障害者雇用の賃金 と その意味           金沢大学大学院                 阿地知 進  

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障害者雇用の賃金 と その意味           金沢大学大学院                 阿地知 進  

割当雇用制度(義務雇用制度) 障害者の雇用促進等に関する法律 →改正案 平成25年6月19日に交付 →平成26年2月19日より日本において (昭和三十五年七月二十五日法律百三十二号)  →改正案 平成25年6月19日に交付  →平成26年2月19日より日本において   効力を生ずる  「障害者の権利に関する条約の批准」  →平成28年より障害者差別解消法施行

割当雇用制度から差別禁止法へ ・割当雇用制度  ~事業主に   割当数に達するまでは、求人等の状況に関   わりなく、障害者にあった仕事を作り出す   ことを課す ・差別禁止法   求人内容に合致する障害者であれば、就業   保証を課す

「健常者の恩恵や同情を背景に、障害者雇用促進法に基づく、経営者の不利益を解消することを眼目とするもの」 障害者の視角からは どちらの制度にしても 「健常者の恩恵や同情を背景に、障害者雇用促進法に基づく、経営者の不利益を解消することを眼目とするもの」 働くことが 「権利」ではない 「恩恵や同情」という不確実なもの

➣障害者の権利としての労働ではない そして ➣健常者の恩恵や同情の産物としての 障害者雇用 ダブルカウント方式の問題点 特例子会社の問題点 ➣障害者の権利としての労働ではない そして ➣健常者の恩恵や同情の産物としての   障害者雇用                         ダブルカウント方式の問題点      特例子会社の問題点  

障害者の雇用 事業者にとって 経済競争上不利になるという “不公平感”の存在 障害者は「デキナイ労働者」 →暗黙の了解で  制度にも反映

日本の障害者雇用施策は、割当雇用制度によって事業主に一定割合の障害者を雇用することを義務づけ、 障害者を雇用しない事業主から納付金を徴収し、 それを財源に、 障害者雇用を積極的に進める事業主に対し、 調整金や助成金を支給するというもの

具体的には 割当雇用制度および障害者雇用納付金制度を中心としつつ、 重度障害者の雇用促進のためのダブルカウント制度や、 大企業における障害者の雇用促進のための特例子会社制度などを組み合わせた制度となっています

しかし、このような、 「障害者の為に行われている制度」が “特別の意味を持った雇用”を生み、 障害者の雇用に、 いくつものディスアビリティを形成していると言えます

特別な意味を含んだ雇用 障害者雇用率の達成 重度障害者の雇用促進 給与、昇進等の不明確な雇用 有期雇用等の不安定雇用 職能ではなく障害者としての雇用

特別な意味を含んだ雇用 ⇒いくつかの障壁 ⇒とてもディーセントワーク*とは言えない        *働きがいのある人間らしい仕事

割当雇用制度に見られる、障害者は「デキナイ労働者」という観念からは、費用対効果という物差しで測ってゆけば、 障害者を雇用することは、いかにも不利に考えられ、 障害者の雇用の条件は、 賃金をはじめとして、不利なものとなっている

ここで、賃金を、 「労働の再生産費的」に考えれば、 その報酬で生活のすべてを賄い、 将来の、人並みの暮らしが見通せて、 次の日の労働を意欲を持って迎えるような 賃金である

中小企業家同友会の沖縄や京都の事例では、 障害者の1人1人と面接して、収入の状況と生活の状況 そして将来のビジョンなどを聞いて、労働時間や工賃を考慮して、 賃金を決めている (費用対効果は前面には出てこない)

障害者の雇用を考える時 費用対効果という価値観を離れ その賃金で生きて行けるようなものが 必要

障害者雇用の賃金とその意味 〇賃金の考察  労働の再生産費的賃金  →議論は産業革命後の組合活動まで遡る (D.リカードの賃金生存費説) *賃金に意味がある  現在の法律では 「賃金・手当・賞与など名称のいかんを    問わず労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」 *賃金の意味が分からない

