Rebound HyperGlycemia Caused by GLP1 Tachyphylaxis (RHGT) という造語を創った背景 GLP-1タキフィラキシーとは、GLP-1濃度をあげるインクレチン治療が、しだいに、効果が薄れてきくることを意味します。ここで、Rebound Hyperglycemica caused by GLP1 Tachyphylaxis, というコンセプトについて解説します。長いので、ここでは、RHGTと、略します。 実は、この概念は、GLP-1タキフィラキシーの結果、一度、低下した血糖値が、ふたたび、リバウンドするように、あがってくることがあります。その結果、せっかく、導入できたGLP1受容体作動薬治療が、無駄になってしまうような現象を、こういう用語で、呼ぶということにしました。
Gastric Emptying time Regulation 健常者 糖尿病患者(早期) 糖尿病患者(進行例) シタグリプチン投与例 GLP-1注射剤投与例 、これは、正常の人の、胃排出を表した血液中のアセトアミノフェン濃度の推移カーブを表しています。(クリック)。赤で示したカーブが、私が、想像する多くの、糖尿病患者の、胃排出カーブ曲線です。胃排出が亢進しているため、胃にはいった食物は、どんどん、速い速度で、小腸へ、移動します。小腸上部で、ブドウ糖は吸収されますから、当然、食後の高血糖を起こしやすくなります。インクレチン治療をもちいて、胃排出速度を低下させてしまえば、食後高血糖はおこらなくなります。DPP4阻害薬を投与すると、(クリック)、おそらく、このように、胃排出は正常になるのでしょう。ただし、(クリック)、このように、自律神経障害が進行してしまっていて、胃排出能が本来、低下してしまっている患者にとっては、インクレチン治療は、効果を示さないかもしれません。(クリック)。GLP1受容体作動薬、例えば、リキスミアを投与すると、胃の排出の速度は、この図の茶色の図のように低下します。 Adapted from DeFronzo RA,et al.Curr Med Res Opin.2008;24(10)2943-2952
GLP-1 Tachyphylaxis Nausea relieved. 健常者 糖尿病患者(早期) 糖尿病患者(進行例) シタグリプチン投与例 GLP-1注射剤投与例 GLP-1タキフィラキシーという用語は、HbA1cは、ふたたび、再上昇しはじめて、もとのレベルにもどってしまいやすい現象をさします。 この、茶色の線が、抑えられて下にあったのが、しだいに、抑えられなくなって、上にあがっていくことを、タキフィラキシー、と、よぶわけです。 例えば、朝、ビクトーザを注射すると、就寝前に、異様な空腹感を感じなくてはいけない、というような事態に陥りやすくなります。もし、そこで、なにか、食べてしまうと、当然、高血糖になります。ビクトーザは、インスリンとの併用ができませんから、当然、就寝前や夜間に高血糖が続いても、それを、さげる術はありません。よって、GLP-1タキフィラキシーは、一度、おきてしまうと、なかなか、コントロールが難しい問題なのです。日本の場合には、ビクトーザは、アメリカの最大投与量の、1.8mgまで注射をすることができません。0.9mgまでしか、投与できないのです。よって、ビクトーザは、とても処方しにくい薬剤となりました。その結果、今の日本では、GLP1受容体作動薬の代表は、リキスミア、と、ビデュリオン、との、2つに別れていくのではないだろうか、と、私は考えています。 Adapted from DeFronzo RA,et al.Curr Med Res Opin.2008;24(10)2943-2952
