第9課: 恒星のスペクトル 2005年12月19日 授業の内容は下のHPに掲載されます。 第9課: 恒星のスペクトル 2005年12月19日 授業の内容は下のHPに掲載されます。 http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/STAFF/nakada/intro-j.html 今回のキーワード
n X 9.1. 恒星大気の準備1:モーメント方程式 Ω θ I(x,θ,φ)= I(x,θ) 輻射が軸対称の時、μ=cosθとして、 N次モメント MN を以下のように定義する。 Ω MN(x, λ)=(1/4π)∫(cosθ)N I (θ, x, λ) dΩ =(1/4π) ∫∫ (cosθ)N I (θ, x,λ) (sinθ) dφdθ =(1/2)∫μN I (μ, x, λ)dμ θ 0次モーメント M0(x,λ)= (1/4π)∫I (μ, x, λ) dΩ = (1/2)∫I (μ, x, λ) dμ = J (x,λ)= 平均輻射強度 (mean intensity) X 1次モーメント M1(x,λ)= (1/4π)∫cosθI(θ,x,λ) dΩ = (1/2)∫μI(μ, x,λ) dμ = H(x,λ) エネルギーフラックス F(n, x ,λ) =∫ cosθ I (θ,x,λ) dΩ =2π∫μI(μ, x,λ) dμ= 4πH ( x, λ)
2次モーメント 斜め方向の輻射方程式 Iλ (μ,τλ=0) τλ=0 (表面) t X Iλ (μ,τλ) τ M2(x,λ)=(1/4π)∫ (cosθ)2I(cosθ, x,λ) dΩ = (1/2)∫μ2 I(μ, x,λ)dμ =K (x,λ) 光圧力 P(ν) = (4π/c)K(ν) 斜め方向の輻射方程式 Iλ (μ,τλ=0) X軸に沿って光学的深さτを定める。μ方向の光線に沿っては、 τλ=0 (表面) t θ dt=dX/μ dτ=κdX なので、 X Iλ (μ,τλ) τ
( i ) 両辺をdΩ/4πで積分する。 dHλ/dτλ= Jλ – Sλ (ii) 両辺にμをかけてdΩ/4πで積分 μdI/dτ=I-S ( i ) 両辺をdΩ/4πで積分する。 ∫[μdI/dτ]dΩ/4π=∫IdΩ/4π- ∫SdΩ/4π = d[∫μIdΩ/4π]/dτ dHλ/dτλ= Jλ – Sλ (ii) 両辺にμをかけてdΩ/4πで積分 d[∫μ2IdΩ/4π]/dτ =∫μIdΩ/4π-∫μSdΩ/4π ∫1-1μdμ=0 に注意すると、 dK λ/dτλ= Hλ
9.2.恒星大気の準備2: Rossland mean opacity κR Kλ =Jλ/3=(1/3) Bλ (T) とすると、 (仮定1: ローカルに熱平衡) 次のような、平均κを考える。 すると、 したがって、
Bi Fi ∝ΔBi(T) /κi Bi+ΔBi F∝∑ΔBi /κi=ΔB /κR
9.3. 恒星大気の準備3: エディントン大気 μdI/dτ=I-S (平面近似) モーメント方程式 × ∫dΩ/4π : 9.3. 恒星大気の準備3: エディントン大気 μdI/dτ=I-S (平面近似) モーメント方程式 × ∫dΩ/4π : × ∫μdΩ/4π : この系列はμ2 μ3 と上げても閉じない。式の数<変数の数 モーメント方程式をどこかでむりやり閉じる必要。 エディントン近似
恒星大気のエディントンモデル エディントン近似を用いて恒星大気のモデルを考えよう。 (1) (2) 仮定:(a)∫Jλκλdλ=∫ελdλ :輻射平衡 ( Radiative Equilibrium) この仮定は(1)から とすると分かるように、H=一定 を意味する (b) Jλ(x)= Bλ(T(x)) :LTE (c )Kλ(x)=(1/3)Jλ(x) :エディントン近似