労働者が、賃金だけで生きていくためには 労働の再生産費的賃金が必要  →費用対効果による工賃以上のものが含       まれる ex.各種手当  健常者においても、ワーキングプアーといったことが問題になるように、 「労働の再生産費」 という観念ではなく、 「相対的な賃金」が主流である

障害者を考える時 不利益の複合化 →同じような  低賃金・貧困・失業などの不利益も、障   害者においては、複合的に作用する “複合差別” なども参照

また 障害者の労働が権利として認識されても、工賃的収入や相対的賃金では、生きては行けない そもそも 資本主義には、福祉という考えは存在しない→1930年代「体制の転換」の危機で、   修正資本主義として取り入れられるが、   論理矛盾が存在する だから、費用対効果による判断を絶対とするわけにはいかない

①ベーシックインカム的な収入構造 得られる収入 + 補填される収入 =生活できる収入 ∴補填される収入= 生活できる収入          - 得られる収入 補填される収入    =ベーシックインカム的な収入 *得られる収入と補填される収入のバランスはフリーなものに

②制度的支援 国家的扶助制度として 就労継続支援事業のように事業所に給付するのではなく 障害者個人に扶助する制度が望ましい

③民間での取入れ 制度を変えてゆくことは時間がかかる 民間でのこのような障害者雇用の試みは 自己の経費で行われている

障害者の人権と人間らしい仕事 太陽の家の活動 中小企業家同友会の活動 恩恵や同情ではなく 理念的必然性

「理念的必然性」 太陽の家は工学的な工夫で失われたものを補えば、障害者にも輝くものが必ずあるという方向(労働者観) ~世に心身障害はあっても仕事に障害はありえない

「理念的必然性」 中小企業家同友会の活動 ~中小企業の宿命として、地域と密着しなければならず、障害者等の就労困難者を雇用することは避けられない むしろそのような人たちの雇用が新たな顧客を呼ぶことになる方向を探る

「理念的必然性」 障害者が雇用主となる、あるいは、多くの発言権を持つ経営体 ~障害者が、経済力を持ち自立できる  ことは自分自身の問題として切り離すことはできない

そして 就労継続事業のような支援では、障害者 が、雇用する側に入れない構造 →事業所の職員と利用者では大きく収入  が違う

④ベーシックワークと収入補填やワークフェアとの根本的違い 自治体が働きたい市民に一定時間の就労を保障する仕組み 仕事が固定される →就労継続支援と似ている

ワークフェア ワークフェアとベーシック・インカムは完全雇用の破綻が進行する社会の中で、保障を伴った雇用の柔軟化に対応するという共通点を持っている。福祉と就労を切り離すところに特徴があるベーシック・インカムと、福祉と就労を結びつけようとするワークフェアは、共に社会的排除への対応策としての役割を持つけれども、制度の考え方の方向性は全く逆を向いていると言える。 「ベーシック・インカム実現への道―世帯別の試算に基づく考察」上田利佳(2010)

仕事の選択の自由 余暇の取り方の自由 このような点で ベーシックインカム的な収入構造が

⑤農業での取入れ  ~「農福連携」の問題点 農業を中心に置いた取組 6次化を目指し、農作業以外の、販売、事務等の職種も →食という大切なものを活動の中心に 食の情報を共有できることが障害者にとって大切

「農福連携」(農水省、厚労省) 大きな予算でいろいろのことが行われている しかし 「安い労働力」の位置づけは困る (紙箱折りが、農業になっただけでは) ~農業従事者が減少・高齢化する中で、労働力として障害者に期待(農水省)

⑥障害者雇用の賃金とその意味  なぜ障害者は働くのか?   生きて行くため   社会参加   自己実現  障害者とって賃金の意味   ~単なる扶助より賃金として

ありがとうございました