悪心、嘔吐が、数週間たてば、治まるという意味で、 ビクトーザが発売された。その時点でのGLP1タキフィラキシー アメリカでの発売は、バイエッタが最初。 悪心、嘔吐が強かった。 悪心、嘔吐が、数週間たてば、治まるという意味で、 ビクトーザが発売された。その時点でのGLP1タキフィラキシー は、むしろ、ビクトーザの「効能」という利用された。 日本ではビクトーザは、海外設定用量の半分、0.9mg/日に 設定され、かつ、併用薬がSUだけだった。 実は、このGLP-1タキフィラキシーは、アメリカでは、最初のころは、GLP1受容体作動薬の長所を、表現する用語として使われ始めました。つまり、アメリカでは、ビクトーザの前に、バイエッタが、発売されていました。ところが、バイエッタは、悪心、嘔吐が強かったので、患者さんたちの、QOLが低下していたのです。 そのあとに、ノボノルディスクファーマ社が、ビクトーザを発売しました。その時、ビクトーザは、悪心、嘔吐が、しだいに消えていくので、一過性で治まります、ということを、特徴とした製剤として、キャンペーンを行いました。ですから、この段階では、GLP-1タキフィラキシーは、むしろ、ビクトーザの長所、ビクトーザの効能のひとつ、という理解でした。 ところが、ビクトーザが日本で発売される時になると、用量は、海外設定用量の半分である、0.9mgしか、1日で投与できないことになりました。また、併用できる薬剤は、SU剤のみ、という制限がありました。 この結果、ビクトーザの作用は、まず、最初から弱いレベルで設定されました。海外のように、1.8mgまで増量ができないのです。それで、0.9mgでも、HbA1cがさがらず、どうしても、なんとか、さげようとして、SU剤である、アマリールを併用するようになります。 ところが、アマリールは低血糖を起こしやすくします。ですから、空腹感が強くなります。もともと、ビクトーザはGLP-1タキフィラキシーがおこりやすく、食欲抑制作用が弱いし、短い時間で作用がきれたところに、あえて、アマリールのような空腹感が強い薬剤が作用していたとしたら、どうなるでしょう? 結局、患者は、ビクトーザを注射して、効果がある時間帯に、食事をたべていなかった時間にとれなかった分のエネルギーを、空腹感がでてきたら、急に、とりもどそうとするわけです。その結果、ビクトーザを朝、注射しても、夕食後になると、GLP-1作用がきれてきて、むしろ、就寝前には、お腹がすいて、たまらない、という状況ができやすくなります。そして、ついつい冷蔵庫をあけて、食事をとってしまい、暴飲暴食の日々に、戻ってしまうわけです。 その結果、私の外来でも、他の医療施設でも、約3分の2以上の症例で、HbA1cのリバウンドが認められるということも報告されるようになった。 食欲低下は長持ちせず、就寝前の耐えられない空腹感がのこった。 3分の2以上の症例で、HbA1cのリバウンドが認められた。
Rebound Hyperglycemia caused by GLP-1 Tachypylaxis 歴史的経緯から、糖尿病治療にとっては、望ましい現象と とらえられがちである。特に、アメリカにおいては、その傾向がある。 Rebound Hyperglycemia caused by GLP-1 Tachypylaxis このように、GLP-1タキフィラキシー、という用語を、安易に使っていると、良い意味にとらえられたり、悪い意味にとらえられたり、と、様々なとらえられ方があります。アメリカでは、比較的に、良い意味にとられる傾向があります。歴史的経緯から、糖尿病治療にとっては、GLP-1タキフィラキシーがおこると、悪心、嘔吐が消えやすいという意味での、望ましい現象ととらえられがちである。 ところが、日本では、GLP-1タキフィラキシーによって、一度は血糖コントロールが成功しても、リバウンドを起こしてしまうので、GLP-1タキフィラキシーは、けっして、良い意味にはとらえられません。その違いを、しっかりと用語として、わけておかないと混乱がおこると考えて、あえて、私は、RHGT、つまり、Rebound Hyperglycemia caused by GLP-1 Tachypylaxis という用語を作りました。こういう用語をわけることで、GLP-1タキフィラキシーに対する、良い意味で使っているのか、悪い意味で使っているのか、を、理解しやすくしました。なお、このRHGTについては、外来で、論文にして、まとめて投稿中です。 日本においては、GLP-1タキフィラキシーによって HbA1cがリバウンドしてしまった現象を、あえて、 RHGTとして、呼び、定義しなおすべきではなかろうか?
