淀川キリスト教病院 がん診療センターがん相談支援室 市原香織

Slides:



Advertisements
Similar presentations
何でもおたずねください 長崎がん相談支援センター 長崎がん相談支援センター 吉原律子・平山美香・木場英郎 緩和ケア普及のための地域プロジェクト 野田剛稔・藤井 卓 白髭 豊・ 鳥山ふみ子 長崎がん相談支援センター.
Advertisements

1 STAS-J 導入プロセスと 看護師への影響 宮城千秋(沖縄県立精和病院) 神里みどり(沖縄県立看護 大学)
予防版 MDS-HC を用い た 介護予防マネジメント. 手順 ①予防版 MDS-HC によりアセスメントを する ② CAP を選定する CAP 選定表による CAP 選定 利用者の意向を反映した選定 ③詳細検討 CAP ガイドラインを用いて、 CAP 検討用 紙に整理 ④支援計画の作成.
特別養護老人ホームさくら園 副施設長 金谷 龍太郎
アンケート① 病院組織.
特別養護老人ホーム 比謝川の里 看護師 宮城 浩彰
安全管理体制と リスクマネジメント.
平成26年度 診療報酬改定への要望 (精神科専門領域) 【資料】
がん疼痛と身体症状の緩和(サオコオンコロジー) がん疼痛と身体症状の緩和(サオコオンコロジー)
PEACE Palliative care Emphasis program on symptom management and Assessment for Continuous medical Education 1.
OPTIM浜松 緩和ケアセミナー 第1回:疼痛マネジメント
ホスピス外来における STAS-Jを活用した看護の実際
LCP日本語版 ホスピスにおける導入の実際
元 淀川キリスト教病院ホスピス 現 大阪大学大学院保健学科保健学専攻 博士前期課程 市原香織
がんの家族教室  第3回 緩和ケアには何が出来るのか? 愛知県がんセンター中央病院 緩和ケアセンター 下山 理史(医師) 松崎 雅英(薬剤師)
アンケート② 病棟体制.
在宅ホスピスケア実施におけるSTAS-Jの有用性
Liverpool Care Pathway(LCP)日本語版
【チーム及び必要に応じて、対象者情報に詳しい者】
独立行政法人国立病院機構 舞鶴医療センター認知症疾患医療センター 川島 佳苗
介護予防サービス・支援計画表 記入のポイント.
Liverpool Care Pathway(LCP)日本語版の概要と開発経過
第35回 日本死の臨床研究会年次大会 .10 LCP日本語版 使用方法の実際 ~事例検討~
高齢者の救急搬送に係る意見交換会 資料7 1 意見交換会開催に至る経緯と今年度の取り組み  平成26年度    病院連絡会議にて,高齢者の救急搬送に関して,患者及び家族の延命治   療の希望確認ができているかの課題提起がなされた。  平成27年度   (1)介護サービス事業者協議会主催研修会および施設ごとの講演会の開催.
モジュール 8 臨死期のケア End-of-Life Nursing Education Consortium Japan
長崎がん相談支援センター なんでもおたずねください 吉原律子・平山美香・木場英郎 白髭 豊・ 鳥山ふみ子 長崎がん相談支援センター
緩和ケアチームの立ち上げ ー緩和ケア医の立場からー
LCP日本語版の使い方と プレテストの概要
2015年症例報告 地域がん診療連携拠点病院 水戸医療センター
在宅ホスピス緩和ケアにおける STAS-J利用の取り組み
「“人生の最終段階における医療” の決定プロセスに関するガイドライン」
総合病院国保旭中央病院 緩和ケア病棟 清水里香 舘山昌子 辻きみよ
Liverpool Care Pathway(LCP)日本語版ワークショップ