∫Hλdλ=H, ∫Kλdλ=K とする。 (1)から仮定(a)によって、 H(x)=Ho (3) (2)から、 κR=Rosseland mean opacityを使うと (4) 平均光学深さτRを τR=∫ρ(x)κR(x)dx と定義すると、 H(τR)=Ho=一定 K(τR)=τRHo+ C J(τR)=S(τR)=B(τR)=3(HoτR+C)=(σ/π)T4 (τR) したがって、線形近似S=a+bτの結果が適用できる。
:線形解の表面輝度とフラックス θ 下図で光線に沿ったτ=1に注意 τ=0 τ=μ=cosθ τ=1 S(τ)= a + bτ 第6課 2005年7月22日 :線形解の表面輝度とフラックス S(τ)= a + bτ I(τ=0 ,μ>0) = (1/μ)∫∞0S(t)exp( ‐t/μ) dt =(1/μ)∫∞0(a+bt)exp( ‐t/μ) dt = (1/μ)[ a∫∞0 exp(‐t /μ) dt + b∫∞0 t exp(‐t /μ) dt] = a+ bμ= S(τ=μ) (μ>0) I(τ=0 ,μ<0) = 0 (μ<0) θ 下図で光線に沿ったτ=1に注意 τ=0 τ=μ=cosθ τ=1
Fλ=∫μIλ(μ,τ=0)dΩ= 2π∫10μ( aλ+ bλμ)dμ=2π(aλ/2 + bλ/3) フラックス Fλ=∫μIλ(μ,τ=0)dΩ= 2π∫10μ( aλ+ bλμ)dμ=2π(aλ/2 + bλ/3) Source Function Sλ (τ)=aλ+bλτ だったから、 Fλ=π[aλ+(2/3)bλ]=πSλ(τ=2/3) である。 温度Tの黒体表面からのフラックスがπBλ(T),ここにBλ(T)は輻射強度、 だったことを考えると、線形大気では、τλ=2/3の深さの所を見て いると言える。 I(τ=0) a 0 τλ=0 1/3 τλ=μ=cosθ S(τ=2/3) 2/3 1 τλ=1 a+b a+bμ
3頁前に戻り、定数Cを決定しよう。 H(τR)=Ho=一定 K(τR)=τRHo+ C J(τR)=S(τR)=B(τR)=3(HoτR+C)=(σ/π)T4 (τR) そのためには、τR=2/3 の温度T(τR=2/3)=Te で、 かつ線形大気では F=4πH=σTe4 であることを思い出せばよい。 すると、
ここまでで、大気内部の温度Tがロスランド光学的深さτRの関数として決まった。 線形大気ではある波長λでのフラックスFλは、その波長で測った光学的深さ τλ=2/3のところでの源泉関数S(τλ=2/3)で決まる。LTEを仮定して Sλ=Bλ(T)とすると、Fλ=πBλ(T) ただし、T=τλ=2/3の深さの温度。 TはτRの関数で与えられているから、τλ=2/3がτRでいくつかが問題。 これは、 と考えて、 で決まる。
κλ < κR Fλ =πBλ [T>Te] κλ > κR Fλ =πBλ [T<Te] ここに、 Fλ Bλ(Te) 結局、Fλ =πBλ (T) ただし、 λ κλ = κR Fλ =πBλ [Te] κλ < κR Fλ =πBλ [T>Te] κλ > κR Fλ =πBλ [T<Te] κλが小さいと深い所を見るのでFλは大きくなる。 κλ κR λ
9.4. 線形大気での吸収線形成 吸収線形成を簡単なモデルで考えるために、次のような沢山の仮定をする。 (1) 局所平衡(LTE) (1) 局所平衡(LTE) Sλ(τR)=Bλ[T(τR)] (τR=ロスランド光学深さ) (2) エディントンモデル T(τR)4=(3/4)Te4 ( τR+2/3) (3) 線形大気 Sλ(τR)=Aλ+ Bλ・τλ 生憎、(1)と(3)は厳密には両立しない。そこで、(1)をτR=0のまわりで一次式で展開して近似的に(3)と考える。
