リカード貿易理論の新構成 2006.11.10 法政大学 経済学部学会 研究会 塩沢由典
貿易理論の目的? 貿易の方向・特化のパタン 貿易の利益・不利益 各国の実質賃金にはなぜ大きな格差があるのか。 比較生産費、資本集約度、etc. 貿易の利益・不利益 貿易の利益 貿易摩擦の原因? 「長期には均衡」で片つけてよいか。 各国の実質賃金にはなぜ大きな格差があるのか。 各国の相対賃金率を決める要因は?
これまでの貿易理論 教科書的説明 産業内貿易 要素 財 1 2 3 生産要素と財の数 典型例 リカードの貿易理論 リカードの貿易理論 特殊要素理論(Samuelson-Jones) 要素比率理論(Heckscher-Ohlin) 産業内貿易 Krugman 収穫逓増 生産要素と財の数 典型例 要素 財 リカード理論 1 2 特殊要素理論 3 要素比率理論
RicardoとHeckscher-Ohlin:対比 2国の技術は同じ 資源(労働と資本/土地)の存在比率が問題 投入における代替 Ricardo: 2国の技術が違う。固定係数。 賃金率の差を暗に前提(後出) 自然な拡張>Ricardo-Sraffa(塩沢1985) 商品による商品の生産>「中間財」の貿易
リカード理論からみたHO理論 資本 これは生産要素? 土地/資本? 要素価格 実証的結果との整合性 設備装置、原材料? なら貿易対象では? 資本 これは生産要素? 土地/資本? 設備装置、原材料? なら貿易対象では? 国際価格は、貿易理論の中で決まるものでは? 短期の仮定? 長期均衡と両立する? 要素価格 技術同一、要素比率の違いで賃金格差を説明? 要素価格均等化定理 現実の賃金格差は? 実証的結果との整合性 Leontiefパラドックス、その後の検証
中間財という主題(1) 教科書における「中間財」 Jones & Neary(1984) §3.1.3 Krugman-Obstfeldには一切登場しない。 Ethier 「中間財」 索引一回 Caves-Jones 第8章「中間財の貿易」 Caves-Frankel-Jones 第9章「中間財および生産要素の貿易」 Jones & Neary(1984) §3.1.3 Jones(2000) Classical mobility assumptions?
中間財という主題(2) 中間財貿易の比重 Ricardian Gain vs. Sraffian Bonus 世界貿易に占める中進国の比重の増大 産業内貿易 Krugman:収穫逓増のみで説明できる? 新しいRicardo理論により説明することもできる。 Ricardian Gain vs. Sraffian Bonus 「新構成」 図1 Samuelson(2001)の図1(p.1211)
中間財貿易のあるとき・ないとき 原材料貿易のある場合 の生産可能集合 製品のみの貿易の場合の 生産可能集合 第2財 B国第2財生産 A国の第2 財生産 第1財 B国第1財生産 A国の第1財生産
Samuelson 2001 8 6 a(1960) 2.5 2 α(1817) P E 0.5 2 2.5 6 8
ぶどう酒 Ricardoの数値例 貿易の利益と失業の発生 E価格領域 P価格領域 P E 毛織物
Ricardoの隠れた賃金率関係 E国の賃金率wE、 P国の賃金率wPとする。 毛織物の価格関係 ぶどう酒の価格関係 両立させる賃金率関係 100wE < 90 wP ぶどう酒の価格関係 120wE >80 wP 両立させる賃金率関係 1.11≒ 100/90<wE/wP<120/80 = 1.5 世界需要の構成により、この範囲を変動
Ricardoの数値例 ぶどう酒 E価格領域 P価格領域 P E 毛織物 傾きの差をやや強調してある。
