社会保障システムのなかのフードバンクの役割 日本福祉大学 社会福祉学部 角崎洋平
「総合的保障システムによる 社会保障」という観点 社会保障制度: 人々の暮らし良さ(well-being=福祉)を公的責任で 保障する制度 1950年勧告:社会保障の公的責任 1995年勧告: 広く国民に健やかで安心できる生活を 2001年骨太方針:公的制度と補完性と競合性 を合わせもった総合的な保障システム
食料を保障することとフードバンク
食料を保障する ▼憲法25条「健康で文化的な最低限度の生活」 →当然、食料も保障されなければならない ▼世界人権宣言第25条1項 「衣食住(food, clothing, housing)、医療及び必要な社会サービスにより、 自己及び家族の健康及び福祉に適切な生活水準を保持する権利」 ▼国際人権規約11条1項 この規約の締約国は、自己及びその家族のための適切な食料、衣類及 び住居を内容とする適切な生活水準についての並びに生活条件の不断の 改善についてのすべての者の権利を認める
「適切な食料」への権利とは? 経済的、社会的及び文化的権利委員会(1999) 「一般的意見12号(general comment 12)」 ・量的保障のみではなく質的保障も含む ・経済的アクセス可能性を重視 個人や世帯の、適切な食事のための食料の獲得に関する家計支出が、食料以外の基本的 ニーズの達成や充足のために、脅かされたり妥協して緊縮したりせざるを得ないような状態 ➡食料保障=食料の直接供給ではない (しかも空腹が満たされればよい、ですまない)
食料保障論からの フードバンク批判 Graham Riches・ Tiina Silvastiら ➡フードバンクに依存する社会保障を批判 各国事例を検討:オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、イギリス、アメリカ、ブラ ジル、エストニア、フィンランド、香港、南アフリカ、スペイン、トルコ ➡フードバンクに依存する社会保障を批判 ・フードバンクでは人々のニーズ・嗜好にあった食料提供が困難。 ・緊縮政策による社会保障費の削減を弥縫している ➡重要なのは食料への経済的アクセス保障→所得政策・労働政策
所得保障を補完する 食料保障とフードバンク
所得・食料・福祉 :ケイパビリティアプローチから考える 財の構成を選択 財の特性を抽出 所得 (貨幣) 食料 厚生 栄養的な 生活 特定的財 〈機能〉 functioning 幸福感 汎用的財 〈機能〉の集合 =ケイパビリティ
食料保障論の系譜 ▼食料保障(フードセキュリティ)の系譜 量の保障→質の保障 食料供給量の保障→社会保障も視野に入れたアプローチ Burchi, Francesco and Pasquale De Muro(2016)“From Food Availability to Nutritional Capabilities: Advancing Food Security,” Food Policy No.60, 10-19. 量の保障→質の保障 食料供給量の保障→社会保障も視野に入れたアプローチ ↑アマルティア・センのケイパビリティ・アプローチの影響大きい ★とはいえ、センは所得保障一辺倒の論者ではない →所得保障が機能しなかったときの食料直接供給の意義も指摘 (市場メカニズムを前提とした所得保障制度への過度の依存も問題)
食料直接供給の意義、 フードバンク事業の意義 食料直接供給の意義、 フードバンク事業の意義 外在的要因による所得保障の機能不全 所得 (貨幣) 食料 栄養的な 生活 厚生 災害・ 大不況 ・「食の危機」のバッファーとしての フードバンク ・一時的でも食の危機は重大問題 ➔〈備え〉として常備されるべき フードバンク 政治的 リスク
食料直接供給の意義、 フードバンク事業の意義 食料直接供給の意義、 フードバンク事業の意義 調理技術・ 調理環境の不足 健康上の 問題 内在的要因による所得保障の機能不全 所得 (貨幣) 食料 栄養的な 生活 厚生 家計管理のの問題 ・所得があっても食料・栄養に結びつかないケースが少なくない ➔〈所得―食料―栄養〉 のつながりを回復する支援も 必要に応じて実施 フードデザート フードバンク
まとめ 食料直接供給事業の社会保障システムとしての意義 →内在的・外在的な所得保障制度の機能不全を補完 =所得保障(公的扶助・社会手当・最賃制度など)を代替しない ▸リスクに対する備えとしてのフードバンク →リスクが顕在化しないような社会保障制度の整備と両立 ▸所得保障の内在的機能不全を「発見」するフードバンク →他の支援のへ繋ぐ窓口(連携型福祉サービス(小関論文)の結節点) ☆ 市場とは別ルートの「健康」な食料提供ルートとなる可能性も?