したがって、(3)において、 と見なせば、(3)を(1)と両立させうる。 線形大気S(τ)=A+Bτの大気表面からのフラックスはF=π[A+B・(2/3)]=πS(τ=2/3)である。 したがって、 または、 この式から分かるように、Fλ=α+β/τλの形をしていて、 τλが大きい所ではFλが小さくなる。これが、吸収係数が大きい波長で吸収線が現れる原因である。
浅いので温度が低く、フラックスが小さい。 もう少し物理的に考えると。 吸収係数が次の図のように、λ=λLで盛り上がっているとする。 λLでは吸収が強いので、浅いところでτL=2/3に達する。浅いためにそこの温度は低い。 κλ 浅いので温度が低く、フラックスが小さい。 深いので温度が高く、フラックスが大きい。 λL τR= 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 大気表面 τλ=2/3 λ
吸収係数と吸収スペクトルの関係をもう少し調べてみよう。 λ= λLの付近で、κ= κC+κLとする。 κ(λ) κC λ λL に注意して、前々頁のFの式を書き直すと、
前頁の式を検討すると、まず、下から2行目に出てくる はλL付近での連続スペクトルとなっていることがわかる。 連続スペクトルの強さは、 κCとκRの強さの比で決まる。 κR< κC Fo<Fe=πB(Te) κR> κC Fo>Fe=πB(Te) 次に下から2行目の最後の項 は、吸収線を表す。吸収が弱い(κL<κC)場合、吸収の深さがκLに比例することがわかる。 最後の行の
は吸収が強い場合には、大気の表面(T=To)しか見通せないことを示している。 図示すると以下のようである。 弱いライン 大気表面T=To ライン波長で見通せる深さ 連続光波長で見通せる深さ 有効温度T=Teの深さ
強いライン 大気表面(T=To) ≒ ライン波長で見通せる深さ 連続光波長で見通せる深さ 有効温度T=Teの深さ ピュアな吸収の場合、強い吸収の極限はT=Toの大気表面からの輻射がスペクトルの底になる。
吸収線の強度につれての形の変化 Fc(λ) κLと共に深くなる F(λ) κLが非常に強いと吸収線の底が飽和する Fo(λ) λ
9.5.恒星のスペクトル 前節と同じ線形大気モデルで、連続スペクトルを扱うと、星のスペクトルは で表される。 Fλ λ κλ 前節と同じ線形大気モデルで、連続スペクトルを扱うと、星のスペクトルは で表される。 Fλ Bλ(Te) λ κλ κλ = κR Fλ =πBλ [Te] κλ < κR Fλ =πBλ [T>Te] κλ > κR Fλ =πBλ [T<Te] κR まず、κλとκRを求める必要がある。 λ
連続吸収係数の計算 5.7.節で水素による連続吸収を計算した。 ここは、恒星大気の代表的な値に基づいて、5.7.節と同様の方法で水素 連続吸収を計算する。ここにあげたスペクトル型より低温(晩期型)では分子 吸収、高温(早期型)では電子による散乱が効いてくるので、ここでは取り上げない。 スペクトルを計算する星のパラメターは以下のようである。 スペクトル型 Te Pg(erg/cm3) Pe(erg/cm3) K7 4000 100,000 0.18 G0 6000 62,000 14 F0 7500 17,000 130 A0 10000 1,300 420 B0.5 25000 1,900 905
N-、n1、 n2、 n3、n4、Ne Peが与えられているので、電子は水素の電離で形成されると考えると、P(HI)は N(He)/N(H)=1/9 として、 P(HI)=(Pg-2・Pe)/1.1 (HIは中性水素原子の意味)で決まる。 次にP(H-)はSAHAの式に今求めたP(HI)を代入して、次の式で決まる。 数密度は k=1.3806・10-16 (erg/K) を使って、 Ne=Pe/kT、 NI=P(HI)/kT、 N-=P(H-)/kT で求まる。 n1、 n2、 n3、n4 をNI= n1+n2+ n3...からもとめるには、NI= n1と近似して、 n2 = n1 ×4×10-10.20θ n3 = n1 ×9×10-12.08θ n4 = n1 ×16×10-12.75θ (ボルツマンの式) で計算する。θ=5040/T。