第34回 死の臨床研究会 ワークショップ 2010.11.6 LCP日本語版 使用方法の実際 ~事例検討~
輝いて、自宅で ~終わりよければすべてよし~
トータス往診クリニック 国立がん研究センター東病院 血液腫瘍科 大橋 晃太
がん患者の家族看護 急性期にあるがん患者家族の看護を考える 先端侵襲緩和ケア看護学 森本 紗磨美
各論1A【症例2】 訪問看護 1 痛みは緩和できているが寝たきり →本人の希望?ポート、カテーテルによる?
末期がん 【症例2】 ・口腔衛生不足 ・歯科疾患(う蝕・歯周病) ・口腔乾燥、口内炎、出血、 味覚異常など ・摂食嚥下機能低下
【「患者のための薬局ビジョン」における薬剤師・薬局の機能概要】
Liverpool Care Pathway(LCP)日本語版ワークショップ
安全管理体制とリスクマネジメント.
第7回 日本ホスピス緩和ケア協会近畿ブロック会 LCP日本語版 使用方法の実際 ~事例検討~
アウトカムとタスク.
Liverpool Care Pathway(LCP)日本語版の概要
看取りのクリニカルパス:Liverpool Care Pathway(LCP)日本語版の開発経過とパイロット試用の結果
Liverpool Care Pathway(LCP)日本語版
PEACE Palliative care Emphasis program on symptom management and Assessment for Continuous medical Education 1.
2015年症例報告 地域がん診療連携拠点病院 水戸医療センター
STAS-Jでの情報収集に困難を感じるのはケアの困難さと関連があるのか
在宅医療とは 入院・外来に次ぐ『第三の診療体系』 入院 外来 在宅 ・定期的な居宅での診療(診察) 慢性疾患の重症化予防、健康維持管理
筑波メディカルセンター病院 緩和ケア病棟 佐々木智美
いきいき笑顔応援プロジェクトによる支援の流れ確認シート
背景:在宅医療の現状と意義 入院・外来に次ぐ『第三の診療体系』として 入院 外来 在宅 意義 ・多様化する病態や『生き方』への対応
オフィス藤田 グループホーム燦々(さんさん) 看護師 介護支援専門員 古城順子
今後めざすべき基本目標 ―「ケアの流れ」を変える―
外来化学療法室におけるSTAS‐Jの活用と今後の課題
LCP日本語版の使用方法 東北大学大学院医学系研究科 保健学専攻緩和ケア看護学分野 宮下光令.
東北大学大学院医学系研究科保健学専攻緩和ケア看護学分野
大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 博士前期課程 市原香織
ケアマネジャーの皆様 利用者さんのことでの悩みや困りごと ありませんか? 地域の訪問看護ステーションに ぜひ、ご相談ください ☎
Liverpool Care Pathway(LCP)日本語版の概要
在宅医療施策の取組状況と今後の展開(案)
STAS-J症状版の作成と 評価者間信頼性の検討
緩和ケアチームの立ち上げ (精神科医として)
在宅 役割・準備・訪問   在宅における薬剤師の役割
がん地域連携パスについて (連携医療機関向け) 連絡先・お問合せ先 徳島大学病院 がん診療連携センター 担当:宮越・兼子
在宅医療をご存じですか? 編集:○○○○○ 訪 問 診 療 往 診 在宅医療を利用できる方(例) 在宅医療で受けられる主なサービス
在宅医療をご存じですか? 編集:○○○○○ 訪 問 診 療 往 診 在宅医療を利用できる方(例) 在宅医療で受けられる主なサービス
私のカルテ 発熱性好中球減少に対する予防的G-CSF製剤使用のための地域連携パス(通称:G連携)
Presentation transcript:

淀川キリスト教病院 がん診療センターがん相談支援室 市原香織 LCP日本語版の使用方法 淀川キリスト教病院 がん診療センターがん相談支援室 市原香織

そもそも…看取りのケアに クリニカルパスって? 治療・検査・ケア・処置・指導内容やタイミング、患者の状態などを時間軸に沿ってまとめたもの 医師・看護師・関連職種がどのような行動をしなければならないかが把握できるため、チーム医療に役立つ 患者は治療の概要をあらかじめ知ることができるため、安心して診療が受けられる ●個別性を重視した看取りのケアでもおさえるべき   標準的なケアがある ●経時的にケアを評価できるため見落としが予防できる ●患者・家族にケア計画を説明することも可能である

患者と家族が看取りの時期を安楽に安心して過ごせる LCPの構成 看取りのクリニカルパス:3セクションで構成 患者と家族へのケア目標(計14目標50項目)が設定 使用基準 初期アセスメントセクション1 継続アセスメントセクション2 セクション3 死亡診断 患者と家族が看取りの時期を安楽に安心して過ごせる

LCP日本語版使用基準 「看取り期」「日単位」「数日中の死が避けられない」状況での開始 ●プレテストでは1~2日から1週間以内 1.現在の症状について最善策を考慮し尽くし、患者に関わる多職種チームが予後数日または1週間程度と判断していること 2.下記の4項目中2項目以上が当てはまる 患者が終日が臥床状態である  半昏睡/意識低下が認められる 経口摂取がほとんどできない  錠剤の内服が困難である ●イメージは、終末期ではなく、 「看取り期」「日単位」「数日中の死が避けられない」状況での開始 ●プレテストでは1~2日から1週間以内  

LCPのサイクル 使用基準 初期アセスメントセクション1 継続アセスメントセクション2 セクション3 死亡診断 必要に応じてバリアンス分析 では、セクション1初期アセスメンについて説明します。 必要に応じてバリアンス分析

セクション1:初期アセスメント 疼痛、呼吸困難、気道分泌、嘔気・嘔吐などの有無…計12項目 目標1〜3 目標4〜5 目標6〜7 目標8 はい: 達成 LCP開始時の身体症状 疼痛、呼吸困難、気道分泌、嘔気・嘔吐などの有無…計12項目 いいえ: 未達成 (バリアンス) 目標1〜3 目標4〜5 目標6〜7 目標8 目標9〜10 不必要な治療やケアの見直し (頓用指示・治療・看護介入) 患者・家族の精神面/病状認識 宗教上の要望、信条の確認 家族とのコミュニケーション ケア計画の説明         …計11目標 23項目 該当なし 昏睡

セクション1:初期アセスメント バリアンスの記入 このページのバリアンス(「いいえ」の項目がある場合、そのバリアンスと対処等をここに記入する) 目標1 内服薬を中止し、注射・坐薬の指示に変更 目標2 頓用薬の指示を追加 目標3 定期採血を中止 目標3a 2時間毎の体位変換中止、エアマットへの変更 目標5 家族に予後を伝えていないため面談を設定   …など 目標で「いいえ」があったら、なぜそのようなバリアンスが生じたか、対処はどうしたかを記入する バリアンスとは?→クリニカルパスで想定された標準的な経過と患者の実際の診療経過とのずれ、逸脱

LCPのサイクル 使用基準 初期アセスメントセクション1 継続アセスメントセクション2 セクション3 死亡診断 必要に応じてバリアンス分析 次は、セクション2:継続アセスメントに進みます 必要に応じてバリアンス分析

セクション2:継続アセスメント 4時間毎と12毎の評価 達成:A バリアンス:V 4時間ごとに評価する目標 12時間事に評価する目標 症状:痛み,不穏・興奮,   気道分泌,呼吸困難など 処置:口腔ケア, 投薬         …など10項目 褥瘡、排便ケア 家族の病状理解 宗教/信条 家族ケア         …など5項目   

セクション2:継続アセスメント 原則として4時間毎、12時間毎に評価し、記入する 4時間毎と12毎評価 原則として4時間毎、12時間毎に評価し、記入する 評価の時間は厳密でなくてよい(看護師のラウンド時間に合わせてよい) 「その他の症状」は患者にとって苦痛な症状があれば、それを記入する 各目標について達成:A、バリアンス:Vに○をつけて、具体的な問題点を記入する 本来はバリアンスはバリアンス分析シートに記入するが、必ずしも義務ではない 継続アセスメントは、原則として4時間毎、12時間毎に評価し、記入します。 しかし、評価の時間は厳密でなくてもかましません。看護師のラウンド時間に合わせてよいかと思います。 症状は、必ずしもここで挙げられている症状のみとは限りません、患者にとってその他にも苦痛な症状があれば、縦軸に項目を設定しそれを評価します 先ほども申しましたが、各目標について達成:A、バリアンス:Vに○をつけて、Vの場合は具体的な問題点を記入します 本来はバリアンスは最後の6ページ目のバリアンス分析シートに記入するが、必ずしも義務ではありません。