(submitted, not open, confidential data) ‘Basal supported Oral Therapy with Sitagliptin’ counteracts ‘Rebound Hyperglycemia caused by GLP-1 Tachyphylaxis’ Shu Meguro 1, Toshihide Kawai 1,Tomohiro Matsuhashi 2, Motoaki Sano 2, Keiichi Fukuda 2, Yoshihiko Suzuki 3 1:Department of Internal Medicine, School of Medicine, Keio University, 2: Department of Cardiology, School of Medicine, Keio University. 3:HDC Atlas Clinic, まだ、投稿中の論文の内容を、お話します。そのため、この内容は、機密情報として、発表させていただきます。口外されないよう、よろしくお願いいたします。 タイトルは、‘Basal supported Oral Therapy with Sitagliptin’ counteracts‘Rebound Hyperglycemia caused by GLP-1 Tachyphylaxis’ つまり、GLP1受容体作動薬を使っている患者が、RHGTを起こし、リバウンドを起こしてきても、そうした患者に、ランタスとDPP4阻害薬であるシタグリプチンを併用すれば、リバウンドに対して、抵抗できるという現象を示した臨床成果です。 多くの患者が、ビクトーザをうけたが、残念ながら、HbA1cが、どんどん、あがっていきました。そのような時に、ランタスとシタグリプチンを併用したら、HbA1cのあがりが止まったのです。 (submitted, not open, confidential data)
AIM: to assess the switching effect from GLP1 agonist therapy to basal supported oral therapy (BOT) on glargine and glimepiride with sitagliptin, on glycemic control and on weight in Japanese patients of type 2 diabetes. METHODS: Participating patients were 12 men and 3 women (age: 59.9±10.0 years) who had been treated with GLP1-agonists. All of them previously suffered from ‘Rebound hyperglycemia caused by GLP1 tachyphylaxis’. With them, GLP1-agonist based therapy was switched to BOT (basal supported oral therapy) on glargine and glimepiride with sitagliptin therapy. The primary analysis assessed whether switching was associated with the change of HbA1c and weight-gain. この研究の目的は、2型糖尿病においてGLP1受容体作動薬において、血糖コントロールが巧くできなかった患者に対して、ランタスを使ったBOTに対して、シタグリプチンを追加し、つまり、BOTに、GLP1を増やす治療をすることで、血糖コントロールができるか、ということを調べたものです。 方法は、男性12名、女性3名。平身年齢60歳前後です。全員が、治療変更する前は、RHGTで、悩んでいた糖尿病患者ばかりでした。 それを、BOTと、シタグリプチンを追加した治療法に切り替えました。また、その時には、アマリールも併用し、ランタス、アマリール、と、インクレチン治療を、3つの作用を併用し、RHGTを、乗り越えるのか、どうかを調べたものです。
RESULTS: In all 15 patients, HbA1c was 8. 0±0. 9 % on baseline RESULTS: In all 15 patients, HbA1c was 8.0±0.9 % on baseline. After the switching, HbA1c decreased to 7.3±0.9 % at 3rd month (p<0.01) and 7.2±0.9 % at 4th month (p<0.05). Weight gained 1.1 kg at 1st month (p<0.01) and 2.3 kg at 5th month (p<0.01). CONCLUSION: The switching to BOT on glargine and glimepiride with sitagliptin improved glycemic control. The significant decrease in HbA1c proved that this combination therapy could counteract the worsening glycemic control due to ‘Rebound hyperglycemia caused by GLP1-agonists tachyphylaxis’. However, weight gain remained as a problem. 結果は、HbA1cが、8%前後だった血糖コントロール不良の状態が、なんと、治療を変えることで、3ヶ月後には、7.3%にまで、落とすことができました。4ヶ月までみると、7.2%まで低下しました。その際、体重は、5ヶ月で、2.3kgの増加を認めました。 その結果、BOTを、ランタスにして、シタグリプチンを追加した治療は、血糖コントロールに対して、RHGTの問題を解決する一方策であることを示すことができました。しかし、本来、GLP1受容体作動薬の治療は体重を落としますが、ランタスを中心としたBOT療法は、体重を増やします。したがって、この治療変更によって、体重が増えることは、容易に予測できましたが、2.3kgを増えていました。本来、体重減少が期待されていたのですが、体重が増加するというのは、問題ではありますが、しかし、HbA1cは、あきらかに低下させることができました。 よって、GLP-1タキフィラキシーは、この、ランタスを用いたBOTと、インクレチン療法との併用で、解決できるということが分かりました。
Change of HbA1c このグラフは、HbA1cの変化を示したものです。明らかに、3ヶ月目には、顕著に、HbA1cがさがっている状況があることが、わかります。4ヶ月目までは、どんどん、下がっているということがわかります。このように、急激に下がっている時には、配分食を利用し、低血糖を起こさないように、と、配慮をいたしました。これまで、GLP-1タキフィラキシーに対して、真っ向から、新しい治療に切り替えて、明確な成績をだした臨床成績は、報告されていないように、思います。ですから、この成績は、人数は少ないのですが、世界では、最初という意味で、非常に価値がある臨床成果であると考えています。 Conclusin; this study first proved that an oral incretin-based treatment strategy with sitagliptin and glargine may be an efficient and safe approach in patients with type 2 diabetes mellitus when the patients are suffered from RHGT.
