学習意欲と自信の回復を目指す一連の音読指導

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学習意欲と自信の回復を目指す一連の音読指導 動機づけと集中度をどう維持させたか 全国英語教育学会 (第34回東京大会)  課題研究フォーラム 問題別討論会 音読の役割と位置づけ 鈴木政浩 (西武文理大学)

衝 撃 の 事 実 / コ メ / / カ メ / / オ ネ / / タ ケ / come came one take 衝 撃 の 事 実 / コ メ / / カ メ / / オ ネ / / タ ケ / come came one take  文字と音を一致させることの出来ない学生は、英文を前に教師が何かしらの説明をしたところで、理解することはできない。なぜなら、「英文中にはteachの過去形でtaughtというのがありますが・・・」と説明したところで、taughtを探している間に説明はどんどん進み、結果教師の説明を理解しないばかりか、taughtという単語にもたどり着けない。こうした経験を数回すれば、授業を聞く気力もなくなってしまうのが現状であろう。そういう意味で、decoding skillsを伸ばす音読は、こうした学生には極めて重要であると考える。 アルファベット読みができればまだ良い方 現状としては中学2年生の検定教科書がなかなか読めない学生が多数存在

学生のパフォーマンス 指 導 前 指 導 後 その後 洋画のワンシーンから 朗読シャドーイング なりきりシャドーイング 指  導  前 指  導  後 その後  学生の英語学力について悲惨な状況をご紹介した。指導前の音声は、1年次に音読指導を十分にされていない学生(現在2年生)が英検3級の長文問題を読んだものである。指導後の音声は、十分な音読指導を受けた現2年生が同じ英文を読んだものである。明らかに自信を持って読み上げている。  こうして十分な音読指導を受けた学生の中には、洋画の音声を聞きながらシャドーイングする「朗読シャドーイング」や、CNNの音声をシャドーイングする「なりきりシャドーイング」に取り組む学生も少なくない。こうした取り組みは、録音して映画のシーンに組み込んだり、ビデオ撮りして鑑賞し合う。  音読やシャドーイングの取組では、こうした形でゴールを設定してあげたり、プロダクツを残して学習成果を自分で確認できるようにしてあげることが極めて重要となる。 洋画のワンシーンから 朗読シャドーイング なりきりシャドーイング

即効性と天井効果 いずれも鈴木・阿久津(2008)より 下位群のこの部分の伸びが上位群よりも顕著に見える・・・ 下位群が追いつきそうな勢い 表1 上位群・下位群平均の推移 Pre Int Post 下位群 10.47 14.40 17.73 上位群 17.07 19.40 20.87 下位群のこの部分の伸びが上位群よりも顕著に見える・・・  2008年度前期実施した実験から。埼玉県内の大学1年生を対象に、5回の授業で英検3級のリスニング問題をtranscriptを見ながら音読(パラレルリーディング)させた。Pre-testは4月第1回の授業で実施。Interim testはパラレルリーディングにのみ取り組んだ5回の授業後に実施。その後筆記テストの音読にも取り組み、7月に実施したのがPost-testである(いずれも英検3級2006年度第1回から第3回までの問題を採用)。図1と表1のデータは、リスニングテストの結果である。  全体としてスコアは伸びているが、特に下位群の伸びが顕著。Post-testのスコアの差を検定したが、上位群の平均に有意な差は認められなかった。クラス全体としてスタートラインに着いたと言ったところ。  下位群に関しては3回のテストすべてに有意な差が認められた。これに対して上位群は、Pre-testとInterim testの間に有意な差はなかったが、Pre-testとPost-testに有意な差が認められた。さらに、Pre-testとPos-testを分散分析(2要因2水準反復測定)にかけたところ、交互作用が認められた(有意傾向)。下位群の学生に関しては、指導を続けたことによるリスニングテストの上昇が裏付けられた形となった。  このデータに見られるように、下位群の上昇が顕著であるという即効性と同時に、上位群の伸びが緩慢であるという天井効果がみられるのが音読指導の特徴である。  詳しくは、鈴木・阿久津(2008)を参照されたい(音読指導研究会ホームページにアップロードの予定)。 下位群が追いつきそうな勢い 図1. リスニングテスト スコアの伸び(上位群 下位群の比較)