T Pg Pe P H- Ne NI N- n1 n2 n3 n4 n5 K7 4000 1.0(5) 0.18 1.1(-4) 3.2(11) 1.7(17) 1.9(8) 1.6(17) 9.2(4) 8.9(2) 2.2(2) 1.4(2) K0 5000 8.5(4) 0.94 1.7(-4) 1.3(12) 1.1(17) 2.5(8) 1.1(17) 2.3(7) 6.7(5) 2.5(5) 1.9(5) G0 6000 6.2(4) 14 9.1(-4) 1.6(13) 6.8(16) 1.1(9) 6.8(16) 7.3(8) 4.3(7) 2.1(7) 1.8(7) F0 7500 1.7(4) 130 9.7(-4) 1.2(14) 1.4(16) 9.5(8) 1.4(16) 8.2(9) 1.0(9) 6.3(8) 6.1(8) A0 10000 1300 419 2.8(-5) 3.0(14) 2.7(14) 2.0(7) 2.7(14) 7.9(9) 2.0(9) 1.6(9) 1.8(9) B1 25000 1900 905 ----- 2.6(14) 3.4(10) 3.3(2) 3.4(10) 1.2(9) 1.1(9) 1.4(9) 1.9(9) 次に、上の値を用いて連続吸収係数を計算する。
σn(λ) = σn(λn) (λ/λn)3 (λ<λn) (1)HIのb-f 吸収 κbfρ=n1σ1+n2σ2+n3σ3+…… G=1で計算する。 σn(λ) = σn(λn) (λ/λn)3 (λ<λn) λn=0.0912×n2 μm σn(λn)= 0.791×10-17 ・n (cm2 ) (2)H-のb-f 吸収 σbf- (λ)=(1.99654-0.118267 X+264.243 X2-440.524 X3+323.992 X4 –139.568 X5 +27.8701 X6) 10-18 cm2 ここに、Ⅹ=λ(μ) から、N- σbf- (λ)を計算する。 (3)H-のf-f 吸収 NeN-α-ff (λ, T)=10-26・NHI・ Pe (erg/cm3) ・ 10C (cm-1) C=fo+f1 logθ+f2log2θ ただし、θ=5040.2 / T、λ(in A)である。 fo=-2.276-1.6850 logλ+0.76661 log2λ-0.0533464 log3λ f1=15.2827-9.2846 logλ+1.99381 log2λ-0.142631 log3λ f2=-197.789+190.266logλ-67.9775 log2λ+10.6913 log3λ-0.625151 log4λ
ロスランド平均吸収係数κR 前節で求めたκ(λ)に基づいて、4.2.、4.3.節でやったκRを計算する。 Te(K) 4000 5000 6000 7500 10000 25000 κR(cm-1) 3.84E-09 6.82E-9 3.98E-08 3.38E-08 1.43E-08 3.85E-09
こうして、Te、kλ、kR が揃ったので、ある波長λでτλ=2/3になる深さでの温度T(λ)はエディントン大気を仮定して下のように求められる。 恒星表面でのフラックス W(λ)=λ・F(λ) はしたがって、 以下に、このようにして求めた、kλ、W(λ)をグラフで示す。
問題9 2005年12月19日 提出 2006年1月日 第7課にいくつかの有効温度の星の大気について吸収係数kλ(cm-1)を log10kλの形で与えた。表ではk(total)と書いてある最後の列である。 そのうち1つを選び、第9課に習ってスペクトルを求めてグラフにせよ。