Change of body weight (weight gained apparently after 1 month of switching. 1 month: p<0.01) これは、体重が増えている様子を示しています。GLP1受容体作動薬は、体重を減らす薬です。それを、まず、すぱっとやめることで、体重が増えてくることは、当然、予想できましたが、なんと、切り替え後の1ヶ月後から、すぐに体重が増加するとは、驚きでした。食欲に対する抑制効果が、治療変更によって、急激に変わったことを意味します。
Change of body mass index (weight gained apparently right after 1 month of switching. 1 month:p<001, the other months:p<0.001) Body mass index も、体重の増加と同じ傾向を示しました。そうはいっても、BMIが、25以下だった患者が、25.5くらいに増えたくらいですから、アメリカのレベルからみれば、非肥満から、25をこえて、やや肥満になったくらいの程度です。肥満か、肥満でないか、を、いききをする程度の変化なので、さほど、臨床的には、問題になりません。もし、将来、SGLT2阻害剤などが、インスリンやインクレチン療法などと併用できるようになれば、すぐに、相殺できる程度の体重増加であることがわかります。
ランタスは、興味深いことに、11単位から、10単位に減っていました。これは、HbA1cが低下したことで、ランタスの量を減量をせざるを余儀なくされた患者がいたことを示唆します。インクレチンの治療の追加によって、必要インスリン量が減ったことを意味しますが、しかし、その量は、ランタスインスリンにして、1単位しか、減りませんでした。また、アマリールの量も、2mgから3mgの間でした。これは、BOTにシタグリプチンを追加した時には、アマリールの量は、4mgだったことと、やや対照的です。おそらく、GLP1受容体作動薬を処方していた時期に、体重が減って、インスリン抵抗性が下がり、必要インスリン量が、少なくなっていたことを意味します。ですから、ランタスの量も、アマリールの量も、少なめで、済んだのでしょう。それに比べて、メトフォルミンは、やはり、1400mg、を必要とし、シタグリプチンは、100mgを必要としていました。この、シタグリプチンとメトフォルミンとの併用で、GLP1受容体作動薬の治療に変わるGLP-1濃度上昇を維持しようとしていたことがわかります。
Rebound HyperGlycemia Caused by GLP1 Tachyphylaxis (RHGT) 内服薬剤が多い。 種類も多い。 錠数も多い。 BOT + DPP4阻害薬 + SU + メトグルコ中心で、 HbA1cは、下げることができた。 ランタス+リキスミア+SU で対応できる可能性が高い。 リキスミアを採用すれば、 このように、日本では、広く、RHGTが認められ、問題となりつつありました。それに対して、これまでは、明確な答えがありませんでした。ビクトーザの用量設定が、欧米より、低かったことが、最大の原因だったかもしれません。ですから、リキスミアが発売されたあとの、現代では、この問題は、ビクトーザをリキスミアに切り替えることで解決できるかもしれません。ただ、ここで、強調したかったのは、もし、RHGTがおこった場合に、ランタス、リキスミア、と、アマリールの併用にできる、可能性が高いということです。これは、注射の回数が1回、増えることで、患者によっては、マイナスのイメージでとらえる人もおりますが、よく考えると、メリッットは大きいのです。まず、BOTのままで継続していれば、様々な糖尿病治療薬と併用してしまいますが、そうすると、内服薬剤が増えるだけで、種類も増え、錠数も増えていきます。これに対して、思い切り、リキスミアを採用すれば、メトグルコやDPP4阻害薬は服用しなくて、すみます。メトグルコは、1日9錠、服用しなくてはいけないという煩雑な薬剤ですが、それから、解放されるのは、QOLを大きく高めます。かつ、朝と就寝前の注射の2回だけですから、日中は、注射器を携帯しておかなくても大丈夫になります。 今回の、RHGTから、BOTとシタグリプチンに切り替える治療法の成功は、このようにして、将来、ランタスとリキスミアとSUとの、シンプルな組み合わせが有効であることを示唆する、きわめて重要なデータであると考えます。 DPP4阻害薬、1剤か2剤。 メトグルコ3錠から9錠合計10錠前後の内服薬を服用する煩雑さがなくなる。