が進む

応用行動分析による支援(1) 文献紹介 Durand, V.M. & Carr, E.G. Social influence on “self-stimulatory” behavior: Analysis and treatment application. J. Applied Behav. Anal., 20:119-132, 1987

三項随伴性の機能評価、分析 この論文は自閉症などに見られる自己刺激SS的な行動の機能評価、機能分析を行い、それに基づいて介入した結果を報告している 実験1,2:SS的行動は社会的な性質をもつことを機能評価、分析で明らかにする 実験3:DRA-Differential Reinforcement of Alternative Behaviorの一種である、Functional Communication Training, FCTを実施し、SS的行動を減少させた

実験の紹介 SS的行動はbody rocking, hand flapping 実験1,2はSS的行動を生起、維持する要因の機能評価、分析 実験3はDRA-FCTによるSS的行動への介入 実験参加者を下の表1に示す

実験1 現場の教師の報告、これまでの研究から、SS的行動には課題の難しさ、教師の注意が関係すると考えた Peabody Picture Vocabulary Test, PPVTより刺激を 注意は見本合わせMTSで、課題の難しさは受容的命名labeling課題(”Point to the brush” )で 注意を減少、課題の困難さを増加させ、これまでの研究から両者でSS増加を予測 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● Baselineを挟んでMTS(注意減少), labeling (課題困難増加)を交互に行う 

実験2 実験1の結果は課題の難しさがSS行動の先行条件で、課題から逃れることが後続条件で維持されていることを示唆。逃避、負の強化 実験2ではSS行動が起こると、課題関連のものを机上から片付け、実験者も10s間turn away. Time-out, TO SS行動が課題からの逃避で維持されているなら、課題が無くなるTO操作はSS行動を増加させるはず ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 実験2の結果。●はtime-outを入れた セッション。無印はbaseline。Time-out でSS行動が増加している 課題はlabeling

実験3 実験1,2の結果は、SS行動がコミュニケーション行動の一種であることを示唆 DRA-FCTで介入し、課題を容易にする別のコミュニケーション手段を教えれば、SS行動は減少すると考えた 課題はlabelingで、エラーをした時に”Help me”というように訓練した “Help me”に対して、実験者は正解するようにpromptを 実験3の結果。SS行動が減少してい る。灰色は”Help me”が発せられた

応用行動分析による支援(2) 文献紹介 Bondy, A.SW. & Frost, L.A. The picture exchange communication system. Focus on Autistic Behavior, 9(3):1-19, 1994

Picture Exchange Communication System (PECS) PECSは応用行動分析ABAの中で考えられた、ものをあらわす絵カードを利用して、コミュニケーションを発達させる介入法 6段階phaseの訓練がある その各phaseの訓練手続きと結果を紹介する ABAの特徴であるsuccessive approximationとerrorless (できるだけエラーを減らす)の手続きが見てとれる

Phase 1: Teaching the Physically Assisted Exchange 目標   報酬(強化刺激、強化子)を決める。Ex. Pretzel   絵カードを訓練者に渡し、pretzelと交換する 三項随伴性   先行条件:机上のpretzel、絵カード、訓練者(複数)   後続条件:pretzel、声掛け、微笑み(社会的報酬)       “Oh, you want the pretzel? Here, it is”   反応:絵カードをとり、訓練者の手に渡す

Phase 1: Teaching the Physically Assisted Exchange 行動の形成のテクニック   訓練者の手    はじめは手を開いている   身体的ガイド    子供がpretzelに手を伸ばしたら、絵カードを渡す    子供が訓練者の開かれた手に渡すのをガイド   fading    子供に絵カードを渡すガイドをfading.    それは開かれた手に渡すガイドからbackward にfading.

Phase 1: Teaching the Physically Assisted Exchange 子供がカードをとっても、手を開くのを遅らせる delay. これは一種のfading なお、交換についてverbal promptは用いない このPhase1, 2は一般に比較的短期間に通過できる

Phase 2: Expanding Spontaneity 目標   子供と訓練者、絵カードのあるboardの距離を   様々な報酬、絵カード、訓練者で訓練 般化 三項随伴性   先行条件:離れたboard(絵カード), 離れた訓練者   後続条件:絵カードに対応するものを与える。社会的報酬   反応:boardへ行き、絵カードをとり、訓練者のところへ行き、カードを渡す

Phase 2: Expanding Spontaneity 行動の形成のテクニック   子供とboard、訓練者との距離    徐々に広げる。一種の般化   絵カード、報酬、訓練者    徐々に増加させる。食べられない報酬も。般化の訓練    距離は訓練者へのorientationを増加→eye contact促進    verbal promptを使わず、子供の交換の自発性を高める   

Phase 3: Simultaneous Discrimination of Pictures 目標   複数のカードの弁別。80%の正反応率まで   カードとものの対応づけの確認 三項随伴性   先行条件:boardに複数の絵カード。他はPhase 2と同じ   後続条件:カードに対応するものを与える。社会的報酬   反応:boardへ行き、欲しいものに対応するカードを選び、訓練者に渡す

Phase 3: Simultaneous Discrimination of Pictures   カード、報酬    好きなものとそうでないものとの対で始める    徐々に学習したカードを導入、新しいカードを追加    カードの位置はランダムに変える   エラーへの対応    エラーには「そうではない」といい、ジェスチュアpromptで正しい方へ    エラーが予期できる時は、エラー生起前にジェスチュアで正カードへ anticipatory prompting, errorless 