バリアンス分析シートの例 バリアンス どのようなバリアンスがなぜ生じたか? 対処方法 結果 痛み ・痛みの訴え ・(痛みによる)呻吟 ・頓用の鎮痛剤投与 ・持続皮下注射の開始/増量 ・マッサージ ・軽減した 不穏 興奮 ・体動が増強 ・身の置き所がない ・不穏 ・苦痛様表情 ・頓用の鎮静剤投与 ・鎮静剤の間欠的な投与 ・傾眠している ・穏やかとなった ・体動が落ちいた 気道分泌の増加 ・痰がゴロゴロいう ・喘鳴 ・喘鳴と呼吸困難 ・家族の不安 ・頓用の抗コリン剤投与 ・抗コリン剤のCSIの開始、増量 ・モルヒネのCSI開始 ・吸引/口腔ケア、体位調整 ・家族への説明 ・軽減する ・軽減しない ・家族は理解している

バリアンス分析シートの例 バリアンス 対処方法 結果 その他の 症状 ・倦怠感 ・不眠 ・掻痒感 ・痙攣 ・ステロイドの増量 どのようなバリアンスがなぜ生じたか? 対処方法 結果 その他の 症状 ・倦怠感 ・不眠 ・掻痒感 ・痙攣 ・ステロイドの増量 ・夜間に鎮静剤の持続点滴 ・軟膏塗布 ・抗痙攣剤の使用 ・軽減した 口腔ケア ・乾燥 ・分泌物、吐物による汚染 ・体動、苦痛様顔貌となり中断 ・嘔吐を誘発し中断 ・口腔ケア ・見送り(次の機会に行う) ・部分的に施行 ・抗コリン剤舌下 ・輸液の減量 ・軽減する ・汚染が続く

LCPのサイクル 使用基準 初期アセスメントセクション1 継続アセスメントセクション2 セクション3 死亡診断 必要に応じてバリアンス分析

セクション3:死亡診断 目標11 目標12-13目標14 死後の処置の相談、実施 死亡後の諸手続きの案内患者・家遺族ケアの案内 死亡後の諸手続きの案内患者・家遺族ケアの案内             …計4目標4項目

評価方法(例) ●患者が苦痛を感じることなく安楽である ●患者が自らの病状を理解している 達成 ●家族が患者の病状を理解している ●付きそう家族のニーズが満たされている バリアンス (未達成) ●苦痛があり穏やかでない状況 ●患者が自らの病状を理解できない ●家族が患者の状況を理解できない ●悲嘆が強い ●付きそう家族が心身共に疲弊している 該当無し ●不必要な治療やケアが元々なされていない 昏睡 ●患者が既に昏睡状態で評価できない

バリアンスの活用(例) ケアの改善 ケアの見落とし、不十分さ システムの 改善 個別性への 配慮が必要な 個別のケアを 検討した結果 項目 ・痛みが早期に緩和されなかった ・尿意で覚醒し、不穏・興奮状態になった ・病状説明が不足していた ・口腔ケアを見落としていた ・家族の連絡先を聞き逃した ケアの見落とし、不十分さ ケアの改善 システムの 改善 ・患者の症状に合わせて頓用指が処方されていた ・あえて患者の病状認識を確認しなかった ・臨死期特有の避けがたい症状 ・家族の死が近いことの認識、介護疲れなど 個別のケアを 検討した結果 個別性への  配慮が必要な 項目

使用のポイント 目標の評価(達成?バリアンス?) に迷ったらその場にいるメンバーで話しあう 目標の評価(達成?バリアンス?) に迷ったらその場にいるメンバーで話しあう 個別性はバリアンスとして取り上げ、ケアの修正をチームで検討する その場限りの評価でなく、ケアが継続されるよう工夫する 記入もれをチェックする   システムをつくる

従来の記録からLCPへの移行① 従来の記録→LCPへの移行が本来の目的 しかし、これは日本の実情に合わないので、施設での記録で代用してもよい 施設の記録として認められ、オピオイドの投与などの必要な記録すべき行為を全て記録する必要がある 現在、電子カルテへの収載を2施設で検討

従来の記録からLCPへの移行② 継続アセスメントの記録の例 施設で用いている経時記録用紙や電子カルテなどに記入されていれば、二重記録をする必要はない 初期アセスメント→従来の記録→死亡診断という流れでよい 4時間、12時間毎の時間間隔や  項目などはLCPに順じていること が望ましい

LCPに期待していること LCPは看取りのケアの標準化を目指すツールであるが、ケアを画一的に行うものではない ホスピス・緩和ケア病棟においても従来  からのケアを見直し、評価するために  役立つ 一般病棟、在宅における看取りのケアの  充実にも期待できる

ご静聴ありがとうございました