情報経済システム論:第11回 担当教員 黒田敏史 2018/9/20 情報経済システム論.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
計量的手法入門 人材開発コース・ワークショップ (IV) 2000 年 6 月 29 日、 7 月 6 ・ 13 日 奥西 好夫
Advertisements

土木計画学 第3回:10月19日 調査データの統計処理と分析2 担当:榊原 弘之. 標本調査において,母集団の平均や分散などを直接知ることは できない. 母集団の平均値(母平均) 母集団の分散(母分散) 母集団中のある値の比率(母比率) p Sample 標本平均 標本分散(不偏分散) 標本中の比率.
2016/7/21 情報経済システム論 情報経済システム論:第1回 担当教員 黒田敏史 1. 教員の紹介 黒田 敏史(くろだ としふみ) – 略歴 1978年2月10日生まれ 1996年 神奈川県立藤沢西高校卒業 1997年 東京理科大学理学部物理学科中退 1999年 京都大学経済学部入学 2005年.
2016 年度 計量経済学 講義内容 担当者: 河田 正樹
陰関数定理と比較静学 モデルの連立方程式体系で表されるとき パラメータが変化したとき 如何に変数が変化するか 至るところに出てくる.
マクロ金融論 ニュースの理論. マクロ金融論 為替相場はニュースに反応 為替相場は、ニュース(新しい情報) に対して反応する。市場参加者がこれ までに知らなかった情報が流れると、 為替相場は変化する。 逆に、新しくない情報には、為替相場 は反応しない(「市場の織込済み」
●母集団と標本 母集団 標本 母数 母平均、母分散 無作為抽出 標本データの分析(記述統計学) 母集団における状態の推測(推測統計学)
ゲーム理論・ゲーム理論Ⅰ(第2回) 第2章 戦略形ゲームの基礎
データ分析入門(12) 第12章 単回帰分析 廣野元久.
初級ミクロ経済学 -消費者行動理論- 2014年9月29日 古川徹也 2014年9月29日 初級ミクロ経済学.
入門 計量経済学 第02回 ―本日の講義― ・マクロ経済理論(消費関数を中心として) ・経済データの取得(分析準備) ・消費関数の推定
時系列の予測 時系列:観測値を時刻の順に並べたものの集合
  個人投資家向け株式分析   と予測システム A1グループ  劉 チュン.
多変量解析 -重回帰分析- 発表者:時田 陽一 発表日:11月20日.
ゲーム理論・ゲーム理論Ⅰ (第8回) 第5章 不完全競争市場の応用
© Yukiko Abe 2014 All rights reserved
最適間接税.
第16章 総需要に対する 金融・財政政策の影響 1.総需要曲線は三つの理由によって右下がりである 資産効果 利子率効果 為替相場効果
情報経済システム論:第12回 担当教員 黒田敏史 2017/3/8 情報経済システム論.
実証分析の手順 経済データ解析 2011年度.
Pattern Recognition and Machine Learning 1.5 決定理論
初級ミクロ経済学 -生産者行動理論- 2014年10月20日 古川徹也 2014年10月20日 初級ミクロ経済学.
第2章 単純回帰分析 ー 計量経済学 ー.
土木計画学 第5回(11月2日) 調査データの統計処理と分析3 担当:榊原 弘之.
Bassモデルにおける 最尤法を用いたパラメータ推定
疫学概論 母集団と標本集団 Lesson 10. 標本抽出 §A. 母集団と標本集団 S.Harano,MD,PhD,MPH.
プロモーションのモデル.
7: 新古典派マクロ経済学 合理的期待学派とリアル・ビジネス・サイクル理論