2国2財からM国N財へ 2国2財 Ricardo 2国N財 N=3~連続濃度 M国2財 M国N財 労働投入のみ ■中間財の貿易なし Dornbusch, Fisher and Samuelson (1977) M国2財 Harberler(1930) M国N財 労働投入のみ ■中間財の貿易なし McKenzie(1954b) 均衡の存在、一義性 Jones(1961) 完全特化パタンの発見公式
新構成における設定 M国N財 (強い存在定理ではN≧M) ひとつの国の中でも技術選択がある。 中間財が国際市場で取引される。 他の要件 すべての技術は単純 すべての技術において労働投入係数は正。 各国は少なくともひとつ生産的な技術系をもつ。
分担的な賃金率と価格 弱い存在定理 強い存在定理 計算実験例 §3.5の「結果」 任意のMとN M≦Nの場合に、”一般に” 計算実験例 §3.5の「結果」 すこし自由度が大きくなると、ほとんど確率1で強い存在定理が成立する。
双対関係定理 賃金率Δ、価格Δ、極大面のそれぞれがモード分割される。 各分割の面の間に1対1の対応がある。 極大面の各面から賃金率Δ、価格Δへの単射 賃金率Δと価格Δの対応面は同一次元 分担的な賃金率と分担的な価格とは、要素ごとに1対1上への対応 補完的次元関係 dim(E)+dim(F)=dim(E)+dim(G)=N-1 E:極大面 F:賃金率Δ G:価格Δ の各対応する任意の面
需要構成と賃金率 生産可能集合の極大境界のほんどの点は、ファセット(すなわち、最大次元の境界面)の内部にある。より低い次元の面の全体の測度は0。 需要構成がファセットにあるとき、少なくとも競争的価格は一義に決まっている。 ほとんどの場合、各国の賃金率の比率を確定できる。
価格調節と数量調節 需要構成が極大境界のあるファセットで表されるとき、そのファセット内のすべての点は、同じ競争価格をもつ。 同一のファセツト内では、価格を変化させることによって、特定の最終需要を実現することはできない。 価格調節だけでは純生産数量を最終需要に一致させることはできない。
おもな結論(1) 新構成の結論 M国・N財で、財の投入と中間財貿易、技術選択の設定においてRicardoを再構成できる。 貿易パタン おもな結論(1) 新構成の結論 M国・N財で、財の投入と中間財貿易、技術選択の設定においてRicardoを再構成できる。 貿易パタン 3財上:複数の完全特化がありうる。 世界需要の構成比が決まれば、一般に一義に定まる。 各国の賃金比率 需要構成に依存する。構成比が決まれば、一般的に一義的に定まる。
結論(2) 中間財貿易のある・なし 労働投入のみの場合 中間財貿易のある場合 賃金率Δのモード分割のスター分割(Y字型)が直線のみ 結論(2) 中間財貿易のある・なし 労働投入のみの場合 賃金率Δのモード分割のスター分割(Y字型)が直線のみ 完全特化領域(強い分担的価格領域)は、1つのみ 中間財貿易のある場合 賃金率Δのモード分割のスター分割(Y字型)が屈曲する。 3国3財異常では完全特化領域が複数現れる。
結論(3) 新しい視点・論点 数量調節の必要 貿易による失業・廃業 Sraffa Bonusの大きさ Technology matters. 結論(3) 新しい視点・論点 数量調節の必要 価格により、特定の重要構成は実現できない。 貿易による失業・廃業 Sraffa Bonusの大きさ Technology matters. 大きなメッセージ HOS理論からは遠ざけられている視点
結論(4) 従来の常識の間違い 資本集約度(労働集約度)は、貿易方向を支持しない。 比較優位:貿易前価格は、なにも教えない。 結論(4) 従来の常識の間違い 資本集約度(労働集約度)は、貿易方向を支持しない。 A国(wA=4) 4×1+6=10 B国(wB=3) 3×1.5+5.5=3×1+7=10 Leontief, Leamer らの結果は当然。 比較優位:貿易前価格は、なにも教えない。 「比較生産費」と呼ぶのが正しい。 Balassa の発見>>原材料投入比率の違いより労働生産性の国別格差が大きい?