Phase 3: Simultaneous Discrimination of Pictures 学習が進まない時 カードの位置を固定する 他方のカードを空白、未知、嫌いなものにする 実物(の一部)、ミニチュアなどを利用、後にカードへ移行 カードとものの対応の確認 トレーに好きなものとそうでないものを置き、対応する絵カードをboardに置き、選択させる 嫌いなものを選んだら、You asked for xxx.といい、好きなものを指さし、声をかける

Phase 4: Building Sentence Structure 目標   要求文を完成し、日常生活で使用する 三項随伴性   先行条件:boardにカテゴリ毎の絵カード         :boardにsentence stripがある         :sent. stripに”I want”カードが置いてある   後続条件:絵カードに対応するものを与える。社会的報酬   反応:好きなもののカードを”I want”カードの右に置く      :完成したsent. stripを訓練者に渡す

Phase 4: Building Sentence Structure 行動の形成のテクニック   文の完成    初めは”I want”カードの右に欲しいもののカードを置くように身体的ガイド     Backward chainingで欲しいもののカード、”I want”カードの順に置き、文を完成    使用可能なすべてのカードで文の完成。般化訓練   要求文の利用    日常生活で要求文を利用して交換を行う

Phase 4: Building Sentence Structure   報酬    徐々に見えないものを要求するよう訓練    この段階の初めは12-20の絵カードを学習    終わりには20-50のカードを学習    カードは色分けなどでカテゴライズしてある    とにかく、日常的に”I want”と欲しいものの絵カードで要求    speechの準備の意味合いも

Phrase 5: Responding to “What do you want?” 目標  要求についての声の質問にこたえる 三項随伴性   先行条件:”What do you want?”という音声の質問 :board上の”I want”カード         :board上に欲しいものの絵カードとsent. strip   後続条件:絵カードに対応するものを与える、社会的報酬   反応:”I want”と欲しいもののカードでsent. strip完成

Phrase 5: Responding to “What do you want?” 行動の形成のテクニック   sentence stripの完成    “What do you want?”の質問の直後に”I want”カードを指さす。ジェスチュアprompt

Phase 6: Commenting in Response to a Question 目標   質問文に答えものにラベル、名前をつける 三項随伴性   先行条件:”What do you see?”という声         :机上に好まぬもの、board上に”I see”カード         :board上に好まぬもののカード、sent. strip   後続条件:好むものを与える。社会的報酬   反応:”I see”カードと好まぬもののカードでsent. strip完成

Phase 6: Commenting in Response to a Question 行動の形成のテクニック   sentence stripの完成    “What do you see?”の直後に訓練者は”I see”カードを指さす。ジェスチュアprompt    子供が”I see”カードを置かない時は、そうするよう身体的なガイド    子供が”I see”カードをsent. stripに置いたら、物のカードを置くまで5秒待つ。delay

PECS Outcome: Picture Use and Speech Acquisition その結果を以下に示す Case presentation 症例Billy. 36 mo. 自閉症の診断。典型的行動傾向。無発語 10試行でPhase 1をマスター 3週までにPhase 2を通過 Phase 3は翌月(2ヶ月)いっぱいで訓練 2ヶ月目の終わりにPhase 4にはいり、”I want”カードを

PECS Outcome: Picture Use and Speech Acquisition 3, 4ヶ月でPhase 5を通過し、Phase 6に。”What do you see?”に”I see”カードを、”What do you want?”に”I want”カードを 4ヶ月目の終わりには、speechを使う。ただし明確ではない 続く数カ月の間にカードは100を越えた Speechは明瞭になり、徐々にカードをやめ、11か月目にはspeechのみでcommunicateし始めた 以上は典型的な例だが、一般的には以下のように 通常、Phase1, 2は数日で通過 Phase 3は最も時間がかかり、且つ個人差が大きい Phase 4, 5は数週内でマスター Speechはカードのみが有効なcomm.の手段になった時に

PECS Outcome: Picture Use and Speech Acquisition Phase 1 3 5 2 4 6 6< Billy

PECS Outcome: Picture Use and Speech Acquisition Small Group Outcome on picture Versus Speech Acquisition Speech (7名) Billyと同様の経過をたどり、以下のように、speechを獲得する 最初の観察で、speechや他の機能的なcommunicationなし PECSによる急速な絵カードの使用 Speechと絵カード併用の期間に緩やかにspeechが発達 絵カードをを使用せず、speechでcommunicate 次のスライドにspeech発展の表が

PECS Outcome: Picture Use and Speech Acquisition Phase 1

PECS Outcome: Picture Use and Speech Acquisition Total Outcome for PECS 5年間、85名のPECSが最初のcommunicationの手段の子供 少しでも機能的なspeechを持っていたものは含まれていない Near normal からprofoundly retardedの知能 自閉症と分類され、親や保護者と生活している PECSの訓練を始めたのは5歳あるいはそれ以下の時 95%が2カード以上を使用し、すべてが1カ月以内に少なくとも1カードを学習 次のスライドに訓練期間とcommunicationのmodalityの関係 Speechの発達は問題行動を含むunusualな行動を減少

PECS Outcome: Picture Use and Speech Acquisition 1年以上訓練している子供の 39名はspeechのみでcomm. Autism Behavior Checklistの 値の訓練前後の変化。左か ら、picture, mixed, speech