実測 繰り返し読み 飯野・阿久津・鈴木(2007)より 測定方法 テキストを5回読み1回測定 →5回繰り返し 有意な差が認められた部分 実測 繰り返し読み 飯野・阿久津・鈴木(2007)より 測定方法 テキストを5回読み1回測定 →5回繰り返し 有意な差が認められた部分 1回目と3回目 2回目と5回目 1回目と5回目 中学生のデータに有意差なし  音読指導研究の分野では、海外の研究に繰り返し読みの効果が強調されている。図2のデータは、音読能力測定ソフトSpeaK!(ライトハウス社提供)による音読スコアを数値に変換した結果である。  中学生は明らかに飽きが早く、3回目の測定で減速しているが、中学生大学生ともに20回の練習までは伸びが確認できた。 図. 2  大学生と中学生の音読スコア推移

ANOVA (Repeated Measurement) 反復測定・・・同じクラスのスコアの伸びが偶然なのかそうでないのか確認する処理 表. 2 音読回数間のペアごとの比較結果 (Bonferroni法) (I)測定 (J) 測定 平均値の差 (I-J) 標準誤差 p値 1回目 2回目 -5.278 2.572 0.479 3回目 -8.917(*) 2.46 0.009 4回目 -8.222 3.063 0.111 5回目 -13.000(*) 2.769 -3.639 2.405 1 -2.944 2.425 -7.722(*) 2.481 0.038 0.694 2.562 -4.083 2.749 -4.778 2.457 0.602 * 平均値の差は5%水準で有意 (大学生のデータ) 図2の結果を分散分析にかけた結果が表2である。

例外的データ ・・・ 自己補正能力 鈴木 (2008a) 上下を繰り返すだけで、ほとんどスコアの伸びが認められない学生 例外的データ ・・・ 自己補正能力 鈴木 (2008a) 上下を繰り返すだけで、ほとんどスコアの伸びが認められない学生 モデル音声を聞くだけでは、 正しく再生できない学生  平均値としては順調な伸びを見せてはいたが、個別のデータを分析すると、まったく伸びが確認できない学生のデータもあった。練習中の学生の様子を観察したが、さぼっている様子はなく、むしろ懸命に練習をしているが、音声を聞いただけでは正しい発音に近づくことができないことがわかった。こうした学生は自己補正能力が著しく低く、個別指導が必要となる。 自己補正能力の著しく低い学生の存在 図3. 例外的データ 音読指導が徹底しないのは、学習者の怠惰だけが原因とは限らない

前期前半 音読指導のプロセス 自己補正能力の確認 基礎テキストのパラレルリーディング 単語の意味調べと訳 基礎テキストのシャドーイング 前期前半 音読指導のプロセス 自己補正能力の確認 個 別 指 導 基礎テキストのパラレルリーディング 単語の意味調べと訳 効果測定 基礎テキストのシャドーイング  前期の特にはじめの頃には、自己補正能力の比較的高い学生と著しく低い学生の見極めをする必要がある。個別に音読に取り組める学生には自作の学習支援用ホームページを利用し、どんどん音読に取り組ませる。そうでない学生には個別指導を施しながら、授業に参加させる。 コンピュータソフトウエアを使った独習 応用テキストのシャドーイングと録音 応用テキストのシャドーイングとビデオ収録 → 朗読シャドーイング → なりきりシャドーイング

自己補正能力確認用教材のページ パラレルリーディングのページ シャドーイングのページ  実際に活用した学習支援用のホームページ。研究室にサーバを立て、大学のメインサーバーに認証をしてもらい、学内のどこからでもアクセス可能とした。授業はCALL教室を使用し、学生は各自がパラレルリーディングやシャドーイングに取り組み、音声と同じ速度で読めるようになったら挙手する。教師は音声と同じ速度で音読しているか確認し、できていたらスタンプを押す。 パラレルリーディングのページ シャドーイングのページ

取り組み点検表 活用法 学生が個別に練習 できると思った部分のテスト 個別指導対象者の洗い出し 合格者にはスタンプ  パラレルリーディング、シャドーイングの点検に使った表。合格した者はスタンプを押してもらう。たいていの学生は、その気になれば最初の授業である程度進むが、2回目の授業でもNo.5あたりまで合格しない学生は、自己補正能力が著しく低いので、個別指導の対象とする。 活用法 学生が個別に練習 できると思った部分のテスト 合格者にはスタンプ 個別指導対象者の洗い出し (No. 5までなかなか終わらない学生)