第3章 重回帰分析 ー 計量経済学 ー.
第3章 重回帰分析 ー 計量経済学 ー.
「データ学習アルゴリズム」 第2章 学習と統計的推測 報告者 佐々木 稔 2003年5月21日 2.1 データと学習
第5章 回帰分析入門 統計学 2006年度.
確率・統計輪講資料 6-5 適合度と独立性の検定 6-6 最小2乗法と相関係数の推定・検定 M1 西澤.
情報経済システム論:第9回 担当教員 黒田敏史 2017/3/22 情報経済システム論.
特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ経済学
需要の価格弾力性 価格の変化率と需要の変化率の比.
© Yukiko Abe 2014 All rights reserved
© Yukiko Abe 2008 All rights reserved.
© Yukiko Abe 2014 All rights reserved
柿原論文へのコメント 東京学芸大学教育学部 鈴木 亘.
第6章 カーネル法 修士2年 藤井 敬士.
母集団と標本:基本概念 母集団パラメーターと標本統計量 標本比率の標本分布
相関分析.
経済学とは 経済学は、経済活動を研究対象とする学問。 経済活動とは? 生産・取引・消費 等 なぜ、経済活動を行うのか?
第6章 連立方程式モデル ー 計量経済学 ー.
動学的一般均衡モデルについて 2012年11月9日 蓮見 亮.
4章までのまとめ ー 計量経済学 ー.
第4日目第3時限の学習目標 検査の信頼性(続き)を学ぶ。 妥当性について学ぶ。 (1)構成概念妥当性とは? (2)内容妥当性とは?
第8回講義 マクロ経済学初級I .
論文の概要 (目 的) ○アメリカ・火力発電事業者の全要素生産性の推計(1950~ 1978)。
第5章 特徴の評価とベイズ誤り確率 5.5 ベイズ誤り確率の推定法 [1] 誤識別率の偏りと分散 [2] ベイズ誤り確率の上限および下限
第7章 疎な解を持つカーネルマシン 修士2年 山川佳洋.
© Yukiko Abe 2014 All rights reserved
標本分散の標本分布 標本分散の統計量   の定義    の性質 分布表の使い方    分布の信頼区間 
(昨年度のオープンコースウェア) 10/17 組み合わせと確率 10/24 確率変数と確率分布 10/31 代表的な確率分布
中級ミクロ経済(2004) 授業予定.
部分的最小二乗回帰 Partial Least Squares Regression PLS
第6章 IS-LMモデル.
© Yukiko Abe 2015 All rights reserved
データの型 量的データ 質的データ 数字で表現されるデータ 身長、年収、得点 カテゴリで表現されるデータ 性別、職種、学歴
第3章 線形回帰モデル 修士1年 山田 孝太郎.
「アルゴリズムとプログラム」 結果を統計的に正しく判断 三学期 第7回 袖高の生徒ってどうよ調査(3)
情報経済システム論:第13回 担当教員 黒田敏史 2019/5/7 情報経済システム論.
経営学研究科 M1年 学籍番号 speedster
回帰分析(Regression Analysis)
データ解析 静岡大学工学部 安藤和敏
古典派モデル(1) 基本モデル 生産要素市場の均衡(労働市場,資本市場) 生産関数 消費関数,投資関数 財市場の均衡 政策の効果
1.基本概念 2.母集団比率の区間推定 3.小標本の区間推定 4.標本の大きさの決定
構造方程式ゼミナール 2012年11月14日-11月21日 構造方程式モデルの作成.
回帰分析入門 経済データ解析 2011年度.
Presentation transcript:

情報経済システム論:第11回 担当教員 黒田敏史 2018/9/20 情報経済システム論

構造推定アプローチ ミクロデータを用いた経済分析の類型(市村, 2010) 1・特定の経済モデルとは直結せず、できる限り現実をそのままに捉えようとする 2・特定の経済モデルとは直結しない形で、何かを行った事に対する効果(政策効果)を捉える 3・ある経済モデル(選択、意思決定)に関するパラメータを推定し、人々や企業がどのような行動様式を取っているかを捉える 4・ある経済モデルの検証、あるいは政策効果がどのような仕組みで効果を持つに至ったかを検証する 2018/9/20 情報経済システム論

構造推定アプローチ 構造推定アプローチとは 構造モデルの推定とは、理論モデルのパラメータを推定する事である 理論モデルパラメータの推定の利点 エージェントの目的関数を推定する事を構造推定と呼ぶ事もあるが、例えば均衡が複数あるときに、ある均衡が選ばれる確率を推定する場合にはこの定義は当てはまらなくなる 理論モデルパラメータの推定の利点 複雑な反実仮想(反事実的状況)の予測を可能とする コスト モデル・均衡・誤差項等に強い仮定が必要となる 数値計算負荷が大きい 2018/9/20 情報経済システム論

構造推定アプローチ なぜ構造推定アプローチが必要か 計量経済分析におけるルーカス批判 政策効果の測定で効果が認められたものが、多の状況下でも同様の政策効果を期待することができるか? 不況に突入する前の貯蓄率を元に、政府が有効需要創出のための財政支出を行ったとしても、人々は不況以前とは異なる貯蓄行動を取るのではないか? 制度・政策設計における人々の反応を知るためには、制度・政策に依存しない人々の行動原理を知る事が必要 2018/9/20 情報経済システム論

構造推定アプローチ 経済モデルパラメータの推定 経済モデルの基礎は人々の意思決定に置かれる 市場における価格と人々の購入量の変化を観察することは比較的容易である 企業の財務データ・企業活動基本調査等から大まかな財分類ごとの生産量を知る事はできるが、製品レベルの生産量を把握する事はできない事が多い 需要関数(個々人の行動原理)の正確な推定と、モデルから表される企業行動の組み合わせによる分析アプローチが行われる事が多い 2018/9/20 情報経済システム論

構造推定アプローチ 需要関数の推定 識別性の問題 需要関数 供給関数 数量を価格に回帰する線型モデル 需要関数  供給関数 数量を価格に回帰する線型モデル 推定結果は需要曲線か、それとも供給曲線か? 2018/9/20 情報経済システム論

構造推定アプローチ 需要関数の推定 市場で観察されるのは、需要関数と供給関数の交点である 需要曲線の推定のためには、 1・同一の需要曲線上にある、供給曲線のシフトによって得られたデータ 2・同一の供給曲線状にある、需要曲線のシフトによって得られたデータ を識別する必要がある 2018/9/20 情報経済システム論

構造推定アプローチ 需要関数の推定 モデルに一方の関数のみに影響を与える変数を追加する 需要関数のみに影響を与える変数Y 供給関数のみに影響を与える変数Z 価格、数量についてそれぞれ解く 価格・数量をY、Zに回帰したパラメータより需要曲線、供給曲線のパラメータを得る 2018/9/20 情報経済システム論

構造推定アプローチ 需要関数の推定 識別条件 内生変数 外生変数 複数の内生変数から構成される方程式体系を識別するためには、内生変数と同じ数以上の外生変数が必要である 内生変数 需給同時決定問題における価格・数量のように、モデルの解として得られる変数 外生変数 先の例におけるY、Zのように、モデルから独立に定まる変数 特定の財における需給同時決定問題では、Yに所得、Zに天候や為替等の投入物費用等が用いられる 2018/9/20 情報経済システム論

構造推定アプローチ 需要関数の推定 完全競争市場の場合 市場支配力が存在する場合 市場の集計量から価格・数量、その他外生変数を取得し、構造方程式を推定すれば良い 市場支配力が存在する場合 企業の価格付け(供給)は、需要関数を所与としたときの、企業間のゲームの解として得られる ゲームの違いは供給曲線の関数型の違いとなる このとき、先の同時方程式モデルで得られたパラメータ群は、異なるゲームの複数の需要・供給曲線の解と解釈されうる ゲームの構造の特定化が誤っていれば、推定される需要曲線も誤りとなる 2018/9/20 情報経済システム論

構造推定アプローチ 需要関数の推定 モデルを外生変数に解かず、内生変数を含んだままのモデルから、一致推定量を得る事を考える 線形回帰モデル(OLS)が一致性を持つためには、説明変数は誤差項と無相関である事が必要である 需給同時決定問題において、需要関数のみを推定する場合、供給曲線が存在する事によって価格が内生変数となる(誤差項と相関を持つ) 2018/9/20 情報経済システム論

構造推定アプローチ 需要関数の推定 需給同時決定による内生性 を単独で推定する場合を考える 需給同時決定から得られた均衡価格決定式           を単独で推定する場合を考える 需給同時決定から得られた均衡価格決定式 このとき、 需要曲線単一のOLSは一致推定量では無い 2018/9/20 情報経済システム論