コンピュータ ソフトウエアの可能性 SpeaK!(ライトハウス社) どんな英文でも取り込み可 取り込んだ英文の読み上げ 単語ごとに発音を確認 単語の意味を表示 学習者の音読を録音 音読のスコアを提示 その他 リピーティング 動画や音声ファイル貼り付け  ビジュアルに音読能力を判定してくれるSpeaK!。洋画や海外のニュースのシャドーイングの際には、教師に代わって大きな役割を果たしてくれる。自己補正能力を高め、各自で音読できるようになった学生には、やるべきことはたくさんある。また、音読を自力でできるようになった学生は、面白いほど積極的に英語の勉強をするようになる姿が観察できる。 Autonomous learners育成 音読の動機づけ維持 SpeaK!の音読測定画面

挑戦! シャドーイングまでの音読訓練 音声試聴 再試聴 単語ごと →単語一息3回(5回) 誤解とやる気 語句ごと →語句一息3回(5回) 単語ごと   →単語一息3回(5回) 語句ごと   →語句一息3回(5回) 一文ごと 一文一息3回(5回) 5分(3分)読み 語数計測(5分間で何語読めたか) 誤解とやる気  シャドーイングに取り組むのが始めての学生も多いため、できるだけモデル音声の速度に合わせて読めるような訓練方法を提示する。  単語レベルの音読から始め、語句レベル、文レベルと発展させ、5分間ひたすら同じパッセージを読み、音読できた語数を計測させる。そうすると最初に聞いて難しいと感じたモデル音声が、さほど早くないと感じるようになり、さらにやる気を出す。

相転移(パラレルからシャドーイング) 無限のexposureへ 文字依存・暗記からの脱却 →上を見ながらのシャドーイングから正面を見てのシャドーイング ゴールを示す 語数、録音、ビデオ収録 自信につなげる ねばり強い励まし インタラクション  シャドーイングに取り組み始めてすぐ観察できるのが、天井を見ながらのシャドーイングである。これは学生が英文を暗記して音読しようとしていることから生じるもので、この段階ではいくら練習しても成功しない。視線を下げ、聞いたものから口に出すようにさせるまでが一苦労である。  シャドーイングは発音を矯正するといわれる。「相転移」という用語があるそうだが、パーキンソン病の患者にランニング練習の機会に乗ってもらい、歩く速度を徐々に速くすると、身体がその速度に慣れて歩けるようになる瞬間があるのだそうだ。実際にそうしたことをしているのかどうかはわからないが、一語一語に気を取られず、モデル音声をそのまま口にするシャドーイングには同様の効果があるようで、確かにシャドーイングで発音がよくなる学生の姿は日常的に見られる。  スライド3にある「なりきりシャドーイング」の取り組みでは、通学の列車内でも学内でもCNNの音声を聞き続けたと学生が言っていた。通学時間だけで見積もっても、1つの音声を2000回から3000回は聞いたことになる。ビデオ収録を終えた学生は、「この単語はぜってー忘れねー」と口走っていた。 無限のexposureへ

音読の役割および位置づけ 丁寧な指導により比較的短期間に効果が出る(即効性) 取り組むテキストの質や量(天井効果) 多様な指導技術の駆使による、英語学習に対する意欲の持続 英語学習に対する自信回復 聞き手の設定(インタラクティブな活動と次の学習意欲) 録音や録画などによる、取り組みの成果(プロダクツ) → 学習成果の確認とその後の学習動機 ゴールを明確に示すことによる、集中度の高い練習  本発表の主題である、音読の役割および位置づけをまとめた。

参考文献等 飯野厚・阿久津仁史・鈴木政浩(2007). 「音読ソフトを利用した音読能力のスコア化:習熟度との関係および繰り返し音読によるスコア変化の検証」『関東甲信越英語教育学会紀要』第21号, pp.37-48. 鈴木政浩(2008a). 「音読指導の盲点を踏まえた実践例」 Interactive, Vol.24, pp7-9. 東京:旺文社. 鈴木政浩・阿久津仁史(2008) 「大学における英語基礎学力保障のための音読指導(コンピュータ・ネットワークを利用した指導実践事例) 」 日本リメディアル教育学会第4回全国大会 口頭発表

ホームページURL → http://langedu.dip.jp/or/