構造推定アプローチ 需要関数の推定 2段階最小二乗法 需要関数の推定において、 の代わりに、 を用いる 均衡価格決定式の期待値から、 需要関数の推定において、 の代わりに、   を用いる 均衡価格決定式の期待値から、                従って、 二段階最小二乗法  この推定量は一致性を持つが、不偏性を持たない 標本数が十分に大きければ、供給曲線を明示せずに需要曲線の一致推定量を得る事ができる 2018/9/20 情報経済システム論

構造推定アプローチ 需要関数の推定 2段階最小二乗法のステップ 1・需要曲線を定式化する 2・価格に影響を与えるが、需要に影響を与えない変数(企業のコスト変数など)を用いて、均衡価格決定式を回帰する 3・均衡価格決定式の回帰結果から得られた価格の予想値を価格の代わりに用いて、需要関数をOLS推定する OLSの分散は真の分散からバイアスを持つので、バイアスを補正する必要がある 大抵のパッケージソフトウェアには2SLSの係数と不偏分散を求めるコマンドが用意されている 2018/9/20 情報経済システム論

構造推定アプローチ 需要関数の推定 価格決定式の回帰のみに用いられる外生変数のことを、操作変数と呼ぶ 操作変数の関連性(relevance) 操作変数は、価格に対して十分な説明力があるか 操作変数の妥当性(validity) 操作変数は、需要に直接的な影響を持たないか いずれかが満たされない場合、推定値はバイアスを持つ 2018/9/20 情報経済システム論

構造推定アプローチ 需要関数の推定 操作変数の関連性の確認 操作変数の妥当性の確認 価格決定式のF検定を行い、回帰式が説明力を持つことを示す 2SLSのように、操作変数が回帰式に含まれる内生変数の数と等しい場合、妥当性を検証することは不可能である。 この場合、OLSと2SLSの推定結果を比較し、推定結果が変わらない場合はより効率的なOLSを用いればよい。(但し一致性は保証されない) GMMと呼ばれるより多くの操作変数を用いるモデルであれば、検定が存在する。 2018/9/20 情報経済システム論

構造推定アプローチ 需要関数の推定 その他の推定方法 操作変数推定法 Stata、Eviews等には、内生変数を含んだモデルを推定知るためのコマンドとして、2SLSの他、操作変数法、制限情報最尤法(LIML)、GMM等が用意されている 操作変数推定法 真のパラメータの元では、誤差項と外生変数は直交するはずである。外生変数と内生変数に強い相関があれば、外生変数の十分な変動は内生変数の変化についての十分な情報を持つはずである。 操作編推定量              は確率極限において、 であり、xがyに与える影響の一致推定量となる 2018/9/20 情報経済システム論

構造推定アプローチ 需要関数の推定 その他の推定方法 一般化積率法(GMM) 誤差項と外生変数が直交する事に着目し、 このとき、操作変数zが方程式の数より多く存在する時、全ての方程式を満たすパラメータは存在しないが、全体としての誤差を最小にする推定量を求める 方程式が1本、操作変数zが1本の時は操作変数推定法と同じ推定量となる 2018/9/20 情報経済システム論

構造推定アプローチ 需要関数の推定 その他の推定方法 一般化積率法(GMM)における操作変数の妥当性 操作変数は を満たすはずである 操作変数は          を満たすはずである 検定統計量 はモーメント条件式の数を自由度とするカイ二乗分布に従う 2018/9/20 情報経済システム論

構造推定アプローチ 需要関数の推定 その他の推定方法 制限情報最尤推定(LIML) 2SLSと漸近的には一致するが、操作変数に置くウエイトが異なっており、有限標本において2SLSやGMMよりもバイアスが少ない事が知られている 推定量は以下のk-class estimatorと呼ばれる推定量の特殊ケースである kは                   の最小の固有値 2018/9/20 情報経済システム論

構造推定アプローチ 需要関数の推定 Angrist and Pischke (2009)による2SLS、GMM、LIMLの比較 2018/9/20 情報経済システム論

構造推定アプローチ 需要関数の推定 Angrist and Pischke (2009)による2SLS、GMM、LIMLの比較 2018/9/20 情報経済システム論

構造推定アプローチ 需要関数の推定 Angrist and Pischke (2009)による2SLS、GMM、LIMLの比較 2018/9/20 情報経済システム論